銀色の少年。
いつも穏やかな微笑みを絶やさず温和だが、神田のことになると何故か急に不機嫌になる。そんな神田とは顔をあわせるたびに喧嘩を繰り広げているが、お互い無視しない辺りそれが楽しいのだろう。いつも隣でそれを見ているとよくわかる。本人達が自覚しているかどうかは置いといて。
師であるクロス元帥の借金を大量に押しつけられ、年下なのに相当金銭面で苦労しているようだ。その結果カードゲームが異常なくらいに強い。いつものメンバーでトランプをすると必ず彼が一位だ。彼がカードを切るときなどはその手つきの鮮やかさに視線が自然と彼の指先にいってしまう。その発展で手品なども簡単にこなしてしまうため、共に任務に行って汽車に乗っている間の暇な時間などはよく手品を見せてもらったりしている。今までにいくつかタネを教えてもらったが、こっそり練習して彼に見てもらおうと思っても彼のように美しく鮮やかにカードを扱うことができなくて、最近では教えてもらわず見て楽しむだけになっている。何度も見せてもらってきたがネタがつきないのがすごいと思う。
手品だけでなく、その生い立ちゆえに身体を使った芸も得意だ。巻き戻しの街で任務を共にしたときに初めてみた彼の軽やかな動きは目を見張るものがあった。ボールに乗ってもバランスを崩して落ちたりなどしないし、それどころかボールの上で逆立ちやジャグリングまでしてみせる。借金返済のためのお金はカードで結構稼いでいるようだが、その気になれば大道芸でもお金を取れると思う。それを彼に言ったこともあるのだけれど、彼曰くカードの方が手っ取り早く確実に多く稼げるらしい。まあ彼の負けなしのカードセンスはよく知っているから、反対する理由もあまりないのだけれど。
仲間やアクマの魂のためだったらすぐに自分を犠牲にしようとする優しさと無謀さを持っていて、どうしてもそこは納得できないし、なかなか愛せない部分、だと思う。アクマの魂が見えるという特殊な呪いの瞳を持つ、というところからもその性格は来ているのだろうけど。いつも彼の見ているその世界の断片を垣間見たラビは本当に顔を青くして話していたが、本当に惨いのだという。あの装備型なのに大食いのラビが食欲を失ったくらいだから相当なのだろう。それでも少し、彼の世界を共有してみたい。そうすれば彼のさらなる内側に踏み込める気がするのだ。彼がそれを赦してくれるかどうかは、わからないけれど。

漆黒の青年。
アレンとは正反対で、厳しく冷たい。それ故かアレンと衝突することが多く、目が合えば喧嘩、一緒の任務になると喧嘩でどちらも教団にいるときは一日に3回は喧嘩しているんじゃないかとまで思えてくる。それでも普段から不機嫌そうな彼の表情がそのときは少し楽しげに見えるのは目の錯覚ではないはずだ。幼馴染の目は誤魔化せない。
任務のときは仲間の無事よりも何よりも任務推敲を第一に優先する。彼から人を助けるなんてことはしないし、任務遂行の邪魔になると判断したら見殺しにする、と最初にはっきり言われたとアレンも苦々しい表情で話していた。それでも結局、報告書やそのアレンからの話によると、本当にアレンが死にそうになった時はぼろぼろに傷ついた身体でアクマとアレンとの間に割って入りアレンを叱責したらしい。探索部隊の大部分には怖い、冷たいという印象を持たれているだろうが、性根は優しいのだと、一部のエクソシストはきちんと知っている。彼はそんなつもりなど全くないだろうけれど。
ファーストネームを呼ばれるのが大嫌いで、いつも彼のことをファーストネームで呼ぶラビに何度も何度もきれている。彼の師であるティエドールにはかわいらしい名前で呼ばれているが、師には敵わないためなかなか反抗することもできない。入団したてのラビにその名前で呼ばれきれて抜刀し、リナリーに怒られた過去がある。
好きなものは少ないが、そのうちの一つが蕎麦だ。ジェリーが料理長になった時に食べて以来ほぼ毎日三食蕎麦だ。身長の割りに軽い体重はそのせいもあるだろう。栄養が偏らないか心配でしょっちゅう彼の食生活に口を出しているが改善する気はないようで、もう半ば諦めている。
胸に大きな梵字が刻まれている。最近ではその周りに奇怪な模様が浮かび始め、ただのタトゥーだという可能性はもうゼロだ。だって新しく刻んでる暇など全くなかったのだから。幼い頃から一緒にいて何度もそれについては問うているがきちんと答えてもらったことなど一度もない。そして異常なくらい回復が早いという不思議な体質で、アレンと共に任務に行ったときは全治5ヶ月と言われた怪我が3日で治ってしまったという。それについては前々から気付いていたが、彼の外見的な表面に梵字を除いては何か特殊なものがあるわけでもないし、兄に聞いてもただ笑って誤魔化されるだけだし、と、昔馴染みといっても彼に関しては知らないことが多すぎる。彼の部屋にある蓮の花の正体も皆目わからないし、壁を感じて少しだけ、さみしい。そんなこと口に出せるわけ、ないのだが。

紅の青年。
アレンとも神田とも違う気さくで明るく社交的な性格で、教団に来た翌日にはもう共に食堂で食事をとるくらいに仲良くなれた。今まで会えなかった空白の時間を感じさせないくらいの不思議な魅力と笑顔。ブックマン後継者として様々なところを渡り歩いてきたのだから当然なのかもしれないが。多くの人が怖がる神田のことを最初からからかったことで抜刀され、リナリーに助けられたことがある。それくらい、良い意味でも悪い意味でも遠慮がない。
結構惚れっぽいようで、綺麗な女性を見るたびにストライクゾーンが広い彼は目をそのままハートにするから一緒の任務になった時は大変なのだ。本当に彼を引きずるようにして連れて行かなければならない。それでもきちんと任務と区別してくれるから、そこは助かっているのだが。惚れっぽいようで実際本当に恋をすると一途であることは知っている。
ブックマン後継者という立場上、記憶力は驚くほど高く一度見たものは本当に細かなところまできちんと頭に入っているらしい。方舟の中ではその記憶力がとても頼りになった。知識も豊富で一緒に任務になると任務地についての情報をいろいろと話してくれ、任務前の情報収集として一緒に本を読んでいてもわからない言葉や言語について詳しく丁寧に解説してくれるから本当に助かる。一緒に読書や勉強をしていて一番楽しいのはダントツで彼だ。そもそも神田もアレンも読書や勉強などが苦手だから、一緒にやる機会さえないのだけれど。
ブックマンはただ裏歴史の記録のためだけに存在する中立の存在なのだと、聞かされたことがある。精神をノアに壊された彼が、仲間じゃない、と呟くように言った声をまだ覚えている。何れはここから立ち去る身であり、それを引き止める権利など誰も持ってはいないのだ。愛されることは知っても、愛することは知ってはいけない。つまり師であるブックマンを除き、誰も彼に愛されなどしないはずなのだ。だが彼は愛することを知っているだろう、実際にみんな、彼に愛されている。それでも彼は知らないふりをし続けなければならないのだ、愛を捨て去り、心を捨て去り、そうして生きていかなければならない。それができなくて苦しんでいることは、一緒にいる上でなんとなく感じ取ってはいるのだけれど、手を差し伸べることなど出来るはずはなくて。



リナリーは悶々と愛する彼らのことを考えながら、先ほどまで4人でいた談話室から自室へ早足で戻る。自室へついてがちゃりとドアを開けると、窓際においた覚えのない薔薇が一輪、小さな紙と共にそっと置いてあった。部屋中に広がる甘い香り、浮かぶのは敵であるノアの、青年。今日は6月4日、誕生花に薔薇を持つ日。
薔薇と共に添えられた紙には、短い単語が一つだけ。


















( 『 L o v e , 』)





















(08.06.05)
(Happy birthday Dear 耀奈ちん!)(遅くなってごめんなさい;)