かさかさ、と、葉のこすれあう音が辺りから聴こえる。上から、左から、右から、そして身動きをすれば下からも。柔らかな秋の旋律、それは風の音と共に儚く流れて。
アレン、リナリー、神田、ラビ。いつもの4人は特に用事もないのに庭園に集まり、並んで芝の上に寝転がっていた。近くにある紅葉した木々が風に揺られて葉を散らせ、視界の中で優しく、そして切なく舞っていく。様々な木があるから葉の色も様々で、黄や紅、紫などの葉や紅葉していない緑の葉までも一緒に舞っている。秋晴れの空、蒼天。降り注ぐ陽光は風で冷える身体を柔らかく優しい熱で包み込んでくれる。何よりも隣に在る熱が、あたたかい。
4人の間に会話はない、ただ間に秋の旋律が流れるだけ。それでも気まずさに腰を上げるものはいない。この沈黙さえも4人の大切な時間だから。甘く愛しい、そして辛く苦しい大切な時間。愛してるひと達と共にいられる安らぎ。そして一方的に特別な感情を持っているひとが、一方的に特別な感情を持っているひととも共にいる哀愁。



(………リナリー、みたいだ)

視界の中でひらりひらりと舞う紅の葉を見ながら、アレンはぼうっと思った。
鮮やかに燃え盛る紅。その紅が教団の人気者であり、そして仲間を強く想う心を持つリナリーに似ていると思えたのだ。彼女がそこにいるだけで色を持つ教団、向けてもらうだけで幸福感に満たされる笑顔。炎というよりは焔の紅。優しく優しく包み込んで、そして彼女はぼくを焦がしてゆく。冷たい氷の、彼を焦がすことが出来ない代わりに。


(………神田、みたい)

秋の空間の中でひらりひらりと舞う紫の葉を見ながら、リナリーはそう思った。
静かな存在感を示す紫。赤系の色が多くを占める中その紫はどこか強烈に見え、それでもその色はひどく優しい。その色を持つ菫の花は「ささやかな幸せ」という言葉を持っている。それは彼と一緒にいるときに、リナリーが感じる感情と同じだ。静かで冷たい、優しくて甘い、彼の氷による凍傷で全身が痛くて仕方ない。


(………ラビ、みたいだな)

色とりどりの中でひらりひらりと舞う緑の葉を見ながら、神田はふと思った。
春からずっとその色を保ち続けている緑。その緑と、ブックマンとして中立の立場にいなければいけないラビ。今はイノセンスが適合したために教団にいるが、教団の味方ではないのだ、何者にも染まらずどんな時もブックマンとしてのラビを保たなければいけないラビ。その役割にひどく苦しんでいるラビは、しかし自分では救うことが出来ない。


(………アレン、みたいさ)

冷たく流れる風の中でひらりひらりと舞う黄の葉を見ながら、ラビはぼんやり思った。
一際目立つ明るい色は、それでいて今にも白く消えてしまいそうな儚い色をしている。愛を示す赤も含まれたその黄色は、いつも優しく明るい笑顔を浮かべていて、アクマにも人間にも愛を示し、風に吹かれたら消えてしまいそうな儚さを備えるアレンのようだ。触れれば融けてしまいそうで、だから触れられない。故に、彼を腕の中に閉じ込めることもできないのだ。



かさかさと落ち葉のこすれる音を立ててラビが立ち上がり、反射的にアレン、リナリー、神田の3人も上半身を起こす。そしてラビは、にっこりと3人に向かって笑いかけた。秋の陽射しが紅い髪を照らし、光を反射してきらきらと輝く。

「ゲームしようぜ、ゲーム。各自葉の色を決めて、落ちてくるその葉を取るんさ」
「わ、おもしろそう!」
「じゃあいっそのこと罰ゲームとか決めましょうよ、夕飯抜きとか」
「お前がビリだったらどうすんだよ、モヤシ」
「アレンです。そして神田がいる限りビリにはなりませんよ」
「言ったなモヤシ」
「もう、喧嘩しないのっ」
「喧嘩売って喧嘩買うなさユウ」

ひとしきり笑いあった後に、ラビの掛け声と共に皆で落ちてくる葉を追いかけ始める。アレンは紅、リナリーは紫、神田は緑、ラビは黄の葉を。それでも風にのって流れる葉は掴もうとしても掴めなくて、触れることは出来ても取ることは出来ない。僅かな差で、葉のほうがするりと手と手の間をすり抜けてしまう。
それがあまりに想い人と似ていて、言いようのない切なさが胸に芽生える。

しばらく転んだりぶつかったり悔しさに叫んだりして笑い合っていたが、エクソシストといえどやはり疲労が溜まるものでしばらくするとまた芝の上に4人並んで寝転んだ。

「はい集計ー、結果はどうだったさ?」
「見事に皆ゼロですよ」
「でもこれでみんな夕ご飯食べられるね」

そういってリナリーは無邪気に笑う。それにラビもアレンも楽しげに笑い、神田はただ鼻を鳴らした。
西の空が真っ赤に染まり、東の空の蒼がどんどん闇にのまれていく。黄昏と夜の境界、そんな空を見上げていたら、ラビがおてて繋いで帰ろうかー、とふざけた調子で言い出した。結局神田の反対によりそれは無しになったが、星の少ない秋の夜空の下、4人並んで帰宅する。




4人でいられる空間がしあわせ、なのに僕らは決して幸せになれない空間にいる。自分は幸せになれなくてもいい、あのひとがしあわせなら、なんて、月並みな言葉を並べることも出来なくて、ただぼくらは。
















05.

(それでも愛してることに変わりはないの、紅も紫も緑も黄も、みんな、)













(07.11.03)
(主催者の花本支葵様、素敵なお祭を開催していただきありがとうございました! ティーンズ愛しています……!)
(そして大遅刻申し訳ありませんでした……;)

(Photo Material→Infinite Glider