『贖罪の贄』


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神聖ユードラ帝国時代に築かれたといわれる古城、ライオネル。
昼なお薄暗い城内の、更に暗い地下牢内。
死者の吐く障気のような湿った重い空気が漂うその最奥部、苔むした岩壁に、一人の若い女が両手を鎖に吊るされ、恥じらうべき
白い裸身を冷えた空気の中に晒していた。
僕はその姿を見たとき、こんな陰惨な場所であるにも関わらず――まるで美しい絵画のようだと思った。
「――ルザリア聖近衛騎士、アグリアス・オークス――だったな?」
「……」
先輩の問いに、吊るされた女――アグリアスと呼ばれた人は何も答えない。
ただその切れ長の青い瞳が、こちらを黙って睨みつけただけだった。
この状況にあってなお、その眼の光は死んではいない。
「なんだその目は?いい加減にあきらめな。知られた以上、アンタはもうお姫サマに会わすワケにゃいかねぇんだよ」
ぐい、と先輩が虜囚の白い顎を持ち上げる。
「オマエはここで俺たち騎士団の慰みモノになって、飽きられたら捨てられる。それだけの存在よ」
「…オヴェリア様は、どうした」
女が、感情を押し殺した低い声で答えた。
「へッ。さすがにお姫サマにゃおいそれと手は出せねぇよ。別な場所でおとなしくしてもらってるぜ」
「…そうか…」
「人の心配より、自分の心配をしたらどうなんだ?てめぇは好きにしていいって言われてるんだぜ――さて、何をしてやるか…」
「好きにすれば良いだろう。それともいちいち指南をしてもらわねば女も抱けぬのか」
「…ッ!生意気なクチきいてんじゃねぇッ!!」
先輩の拳が、女の頬を殴打した。
じゃら、と華奢な手首につけられた枷と鎖が重く鳴る。
女が、殺気に満ちた眼で先輩を睨み付けた。

――この人は、まだ諦めてはいない。

その視線の静かな気迫だけで、僕の背筋は冷たくなった。
これはただ感情を殺し――数千分の一、数万分の一にでも伺うチャンスを逃すまいと伺う獣の目だ。
「――気に入らねぇな。おぅ、オマエ。この女の口と目ェ、塞げ」
「え――」
「ボサッとしてんな!テメェを男にしてやろうってんで連れてきてやったんだぞ!逆らう気か!!」
怒鳴りながら、先輩はすらりと腰の剣を抜いた。
「は、…はい」
まずい、キレかけてる。
僕はポーチにあった応急布で、急いで吊るされている女の目を隠し、口を封じた。

「…ぐ…む…ッ」
「…ヘッ。イイ格好になったじゃねぇか、聖騎士のオネエサンよ」
先輩は抜き身の剣で、白い裸体をつ…となぞる。
ぴくり、とわずかに裸身が跳ねた。
視界を塞がれれば、恐怖や不安は数倍になる――精神的な拷問としては、目隠しは地味ながら有効な手段だ。
「…どこか斬ってやればおとなしくなるか?ん?――この、脚か?」
「……ぅ……」
撫でる刃で、白い裸体に微かに紅い線が引かれていく。
女の身体は、――微かに、震えていた。
…無理もない。こんなの、普通の人なら発狂したっておかしくない状況だ。
「…この、胸か?」
鋭利な先端で形の良い胸の先をなぞる。
「……ん…は……」
「イイ声で鳴けるじゃねぇかよ。ハナっからそういう態度でいやがれこのクソアマが」
先輩の左手が、女の脚の間へと伸びた。
「……んぅ……」
女が、身をよじって抵抗する。
だが繋がれている以上、どう暴れようと逃れる術はない。
「…んん…ッ!!…む、ふゥ…ッ!!」
がくがくと、アグリアスと呼ばれた女の身体が揺れる。
その声は猿轡の向こうで、押し殺したように響く。

――非道い。
こんなの、――騎士のやることだろうか?

「…へ、イマイチ濡れねぇな。おう、オマエ。見てねぇでこっち来い」
呼吸を荒げた先輩の腕が、僕の腕を掴んで女の身体に寄せる。
「乳、しゃぶれ。そんでさんざ鳴かせたら、テメェが犯せ」
「…先輩…でも…」
「ヤれっつったらヤるんだよ!それともテメェからブッタ斬られてぇのか!」
「…う……」
――微かな逡巡の後。
僕は、その裸体の胸に顔を近づけ――先端を、口に含んだ。
びくりと、女の身体が反応する。

微かに冷えた、滑らかな肌…そして柔らかな中心。
僕は赤ん坊のようにそれを舐め、吸った。
女の甘い肌の匂いが、鼻腔をついた。

ちゅ…

ついばむように吸い、離す。
唇で包み、ぞろりと口中で舐め上げる。
「…う…ふぅ…ッ」
女の息が、微かに漏れる。
――弄ぶうちにその先端は、つんつんと抵抗のある感触に変わっていった。
「…ん…んんんん……ッ!」
女が、何かを否定するように首を振る。
僕は構わずその先端を舐め上げ、甘く噛む。
「…は、はぁ……んむ…」
僕は息が荒くなってきたのを自覚しながら、夢中で空いたほうの胸を指先で撫で、摘み上げた。
先輩の指はずっと、女の秘所を無造作に擦り上げ続けている。
「…む…ふ…っぅ…ッ!!」
そして――女騎士が、高く鳴いた。

「…よし。やっと濡れてきやがった。さ、犯れ」
先輩が女から手を離し、入り口近くの椅子にどっかと腰掛けた。
女の白い肌は微かに上気し、呼吸が苦しいのか肩で息をし始めている。
「…は…んは…」
「はぁ、はぁ…ふぅ…」
――もう、止まらない。
僕は衝動に任せ、服の裾から窮屈な思いをしていた自身を曝け出した。
女の脚を開き、間に入って持ち上げる。
「…!!」
吊るされた手首にかかった全体重に、女が辛そうに呻いた。
僕はその身体を背後の冷たい壁に押し付け、少しでも負担を軽くしてやった。
「…ん…ん…!」
微かに首を振って抵抗する女。
だが僕の眼前に広がる秘所はとろとろに溢れた蜜に濡れ――ピンク色のクリトリスは固く充血し、僕を誘っていた。
「…ごめん…なさい…ッ!!」
小さな声で謝って…僕は自分自身を、女に突き入れた。

ちゅる…

「……!!」
「…く…!」
…気持ちいい…ッ
女の膣内が、僕をやわやわと受け入れていく。
「…ふぅ…ッ!むぅ…ッ!!」
戒められたままの声が、快感に鳴いた――ような気がした。
「…ッ…!」
一気に達しそうになるのをなんとかこらえ――女の脚を抱えたまま、奥まで達した腰を引く。
出口近くまで感触を味わい、再び、ゆっくりと挿入する。

ちゅ…
じゅ…ぷ…

何度も、何度も。
微かな水音が、地下牢内に響いた。

「はぁ…はぁ…ッ!く…!!」
「…んむ…んふぅ…ッ!」
そうしているうちに、僕と岩壁に挟まれた女の肉体が腰の動きを合わせてきた。
更なる快楽を切望し――おそらく無意識に。
「…ん…ん、んぅ…んんッ…!」
「はぁ…はぁ…は…!」
僕は耐え切れず、腰の動きが一気に早まる。

ず…ちゅ、ちゅる…ちゅぷ…

淫靡な音が、僕と女の熱い呼吸が、牢を満たす。

「んむぅぅぅぅッ!!んふぅぅぅぅぅ……ッ!!!」

――やがて担ぎ上げた女の脚がびくびくと震え、膣内がきゅっと僕のものを締め付けて――

首に、横一線に熱い感触を覚えて。
僕の意識は、そこで、真っ白く――

「…大丈夫か。聖騎士殿」
「…はッ、はッ……はぁ……」
目隠しと猿轡を外され、息を整えるアグリアスの視界に入ったのは一人の鎧姿の騎士と――鮮血に濡れる地下牢だった。
先ほどまで自分を犯していた若い男は、首を切断されて絶命していた。
その奥では剣を持っていた男も頭を割られ、死んでいた。
腕の戒めを解かれ、ふらつく裸足でそれでも地に立つ。
「………貴公…は…?」
アグリアスは胸を隠し、自分を助けた男に問うた。
その姿は手足から頭まで全身鎧に覆われており、顔すら確認出来はしない。
「ライオネルの騎士だ。――特に最近の我が主の成す事、城内の全ての騎士が心から賛同している訳ではない。――答えとしては、
十分であろう」
「領主よりも騎士道に准じてくれたと――申すか。かたじけない…」
主君に逆らうその行為のために、あえて顔を隠していたか。
男はアグリアスに彼女の服と剣を渡し、言った。
「裏口を教える。急げ」
「――だめだ、まだ姫が――」
「たわけが。貴公一人で何ができるか」
「……くッ…!!」
男の言う通りだ。
「オヴェリア姫は四日後の朝、ゴルゴラルダの刑場にて処刑されることが決まった」
「――!」
アグリアスは石壁へ、両の拳を叩きつけた。

――私のせいだ。
私がここを選び、姫様を案内して――!!

「――今は逃げよ。主君であれ仲間であれ、貴公の頼れるものを頼り、再びこの城へ参られるが良い。四日後に処刑ということは、
それまでは確実に猶予があるということだ」
――頼れるもの。
アグリアスの脳裏に、一人の青年の顔が過ぎる。
「…そうだな。すまぬ…」
「感謝など不要だ。貴公がこの城に戻りし暁には、全力で相手させて戴く。この城の戦士としてな」
「…分かった。その時は、私も全力を尽くす。だがこのアグリアス・オークス、この恩は決して忘れぬ」
「良かろう。行け」

驟雨に濡れる、闇の中。
アグリアスは、ただ駆けた。

――この身など、いくら傷つこうが穢れようが構わない。
――神よ。姫を、オヴェリア様をどうか護りたまえ――


「ふン…慣れねぇことはするもンじゃねぇな…肩が凝って仕方がねぇ」

そう。礼などいるものか。
あのガキどもの持つ聖石、本物の聖石さえ――ここに連れてきてくれさえすりゃいいんだ。

全身鎧の騎士に扮した男は自ら撒いたエサが闇へと消えるのを眺め、そうひとりごちた。

(終)
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