『誘惑の夜』
年が明け、今にも空から白いものがはらはらとちらついて来そうな寒い夜。
アグリアス・オークスは一人、窓枠の隣の壁に軽く体を持たせかけ、ちらちらと今にも消えそうな町の灯りのともる
外を眺めていた。
ラムザたち一行は、ここの所の厳しい寒さのために野宿を避けるべく、近くにある小さな町に
宿を取る事に決めた。
厳しい行程の中の久しぶりの暖かい寝床の確保に、そうそうと床につく者
ゆっくりと湯に浸かって体を温めるもの、皆それぞれの夜を思い思いに
過ごしていた。
下の食堂ではおそらくムスタディオとベイオウーフであろう、
酒が随分入っているのかひときわ大きな話し声と、時々陽気な笑い声が聞こえる。
アリシアとラヴィアンらしき声も楽しそうに響いて来た。
――――ここのところ厳しい行程だったものな。このような束の間の休息も必要であろう。
自分はといえば、寒さで冷え切った体を一刻も早く湯で癒したかった為、
夕食を終えると人が来ぬうちにさっさと湯で温まり、自室に戻ってきた。
湯上りでもあるし、このような寒い夜は早く床に入って休むに限るのだが、疲れ過ぎているためか、
なんとなくまだ寝付けそうにない自分を持て余して、ただ外を眺める。
そういえばラムザはどうしているのだろう。
ふとアグリアスの脳裏にラムザの姿が浮かんだ。
夕食時にも姿を見かけなかったが……。
隊長として当たり前のことかもしれないが、ラムザはいつも皆よりも先回りして動く。
きっとこの町に関する情報でも集めに出ているのだろう。
自分よりも年若いあの青年が隊をひとつにまとめ、事細かに状況を把握し、戦地においては率先して
切り込んでいく。その姿はアグリアスの心の中に知らぬ間に深く、奥深くへと入り込んでいた。
大したものだな、見た目はまだまだ子供のようなのに。
アグリアスは冷えた暗闇を眺めていた視線をふと落とし、額にかかった美しい金髪をかきあげた。
その時、外から遠慮がちにドアをノックする音が部屋に響いたかと思うと、
続いてラムザの声が聞こえた。
「……あの、アグリアスさん。お休みのところすみません」
ラムザ?どうしたというのだろう。こんな時間に。
今までラムザのことをぼんやりと考えていた矢先のタイミングのよい
ラムザの登場に、少しドキリとした胸の鼓動を押し隠しつつ、
「ラムザか?どうした」
アグリアスはベッドの上あったガウンを夜着の上から羽織ると、ドアに歩み寄りそっとドアを開けた。
そこには少し顔を赤らめたラムザが、一冊の重そうな本を抱えて穏やかな笑顔でこちらを見つめ、立っていた。
「この本、返さなくちゃと思っていて。ありがとうございました」
「ああ、前に貸した兵法書か、返すのなどいつでもよかったのだが。
・・・どうした?ラムザ、少し顔が赤いのではないか?」
どうやらいつものラムザとは少し様子が違っている。
頬はうっすらと赤みが差し、眼は潤み、今にも漂いそうな視線を
理性でやっと押しとどめているかのようだ。
「具合でも悪いのか!?」
「いえ、ちょっと下で・・・」
言うなりラムザの足が少しふらつく。
「!!」
とっさにアグリアスはラムザの体を支える。やはり様子がおかしい。
「とにかく中に入れ。少し座って休むがいい」
ラムザを部屋に招き入れると、座り心地の悪い備え付けの小さな椅子よりはと、
とりあえずベッドに座らせ、向かい合って自分はその椅子に座る。
彼の話はこうだった。
町での情報収集を終えて宿に戻り、アグリアスに借りていた兵法書を返そうと食堂を通り2階へ上がろうとした。
そこに出来上がったムスタディオとベイオウーフの姿があり、彼らに捕まってしまったのだという。
そこにアリシアとラヴィアンも加わって、この町での名産であるという
山葡萄の果実酒を、口当たりもよく飲みやすいからとやいやい言われて飲まされてしまったらしい。
これが甘く飲みやすい口当たりとは反対に、かなり強い酒であったのだ。
「・・・ははは、調子に乗って飲みすぎてしまいました」
そういってラムザは気だるそうに笑う。もともと疲れている体の上にまだ酒を飲みなれていない彼のこと。
アルコールの回りが速いのは火を見るより明らかであった。
あやつら、あとでこってり説教してやる。
弱々しいラムザを見て、心の中にふつふつと怒りが沸いてくる。
「ルカの実を煎じたものが二日酔いに効くというぞ。今のうちに飲んでいれば明日はかなり楽になるはずだ。
ちょっと待ってろ。宿屋の主人に聞いてきてやる」
言いながらアグリアスはガタンと音を立てて椅子から立ち上がり、きびすを返してドアの方に
向かおうとした。その時、急に背後から手のひらを絡め取られる。
驚いて後ろを振り向くと、ラムザが真剣な眼差しで、でもどこか熱にうかされたような憂いを帯びた瞳で
じっとアグリアスを見上げていた。
「行かないで・・・ここにいてください」
その熱い視線にアグリアスの心臓の音がドクンと高鳴る。
すると、ふらりとラムザが立ち上がり、手を握ったままアグリアスにゆっくり近づいて来た。
「アグリアスさん・・・」
ラムザの熱っぽい様子を目の当たりにして、石化してしまったかのように動けなくなってしまったアグリアスは、
それでもようやっと言葉をしぼりだす。
「ラムザ・・・どう、した」
ラムザはアグリアスの手を握り締めたまま、自分の胸元に引き寄せる。
アグリアスの体がラムザの方に軽く揺れ、肩にかけていたガウンがぱさりと床に滑り落ちた。
アグリアスは自分の心臓の音がもう一つ跳ね上がるのを聞いた気がした。
「・・・アグリアスさん、キス・・してもいいですか・・」
アグリアスは耳を疑った。
「なッ!なにを言っているのだラムザ!!!」
自分の顔があっという間に真っ赤になっていくのが分かる。やはり今のラムザはおかしい。
酒のせいなのか。普段から酒を飲まないラムザの、酔っている姿などもちろん知らない。
しかし潤んだ瞳で大胆に口付けを求めてくるラムザに、少なからず自分の心が揺らいでいるのが分かる。
「だめですか?」
ラムザがアグリアスを真剣な眼差しでのぞきこむ。
「・・・だめでは、な・・い」
その言葉を言い終わらぬうちに、ラムザはアグリアスの唇をふさいでいた。
その頃のラムザの心は、ふわふわとおかしな、しかし体の奥底からこみ上げてくる何か熱いものに包まれていた。
飲めぬ酒を飲んだからだろうか。今自分がしていることを分かってはいる。
普段の自分では考えられないことだ。例えそれをいつも心の中で欲してはいても。
しかし今は止まらない。アグリアスが愛しくてたまらない。抱きしめ、唇を奪わずにはいられない。
「ん・・ふぅ・・う・・・・んん・・・ん・・・・」
ラムザの口は最初はアグリアスの柔らかい唇に軽く触れるように。それから角度を変え
何度も何度も追いかけるように口の中に舌を這わせ、絡めとって行く。
「・・・ラムザ・・・」
ラムザの唇が離れ、アグリアスがようやく一つ小さな息を継ぎ、ゆっくりとラムザの背中に
しなやかな手をまわす。唇の端には透明なしずくが光っていた。
ラムザは美しい金髪を持ち上げると白い首筋にそっと舌を這わす。
思いもかけぬその先の行動にアグリアスはびくっと体を震わせ思わずラムザの肩をつかんだ。
「!!こら待て!!ラムザ!!キ・・キスだけではなかったのか??」
「この先を期待しちゃいけませんか?」
ラムザはアグリアスを抱きしめたまま、耳元でそっとささやく。
耳のすぐ側に感じるラムザの吐息、熱のこもった言葉、それらはすぐに甘い痺れとなって
アグリアスの体の中心を駆け抜け、彼女の中の何かをあっけなく押し流して行った。
いい。ラムザになら。
アグリアスはそっとラムザの頬に触れる。熱い。
それが合図となり、ラムザは先ほどとは打って変わって荒々しくアグリアスの唇を奪うと、
そのままベッドの上に押し倒した。
何度も何度も口付けをして、そのまま首から胸へと唇を這わせていく。
夜着の襟をそっとずらして引きおろすと、美しく形の良い豊かな双丘があらわになる。
「あまり見るな・・・」
恥ずかしさのあまりやや身をよじってしまう。美しい胸が揺れる。
「きれいですよ。とても・・・」
ゆっくりと豊かな胸をもみしだく。その頂を指先でそっと転がし、口に含み、舌先で弄ぶように舐め始める。
「は・・・あっ」
耐え切れずアグリアスが仰け反って声を洩らす。
白い肌、豊満な二つの果実、適度に鍛えられてはいる引き締まった細い腰、
それらは全てラムザの中の劣情をさらに掻き立てるのに十分であった。
ラムザは自分の服を脱ぎ去ると、再びアグリアスの体の上に重なる。
ウエストから美しい足にかけて手を滑らすと、内腿に手を伸ばす。
そのまま柔らかな茂みの蕾の入り口に指をそっと滑り込ませる。
「う・・・あ・・・はあぅ・・・ん・・ふ」
そこはすでにしっとりと濡れ、ラムザが優しく触れるたびにとくとくと蜜があふれ出るようだ。
――――・・・ちゅぷ――――――
入り口をそっと押し開いて、充分潤ったその中に指を入れる。そのままくちゅくちゅと音を立てて
ゆっくりと出し入れする。
アグリアスは今まで経験したことのない感覚にとまどいつつも、体の底からじわじわと
上ってくる快感に何も考えられなくなり、それに翻弄されつつあった。
「ん!・・はああっ」
急にアグリアスの体がびくんと跳ね上がった。ラムザの指が蕾の上にある肉芽に、蜜をすりつけ始めたのだ。
「ああ!やっ!そこは・・・ラムザ・・・・ふ・・ああっ」
あまりにも強い刺激に、身をよじって抵抗しようとするが、ラムザが体をがっちりと押さえているので
逃れようが無い。そしてそんな動きも彼女を悦楽の極みに押し上げるための助けにしかならなかった。
そんなアグリアスの様子を見て、体中に口付けしながらさらに愛撫を続ける。
「あ・・・あ・・・ラムザ、ラムザ、だめだ・・・・!!あ・・・あっ!!!」
アグリアスが悲鳴に近い声を上げたかと思うと、ぎゅうっと内腿がしまりラムザにしがみつき、
その後一気に脱力する。
――――達したのかな――――
ラムザはそんな彼女を見てぼんやりそう思った。少々強引ではあったが、彼女が感じてくれたことが嬉しかった。
力の抜けたアグリアスの体を再び抱きしめ口付けをして、少し離れて彼女を見る。
顔は上気し、切なげに潤んだ瞳は目の端に涙の粒をたたえ、精一杯の笑みを浮かべてラムザを見上げている。
いつも気丈な表情しか見せないアグリアスのそのなまめかしい様子に、ラムザの理性が瞬時に吹き飛んだ。
「ん!ああっ!!!」
ラムザはすでにはちきれそうな自分のものをアグリアスの秘所にあてがい、差し込んでいく。
充分に濡れているとはいえ、男のものを初めて迎えるその蕾の抵抗を感じながら、ゆっくりゆっくり押し進む。
「力を、抜いてください・・・」
「・・・・・!!」
アグリアスはもう言葉にならない。しかし自分の中にラムザが入ってきているというその喜びは、
秘所から一筋の鮮血とともに、さらに蜜を溢れさせた。
そして、とうとう全て飲み込まれたところで、ラムザがもう一度アグリアスの体をきつく抱きしめ、暖かい中の感覚を確かめる。
「・・・・大丈夫ですか?」
アグリアスは短い息をふうと吐く。
「大丈夫・・・だ」
突然、アグリアスがふふっと小さな笑い声をもらしたかと思うと、自分の手をそっと下腹部に降ろしていく。
「ここに・・・・入っているのだな。ラムザが・・・。暖かいな。ラムザのは」
そう言うと結合部をそろそろと探り当て、指先でゆっくりと撫でる。
その言葉で充分だった。ラムザの中の火が一気に煽られ、大きくなったその炎は全てアグリアスに向かって流れ始める。
「すみませんッ・・・・・!!!」
ラムザは急にアグリアスの中からぎりぎりまで引き抜くと、そのまま勢いに任せて貫いた。
「はあっ!!」
アグリアスが声を上げる。しかしラムザの耳にはもうその声はほとんど届いていない。
「・・・あっ!・・あっ!・・あ!・・ああ・・・は・・ああ!!」
じゅぷ、じゅぷ、と静かな部屋に淫らな水音と肌と肌がこすれ合い、打ち合う音だけが響く。
ラムザに激しく揺さぶられながらぎゅっと眼をつむり、シーツをかき集め力いっぱい握り締める。
初めてだったアグリアスにとって、まだ行為自体は気持ちいいものとはいいがたい。
しかしうっすら眼を開いてみると、苦しげに呼吸を繰り返しながら、襲い掛かる快楽に必死に耐えている
ラムザの姿が飛び込んでくる。
その顔を見るだけで、アグリアスの体中になんともいえない心地良い痺れと悦びが駆け巡っていった。
「あ・・・あ・・アグリアスさん!!・・・もう・・!!」
「あ・・あ・・ラ・・ムザ・・・ラムザ・・・」
ラムザは激しくアグリアスをかき抱くと、その唇をふさぐ。お互いの吐息が一つに重なり合い
何度も舌を絡ませる。
「あ・・・・あ!!!」
次の瞬間、アグリアスの中にラムザの熱が一気に放たれた。その熱が体の奥底に大量に流れて来るのを
感じて、アグリアスはもう何も考えられなくなる。
頭の中が真っ白になるとはこういうことか・・・・。そんな言葉がアグリアスの頭の片隅に浮かんで消えた――――。
その少し前、下の食堂では明らかに飲みすぎて床にだらしなく転がっているムスタディオとベイオウーフを尻目に、
アリシアとラヴィアンが一つの小さな正方形の紙切れを、顔を寄せ合い熱心に読んでいた。
「えーと、効能、このハーブをあなたの意中な人にこっそり飲ませてみましょう。
効き目は抜群、相手はたちまちあなたに夢中です。か・・・」
読み終わると酔っ払って赤い顔をした二人は、互いに顔を見合わせうふふふっと笑いあった。
「効ーーーーたかしらあああ?」
「見ていてじれったいろよれえ。あの二人。お互い憎からず思っれるくせにさあ〜〜。どっちかが大胆にならなきゃれえ〜〜」
かなり飲んでいるようだ。始終うふうふ笑い転げ、ろれつも回っていない。
この町に着いたとき、たまたまハーブの店に入って面白いものを見つけた二人は、日頃奥手な上司のためにと
アグリアスの部屋に向かうラムザに、これ幸いと一服盛った果実酒を飲ませたのであった。
「あ、でもお酒に混ぜて飲ませてよかったわけ?」
「いーーーんじゃない?効果倍増できっと今頃は愛の告白でらぶらぶよ!」
「そっかあ、それもそうよれ〜〜〜」
そう言うと二人はまたお互いを見合わせ、ひときわ高らかにひゃははははははっと笑いあった。
※注意 アルコールに混ぜるのは危険です。
催淫効果がより増幅され、暴走する恐れがあります。
小さな紙切れの下方、これまた小さな字で書かれた注意事項を二人が酔いのせいで見逃しており、
翌朝、すっかりシラフに戻った二人がこの一文を発見して、一気に青ざめたのは言うまでも無かった。
end