「一つ謎があるんですけど、ラビ、神田」 ラビと神田の間で、少し不機嫌そうな表情を浮かべながら階段を上るアレンが言葉を口にした。 「何さ」 「なんで約束したわけでもないのに僕ら一緒にいるんでしょうかね」 「てめーらが着いてきたんだろ」 「何言ってんですか神田あなたの目的地知ってますよ一人で行くつもりなんですかこのむっつり」 「そこに直りやがれモヤシ」 「嫌です」 そう喧嘩腰で話す彼らの手にはプログラムが握られていた。階段の手すりも綺麗に飾り付けられ、踊り場には各クラスの出し物の会場へ誘導するための看板やらポスターやらが出ている。通りすがるのは一般客も多いが生徒も多く、その殆どが制服とは違う衣装を着て看板などを持ち宣伝をしていた。夏休みを全てかけて創りあげた汗と涙の結晶が出来るだけ多くの人の目につくように。 本日は文化祭。ラビと神田にとっては最後の、アレンにとっては最初の、そして此処にはいないリナリーにとっては2回目の。そしてクラスの店番や担当などのローテーションでは今休憩時間になっているアレン、ラビ、神田の三人は店をまわろうと思ったわけで、そこで偶然進む方向と時間が一緒になってしまったわけだ。 ラビと神田は同じクラスだがアレンは学年からして違う。 それでも一緒になってしまったのは、目的の場所が同じだから。 「……ま、アレンもリナリー目当てなんだろ?」 「当たり前じゃないですか! 喫茶店ですってよ、しかも浴衣!! これ見に行かなくて何を見に行けと言うんですか!!」 いきなり熱が入りだしたアレンにラビは苦笑し、神田は蔑むような視線を送る。それでも3人目的地は一緒だ、リナリーのクラスである2年E組。リナリーが朝から1時間店番ということはチェック済みであり、その時間帯を狙って終わってからまた皆で回ろうと考えていた。約束はしていなくても何故か思考がぴったり合ってしまうのがこの4人組である。アレンは最初に謎を提示したがそれはなんで今回も、というただの照れ隠しのようなもの。合うことは最初からわかっていた。リナリーにも行く事は伝えていないしそのあと回ろうなんて予約は入れていない、それでもきっとリナリーは予定を空けておいてくれるだろう。4人の間に約束というものは存在しない。だってしなくても通じ合えるのだから。 「そういや、アレンのクラスって何するんだったっけ」 「後のお楽しみにしといてください」 そういってアレンはラビが開きかけたラビのプログラムを両手でばちんと挟み込み、開けないようにする。ラビは少し不満そうな目でアレンを見たがそれだけですぐにプログラムを下ろした。 「ラビたちのクラスは何するんですか?」 「オレらのところは人探し。オレとユウの担当は2時間後だな、賞品出るから来るといいさ」 「お金になりそうなものですかね」 「本当に嫌なガキだなてめーは」 小さな高校の文化祭で金目のものが出るわけねーだろ、と神田は丸めたプログラムでアレンの頭を軽く叩いた。痛みも何も感じないだろうがアレンはその叩かれた部分を押さえ、恨みを込めた瞳で神田を見上げる。神田はその視線に気付かぬ振りをしてただ足を進める。 2年生の教室がある校舎は一番奥にある。そのためか廊下にある誘導のための看板は2年のものが圧倒的に多く、E組の看板も何度か見つけた。そこには浴衣姿の少女が描かれている。メニュー内容はクッキーなどイギリスのアフタヌーンティーのようなものらしいのだが、それと浴衣を組み合わせて和洋折衷を目指したらしい。ちなみに男子は全員調理に回されているが、それでも甚平着用という話をリナリーから聞いた。なんとなくE組の男子が不憫に思えてくる。 「……なんか、個人的には、リナリーの作ったクッキーとか食いたかったなぁ、っていうのがあるさ……」 「調理に回ったら接客より暇できねぇだろ。それに普段から手作り菓子とか持ってくるじゃねぇかあいつ」 「それもそうなんだけど、リナリーの作るクッキー激ウマだってユウもアレンも知ってんしょ」 「知ってますけど、とりあえずリナリーの浴衣姿が見られるならそれでいいです」 「ホントお前嫌なガキ」 ラビは額に手をやり大きな溜息をついた。リナリーがいる前だったら真っ白のいい子なのに、何故かラビと神田の前になると本性を表す。否、恐らくリナリーの前でもあれはあれで本性なのだろう、恐らくネコ被っているわけではない。ただ愛情表現が歪むか歪まないかの問題なのだ。齢15にして様々な苦難を乗り越えてきたアレンにとって神田とラビは年上とは言えど精神年齢的には恐らく年下であるだろうし、それでこう馬鹿にしたような態度を取ってしまうのだろう。だがそれを隠し切れない辺りがまだ15歳であるという若さゆえのこと、と人間観察が趣味であるラビは思っている。恐らく間違いは無いだろう。 「E組は……3号館3階の奥か」 「そうさね。3階だから、まぁこの渡り廊下を行ってまっすぐ行けばそこか」 「早く行きましょう!」 「わかってるって」 そういって周りの一般客に怪しまれない程度に足を速めたアレンに合わせ、神田とラビも足を早める。目指すは彼らの姫がいる、小さな小さな喫茶店。 (本日の任務は姫の護衛、美しい姫を他の男共の手から守り抜け。今日一日だけ、三人揃って騎士へ転職。) (07.09.19) |