「おーい、リナリー!」

サチコやクラスメイトと話しながら教室の清掃をやっていたリナリーは、教室のドア付近にいる男子に名前を呼ばれて顔を上げた。その男子に焦点を合わせると、どことなく面白がっているような表情をしている。それでも全然不快な感じはしない、とりあえず返事をしてモップを持ったまま駆け寄ろうとした時、ひょこりと白い影が現れた。その途端リナリーは息を呑んで足を止めるが、すぐにまた駆け出す。

「アレンくん!」
「こんにちは。お掃除中来ちゃってすみません」
「ううん、こっちこそごめんね。もう少しで終わるから、ちょっとだけ待っててくれる?」
「もちろん」

そう言うアレンの笑顔を確認してからリナリーはくるりと振り向く、するともう前に送った机を教室掃除の面々が運んでいるところだった。リナリーは思わず目を丸くする。そのときちょうどサチコと目が合って、軽くウィンクされた。会話を聞いて気を遣ってくれたのだろうか、他の面々もこっちをにこやかな表情で見つめている。リナリーは少しだけ顔を赤くして呼んでくれた男子にお礼を言い、幸せにー、と茶化してくるその男子に曖昧な笑顔を向けて急いで机を運びに行った。

掃除用具入れの隣にいた子がモップを片付けてくれるというから素直にそれに甘える。そして机の上に置いた鞄を肩に掛け、クラスメイトに手を振りながら教室を飛び出す。ドアの向かい側の壁に寄りかかっていたアレンは、その慌てように少し笑った。だがすぐにいつもの笑顔になり、行きますかとリナリーに声を掛けてふたり並んで歩き出す。

「さて、どこ行きますか?」
「どこ、って?」
「一緒にいられる時間は一緒にいる、って言ったじゃないですか。リナリーの行きたいところ、一緒に行きますよ」

にこ、相変わらずの笑顔でそう言われ、リナリーはとりあえず考え込んだ。行きたい場所、アレンと一緒に行きたい場所。図書館はどちらかというと一人で静かに行きたい場所だし、今の時間から映画というのは少しばかり重い気がする。遊園地もさすがに不可能だし、と悶々考え込んだ末に出た結論は、この間ふたりで出かけたとき、アレンが店の前で一瞬だけ立ち止まるような素振りを見せた場所だった。

「ね、駅前にあるあの小さなカフェ! あそこに行きたいな」
「良いですね、行きますか!」

そしてアレンとリナリーは、リナリーの部活の予定やらアレンのバイトの予定やらを照らし合わせて次遊べる日をチェックしたり、クラスメイトの話や彼らの大切な友人である神田とラビの話をしたりと他愛も無い話をしながら昇降口を出る。そして校門をくぐったその瞬間から、どちらからともなく手を重ね指を絡めた。手袋要らずの優しい冬の冷気。なるべく身体を寄せて、手を繋いでいるのがばれないように、それでもしっかりぎゅうと強く繋いで。制服とコート越しにも体温が柔らかに伝わってくる。さむいね、とリナリーが切り出せば、白い吐息がふわりと登って微かに西が橙になりつつある冬の空に消えていく。その後にアレンが紡いだ言葉の吐息も同じように霧散する、でも、あったかいですね。







リナリーの注文したコーヒーとチョコレートケーキより数分遅れて、アレンの目の前に大きなパフェがやってきた。軽く3人前くらいはありそうなパフェ、実際にスプーンが一緒に3つほど運ばれてきている。それを見たアレンは瞳をキラキラと輝かせてスプーンを取った。パフェは苺やらバナナやらキウイやらオレンジやらと、様々なフルーツがふんだんに使われているフルーツパフェだ。それゆえ容量も半端ない。アレンはまず一番上に乗っている丸いアイスと添えられているチョコのかかったバナナをスプーンで掬い、口に含む。その途端さらにアレンの瞳が輝き、今にもとろけそうな表情になった。あまりにもわかりやすい表情の変化にリナリーはくすくすと笑いながら、自分もチョコレートケーキをフォークで小さく切って食べた。ケーキがほろほろと崩れて、口の中にほろ苦いチョコレートの風味が広がる。
アレンは二口目、三口目と重ねていったが途中でハッと気付き、顔を赤らめる。

「す、すみませんリナリー……リナリー、僕のパフェが来るの待っててくれたのに」
「え? 別にいいよ、気にしてないもの」
「うー本当にすみません、リナリーの誕生日なのになんだか逆みたいです」

と言っても巨大パフェの誘惑には勝てないらしく、アレンはぱくぱくとパフェを食べ続けていた。彼のこういう姿を見ると、やっと年相応に見えて安心する。なんとなく彼がひとつ年下であることが未だに疑わしいものに思えて、学校で彼に会いに行くとき1年生の校舎に向かうことに違和感を覚えるくらいだから。
リナリーはその様子にまた小さく笑い、今度はコーヒーを飲みながら話を切り出す。

「いいの、私はアレンくんの幸せそうな表情が見られればそれでいいから」

アレンはその言葉にぴたりとスプーンを止め、リナリーをまじまじと見る。軽く首を傾げてみせると、彼はかぁっと顔を赤くして俯いてしまった。あ、かわいい、なんて思わず思ってしまうくらい。

「……それ、普通男が言う台詞ですよ」
「あら、だって同じ人間なんだもの。男と女といってもそこまで思考が違うわけじゃないでしょ? 女だってそういうこと言うよ」

そういってリナリーはコーヒーを啜る。アレンは腑に落ちないような表情をしていたが、少し経つとまたパフェを食べ始めた。リナリーもまたフォークに手を伸ばし、さく、とケーキを切ってそれをアレンの口元へ持っていく。アレンは一瞬怯むが、にこにこと笑顔でフォークを差し出しているリナリーを見て、子ども扱いされていることに少しばかり不機嫌そうな表情を見せるが素直に口を開いてぱくりとケーキを流し込んだ。そして仕返しとばかりにアレンもアイスクリームを添えた苺をスプーンに乗せてリナリーの目の前に運ぶ。そんなアレンの表情も勝ち誇ったような笑顔でなんだかかわいらしい、こんなこと言ったら怒られてしまうかもしれないけれど。リナリーはそんなアレンを軽くかわし、ちらりと一瞬だけ店内を見て、自分の頬にそっと横から唇を隠すかのように手を添えそのままアレンの唇に自らの唇を重ねた。

一瞬で、離れる。何が起こったのかわからないようなきょとんという表情をするアレンにむかってにこりと笑ってみせたら、ようやく彼は真っ赤に顔を赤らめ始めた。また、照れくさそうに、俯く。
よく考えてみれば、アレンにされた時の自分の反応と、似ていた。見ている側としてはこんな気分だったのかと少しだけ楽しくなる。

「……リナリー、なんか今日すごく積極的ですね」
「誕生日だからちょっと調子のってみようかと思っちゃって」

銀髪に半分隠れた耳まで真っ赤に染まっていた、髪色が髪色だからそれが尚更目立つ。アレンは赤く染めた顔のまま、涙目でリナリーを軽く睨んだ。睨んでもアレンが飄々としてた時の気分をようやく理解する。ちょっと今日は、新発見が多い。

「明日以降は、見ててくださいね」
「ふふ」

















Lover's day

(相手よりも優位に立つ恋愛を知ってしまったから、もう元の私ではないかもしれないけれど?)
(……でもやっぱり、いつも通りのが、いいかな。)

















Happy birthday Lenalee!!




by Allen







and me and you!!

















(08.03.31)