「やーぁリナリー、アレンくん、神田くん、ラビ!」

なぜか巨大な笹を肩に担いだコムイは、トランプをしていたアレン、神田、ラビと、それを見ていたリナリーに向かって満面の笑みを浮かべた。その後ろでは、リーバーが細長い紙を大量に持ちながら溜め息をついている。さらにジョニーやろくじゅうごはたくさんのカラフルな紙で作られた輪を連ねたものや、器用に折られた星や三角の紙を重ねたものやら何やらを持っている。アレンはその異様な光景に疑問符を浮かべたが、神田とリナリーはぴくりと微かに反応を示した。ラビは記憶を手繰りよせ、少しすると合点がいったらしく顔を綻ばせる。

「あーそっか、今日は7月7日……」
「お、ラビは知ってたか! あとリナリーと神田くんも知ってるよね。今日は七夕です!」

そう言ってコムイは上機嫌で笹を揺さぶった。すると後ろにいたタップにぶつかる。だがコムイは気にも止めず(というより気付いていないようだ)、リーバーの腕の中にある短冊を一つ取り4人に分けた。

「アレンくん、七夕っていうのはね、この紙に願いを書いて笹に飾ると願いが叶うと言われる東アジアの方のお祭りなんだ。まぁそれにまつわる話とかもあるんだけど、気になったら神田くんかリナリーに聞いてみるといいよ。じゃあ笹は外に飾っておくから、書いたら外に来てね!」
「え、外まで行くんスか!!?」
「当たり前でしょ! はいリーバー班長は団員皆に短冊分けてね!」
「ちょ、この教団にいるメンバー全員に……!?」
「当然!! 終わったら外来てね!」

鬼だ。当事者ではないアレン達もそう思わずにはいられなかった。リーバーは泣く泣くとりあえず談話室にいた他の団員に短冊を配ると、バタバタと出ていった。
一連の流れを見終えた4人は、目の前に置かれた短冊と向き合った。とりあえずテーブルの中心に置かれているペン立ての中からペンを適当に選出する。そしてまた固まった。

「これ、もしかしたら他の人にも見られる訳ですよね。見られてもいい願いなんてうまく思いつかな……あれっ」

ちらりと横を窺ったアレンは思わず目を擦った。神田もラビもリナリーも確かに文字は書いているのだが、読めない。英語とは似ても似つかぬ文字だ。

「みんな、それ……英語じゃありません、よね」
「え? あ、うん、これは中国語」
「オレのはフランス語。ユウのは日本語だな」
「勝手に見んじゃねェよ」
「いいじゃんどうせ、オレも読めないんだから」

ああそうだ、ここは様々な国籍の人が集まる場所、黒の教団だ。リナリーは中国人、神田は日本人、ラビは国籍不明だがブックマン後継者として多くの国の言語を扱えるのだろう。だがアレンはイギリス人で、まともな教育も受けてこなかったため見事に英語しか使えない。だがこの教団にいるメンバーは全て英語が読める。この3人はうまく願い事を隠せるが、自分は隠す手段がないではないか。書きたい願いはきちんとあるのに。
アレンはがしがしと自分の髪をかき乱すと、決心したように短冊に覆いかぶさってこっそり書き始めた。隣にいるラビがニヤニヤと笑みを浮かべながらその短冊を覗き込もうとする。

「なんて書いてんさー」
「教えませんっ! 笹に飾る時も一番上にくっつけますから見ようとしても無駄ですよ」
「“伸”使っちゃおっかなー」
「撃たれるのと斬られるのと切り裂かれるのどれがお好みですか」

普段見せないような、神田のその瞳に似た鋭い瞳で睨まれてラビは肩をすくめた。だがそんなアレンの頬は微かに朱に染まっている。一体どんな人に見られたくない願いなのだろうか、とラビは思ったが、それ以降はその願い事に突っ込みはしなかった。
理由は簡単。人のことなど、言えるわけがないからだ。







願い事を書いた短冊を片手に外に下りたアレン、神田、ラビ、リナリーの4人は、目の前に広がる光景に絶句した。

そこには巨大な笹が飾られ(恐らくコムイが持っていたものだと思われる)様々な色紙で飾り付けがされ、さらに電球まで巻きつけられてライトアップまでされていた。クリスマスかよ、と引いた風な神田の突込みが微かに聞こえた。確かにその風景はクリスマスツリーを思い出さずにはいられない。お祭り好きなコムイが考えそうなことだ。
コムイは彼らに気付くと、大きく手を振った。

「願い事は書いたかい? じゃぁ自分の好きなところに吊るしてねー!」

それを聞いたアレンは早速笹に駆け寄ってイノセンスを発動した。巨大化した腕が紐をつけた短冊の紐の部分をそっとつかみ、一番上の所に器用に吊るす。

「……イノセンスまで使うって、一体どんだけ見られたくないんさ……」
「それにしてもアレンくん、あんな手できちんと吊るせるなんてすごいねえ」
「確かに。じゃぁオレらも行くさー」

そしてラビもリナリーも神田も各々の位置に短冊を吊るす。そこへコムイがやってきて、3人の後ろから短冊を見た。だがすぐに眉根を寄せ、無意識の行動なのか落ちてるわけではない眼鏡を人差し指で押し上げる。

「リナリーのは中国語だね…これは読めるけど、ラビのフランス語と神田くんの日本語……かな? は読めないなぁ」
「当たり前だ、読めないように書いたんだからな」
「あんまり人に読まれたくない願い事だしな。自分がこの文章書いたかと思うと恥ずかしくなるさ」
「……一体どんな願い事なんだい?」

そう聞いたコムイに向かって、ラビは無言の笑顔を、神田はいつもの鋭い眼光を送った。







4人の短冊に刻まれた、淡い淡い共通の願い事。




『I hope we are together forever.』
『希望一直和皆一起有』
『J'espere que nous soyons ensemble a jamais.』







『いつまでもあいつらと一緒にいられますように。』









天の川がうすらと見える星月夜の中に、ひとつの流れ星が瞬いて流れていった。















    















(07.07.07)