「いたいたっ、ラビ!」

賭け事ナシのポーカーをしていたアレン、ラビ、神田の3人を見つけ、リナリーは慌てたように安心したように談話室に駆け込んできた。そしてメモ用紙に書いてある戦況を覗き込み、神田とアレンを交互に見て最終的にアレンに向かって苦笑いを浮かべる。戦況は、アレンがダントツの勝利数を誇りラビが次点(恐らくアレンが神田に悟られないように仕組んだことだろう)、そして神田が全敗。アレンのイカサマを知っているリナリーは、その数値がアレンによるものだということに気付いたのだ。アレンもリナリーの苦笑いに応えにこりと笑みを浮かべる。同じくアレンのイカサマを知っているが手を出せないラビはその2人のやり取りに苦笑し、神田は必死に手札を睨んでいて気付いていない。アレンは賭け事ナシでも神田には負けたくないらしい、彼らの関係を知っていれば当然だが。

「で、リナリー。どうしたんさ?」
「あのね、ラビ。今日が誕生日の団員っているかわかる?」

そう問われたラビは手札で口を覆い、何もない宙を見て考えるような姿勢をとる。今日は10月22日、とデータを頭の中に流し込んで一気に検索にかかる。エクソシスト、元帥、大元帥、科学班、探索班……、と順々に探していくが、膨大なデータの中にも当てはまる人物は見つからない。最後まで終えても、何故かぽっかり穴が空いているように今日が誕生日の団員はいなかった。

「うーん、残念。いないな。明日は3人、昨日は4人いるけど」
「え、昨日4人もいたの?」

リナリーは驚いたように目を見開いて、残念そうに溜息をついた。そしてポーカー中のテーブルを囲むように配置されている4つのソファーの開いたところに腰を下ろす。アレンとラビに挟まれ、神田と向かい合う位置だ。リナリーもやりますか、とアレンが笑顔で言いながらリナリーの分のカードを引こうとしたが、リナリーは見てた方が楽しいから、と柔らかに断った。リナリーがいればアレンは決してイカサマをしないことを知っているラビは不満そうな視線をリナリーに向けたが、リナリーはそれをも笑顔で流す。

「でもいきなりそんなことが気になるなんて、一体どうしたんだよ」

要らぬカードを捨てながら、神田はリナリーに問いかけた。リナリーは一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、すぐにまた柔らかな笑顔を浮かべて神田に応える。

「意味らしい意味はないの。ただね、この日に生を受けた人に、おめでとうって言いたくて」
「10月22日に、ですか?」
「ううん、22日に意味はあんまりないんだけど……」

リナリーは手を組み合わせ、俯いて何かを堪えるように言葉を紡ぎあわせる。アレンとラビは手札から視線を外し、神田はカードを引く手を止めて、リナリーを見つめる。

「この日もアクマの犠牲になったり他にも事故に巻き込まれたりして、たくさんの人が死んでるわけじゃない? でもその分生まれて来る人もたくさんいて、この瞬間に祝ってもらってる人もたくさんいて、なんだかそれってすごく綺麗なことだなって思って」

そういいながらリナリーは天井を見上げ、腕をそちらへ向ける。そしてぐっと何かを掴むように手を握り、それからそのこぶしをゆっくりと開いてゆく、すると虚空を掴んだはずのリナリーの手からくしゃくしゃになった紙みたいなものがころりと転がり落ちてきた。ちょうどアレンの目の前で止まったそれをアレンは拾い上げ、きつく丸められたそれを開く。それはアレンたちが使っていたトランプの、ハートの10であった。アレンと神田とラビは驚いた表情を隠さずにリナリーを見つめる。リナリーはにっこりと3人に向かって何も言わずに笑いかけた。
その笑顔にアレンとラビも笑みを返し、神田は照れたようにまた手札を見つめる。彼女が生み出した柔らかな空気が部屋中を包み、満たし、身体の中心からひどく優しい熱が湧き上がるのを感じた。

「……綺麗なのは、そういうことを思える、リナリーもさ」
「……ありがと、ラビ」


少しの間を置いて、リナリーがその淡い唇を開いて歌を紡ぎだす。その美しいソプラノの声に3つのテノールが重なり、きっとこの瞬間にも世界中で歌われているその歌で静かに空間を満たして。ハッピィバァスデイディア、その後に続くのはただの空白、それでもその空白の時間には今日という日に生を受けた全ての人の名を、刻んで。優しい音色に優しく柔らかい酔いのようなものを感じながら、どうか全世界の人にしあわせがありますように、なんて、願うだけなら簡単だって切り捨てられそうなことを願いながら。
(だって願うだけなら簡単なのだから。)















Dear,22th October!!















(07.10.26)
(Happy birthday dear my friends!)(そして遅れてごめんね!)