『銃とバレッタ』


初めてアルマを見たときの感想は「可愛いな」ぐらいの印象しかなかった。
だけど日がたつにつれ彼女がとんでもなく好奇心の強い女の子だと気づく。
たとえばムスタディオの持つ銃に石ころを詰めて「飛ぶの?」とこちらへ
銃口を向けた時などは声を裏返して叫んだように思う。
(なお、後にラムザから受けた“あまりな仕打ち”で似たもの兄妹だと言うことに気づく)

「何してんだ…アルマ…」
ムスタディオはゴーグの地下の坑道前の土を、スコップで掘り返しているアルマを見て訪ねる。
「ここって色々おもしろい物が出てくるんでしょ?何か無いかなあ〜と思って」
バカかお前はと言いたい気持ちを抑えて、ムスタディオは努めて冷静に答えようとする。
「あのな…いくら何でもそんなちゃっちいスコップひとつで簡単に出てこないの」
「でもわから…ほら!見て見て、出てきたわよ!」
アルマが掘り当てた物は円錐形の何かの先端かと思われる物であった。
「こんなもん、いくらでも…て、おいこらアルマ!」
彼女はムスタディオの銃を勝手にホルダーから抜き取りその銃口に
先ほど掘り当てたものを詰めようとしていた。
「わーやめろ!…て言うかやめて!お願いします」
「うーん…やっぱり合わないかな」
ムスタディオは無邪気に頭をひねるアルマの顔を見てがっくりと頭を落とした。


「ほほう、お前にしてはえらく疲れているがどうした?」
アグリアスはおもしろそうに疲れ切った顔をしたムスタディオに話しかけた。
「どーもこーも…何なんだよあいつ。貴族のお嬢様だからもっとしとやかなもんだと」
彼女はにやにや笑いながら不機嫌な機工士の顔を見る。
「とかなんとか言って、結構アルマに対して面倒見がいいではないか?可愛い子だからなあ」
ムスタディオの顔が珍しく物騒になった。
「…あいつが勝手についてきてはなんだかんだと訪ねやがるんだよ。ラムザ、お前もっとかまってやれ!」
今までぼんやりとふたりの会話を聞いていたラムザは不思議そうにつぶやいた。
「いや、あんなに首突っ込みたがるやつじゃなかったんだけど…?」
そこへムスタディオの父ベスロディオとともにアルマが夕食を運んできた。
「こらドラ息子!ご令嬢に手伝わさんとお前が運ばんか!いや〜アルマちゃんすまんねえ」
ベスロディオのやに下がった顔を見てムスタディオはふんと鼻をならす。
「すいません!僕たち世話になっているのに手伝わないで」
「これはお許しを、ベスロディオ殿。私がお持ちしましょう」
ラムザとアグリアスは慌てて席を立ちムスタディオの父とアルマの方に駆け寄った。
「いやいや、あんた方は命の恩人だし客人だ。座っててくれ…ムスタディオ!」
彼の息子はふてくされた様子でゆっくりと立ち上がる。
「へいへ〜い。旅から戻った息子をねぎらってもくれないのね〜」
そこへアルマが意外なフォローを入れた。
「おじさま?ムスタディオ…私に付き合って疲れているから、座らせていてあげて…ごめんね」
といきなり下手に出られてムスタディオは焦った。
「い…いや…別に全然疲れてないし…いいよ。俺がやるから」
アルマから料理の入った容器をひょいと取り上げて少し乱暴に持って行く。
その様子を不思議そうに眺めるラムザと、人の悪い笑いを浮かべているアグリアスの視線を感じながら。


夕食が済み疲れて早めに休もうと自分の部屋に行くと前にアルマが立っていた。
少ししおれてうなだれている姿は妙にムスタディオの心を騒がせた。
「…アル…マ?」
自分でもおかしいと思うぐらい声がかすれてしまう。
「ごめんね…ムスタディオ。色んなところについていって…怒っている?」
それがクセだと思われるアルマからの可愛らしく首をかしげて顔をのぞき込むポーズで
ムスタディオの心臓はますます鼓動を高める。
「いや…いいんだ。…だけど、こんな機械だらけのところ、女の子にはつまんないだろうに」
アルマは「うん」と自分に頷くとムスタディオの手を握りその視線を真正面から彼にあてて言った。
「私に銃の使い方教えて欲しいの、お願い!」
ムスタディオの内心のざわめきも知らずに彼女は詰め寄った。
「なに…銃〜?」
「だってあなた、機工士の間じゃ銃に関しては名人なんでしょ?お願い!お願いします!」
ムスタディオは眉をひそめて渋面を作った。
「お前…そんなもん習ってどうする気だよ。戦闘に出るって言うんじゃないだろうな」
アルマはそこでまた少し頭を垂れて悲しそうに言った。
「だって…ルザリアから…ついてきて…私、兄さんとみんなの足手まといでしかない…
 だからせめて何か武器のひとつでも修練して何とか兄さんの役に立ちたいの」
(ああ…やっぱラムザかよ…)
ふたりが仲が良いのは兄妹だから認める。
どちらかというとアルマがひたすらラムザの為に役立とうとしているのは健気である。
…しかしムスタディオはそんなふたりを見るたびイライラしてくる。
だからといってアルマの申し出を断るのも業腹なのでやむなく承知した。
「…わかった…だけど、中途…」
「いいのね!ありがとう、ムスタディオ!」
いきなりアルマに抱きつかれてムスタディオは息が詰まった。
彼女の柔らかい胸が自分の腹のあたりに押しつけられて彼は硬直した。
思ったより意外なほど豊かな胸はムスタディオの顔に徐々に朱を立ち上らせていく。
(やばい…!静まれ…俺の)
「それじゃ、アルマ俺もう寝るから。お休み!」
ムスタディオは慌てて自分の部屋に駆け込みドアを閉めた。
「うん。おやすみなさい、ムスタディオ」
去っていくアルマの足音を聞いて、彼はようやく深く深呼吸をした。
しかし…ムスタディオが焦った理由の体の一部の変化は依然そのまんまであった。
(情けない…童貞か俺は)
ベスロディオの息子は自分の体の中心の彼のムスコを見つめてため息をついた。


ゴーグ地下の何番目かの坑道に銃声が響く。
それとともに「へたくそ!」の少々品の悪い声がこだまする。
少女がかなりのへっぴり腰で銃を震えながら構えて、遠くにある目標物に狙いを定める。
「いいか、肘をちゃんと片手で支えて狙うんだ。ちゃんと支えていないからブレて当たらないんだ」
「だって…ムスタディオは片腕のばして撃っているじゃない?私もあんな風にかっこよく…」
「ばかたれ。ド素人がいきなりあんな撃ち方で当たるかよ。文句言わずにさっさと撃つ!」
「は はい…きゃあ!!」
アルマから発射された弾は坑道の壁をはじき何回か跳弾して地面にめり込んだ。
「……」
「…うまいうまい…俺でもあんな弾撃てねえ…」
ムスタディオはあきれたように乾いたしゃべり方をして軽く拍手した。
坑道の奥の方角を見たままのアルマは固まったようにこちらを向かない。
「アルマ?」
呼びかけてもそのまま振り向かずずっと同じ姿勢のままだ。
「アル…」
「あ 休憩していい?ちょっと汗が出てきて…」
うつむきながらこめかみのあたりに片手をやり、アルマは素早くムスタディオの脇をすり抜けた。
その時に地面に何滴か光るしずくが落ちたのを彼は見た。
(しまった!)
「アルマ、待ってくれ!」
しかしその時アルマの姿はすでに坑道内から消えていた。

急いで自分の家に戻り、ラムザとアグリアスにアルマが戻ってないか聞くが虚しかった。
「とりあえず、ゴーグのどこかの店に寄っていないか聞き回ってから坑道に行くから」
ラムザはそう言って家を出て行った。
取り残されたムスタディオにアグリアスは詰め寄った。
「お前…一体あの子に何を言ったんだ!事と次第によっては許さんぞ!」
アグリアスはその整った顔を怒りにゆがめてムスタディオの胸ぐらを掴んだ。
女とはいえ優秀な聖騎士の彼女の力は侮れないほど強い。
ムスタディオは坑道での詳細を語った。
そのまま彼女の鉄拳がムスタディオの顔に飛ぶ。
部屋の隅に飛ばされたムスタディオはゆっくりと顔を上げた。
「なんでアルマがお前につきまとうのかわからなかったのか?あの子は私にお前のことばかり聞いていたぞ」
アグリアスは情けなそうに額を抑えてため息をついた。
「なんで言わなかったんだ、アグリアス!!そんなこと俺にわかるかよ!」
「そりゃアルマに口止めされていたからな。それぐらい察しろ、この鈍感機工士め」
アグリアスはやれやれと言う風に首を振って笑った。
ムスタディオはそのまま素早く立ち上がり全速力で家を飛び出していった。
アグリアスは取りあえず剣を腰につけてどこから探すか考える。
「ふん…銃とバレッタってとこか」
微笑みながら彼女も家を出て行った。


かつて知ったるゴーグの坑道なのだが人ひとりを探すのにはあまりにも多すぎる。
まったく見当がつかない場所で、それでもムスタディオは必死でアルマを探し続ける。
(くそっ!察しろだと?無茶いいやがって)
心の中で毒づきながら彼は自分の鈍さを呪った。
何も知らずあろうことか彼女の真剣さを笑い、泣かせてしまったことに激しく後悔する。
(すまん…アルマ…)
無事でいてくれと普段はあまり信心深くない彼は聖アジョラに祈った。
(あの子を無事で俺のところに返してくれ、頼む)
その時どこからか銃声がしたような気がした。
耳を澄ますと何回か銃声がこだましている音が遠くの方から聞こえてきた。
その音を頼りにムスタディオは注意深くひとつひとつの坑道を調べていく。
やがてひとつの坑道の中に入ると銃声がより鮮明になりその奥へ進んでいくと
そこにアルマがいた。

後ろから近づく音に、銃を撃つことにのめり込んでいる彼女は気づかない。
その肩をつかみムスタディオはアルマを振り向かせた。
「ムスタ……!」
最後まで言う前に彼女の頬が鳴った。

「どれだけ心配したと思っている…」
ムスタディオの声はなぜか彼には珍しく静かだった。
アルマは彼にぶたれた頬を抑えてうつむいて黙っていた。
しばらくするとその瞳から涙の粒が何個も落下していくのが見える。
「ごめん…なさい…ごめん…ムスタディオ…」
ムスタディオはアルマに近寄りその体を強く抱きしめた。
嗚咽がだんだん激しくなるアルマの顎を上に向けてその唇に自分のを重ねた。
「悪いのは俺の方だ…許してくれ…アルマ」
そう言うと再びアルマの唇を塞ぎ開いた唇の間から舌を入れてアルマの物を探る。
おずおずと自分の舌を彼の方に持って行くとムスタディオはそれをゆっくりと絡めた。
アルマはどうしていいのかわからず、取りあえずムスタディオのされるがままにゆだねた。
彼は口づけを中断してアルマの顔をのぞき込んだ。
「…初めてだよな?…俺でいいか?」
ムスタディオからの濃厚な口づけで顔をほてらせたアルマは深く頷いた。
「ムスタディオこそ…私でいいの?」
彼は笑いながらアルマの頭をその腕の中に抱え込んだ。
「お前がいい…お前が…欲しいんだ…」

坑道の壁際にゆっくり倒されたアルマは、ムスタディオの手によって器用に服を脱がされていく。
全裸にされた時少し寒さを感じたが、すぐに同じく全裸になったムスタディオの体が彼女を抱きしめた。
彼の肌の熱さは彼女に寒さを感じさせなかったのだが震えは止まらなかった。
「怖いか、アルマ?いやならすぐに…」
アルマはムスタディオの首に腕を回していやいやをした。
「私も…ムスタディオがいいの…」
自分にしがみついて健気にも受け入れようとする彼女が愛しくてならない。
目を閉じて軽く唇を開いている彼女のそれへ自分も唇を開きながら重ねて舌を入れる
今度はアルマの方からムスタディオの舌を絡めてきた。
「ん……ムスタ…」
ムスタディオの舌の動きが強く激しくなってきた。
アルマは必死でその動きについていこうとするが、彼の激しさにかなわない。
あきらめてまた彼の動きにゆだねた。
「無理すんなよ…ちゃんと俺がしてやるから」
唇から離れたムスタディオの舌は頬からあごへ首筋へと這い降りていき首筋を何度も吸う。
片手がアルマの乳房を掴みそのまま緩くゆっくりと揉み始めていく。
「あっ…あん……ああ…ムスタディオ…」
頭を揺らし首筋をのけぞらせたアルマの髪飾りのバレッタが床に落ちて音を立てる。
ほどけた髪のアルマの頭を抱えながらゆっくりと彼女を床に寝かす。
その両方の乳房を手で包み込んで緩やかに持ち上げ揉みながら
片方の乳首にじわりと湿った舌を這わせた。
「は…あっ…」
何度も舌が這い吸い上げるムスタディオの立てる音が坑道内に淫猥に響く…
機工士と令嬢だった者はだんだんと性の匂いを発散させる男と女へと変化していく。
ついばむ音を立てながら、ムスタディオの唇はアルマの体のあちらこちらに
口づけを繰り返して下腹部の秘められた場所へと探っていった。


「あ……いや…恥ずか…しい」
ムスタディオの舌はアルマの誰にも犯されていない処女の草むらを探り
その下にある小さなうす紅色の突起を揺り動かすように舐め上げる。
「だめ……あ……ああ…」
言葉で抗議していても、体は彼の繰り出す愛技に敏感に反応して
その中から男を受け入れるための蜜を滲ませていく。
「あっあっ…ああ…ああ」
アルマの白いからだが弓なりに曲がり、快楽のための吐息と甘い喘ぎがこだまする。
このままいかせてもいいがまだ自分が入っていないし、もう一度受け入れさせるためには
処女であるアルマには負担が大きいとムスタディオは考えた。
その濡れぼそった彼女の入り口に自分の起立した物をゆっくりと侵入させてみる。
「ん!…いたっ…あ!」
アルマは痛さに思わず上の方へと体をずらして逃げてしまう。
ムスタディオはため息をついた。
「やっぱり痛いか…?やめてお前だけいかせてやってもいいんだが」
自分の物は後で自分で処理しようと思えば出来る。
そのムスタディオの唇をアルマは自分から塞ぎ彼の体にふたたび強くしがみつく。
「いや!私だけなんて…もう逃げないから…来て、ムスタディオ…好き…」
アルマの最後の言葉にムスタディオの中の堰が切れた。
彼女の唇を何度も貪り愛しげに頬をすり寄せる。
「俺もだ…アルマ…好きだよ…」
泣き笑いのアルマは両脚をゆっくり開きムスタディオの前に体を開いた。
はやる気持ちを抑えながら、アルマの体の中心部へ自分の物をゆっくりと沈めていく。
「あっ」
痛いと言えば彼がやめてしまうと思い、アルマは必死でその言葉を飲み込んだ。
アルマの緊張を解くために何度も口づけを繰り返し体に愛撫をほどこしながら
ムスタディオはごくゆっくり慎重にアルマの中を進んでいく。
口づけか愛撫に反応したのか、アルマはムスタディオの侵入のために愛液を滲ませ
その進行をスムーズに行わせる。
それでも痛みはあるはずだ…顔を見ると恍惚とも痛みとも取れない表情を浮かべ
目元には涙がにじんでいた。
「…アルマ…むごいことを…すまない…もう少しがまんしてくれな?」
アルマは首を振り涙を落としながら、それでも彼のために微笑んだ。
「…大丈夫…大丈夫だから…」


健気に痛みに耐え、自分のために体を開くアルマへの愛しさに気持ちが爆発しそうになるが
必死でムスタディオ自身も耐えて、さらに慎重に彼女の体の奥へと突き進んでいく。
そうしてついに自分の物がしっかりとアルマの中に収まったのを確認すると
今度はゆるやかに腰を突き上げ始めた。
「あっ…はっ…はっ…」
目を閉じて首をいやいやするように振るアルマの表情を確認しながら
彼女に痛みをなるべく与えないようにゆっくりと突き上げ続ける。
何度かその状態を繰り返していくうちに、眉を寄せていたアルマの顔が穏やかになり
やがて口を緩く開けて瞳を半眼にしてきた。
あきらかに感じている表情で、その恍惚としたアルマの顔は少女の物でなく
男との愛欲に溺れている女の顔であった。
そのアルマの顔に余計に情欲をかきたてられ、唇に何度も何度も口づけを繰り返し舌を絡め合う。
坑道内はアルマの漏らすそそるような喘ぎとムスタディオの激しい息づかいに満たされ
ふたりの体温すら蒸気になって立ち上るようである。
「あっ…あ…ん…あっ…ああ…あ…」
自分の内部とムスタディオの物が擦れ合いその熱が全身を回って行く。
体の中心で行われている快楽をアルマはつかみ取りその中に埋没していった。
アルマの様子に余裕が出てきたのを見取りムスタディオは突き上げる早さを増してゆく。
彼女の両脚を脇に抱えると最後の攻勢を彼女に加えていった。
「ああ!…ムス……ディ…」
激しくなってきた彼の動きに少し恐れながらも痛みが薄れていき
初めての快楽の感覚に何度も溺れそうになる。
自分の体の奥でムスタディオの物が膨張し成長していくのを感じ取り
反射的に自分の内壁が収縮し始めるのを覚える。
「…きつい…な…アルマ…」
激しく息を継ぎながらアルマをからかうように笑った。
その声をきっかけに体の奥に大きな波が起こり、自分でもどうしようもない打たれるような快感が
アルマを襲い彼女の内壁が収縮する。
「ああ!!ムスタディオ!」
悲鳴のような絶頂の声を上げてアルマはいった。
それを確認してムスタディオも忍耐をやめ思う存分彼女の奥に精を放った。
アルマの体の上にムスタディオはついに倒れ込んだ…

しばらくしてムスタディオは上半身を起き上げてアルマの体を抱きしめた。
幾たび交わしたかわからない濃密な口づけをして彼はアルマに笑いかけた。
「…よかったよ…アルマ。よく耐えたな」
ほっそりしていると思ったが意外と逞しいムスタディオの背中に手を回して
まだ交歓の余韻に浸るアルマは少し息切れするように言った。
「…わたしも…ムスタディオ…」


そこへいきなり足音がして人の入ってくる気配がした。
「よかった!ここ……に…」
聖騎士アグリアスの目に入ったのは裸で抱き合っているムスタディオとアルマであった。
あまりのことに絶句し手振り口パクで何か言おうとしている彼女へムスタディオは
唇に指を立て「黙ってくれ」のポーズを送る。
「アグリアスー?ふたりとも居たのかいー?」
遠くの方にラムザの訪ねる声がした。
裸のふたりを見て目を丸くし硬直したままのアグリアスは、咳払いすると少し上ずった声で応じる。
「あ ああ。こちらにはいないようだ。向こうをもう一度探そう!」
「そうかいー?」
ラムザの遠のく気配がしてようやく落ち着いたアグリアスは自分を慌てさせた
機工士への意趣返しに、これまた口パクで何かを伝えて去った。
それを見てアルマは訪ねる。
「なんて言ってたの?」
ムスタディオは渋面を作ってアルマに言った。
「……今度は色ボケ機工士だとよ……言いたいこといいやがる…」
軽く笑うアルマの顔はもう元の可愛い令嬢のものに戻っていた。

衣服を着けて坑道内から出て行くと、もう外は黄昏れて星がひとつ瞬いている。
「いい加減にふたりと合流しないと…またアグリアスのやつに殴られそうだ」
顎のあたりをなでながらぞっとしない様子でムスタディオはつぶやいた。
その彼の背中へアルマは後ろから抱きつき頬をすり寄せる。
「アルマ?」
アルマは静かに語り出した。
「…時々…ほんの時々だけど…私を誰かが呼んでいるような気がするの…そして
 私の中の誰か別の人格がそれに応えているような…でも私は“そちら”に行きたくないの
 …行きたくないのにだんだん私の中の誰かが大きくなって…そっちの方に…」
驚いたムスタディオはアルマを自分の方へ向かせて顔をのぞき込んだ。
「…それは“夢”だよな?大丈夫だ。お前をどこへも行かせない。俺の元からどこへもやらない」
不安に涙するアルマをきつく抱きしめて彼は強く宣言した。
「本当?…嬉しい…ムスタディオ…」
ムスタディオの背中に手を回してアルマも不安を取り除こうときつくしがみついた。
この時アルマのこの話を不安が見せる夢だと思っていた彼は後に激しく後悔する。


―死都ミュロンド失われた聖域にて―

ムスタディオは自分の手の中にある赤いバレッタを見つめている。
愛しそうに懐かしげにそれを見る彼にアグリアスがつっこみを入れた。
「必ず助け出すさ。なんせ私はお前達のためにいらぬ苦労を」
聖騎士は大仰なため息をついた。
「なるほど…そういうことならお前も俺たちと同じようにオルランドゥ伯に式の立会人になってもらえばどうだ?」
元聖印騎士団の団長ベイオウーフはおもしろそうにそう言った。
「そうねえ…一緒に合同でというのもいいかもしれないわ」
ベイオウーフの婚約者レーゼはうまい思いつきに楽しそうにテンプルナイトへ話しかける。
「そうだったのか…これはめでたい。そう言うことなら二組合同…」
雷神、シドルファス・オルランドゥは頷きながらプランを思い描いている。
いつのまにか自分を置いて勝手に話を進めていく彼らに慌ててムスタディオは叫んだ。
「まてよ!誰がそこまで話を進めろと」
そこへ浅黒い肌をしたマラークが、ムスタディオに笑いをこらえながら語りかける。
「あきらめろ。最早逃げられない」
あっけにとられる機工士にさらにマラークの妹のラファが小さく囁いた。
「裏切ったら…真言でおしおきよ?」
この世界の基準では訳のわからない格好の異邦人クラウドまでもが
「…まあ…後悔しないように、できるだけのことはしてやった方がいい」
となにやら意味深な発言をした。
どこでそこまで話が進んだんだと周りを見渡すと、ラムザとアグリアスがしゃがみ込んで
苦しそうに忍び笑いをしている。
「アグリアス、てめえ!」
笑いが止まらないアグリアスは首を振りながら苦しそうに言う。
「違う違う。私じゃないさ。なあ?ラムザ」


ラムザの方も何かをしゃべろうとして機工士の顔を見ては吹き出していた。
「…あのな…ラムザ…」
だんだんむかっ腹の立ってきたムスタディオは声を震わせながら友人に迫る。
「アルマ自身だよ。“兄さん私ムスタディオに責任とってもらうから”て言ってたからさ…
 始めは驚いたけど、君ならいいかと」
やっぱりあいつはバカだ。普通いくら仲が良くてもそんなこと兄貴に言うか?
ムスタディオはアルマの無邪気さにどうにもならない疲れを感じた。
後ろではラムザにつかず離れずの忠実な鉄巨人がムスタディオの方を
向いているような気がして余計に疲れが増す気がする。
「ごめんね…私の弟があなたの彼女をさらわなければこんなことに…」
そう沈んだ様子で言うのは神殿騎士のメリアドールである。
「お前のせいじゃないし、イズルート自身も何も知らなかったんだからいいさ」
オーボンヌ修道院でアルマを非力な年寄りのシモンと待たせてしまったことに
ラムザもムスタディオも激しく後悔した。

その場には彼女のこのバレッタだけが残り…

「うらやましいわ…そこまで思っている人がいるなんて…取り戻したらどうしたいの?」
メリアドールは穏やかな顔をして機工士に尋ねる。
「あいつを抱くさ。恋人ならそうだろ?」
峻厳な神殿騎士には少し刺激の強い、だがそれ故真摯な彼の思いをその言葉から痛いほど感じ取る。
少し顔を赤らめてメリアドールは勢いよく言う。
「じ じゃあ、私が一番で特攻するわよ!」
「何を言う。今度は俺だ、ディバインナイト」
「待ちなさい。雷神をさしおくつもりか、テンプルナイト殿」
彼らの一番乗り争いを後目に若い機工士がその傍らをすり抜けていく。
「お先に!」
「あっ、こらずるいぞ!」

まってろよ…アルマ…
ムスタディオは心の中で愛しい娘の名前を呼びながら、アルマの待つ場所へ勢いよく駆けていった。




Fin