あの惨事が起こったのは私が7つに満たない時だった。
邸に帰る途中の、叔母上と従兄の乗っていた馬車が崖の崩落に巻き込まれた。
叔母上は頭を潰されて即死。従兄も岩の下敷きになり、下半身不随で今も歩く事ができない。
代々医者をやっている我が家に運ばれた時のことを今でも鮮烈に覚えている。
そこは代々武勲で名を馳せた名家だった。
叔父上は先の騎士団長。従兄も将来を嘱望されて、父親から直々に幼い頃から武術の訓練を受けていた。
妻を喪い、ただ一人の息子への希望も閉ざされたショックからか、子種ができなくなっていた。
子供はその従兄と5つ違いの妹だけだった。
息子が使い物にならないと嘆いた叔父上は家を存続させるために恐るべき手段を講じた。
まだ3歳の実の娘の髪を切り、彼女のドレスを全て処分し、兄がかつて着ていた服を身に付けさせた。
そして優秀な騎士として活躍できるよう、容赦ない訓練を施した。
お陰で彼女は試合で10回に7回は勝てるくらいの男にも引けを取らない戦士に成長した。
レンシュバルト王国はセエスタ湖の南に位置し、交易の中継点として栄えている国である。
しかし最近、昔から争いが絶えなかった隣国アンガル共和国が鉄鉱石を周辺国から買い付けているとの情報があったため、
いつか当国に攻め入るかもしれぬと警戒した国王が国の若者に徴兵令を出し、一定期間国境警備に当たらせている。
私は医者であるため、衛生兵として砦に駐屯している。
国境警備と言っても、交代で砦の城壁の上で相手国側の領地を睨みつけるのが仕事である。
炎天下の中鎧を着て槍を持った装備をし、乾いた城壁からの熱の反射もあるので暑さで頭がおかしくなりそうになる。
こういう苦行は新人兵士の仕事である。
熱気とと自分の汗での湿気にぼせ上がりそうになった頃、ようやく階段から足音が聞こえてきた。
「畜生、スティーブ、交代だ。」
同じ班のヨラウが苦々しげな表情でやってきた。
「頑張れよ、ヨラウ。前みたいに倒れて吐くんじゃないぞ」
「わーったよ。班長様。今回はちゃんと水を飲むよう気をつけるしな。暑さ対策ばっちりだぜ」
ヨラウは幼い頃ここよりやや北の国からやってきた移民で、まだこの国の気候に身体が慣れていなかったらしい。
この前は交代で来たスピオドが仰向けにうんうん唸って倒れている彼を見て仰天し、身体を起こそうと介助したら胃の中のものをぶちまけられて大変なことになった。
確かにこの季節の暑さは生粋のレンシュバルト人でもきつい。
私は涼を取ろうと、中庭の井戸へ向かった。
塀の向うから訓練に勤しむ別班の同僚の声が聞こえる。
洗面器に水を注ぎ、浴びるようにして頭を突っ込んだ。
今の時間は病人怪我人が運ばれてくることはそうそう無いので、砦の中をぶらぶら散歩するのが日課である。
砦の者も承知してくれているので、もし急病人が出たら櫓の鐘を2回だけ叩いて知らせてくれることになっている。
いくら衛生兵でも医務室で籠りきりだと自分が病人になってしまう。
中庭に出ると見慣れた姿を見つけた。
私の従弟に当たるスティーブである。
見張り番が終わって涼んでいるところらしい。
彼は濡れた頭で井戸の側の木陰の下で寝転んでいた。
「スティーブ!」
彼は私の声だとわかったらしく、起き上がって手を振った。
私は彼のそばに歩み寄った。
彼は座りながら少年らしい笑顔を私に向けて見上げた。
「見張りは終わったのか」
「ああ、ヨラウが今やっている。前みたいにぶっ倒れなければいいがな」
「大丈夫だろう。アレだけ派手にやらかしたんだから懲りただろう」
「ははは、違いない。あれの後始末をしなければならなかったスピオドも災難だったな」
私は側へ座り、彼の背中に手を回した。
服がぐっしょりと汗で濡れている。
「お前も大丈夫か?凄い汗だぞ?」
「ああ、そろそろ着替えようと思っていた。手伝ってくれるか?」
―「手伝ってくれるか?」―
当たり前だ。こいつの秘密を知っているのは私しかいない。
「今は部屋には誰もいないはずだ。替えの布も用意してある。」
「クルスがわざわざこの砦に来てくれて本当に助かったよ」
徴兵に当たり、彼が新人兵士としてこの砦に派遣される期間に合わせて、私もこの砦への配属の希望を申し上げた。
衛生兵は貴重な人材なので、どうせどこも人手が同じくらい足りないのだから、と、希望はすんなり通った。
こいつとは幼い頃から馴染んでいて、親戚関係にある家同士の結束も固い。
武家の名家の子息という事でこいつは周りからの羨望を集めているが、実際は血の滲むような努力をしている。
叔父上からのしごきで体中は傷痕だらけだ。
家が断絶しないようにその身で男児を産むという使命も背負っている。
相手は・・・私だ。つまり私たちは周りに絶対に明かすことができない婚約者だ。
医務室には運良く誰も来ていなかった。
入り口に鍵をかけ、カーテンも閉め、彼女は上の服を脱ぐ。
胸のふくらみを隠すために巻いているサラシもぐっしょりとしている。
そのサラシの結び目を解き、身体から解いていく。
用意してあったタオルで汗を拭き、ベッドの縁に座ったので、私も洗濯したてのサラシを彼女の身体にあてがう。
身体に巻きつけようとしたその時、胸の淡い果実に目を奪われた。
傷だらけではあるがなめらかな肌の曲線、汗の匂いに混じる芳しい匂い。
砦にいる間だけでも女として意識しないようにと努めていたが・・・そのときばかりは自制が利かなかった。
私も暑さでどうかしてたのだろうか。
「ステラ・・・」
口から彼女の本名―女としての名前が思わず口を突いて出た。
「クルス・・・?」
彼女もいつもと違う私に気付いて、不安げな表情を浮かべた。
「その名前で呼ばないでっていう約束が・・・」
「ステラっ!」
私は彼女の肩を押さえてベッドに押し倒した。
そして彼女の唇に吸い付き、彼女の口から分泌される甘い唾液を貪った。
くちゅくちゅと液体の弾ける音をさせながらクルスの舌はステラの奥に侵入した。
そして自分の口内の液体をステラの中に流し入れた。
ステラにはこの急襲を防衛する余裕などなかった。
彼の唾液を飲み下すしかできなかった。
ごくり、と音がすると彼は糸を引きながら唇を離した。
「ん・・・はぁっ・・・」
口を塞がれて開放されたステラはクルスの豹変をしばらく受け入れることが出来なかった。
あのいつもお堅い身のこなしのクルスがこんな―
「クルス・・・!どうしたんだよ!おかしいよ!どうして・・・!」
「どうして・・・?お前はいつまで私を待たせる・・・?私たちはこういう事をする仲なんだ。
それにお前があまりにも綺麗だったから・・・」
「やめろ!今すぐやめろ!私たちまだ・・・早い・・・んー・・・ふ」
言葉を遮るようにクルスは再度ステラの唇を塞いだ。
そしてそのまま下に移動し、日に焼けてなおなめらかな首筋に吸い付いた。
「やだ!助平!!!クルス!!!!お前なんか嫌いだ!!!」
拒絶の叫びを上げているステラの口を手のひらで塞ぎ、もう一方の手で彼女が身に付けている男物のベルトのベルトを解き、一気にズボンを引き下ろした。
それを床に放り、ベッドの脇にあったガーゼの包帯で丸裸になった彼女の両手首を縛り、ベッドの柵に固定した。
口を押さえていた手を放した。彼女は口を開けたまま黙った。
足首を押さえて、もう一方の手でそのまま彼女の腰の上に手を這わせ、彼女のあらわになった茂みに指を挿入した。
「あっ・・・・!」
ステラの背中が一瞬浮いた。
一度指を離し、もう一回挿入する。繰り返し繰り返し往復を続けた。
「ひっ・・あ・・・・やっ・・・!」
ステラは涙を浮かべて背中を何回も浮かす。
「そんなところ・・・やめ・・・いや・・・あ・・・!」
ぴちゃぴちゃと水音がしてきた頃、クルスは往復をやめ、ステラの腰の上に跨った。
マントを脱ぎ、彼女の上に覆いかぶさった。
ステラはもう、声を上げない。
心配になったクルスは彼女の名を呼んだ。
「ステラ・・・」
目を反らして押し黙ったままだ。
「ステラ」
今度は肩を抱きかかえるようにして、彼女の耳元で囁いた。
「クルス・・・」
彼の首筋に額を当てるようにして抱きかかえられてるステラは、消え入りそうな声で呟いた。
「クルスはいつも・・・私を見ながら、こうしたいと考えていたのか?」
震えている。いつかはこうなるはずだったとはいえ、彼女の方はまだ心の準備が出来ていなかったのだろう。
「ごめんよ・・・」
そう呟いて彼女の栗色の頭を撫でた。
ステラが落ち着きを取り戻したようだ。
ステラを放そう腕を緩めた時、ステラの足がクルスの腿にからみついてきた。
クルスは驚いてステラの顔を見た。
ステラの方からクルスの唇に吸い付いてきた。
「クルスが・・・したいならしようよ。国境警備が終わったら忙しくなるから、次はいつ逢えるか分からないよ・・・?」
潤んだ瞳で見つめ返しながら彼女は言った。
「ステラ・・・」
そう呟くと彼は彼女の手首に巻いていたものを解き、彼女を抱き寄せた。
ステラはクルスのローブの紐に指を回し解き始めた
クルスはステラを労るように、背中や腰を愛撫した。
ステラがクルスのローブの紐を全部解くと、クルスもそれに応じ自らのローブをはだけ床に落とした。
二人共一糸纏わぬ姿になった。
「クルス・・・これ・・・」
屹立したクルス自身に驚きを隠せないでいる。
ステラがそっとそれに触れるとそれは更に上えと突き出した。
たまらなくなったクルスはステラの唇に吸い付き、続いて首、肩、胸と貪るように口を付けた。
彼女の胸の果実を咥え、味見をするように軽く齧った。
「あ・・・クルスっ・・・!」
ステラは痛みとも快感ともつかない感覚の行き場を求め、クルスの肩に爪を立てた。
そのままクルスは彼女の上に覆い被さり、細い腰に移動し、茂みに到達した。
先ほどの行為でまだしっとりと濡れている。
クルスは蜜の出所を探り当てようと舌を這わせた。
「あ・・・やだ・・・そんなところ・・・」
そのまま奥へと沈んでいくと、より深く分け入るところを見つけ、そこをつついた。
「ひ・・・・」
どうやら泉を見つけたらしい。
そこを舐めたり吸ったりすると、肉の奥から蜜があふれ出た。
「あ・・・・いあああ・・・」
「ひゃん・・・は・・・・」
ステラの息が上がってきているのが腹の動きを見て分かる。
自らの唾液とステラの愛液で口元を濡らしながら、クルスは名残惜しそうに泉の探索をやめ、ステラの片脚を持ち上げ、自分の肩の上に担ぎ上げた。
ずっと勃ちっぱなしで待たせていたものでステラの入り口を軽くつついた。
「い・・・」
一度引いて、もう一度つついてみた。
「あ・・・」
先端に液体が糸を引いた。
ステラの肌は既に上気し、赤く熱を帯びている。
「入るよ・・・ステラ・・・!」
肩に担いだ脚を引き寄せ、腰を持ち上げ、彼女の身体に自身を食い込ませた。
「ああああああっ!」
まだ狭い入り口に無理やり侵入された痛みにステラは叫びを上げた。
「まだだっ・・・ステラ・・・!」
もっと奥へ侵入しようと自らの腰を引き、再び深々と貫いた。
「あ・・・いやああああ・・・!」
「まだ・・・!」
「だめ・・・あああああああ!」
何回も往復を繰り返し、熱を帯びた透明な液体と血が彼自身をぬらぬらと包み込んでいた。
ステラはシーツを掴み息を弾ませながら、彼の侵入に耐えていた。
「これで・・・最後・・・!」
より一層深く貫き、そして熱いステラの体内に自身の欲望をはじけさせた。
「いや・・・!来る・・・!どうしたらいいの・・・!クルス・・・!ああ・・・!」
クルス自身を放さないようにするかのようにぎゅうぎゅう締め付けてくる。
彼女はのけぞり、それから熱い吐息を吐きゆっくりとシーツに身を沈めた」
彼も自身を引き抜き、そしてステラを抱くようにして横になった。
日課の終わりの鐘が聞こえる。
カーテンを開けると夕日が差し込んだ。
着替えが終わったスティーブは兵士で賑わう食堂へと駆けて行った。
クルスは彼の背中を見送り、何事もなかったかのように見せるためにベッドのシーツを取り替え始めた。