ほんの少しばかり残虐な表現が含まれますので(本当に少しです)ご注意ください。

→Go?































「みつけた」

背後から聞こえた、男性というには高すぎる、少年の声。その声を聞いて、リナリーはもどかしいくらいゆっくりと振り向いた。任務を終えて明日教団へ帰る身である彼女の頬にはガーゼがあてられ、艶やかな黒い髪も額の辺りだけ包帯に隠れている。海上でのレベル3との戦いから数ヶ月が経ち、短かった髪も今ではやっと肩甲骨の辺りまで伸びた。さらさらと微かに吹く冬の夜風がその髪を揺らして去っていく。以前のような煌きを無くした瞳に映るのは、かつてエクソシストとして共に戦場にいたアレン。彼は一週間ほど前に教団を裏切り、ノアについた。その瞬間を目撃した人が教団内にいるわけではないが、探索部隊のうちのひとりが、白い髪の少年を見かけたらしい。高いとは言えない背、肩ほどの髪、左頬に刻まれた赤い傷と額に描かれたペンタクル、そして、その額を横切る十字の聖痕。銀灰色の瞳は殺意に満ちていて、どこか寂しげだったという。誰かを救える破壊者になりたいといったエクソシストとしての彼の影が残っていたのは、その瞳の片端だけ。
アレンは、教団にエクソシストとして居た時と表面的に見れば変わりのない笑顔を浮かべていた。にこにこと穏やかな、向日葵のような眩さはないけれど、ネモフィラのような可憐さを備えている。

「よかった。任務中だったんですね、さすがに僕も教団の中に入るのは難しいから。あなたに会いたかったんだ、この日に」
「……そう。その割にはよく私の任務場所がわかったわね」
「偶然ですよ」

なんと壮大な偶然もあったものだ。
今日は12月25日、アレンが義父に拾われた日であり、教団ではこの日をアレンの“誕生日”として祝っていた。だから本来ならクロウリーが行くはずだったこの任務を、兄に掛け合って行かせてもらったのだ。教団にいたら彼に会える僅かな可能性も消えてしまうから。それに彼なら、みつけてくれるって、信じていたから。
中に湧き上がる歓喜の感情を押し殺して、精一杯冷たい声を創りあげる。実際に彼にあってしまってから考えれば、何故あんなことを思ったのだろう。会える僅かな可能性が消えてしまう、消えたからどうだっていうのか会えたからどうだって言うのか。おめでとうとでも言いたかったのか。もう既に仲間ではない彼に? 実際はただ冷たい声を出すのに神経を使うだけなのに。

「………何の用なの」
「え? どうせなら誕生日プレゼントをもらおうかなって思って」

あまりにもにこやかに微笑うから、つい揺れ動きそうになる。何も言っていないのに、彼は何がいいかなあと唇に指を当てて思案を巡らせる。無邪気な彼をただ冷めた目で見つめてリナリーは動かない。そうだ、とわざとらしく手をぱんと合わせ、また彼は、笑った。

「きみがいいな。きみがほしい」

こんなことをエクソシストだった時に言われれば、すぐに顔が赤くなってしまっただろう。だが今ではそんなこともない、だって意味が少しだけ違う。

「……それは壊れた人形として? それとも生きた人形として?」
「それがまだ決まらないんですよねぇ……。でも壊れてるとつまらないから、生きたままの方が良いかな。ね、」

そう言ってアレンはリナリーの手首を掴んで捻り上げた。突然走った痛みにリナリーは思わず顔を歪ませる。その表情を満足げに見つめてから、アレンはリナリーの掌に口付けた。袖がずり下がって露わになった腕をそっと指で撫で上げ、またそこにキスを落とす。身体に走るくすぐったいような気持ちの悪い感触にまたリナリーは顔を歪めた。

「傷のよく映える肌だ」

そう呟いて、アレンはにこりとまた笑みを浮かべた。

「そうですね、まずその忌々しい団服を焼き払って素敵なドレスを着せてあげましょう。あの時ロードがあなたに着せていたものとか良いですね、でもあなたにはもう少し重苦しい感じのものの方が似合うかもしれない。それから逃げられないようにその手首に幾つもの手錠をかけてあげましょう、僕の部屋以外の汚いものをみないように。強い貴女のことだから抵抗するでしょう、頭の良い貴女のことだからどうにかして抜け出そうとするでしょう、だから幾つ壊されても良いようにたくさん用意しておかなければ。その細い手首に紅い痕が残るのを見るのが今から楽しみだ。まぁるくまぁるくね、君が僕の傍にいたという証にちょうど良い。ああ、紅い痕といえば穢れを知らないその首筋にも僕の所有物って証を残さないと。みんなに見える場所にね、ティキが僕の部屋に入ってきたらどう思うだろう? まぁ入ってきたとしてもあなたには見せませんけどね、貴女は僕だけ見ていれば良いのだから。いっそのことその瞳を潰してしまいましょうか、最後に嫌というほど僕を記憶に焼きつけさせたあとに。でもそれだとその瞳が恐怖に見開かれる様や勝ち気に僕を睨みつける様、全ての希望をなくして虚ろな瞳に変わっていく様を見ることができませんね。そして貴女の瞳を奪ってしまったらエクソシスト達を捕まえて来たときに貴女の目の前で殺すという楽しみが消えてしまう。特に神田、ラビ、そしてコムイさんなんて連れてきたら楽しいでしょうね。まずはコムイさんかな、神田とラビは連れてきてもすぐに殺せる自信がないな、あのふたりは強いし何より僕を愛してくれていたから普通に殺すのはつまらない。あ、でも目が見えないなら見えないでもいいかもしれませんね、肉を裂く音と血が噴き出す音、そして悲鳴だけ聞かせるというのも素敵かな。人はひとつの感覚を失うと違う感覚が研ぎ澄まされるというから。あと貴女自身の声でかき消されないように口を封じておかないといけませんね。そういえば逃げられないようにするなら脚を切り落としてしまうのが一番確実かな? でも駄目だ、脚がないとダークブーツを履かせてあげられない。いつ咎落ちになるかという恐怖を植えつけられませんね。イノセンスを発動できないように、千年公にダークマターの縄とか作ってもらおうかな。それに貴女の美しい脚を捨てるのは勿体ないですしね。ああ、今いいことを思いついた。手錠を茨にするのはどうかな。動く度に棘が全身に突き刺さるんだ、そうだそれが良い。檻というのも捨てがたいけど、やっぱり貴女の顔がよく見えなきゃ意味がありませんしね。動く度に刺が刺さって血が吹き出すんだ。白い貴女の肌がじわりじわりと真っ赤に染まってゆく、想像するだけで鳥肌が立つ。痛みと血が身体を伝う気持ちの悪い感触で涙を流す貴女の表情が早く見たいな。食べ物は、そうですね、人肉? おいしいという噂もまずいという噂も聞きますけど、どちらなんでしょうか。神田やラビ辺り食べさせてあげたいけど、あのふたりは肉があまりないからおいしくなさそうですね。コムイさんも然り、か。 うん、でもやっぱりここで悩んでてもしょうがないからまずは君を連れ去ってしまおうか。僕の部屋に茨の縄でしばりつけてから考えましょう、ね? だから早く、」

その先もまた続けようとした彼の言葉を封じるように、リナリーはアレンに掴まれていない方の手で彼の頬に触れた。驚いた彼は目を見開き、言葉を飲み込む。

嗚呼この瞳はこんなにも美しいのにこの肌はこんなにも美しいのにこの唇はこんなにも美しいのに彼はこんなにも、美しいのに。


「……どうして、泣いているの」


そう問いかければアレンはまた目を大きく見開いて目を伏せ、リナリーの腕を握っていた手を解いて後ろへ下がった。それと同時にリナリーの手も力なく落ちる。

「泣いている? 僕がですか僕のどこがですか、遂に狂ってしまったのですか、涙なんてどこにも見えないでしょう? なんだもう狂ってしまったんだつまらない、正常なきみが狂って行く様を見るのが楽しみだったのに。ではまた来ることにします、きみが正気に戻った頃に。どうせこの日が僕の正確な誕生日ではないですからね、いつでも良いんだ。それでは、また、会いましょう」

微笑んだ彼はそういって踵を返し、闇の中に溶け込んでゆく。

嗚呼あの瞳はあんなにも美しいのにあの肌はあんなにも美しいのにあの唇はあんなにも美しいのに彼はあんなにも、美しいのに。汚いのは彼の紡ぎだす言葉だけ。言葉だけなの、表面だけの意味しか持たない言葉だけ。だってそうじゃなきゃ彼があんなに美しいはずがない。
本当の彼はまだ闇に穢れてなんてない、きっと自分を責めてるの、教団にいたときから自分を責めることは良くあったけどその時と比べ物にならないくらい。彼は本当に私を連れ去ろうなんて思ってなかったんだ、だって最後の消えた理由は無理やりなものでしかなかった。本気なら彼は意地でも連れ去ったでしょう。私に冷たい言葉を浴びせて、教団と縁を切ろうと思ったんだ。結局彼は、それができなかったのだけれど。

視界が滲む。どうして彼でなければならなかったのだろう、幼い頃から哀しい目にあってばかりいた彼をどうしてまた。彼は神に愛された子ではなかったのですか、神の使徒ではなかったのですか、ねえ、どうして、ねえ、かみさま。

2ヵ月後、また彼に会おう。きっと彼は見つけてくれる、会いたがってるって感じてくれる。そしたら誕生日プレゼントをねだるの、誕生日プレゼントは、きみがいいな。きみがほしい。
残酷な願いだってわかっていても願わずにはいられないの、まずそのあなたに似合いすぎるほどに合っているスーツを焼き払って素敵な団服を着せてあげたいな。ねえ、こっちの方が、あなたには似合うよ、

ごめんなさい自分勝手なことしか考えられなくて、あなたはどうしたら幸せになれますか、そちらにいるのが幸せですかこちらにいるのが幸せでしたか、そちらを裏切ることは幸せに繋がりますかこちらを裏切ることは幸せに繋がりましたか。




どうか一番幸せになれる道を、きみが早く見つけられますように。














者の行く末
















Happy birthday Allen...




by Lenalee...






and me and you...
















(08.01.06)