「僕らが初めて会ったのって、いつでしたっけ」 いつものメンバーであるアレン、神田、ラビ、リナリーの4人、そしていつもの場所である談話室でいつものようにトランプで遊んでいたとき、アレンがふとそう言い出した。 手札と相手の手札の裏(ゲームはババ抜きだ)を睨んでいた神田とリナリーは顔を上げてアレンを見つめ、アレンの手札からカードを抜こうとしていたラビの手も止まってアレンを見る。だがその緊張はすぐに解かれて、ラビがカードを引きながら話を続ける。 「初めて、なー。初めて4人揃ったのはあれさね、江戸の時……」 「あーそうですよね、大変なときだったからあんまり記憶に残ってない……あっラビにそのカード引かれてなければ次で上がりだったのにっ」 リナリーの手札からカードを引いたアレンは、恨みがましくラビを見つめた。リナリーは苦笑し、ラビは勝ち誇ったような笑みを見せる。そしてまたリナリーは神田の手札を引き、ゲームは回っていく。 「うーん、私とラビと神田はアレンくんが来る前から結構仲良し……だったわよね、神田?」 「知るか」 神田はラビの手札からカードを引きながら、リナリーの問いに適当に答えた。逆にそこで爽やかに頷かれたらまず神田の熱を測ってやりたいくらいだし、いつもの神田ということなのだが。そして大抵神田がこう曖昧に答えるときは肯定の意を示しているのだ。神田を除く3人はちらりと顔を見合わせて小さく笑う。そして神田が引いたことによって、ラビの手に残るトランプは1枚だけとなった。 「アレン覚悟しろ、今回こそはオレが優勝さ!」 「へ?」 「オレにカードを引かれなければ上がりだったってことは、リナリーから引いたのはオレが引いたカードと同じジャック。さっきから観察してたけど手札を混ぜ合わせた気配はない! そしてユウが引いたのはオレのジャックじゃない方のカード! ブックマン後継者を甘く見んなさ、お前のジャックの位置は見極めている!」 ラビの言葉にアレンは珍しくしまった、と目を見開いた。ラビはにやにやと怪しい笑みを浮かべ、ゆっくりと指をアレンの手札に伸ばす。その隣でリナリーがこっそり溜息をついていることも知らずに。 そして、ラビの指がアレンの手札の1枚を捉えた。 「あーがっ……あれっ!?」 カードを投げ出そうとしたラビの指に挟まれていたのは、ジャックではなかった。そこでアレンが立ち上がってラビに指を突きつける。 「あーっはっはっは! かかりましたねラビ、僕がババ抜きといえど何も考えずゲームをするとでも思ってたんですか!? 僕がリナリーから引いたのはジャックじゃありません、あなたが持っているジョーカーです! まさかここまであっさり引っかかってくれるなんてねぇ、滑稽な姿を見させていただきましたよラビ、ブックマン後継者も口ほどじゃありませんねぇ!!」 「ええええーっまさかそんな……ッ! リナリーもなんで何も言わなかったんさ!」 「え? アレンくんのことだから何か考えてるんだろうし、邪魔しちゃ駄目かなって思って」 ニコニコと無邪気な笑みを浮かべるリナリーに、ラビは肩を落とす。相変わらず高笑いを続けるアレンと、恥と自分の愚かさに本気で落ち込んでいるラビ。あの神田にもそんなラビは不憫に思えたのか、神田は腕を伸ばしぎこちないながらにもラビの肩を叩いてやった。滅多に見せない神田の優しさだからこそ身に沁みたのだろう、ラビは瞳を潤ませながら神田の名前を呼びながら思い切り神田に抱きついた。うっかり押し倒されかけた神田は慌てて体勢を立て直し、顔を真っ赤にしてラビを精一杯罵倒する。だがラビは盛大な泣き真似をしていて神田から離れようとしない。やっと高笑いをやめてソファーに落ち着いたアレンとさっきまでニコニコと笑みを浮かべていたリナリーは、その様子に声を上げて笑う。少し経つとリナリーが顎に指を置き、考えるような仕草をとる。海上の戦争ですっかり短くなってしまった彼女の髪は今では少し伸びて、肩につくかつかないか位の長さになっている。 「アレンくんはまず最初に神田に会ったのよね、その後すぐに私にあって……ラビと出逢ったのは巻き戻しの街の任務の後よね、だから随分後?」 「そうですねー、巻き戻しの街にいったのが街で10月の頃だから11月の頃で……てことは、今の時期、ですね」 恐らくあと数日、先。去年のその日にアレンとラビが出会い、その瞬間4人は繋がったのだ。リナリーとラビと神田、アレンが教団に来るまでは3人で繋がっていた。そしてアレンとラビが出会うまではもどかしいくらい繋がりそうで繋がらなかった4人。それが繋がった日が、あと数日で、1年を迎える。 柔らかな沈黙が訪れる。それでも4人の表情は優しくて、繋がれたことに皆幸せを感じているのだということにまた幸せを感じる。叶わない願いだと知っていても、せめてこころだけでも、いつまでも共にありますように。 「………ムッシュがこの世界に生まれてくるに至る物語、では、ないのですけれど」 物語を詠い終わったとき、ヴィオレットがおずおずと口を開いた。隣にいるオルタンスも心配そうな表情でイヴェールを見つめる。イヴェールは椅子に座ったまま瞳を閉じて姫君たちが探してきた物語を聴いていたが、ゆっくりと瞼を持ち上げ優しい瞳でオルタンスとヴィオレットを見つめた。そして手を伸ばして小さな2人の手を取り、軽く引き寄せる。 「いや、素晴らしい物語だったよ。マドモワゼル・オルタンス、ヴィオレット。僕が生まれてくるに至る物語じゃなくても、美しい物語は僕に聴かせてほしい」 そう言うとオルタンスとヴィオレットはパッと顔を綻ばせ、嬉しそうに頷いた。イヴェールもそんな姫君を見て優しく微笑む。そして、イヴェールは座ったまま2人をそっと抱きしめた。右腕には菫の姫君ヴィオレット、左腕には紫陽花の姫君オルタンスを。オルタンスとヴィオレットは驚いたように目を見開いてイヴェールを見るが、イヴェールは微笑みの表情を変えぬまま2人の紫色と水色の瞳を交互に見つめている。 「こうして繋がっていることは当然のことだけど、彼らはそれがとても大切で幸せな事だって気付いたんだ。彼らは本当に幸せだね」 その言葉に、オルタンスとヴィオレットも優しい笑みを浮かべた。イヴェールは一度目を閉じると、椅子から立ち上がる。 「さて、晩ご飯までは時間があるね。オルタンス、ヴィオレット、その間に僕の代わりに廻ってきてくれないか? 今日はたくさん作るから、お腹は空かしておいたほうが良い」 「ウィ、ムッシュ」 「ウィ」 オルタンスとヴィオレットは笑顔でいつもの返事をし、2人並んでまた物語を探しに出かけた。イヴェールが迷わぬように。一人ぽつんと残されたイヴェールは窓を開け放ち、外を見ながら詠い始める。姫君が迷わぬように。 キミと出逢えた日に。 November's Roman... (07.11.10) (Happy birthday My friend!!) (And thank you for the 1st anniversary!!) |