「ユウ、オレは今から最低なことを言います。軽蔑しませんか」

ラビの誕生会終了後、自分の部屋で特に何もすることなくラビとぼうっとしていた神田は唐突にそういわれラビを見やった。ラビの翠の隻眼はまっすぐにこちらを見つめていて、いつものような軽さが感じられない。
神田は幼少時からのくせである舌打ちをひとつすると、その鋭い瞳でラビの視線を打ち返す。睨むというほど眼光は鋭くないのに、生まれ持った細く切れ長な瞳で見つめられるだけで睨まれてるような気分になるのは誰も同じだろう、だがラビは眼を逸らしたりはしない。神田はその闇色の瞳でラビを見たまま、口を開いた。

「今更遅ェだろ、何をためらってんだよ」
「はは、相変わらずユウはきついさ」

一瞬で緊張した空気がほどけ、ラビは笑いながら体勢を崩す。嗚呼やっぱりラビが纏う空気はこれでないと、と決して口に出すことはないことを思う。ラビには失礼かもしれないが緊張した空気は似合わない。もっともラビのブックマン後継者という肩書き上は冷たい孤独の空気でないとおかしいのだけれど、ここにいるのは“ラビ”なのだから。

「じゃ、言う。オレさっき誕生会やってもらったけど、祝われてる気、しなかったんさ」

神田は少し驚いて目を見開き、その表情でラビを見つめた。ラビはさっき軽くなった空気をまた少し重くしていた。先ほどの空気は緊張に満ちているような感じだったが、今はどことなく寂しげなような。美しく澄んだ翠の瞳は床に落とされ、暗い光を宿している。
ラビは入団してからまだ数ヶ月程度だが、入団当初から明るくすぐに団員に馴染めていた。他人に心を開くのに時間がかかる神田でさえすぐに取り込まれてしまったし(そしてそれを不快に思わない自分がいるし)新しい仲間に囲まれ、日々を楽しく過ごしているように見える。そんな彼が、パーティー中も楽しそうにプレゼントを受け取り、食べ、話していた彼が。本音を滅多に出さない神田はパーティー中も祝福の言葉を言うことなどなかったが、他の団員はみんなみんな、ラビがこの世に生まれてきてくれたことを心からの笑顔で祝っていたのに。

「オレ、ね、言ったっけか、このラビって名前は49番目の名前なんさ」
「ああ、聞いた」
「たった数ヶ月前にここに来て“ラビ”になって。そこで“Happy birthday Lavi,”なんていわれてもいまいちラビ=自分って等式が成り立たないんさ。こんなことジジイに言ったら殺されるからいわないけど。笑顔で対応してたし嬉しくなかったわけじゃないけど、あれ、ラビってオレだよなって何回も確認して。頭には入ってるのに今日だけ等式が成り立たなかった」
「……………」
「ログからログへ移動するときに誕生日を迎えたこともあるし、誕生日を明かさないまま過ぎ去ったログもあるし、滅多に誕生日なんて祝わなかったからだと思うんさ。でもここに来たのが誕生日数ヶ月前で、入団時にプロフィールとか書かされたし、それでさっきああやって誕生会やってもらったんだけど、なんだか、みんなに申し訳ないさなーなんて」

ラビの台詞を最後まで聞く前に、神田はラビの耳元に唇を寄せた。ラビは驚いて言葉を切り、身を固くさせ動きを止める。神田はラビが抵抗しないように腕を痛めない程度に強く握り、そしてそっと、そのテノールの響く声が歌を紡ぎだす。


「Happy birthday to you... Happy birthday to you... Happy birthday dear You... Happy birthday to you......」


滅多に人に聞かせない歌を歌い、神田はラビから離れる。ラビは頬を染めながらもきょとんとした表情を浮かべていた。

「……ユウちゃんも今日誕生日なんさ?」
「斬られてぇのかてめぇ」
「うわーっ冗談です冗談です! ああもうむしろ嬉しいんですユウちゃん、」

ラビは解放された腕を伸ばし、神田の首に回した。そしてそのまま強く強く、隠し切れない想いまでもを押さえつけるように抱きつく。肩に埋もれたラビの表情は窺えないが、カタカタと震える全身から精一杯の想いが伝わってくる。神田もふっと小さく笑い、その背中に腕を回した。
他の団員も祝ってくれてることは頭の片隅ではわかっていたのだが、まだ“ラビ”になりきれない自分に祝いの言葉と、それに伴う名前に“You”を使ってくれたこと。神田の目の前にいるのはラビしかいない、だからそれに当てはまるのはラビだけ。そんな些細なことが、切なくなるくらい嬉しかった。

「……来年は、ラビって言われても心から喜べるようにするさ」
「ああ」
「だから来年はラビって呼んでさ?」
「調子のんな」
「あっユウちゃんひどい!」
「名前で呼ぶなちゃん付けするなっ」

二人で強く強く抱きしめあったまま、いつもの喧嘩をする。腕を解かないのは全てがあふれてしまわないように、そして、見られたくない表情を見られないようにするために。



(嬉しくて泣いてるだなんて知られたら、ユウ困るだろうなぁ)
(こいつが可愛くて笑顔を抑えきれないなんて知られたら、こいつ絶対ずっとからかうだろうな)







(それでも君には、見られなくてもそんなこと全て知られてるんだろうなあ、って)

















I am me!!

(なんでわかるのかって? だって僕にも君の表情が肌を通して伝わってくるからさ。)

















Happy birthday Lavi!!




by Yu







and me and you!!
















(07.10.07)