ふと目を覚まして、外の異常なまでの明るさにまず驚いた。リナリーはまだ寝ぼけた頭で、寝坊してしまったかななどと考えシーツの温もりに名残を惜しみながらベッドから起き出す。きちんと頭が覚醒していたら、彼女は顔を真っ青にして焦るだろうが。
窓に歩み寄ってみて、その冷気によってリナリーの頭がようやく朝を認識した。だが時間はむしろいつもより早いくらいで、太陽は地平線の彼方にようやく顔を出した頃。それなのに外の世界がこんなにも白い光を放っているのは、


「―――ゆき…!」


思わず声に出してしまうほど、雪が美しく一面に降り積もっていたのだ。
確かに昨日から雪が降り始め、積もるかなあ、積もるといいなあ、なんて、科学班やらいつものエクソシスト組やらと話してはいたのだが、こうも真っ白に綺麗に積もることは想像していなかった。
昇りはじめた太陽の光が反射して、きらきらとまるで星が地面に降り注いだように輝いている。枯れ木も白い花をつけたように見え、針葉樹も雪化粧をして幻想的な風景を構成する大きなピースの役目を果たしていた。橙色の東の空とだんだんと蒼に染まりつつある北の空が、その風景にまたよく映える。

冬の美しい風景にリナリーは寒さも忘れて窓を開け魅入っていたが、ふとあることを思いだした。途端に彼女の顔から血の気が引き、急いで窓を閉めて踵を返し、掛けてあったコートと手袋を持って羽織りながら駆け出した。
早朝の教団内はほとんど人がいないから全速力で走れる。すれ違った幾人かに挨拶を交わしつつも、足を止めない。目指すは外、さらに教団の裏の庭園だ。
リナリーはスピードを落とさないまま外に飛び出して、それから真っ白な雪の上についている足跡に気付いた。それはリナリーの目指す場所と同じ方向についている。誰か裏の方に用があったのかな、と思ったが、踏み固められている上を歩くのは触れられていない雪の上を歩くのより遥かに楽だ。その足跡はリナリーの歩幅より若干広かったが、走るように辿れば足跡の上を進むのは容易だった。リナリーは軽い足取りでその足跡を辿り、庭園へと向かった。


足跡は完璧に庭園のほうに向かっていた。誰だろう、と疑問に思いながらも、だんだんと近づいてきた庭園を目を凝らして見る。と、リナリーが管理を任せてもらっている花壇の隣に黒い背中があるのに気付いた。それが誰なのか気付いた瞬間、リナリーは思わず声を出しそうになり、慌てて抑える。よく見ると雪が覆っているだろうと思われたリナリーの花壇は雪がのけられ、やっと生えてきた芽が弱々しくもきちんと顔を出している。


「アレンくん!」


近づいてきてようやく彼の名前を叫ぶと、アレンは顔を上げてリナリーを認識するとにこりと微笑みを浮かべた。リナリーがアレンの隣について腰を下ろすと、紫色に変色している唇を動かす。

「やっぱり。こんなに雪が積もったから、リナリーはここに来るんじゃないかなって思ったんだ」
「これ、この、花壇……アレンくんが……?」
「……余計なお世話だった?」
「違うよ、そういうことじゃなくて……!」

リナリーは手袋を取って、そのままアレンの右手を包み込んだ。氷に触れているのかと錯覚するほど冷たくて、涙が出そうだ。あかぎれでぼろぼろになり、ところどころ血が滲んでいる。ぎゅ、と包む手に力を込めた。手袋のおかげで温かいリナリーの手と比べたら、真夏と真冬くらいの温度差だ。彼の心はこんなにもあたたかいのに。

「……なんで素手で、雪どけなんかしたの」
「……道具が、見つからなくてですね」
「こんなに手、ぼろぼろになってるのに、それでも続けたんでしょ」
「……うん」
「どうして」
「どうして、っていうか」

アレンはそこで言葉を濁した。リナリーがじっと見つめていると、少しだけ顔を赤くして言葉を続ける。

「……単純に、雪が積もったから、リナリー、朝花壇の雪どけするために来るだろうなって思って、だから僕も早起きしてここに来たんだ。今日はほんのひと時でもリナリーとふたりきりになりたかったから……。で、何も考えてなかったんだけど、リナリーが大切にしてる花壇が雪被ってるの見たらいてもたってもいられなくて」
「今日、――今日? 何かあった、っけ」
「わからないの?」

きょとんとした表情をリナリーに向けられ、アレンは目を見開いて驚いた。リナリーはぐるぐると頭を回転させて思い出そうとするが、むしろ朝起きたばかりで今日が何日なのかすら思い出せない。そんなリナリーの様子を見ていたアレンはリナリーの手の間から右手をするりと抜き、そのままリナリーの華奢な身体を抱きしめる。相当長い時間外にいたのか、その団服もひどく冷たかった。

「…そんなリナリーに僕を怒る権利ないよ」
「え、……ごめん、なさい、?」


「Happy birthday リナリー」



一瞬思考回路が停止して、復旧してやっとアレンの言った言葉の意味を理解したリナリーが腕の中で小さく「…あ」と言った。それを聞いたアレンは小さく溜息をつく。腕からリナリーを解放して、呆れたような(それがリナリーに対してかアレン自身に対してかはわからないが)表情で目を瞑り、こつんと額をくっつける。

「……みんなで祝うのもすごくいいけど、一応ふたりきりで言っておきたかったから。プレゼントとか何も用意できなかったから、せめてやれること、って言ったらこれくらいしか思いつかなくて」

その言葉を聞いて、リナリーはしばらく黙ったあと、先ほどより若干冷えた手でアレンの頬を挟み込んだ。

「……でも、手がこんなにぼろぼろになるまでは、やらないでほしかった、よ」
「……ごめんなさい」
「あのね」

花壇に向き直り、リナリーがまだかすかに雪の乗っている葉を優しく撫でる。ゆらゆらと揺れて、太陽が反射してまたきらりと輝いた。


「春に白い花が咲くの。――アレンくんに助けてもらったから、きっとアレンくんみたいに優しい白の花が咲くよ」


そう言ってアレンに手を伸ばし、その髪をさらりと優しく撫でた。アレンは驚いたように目を見開いていたが、やがてくすぐったそうに笑ってもう一度額を触れ合わせる。





「リナリー、生まれてきてくれて、ありがとう」





生まれてきて良かったよ、という一言は、なんとなく気恥ずかしくて、言えなかった。

















Happy birthday Lenalee!!




by Allen






and me and you!!
















(09.02.20)