一瞬キョトンとした司が、はっとして自分の体を確かめる。
鎖骨に一つ、それより少し下の胸元に二つ。わきばらに一つ。まだ司は気付いていないが、内腿にも一つずつ。
くっきりとキスマークがついている。
「せ、先生っ!これっ…何して…!」
真っ赤になって抗議する司の様子がおかしくてたまらない。笑って抱き寄せて、耳たぶを甘く噛む。
「これで数日は安心だな?」
「……ぐ……」
修学旅行もこれで通そうか、などと馬鹿なことを考えながら、首筋に舌を這わせる。
「んっ…せ、先生?ちょっと…」
服を引っ張られて顔を離し、にこりと笑いかける。
「ついでに俺にもつけてくれるか?虫除けのマーク」
ちゅ、と唇を重ねてやれば、わざと鹿爪らしい顔をしてみせる。
「…それが人にお願いする態度ですか」
「申し訳ございません姫君。どうぞ私にも愛のお印を賜りたく候」
ふざけた返答がお気に召さなかったのか、司は隆也の喉元に吸い付く。
「っお、おい、そこは…」
「……んはっ…先生は見えるとこにつけなきゃ意味ないでしょ?
俺のは肌を見せるなってことだろうけど、先生の場合はそのまんま虫除けなんだし」
どうやらこちらの意図は完璧に把握していたらしい。できのいい生徒だ。
…とはいえ数日後には親族の集まる席に出るのに、こんな目立つところにキスマークがあるのは困る。
「…わかっててやってるのか?」
ほんの少し怒気をはらませた声で問いかけると、司も怒ったような口調で返してくる。
「俺だって家族の前でもくつろげないじゃないですか。…それに」
そういえば鎖骨はちょっとやりすぎたかもしれない。それより喉元のほうがよっぽど目立つが。
「先生はいい歳だから、親戚集まったら絶対聞かれるでしょ?結婚しないのかーって」
よくよく見れば怒ったような顔も赤く染まっていて、照れているのがわかる。
「……わかってたんだな」
「わかってます」
つまりはそうか、これも司なりの愛情表現、ということか。
困るには困るが、可愛い。言い換えれば、可愛いことは可愛いが、やっぱり困る。
「その気持ちは嬉しいがな、司。だからってここまで目立つとこにつけられると俺も困るんだよ…」
「それは先生だって……」
言いかけた司の両腿を押さえつけ尻に手を回して、気合を入れて腰を持ち上げる。
抱っこというよりは駅弁の姿勢で、慌てて首に腕を回した司をベッドに運ぶ。
「せっ、先生!?」
「…困るから、お仕置きだ」
だからそれは、と言い返そうとする司をベッドに横たえ、覆いかぶさって口を塞ぐ。
逃れようとする頭を押さえて唇を啄ばみ舌を絡ませると、次第に抵抗が弱まってくる。
見開かれていた目は力なく伏せられて、胸を押し返していた手は服を掴んだまま止まり、やがて背に回された。
「んちゅ…ん……む……」
「…ん、んぅ………」
司の舌が絡み付いてくる。それをしばらく楽しんで、口を離すと銀の糸が引いて、消えた。
「…っは……先生……」
うっとりと開かれた目で見つめて、背に回した腕に力を込める。司もその気がなければここにはこない。
「ん……司……」
耳を甘噛みしながら、片手を胸に伸ばす。タンクトップの上からそっと撫で、脇から円を描いてよせるように揉む。
「…は、あ……ん……は……」
切なげな吐息を間近に聞きながら、乳輪、乳首を存分に弄る。
硬く立ち上がりかけた乳首を少し強くつまんでやると、その硬さが増す。
「んっ…やぁ、せんせ……ちゃんと、触って…」
耳を舐めまわしていた舌をうなじに滑らせてから顔を上げ、司の頭を撫でる。
「……だめだな。お仕置きだって言っただろ?」
優しそうに笑って言うのは、だいぶ性質が悪い。司の顔が歪む。
あまり見ているとかわいそうになるので、さっさと鎖骨に吸い付いて赤い印を舌先でくすぐる。
その間も手は相変わらず服の上から胸を弄んでいる。
「ふ、やぁっ……は…せん、せぇっ……」
背に回された腕が服を掴んだのがわかる。抵抗はしないが甘えはするのが、一種の才能だと思う。
大きく開かれた胸元に舌を滑らせて、また赤い印をくすぐる。
胸を責めていた手を腰に滑らせ、わきばらを―服の上から―撫で、軽く揉む。
「ひ、や…せんせぇ…やだ……」
「…ちゅ、ん……これだと気持ちよくないか?」
なだめるように頭をなでて言ってやると、また甘え声が耳をくすぐる。
「気持ちいい、けど……先生の手…感じたい」
これが本当に本心らしいからたまらない。
「…ほんとに…可愛いな、お前は…」
頬に口付け、額をくっつける。
「……それでも……お仕置き、なの?」
言う声が、どこかに期待を含んでいる、気がする。
「……どうかな。司は意地悪された方が感じるんだろ?」
顔を離して笑ってやると、すでに染まっている頬をさらに染めて、ふいと横を向く。
「んなこと、ない…もん……」
語尾が消えかけているのは、自覚があるからだろう。
「ふーん…そうかそうか…じゃあ確かめるか、うん」
ズボンの上から股間をにぎると、司の体が跳ねる。それにかまわず揉み続ける。
「っひゃ…や、やぁっ…やだっ…」
「…どうだ、濡れてるか?」
なんというか、自分もこういう性癖を自覚しなければいけないのかもしれない。
「……っく……や…ぁ……ひゃぁっ……」
小刻みに体が震える。服の上からでもこんなに感じるとは思わなかった。やはり興奮しているのだろう。
「…やだ……いやぁ……」
声も震えている。はっとして見ると、目が潤んでる。
「わ、悪い。やりすぎた…ごめん。ごめんな…」
慌てて手を離し、頭を撫でキスをしてやってなだめすかし、なんとかご機嫌を取る。
「ほんとにごめ…」
「濡れてる……」
今なんて言った。
「……え?」
間抜けな声をあげて、顔も目も赤くしている司を見つめる。
「…キスだけで濡れちゃうって……この間言ったじゃん……」
そういえばそんなことも言っていた。
「一方的にされるのはやだから、一緒にって…言ったのに」
すいません、そうは言ってもお前さんは完全にMで受けっ子です。やられる側です。スレ全体で認知されてます。
とはいえ隆也も完全にSの血に目覚めたわけでもなく、結局泣きつかれると弱いわけで。
「ん、そうだな……じゃあ一緒に、するか」
にっこり笑って(そして司はこの笑顔に弱い)やれば司の泣き顔も少しはマシになる。
「…うん…」
むくれた頬を両手で包んで、とがらせた唇をふさぐ。
「ん……む……ふぁ……」
とりあえずはタンクトップをたくしあげ、直に胸に触れ、滑らかな感触を楽しみながら側面を撫でる。
その柔らかさを味わいたくて、文字通り口をつける。ぱくりと乳首を口に含んで、唇で食んでから舌を這わす。
「んっ、やぁっ……はぁ……あ……」
「んちゅ……ぺろ……」
わざとらしく音を立てて吸い付き舐めて、手を下に伸ばす。
毎度の事ながら男物の服の中から細い腰や白い腿が現れると、不思議な興奮が呼び起こされる。
顔を離して体を起こしてじっと見つめると、司が枕を顔に押し付けて恥じ入っている。
「……まだ恥ずかしいか?」
「……うん……」
初心さを失ってくれないのは嬉しいが、苦笑せざるをえない。
下着は辛うじて女物だが、無地のヒップハンガーという色気のなさが司らしい。
ただその下着の一部がぐっしょりと濡れそぼっているのを見ると、
この体を味わい尽くしたいという欲求につきうごかされる。
「…ちょっと腰、浮かせてくれ」
言葉どおり持ち上がった腰を抱えて、ぐいと持ち上げ四つんばいにさせる。
「っひゃ…ちょ、せんせっ…」
次に言いたい言葉は"恥ずかしい"だろう。かまわず下着をずり下げる。
「…っ……」
司が枕に顔を押し付ける。頭かくしてなんとやらだ。
花弁を指先で押し開いてやれば、濡れそぼった膣口がひくついている。生々しい肉の色に誘われて、口を寄せる。
ちろちろと舌を這わせ、差し入れ、愛液を吸い上げる。
「……っ!」
ぴくぴくと体を跳ねさせるが、声が聞こえない。枕に顔を押し付けて、息を飲んでいるらしい。
少し物足りなく思いながら上着を脱ぎ捨て、硬くはりつめた肉棒を取り出す。
濡れた秘裂を見せ付けるように尻を突き出したまま、司は肩を上下させている。
その肩に顔を寄せるように覆いかぶさり、耳元で囁く。
「……司……いくぞ」
押し当てられたモノの感触に、背が跳ねる。
それでも確かに頷いたのを確認して、腰を押し出し、今にも暴れだしそうな肉棒を膣内へと侵入させる。
「んんっ……っふ……ん……」
鼻から漏れる息だけが聞こえる。
乳房を撫でながら腰を進め、柔らかく締め付ける膣内を押し開き、根元まで埋める。
「は…やっぱり……いいな、司の中……」
上がり始めた息を耳に吹き込んで、ゆっくりと腰をスライドさせる。絡みつく膣壁が与える快感に、肉棒が跳ねる。
「ふ…ん、んぅっ…」
「…司…声……聞かせてくれよ……」
乳房を優しく撫でながら囁くと、司が震える。僅かに顔を背けて枕から離れた口が、薄く開かれている。
「…ん…は…」
僅かにしか見えないが、目も半ば伏せられていて…そそる表情だ。
思わず腰を止めても、お互いの下半身は勝手に蠢き、跳ねる。
「……く……やばい、な……」
徐々にピストンの速度を上げ、乳房と乳首を責める手の動きも激しくなってくる。
「ん、あっ……や、やぁっ…だめ……っ」
枕を握る手に力が入ったがわかる。しかし言葉とは裏腹に、腰は快感を求めて揺れはじめる。
腰の揺れと膣内の躍動に、いっきに快感が高まる。
「…司っ……」
たまらず激しく腰を振り、膣内を抉るように突く。水音と肌のぶつかる音が響く。
「ひゃ、あっ…だめ、だめっ……は…あ、あぁぁぁぁっ…!」
悲鳴とともに緊張した体を抱きしめ、締め付ける膣に逆らわず精液をぶちまける。
「…うぁ……は…はっ……」
びくびくと跳ねて精液を吐き出し続ける肉棒を奥深くに突きこんだまま、
崩れ落ちそうな司の体を抱えて無理やり横に倒れる。
「は…はぁ、はっ……せん、せ……」
抱きしめた腕に手が添えられる。どうしようもない脱力感に逆らって強く抱きしめて、耳に口付ける。
「は…ん、司……」
そのまましばらく休もうと目を閉じるが、司がみじろぐ。
「先生、そっち向きたい……」
「ん…あぁ、そうか……」
腕の力を緩めて肉棒を引き抜くと、一瞬震えた肩がくるりと反転する。
「…印、一個しかつけてない」
なんのことだっけ。本気で失念していた隆也の胸に、司が吸い付く。
「…あと、わき腹だっけ?」
隆也が口を開く前に、司はもぞもぞと腰に顔を近づけて、赤い印を落としていた。
自分がつけた印を満足げに眺めて、司はまた隆也の腕の中に落ちつく。
「はい、愛の印」
にこりと笑う司の表情が、どう変るか楽しみだ。頭をなでてやりながら、さわやかに言い放つ。
「いや…他にもつけてあるぞ。太ももの内側に一個ずつ」
固まった。
「…嘘…」
「ついてどうする」
固まっていた司はするりと腕の中から抜けだして、愛の印を確認している。
確認したまま凹んでいる。
「…俺、全然気付かなかった…」
「うん、途中で起きたらどうしようかと思ったんだが…全然起きなかったな」
寝つきがいいのも考え物だ。本当は多少反応したのだが、このくらい言ってやらないと危機感を煽れないだろう。
「脱がされても痕つけられても起きないんだしな、ちゃんと用心しろよ?」
「……はい……」
これで自分がいない間も大丈夫だろう。ついでに修学旅行中も少しは警戒してくれるだろう。
そんな希望的観測が、わりとすぐにぶち壊されることになろうとは、隆也も司も思ってもいなかった。