『虚飾の終焉』


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がんがんがん。

ひどく勢いの良い――というよりも『乱暴な』と表現してもいいようなノックが部屋の扉を叩いたのは、
略式のドレスから黒いシルクの夜着にちょうど着替え終わった時だった。
仮にも王女の寝所に、こんなノックをする人なんて知っている限り一人しかいない。
「…どうぞ」
その一人は部屋に飛び込んで来るなり、薄着の私をぎゅっと抱きしめた。
びっくりして思わず目が丸くなる。
「オヴェリア!やったぞ、議場への一般からの登用枠が決まったんだ!貴族院の爺さん連中は大分ゴネてたんだが、
いずれは貴族どもを政治から引きずり降ろして――」
「――はいはい。ちょっと落ち着きなさい」
抱きしめられたまま、ゆっくりと背を撫でてやる。
着替えを手伝ってくれた侍女二人に軽く頷くと、二人は軽く苦笑いしながら静かに退室してくれた。
「王様なら簡単に決めてしまえるんじゃないの?――まぁどちらにしろ、私に政治の話をされても…。貴族でも平民でも、
立派な方がやればいいとは思うけど」
「そう簡単にいくなら苦労はしない。強権を振り回す王なんて、貴族と同じだろう」
トーンの落ちた尖った声で、彼はそう答えた。
「まぁそうだな、お前にする話じゃなかった。じゃもう少し夢のある話をしようか」
「?」
そういうと、ディリータは私の耳に口を近づけて――
「――世継ぎの問題を解決しよう、プリンセス」
艶のある声で、そっと囁いた。
私は眉をひそめて彼を見る。
「…ムードがないわね。もう少し普通に誘えないの?
」 「チェッ…これでも頑張ったんだけどな」
ポリポリと後頭部をかくディリータ。
「分かったよ。じゃあ、――お前が欲しい。抱かせてくれ」
「……どこがどう分かったらそういう言葉になるっていうの……」
まだ即位して数ヵ月といえ、これで王様だというのだから、本当に――笑ってしまう。
「って…あっ…」
私は急に彼に手を取られ、そのままバランスを崩して背後の寝台に押し倒された。
彼の手が、黒い夜着の袷にかかり――
「抱くぜ、オヴェリア」
「――って、もう始めてるじゃないのよッ…!」
じたばたと抵抗しても、無駄だった。


彼の手が、私の夜着を手早く取り払う。
「…もう…」
自信があるわけでもない身体を晒す気恥ずかしさに、思わず顔を背ける。
あらわになった胸に、彼の呼吸を感じて――そのまま下のほうから胸の先端に向かって、舌の感触が這う。
「ん…」
じわりとした甘い痺れが、右の胸の先から広がる。
空いたほうの胸を、大きな掌が包んだ。
「ん……は……」
熱い感触は、徐々にそのまま下がっていって――私の、脚と脚との間に――
「…や…そんな…所、恥ずかしいよ…ッ!」
「綺麗だよ、オヴェリア」
「…や…ぁ、あ…あああッッ!!」
そして――熱いぬめりが、私の中心を蹂躙する。
「あ、あ、あ…いや、やめ…ディリータぁ…ッ…お願いぃ…ッ!」
茂みを掻き分け、秘唇を舐め上げ、敏感な花芯を吸い、弄り――
きつく閉じた眼の奥で、強すぎる刺激が白い光となって幾度も瞬いた。
「あ…あぁッ!ちょっと……はやいよぉッ……あはぁッッ!!」
「…ぷぁ。ずいぶん濡れてきたな…」
「……やぁ……言わないで………」
「もういいな…。じゃ、いくぞ…」
そう言って彼は開いた私の脚の間に、高く屹立した彼自身をあてがい……
ゆっくりと、私の中に入ってきた。
「…あ…ッく…」
熱く押し広げられる感覚に、思わず声が漏れる。
「…痛かったか?」
「ううん…大丈夫…もっと、来て…あッ…!?」
舌の刺激で敏感になった膣内が彼のモノと擦れるたび、身体がぴくりと跳ね上がる。
「…あ…はぁ……はぁ……」
やがて――下腹部の奥まで彼でいっぱいにとき、私は自分の顔がものすごく熱くなっているのを感じていた。
「はは…なんだか信じられないな。この俺が王妃と愛し合ってる、なんて」
私の両脇に手をついて、深く繋がったまま彼は笑った。
私は荒れた息を整えながら眉をひそめ、彼を見上げる。
「…知っているでしょう?私は王家の血筋なんかじゃ…」
「以前はどうだったかなんて関係ないさ。お前はもう、誰にとっても立派な王妃になったんだ。もう…何にも怯える必要はない」
「ん…」
力強くて、優しいキス。
彼の舌が、眼差しが――私の気持ちをゆっくりと、溶かしていく。
「…動くぞ…」
「…うん…優しく、してね…」
私の中の彼が、ゆっくりと前後に動き始めた。
「…ん…あ…ッ」
静かに迫る小波のような快楽に、心臓は高鳴り、二人の吐息が荒くなる。
「……ッ」
のしかかる彼の、腰の動きが少しずつ速まって――


ちゅく――

「あ…あッ!は…ッ!」
甘い声が、自然に沸き上がる。
彼が膣内を擦る度に与えられる快感が、隠微な水音が、私を酔わせ、身体を震わせる。
彼に教えられた、彼しか知らない身体が、悦楽を求めて腰を浮かせる。
「あ……あッ…んっ………ディリータ…ッ……きもち、いい……?」
「あぁ……オヴェリア……大好きだ、オヴェリア……オヴェリア…ッッ!!」
「…んッ!んんんッッ!!」

両手が思わず、上等な白いシーツを握りしめる。
爆ぜるような快感に、頭の中は真っ白に染まり――快楽に震える膣内に熱いモノが吐き出されるのを、私はどこか遠くで感じていた。


※※※


――はしゃいでみせるなんて、あなたらしくもない。
愛してるフリなんて、してくれなくてもいいのに。

私との結婚は貴方の計画のうちのひとつ。
貴方は私の心も身体も、本当に欲しいと思ったコトなんて一度もない。――そうでしょう?
不思議と恨みも怒りも感じない、空っぽになったような心持ちのまま、ベッドの上に彼と並んで豪奢な天蓋を見つめる。

大好き、か…。
もし――もし、彼の言葉が全部本当だったら。
心から、ディリータが私を愛してくれていたら。

そう――
彼は騙されて閉じ込められていた私を助け出してくれた、勇敢な騎士様。
長い無益な戦争を魔法のように終わらせてくれて、
民は騎士を王様として迎え入れてくれて――

――そして王妃と王となった二人は平和な国をつくりあげ、
いつまでも、仲良く、幸福に…暮らしたのでした…

あぁ。
なんて甘美な――叶わぬ夢。

「…オヴェリア?泣いているのか?」
「え…?あ、えぇ…その、――幸せ過ぎて、なんだか…」


言いながら彼の胸に頭を預けると、大きな温かい手がそっと私の髪を撫でてくれた。
そう――この優しさも、私を騙し続けるための嘘。
「はは。俺も幸せだよ…こんなにも静かで安らかな気分になれたのは、いつ以来かな…」
他の誰にも決して見せないこの笑顔も、この言葉も――みんな私を利用するための、嘘。


信じていたかった。
自分という存在の全てを否定されたあのとき、差し出された希望に縋りたかった。
――でも、私はあの光景を見、あの言葉を聞いてしまった。
占星術士オーランとの会話。そして無残にも切り捨てられ殺されてしまった、彼の側近だった魔導士の女性――バルマウフラ。
この人はただ畏国の王になるため、全てを利用していただけだと――この人も私ではなく、私が持たされた王家の資質が欲し
かったのだと気づかされた、あの日から。
日々与えられる儚い希望は、全てが残酷な絶望に変わった。
ディリータにとっては、全て目的達成のための道具に過ぎない。私も、親友も、王位も、きっと――自分自身でさえも。
人を利用し、裏切り、切捨て、誰も信じられなくなった彼の心はもう――決して、誰を愛することもない。

「――愛してるよ。オヴェリア」
「えぇ。――私も」

言葉を貰えば貰う程、
優しくされればされる程、
そして愛されれば愛される程に――

私の心は、絶望の淵へと落ちてゆく。

「私も、愛しているわ……ディリータ……」

こんな日々が、いつまで続くのだろう。
――そしていつかは、私も切り捨てるのね。

涙が、頬を伝った。


※※※


紅い花束が、無惨に散った。

――なぜ。
なぜだ。オヴェリア。

オレはお前を騙し、利用し、絶望を与え続け、お前をここまで追い詰めた。
お前の最期の言葉は、オレが『誘導』した通りの答えだった。
なのに、なぜ――そんな男に胸を突かれてなぜ、お前は笑ったんだ。
なぜ、そんなにも安らかな顔で眠るんだ――。

「…オヴェ…リア………ぐぅ…ッ!!」

激痛が思考を乱す。血が、止まらない。
――こんな場所には誰も来ない。
もう終わりだ。オレも、お前も。
だが――これでいい。これで――

「…………」

――そうか。
まさか――気づいていたのか、お前は。
オレが孤独な生に倦み、死を渇望していたことを。
創り上げた平民の希望を汚さないような、偶然かつ不可避の死を望んでいたことを。
そしてこの形で幕を降ろそうと決心し、お前を追い詰めようとしていたことまで――

世界が、廻りはじめた。
オレは大樹にふらつく身を預け、澄んだ青空を見上げた。

――気づいてくれていたんだな。
気付いていながら、あえて乱心の王妃の役を果たし、汚名を被ってくれたんだな。
オレを虚飾の伝説から解放するために。
オレと共に――死ぬために。

お前はオレを、愛してくれていたんだな。


紅い花びらに彩られたその寝顔は、本当に安らかで――


「綺麗だ――愛してるよ、オヴェリア――」



ラムザ。

お前は何を――手に入れた?



オレは――――



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