『ルザリアの部屋』
王都ルザリアは王家から大貴族、取るに足らない貧乏貴族…そして多くの庶民達が混在して住んでいる。
そういう混沌の中ではひと一人がどう動こうとも周りの人間は全く気づかないこともある。
そんな中にその古びた集合住宅はあった。
「これが鍵…あれ?今まで確かにあったのに」
「無いと言うことは誰かがもう入居しているのではないの?残念ね、他をあたるわ」
破格の値段を提示したその女性の入居希望者を取り逃がしたくない管理人は慌てて叫んだ。
「まって。取りあえず他の部屋も見てくれよ。あんたの希望に添うかも知れないし」
女はしばらく考えて疲れた溜息をつぎながらあまり期待もせず管理人の言うとおりにした。
ほとんど空き室の2階の一番奥まったところが自分にとって一番都合が良かったのだが
その手前の部屋でもいいかと考え始めたところ、その自分が始めに希望していた
奥の部屋の扉が開いて中から一人の背の高い男が出てきた。
中年か初老なのか、どこか精悍な感じのする顔は年齢が容易に判断できない。
「そこの部屋…あなたが入っているの?」
男は話しかけられた女性のきつい目つきを眺めながら頷いた。
「入っているのだが、めったに使わない。…もしよかったら中を見るか?」
男の口調はなぜか投げやりで、女は何となく興味を引かれその部屋に入ってみることにした。
部屋はベッドとテーブルが置かれているだけでこれ以上はない殺風景さであった。
男性だからそれはそれで仕方ないのだが、なぜか荒廃した感じも見られたのは
部屋の主であるこの翳りのある背の高い男のせいだと思った。
「…すぐに主が変わっても構わないような部屋ね。でもあなたが使っているんでしょ?」
男は笑いながら(自嘲気味だと女は思った)ある提案をした。
「多分もうすぐここを使わなくなる。…いつかはわからないが…その時は君が使うと良い」
奇妙な言い方だと思ったが部屋を使えるのなら都合が良い。
「でもまだ使うんじゃないの?私は今日にでも入居したいのよ」
「いいよ。今日から使っても…私はいっこうに構わない」
つまり中途半端に使われているこの部屋を使用しないかという提案なのだが女性にとっては
あまりありがたくない申し出ではある。
「……ちょっと部屋を検分させて…」
女は窓によってその地上までの高さを調べる。
男は調べる女の姿を見るともなしに見て入り口の扉にもたれかかっていた。
(あまり高くなくて丁度いいわ…裏道に面しているし…)
ふと側に男が近づいてきた気配がした。
男はそのまま素早く後ろから女の体を抱きすくめると窓際の壁に女を押しつけた。
女の着ている黒っぽいスカートの裾から手を入れて、そこにある下着を引きずり下ろし
その中心にある秘所の中に指を飲み込ませ始めた。
「……!」
声を立てなかったのは日頃の訓練のたまものなのではあるが、同時にその唇を塞がれ
中にある舌を絡め取られた為でもある。
「……く……」
嬲られ動かし続けられている自分の体の中心が否応なしに反応し潤みだしていくのがわかる。
男の指は女が滴らせる透明な液を受けそれをもう一度そこへ擦り付けた。
唇は塞ぎ続けられ舌は絡められて息もつけず女の顔は朱色に上気してくる。
唇の端から唾液がこぼれる…男の唇はそれを追ってようやく顎へと移動していった。
「は……くっ……」
男は自分のはいている革のズボンを下ろしその起立した物をさっきまで嬲り続けていた女の中へと突きたてた。
「うっ…!」
容赦なく強く差し込まれたそれは、女の内部の蠢く襞をかき分けて奥へ奥へと突き進む。
突き進まれるにつれて男の体も当然ながら密着され、衣服を通してさえかなりの体躯の持ち主だとわかった。
押しつけている女の体を両手を回して体の中に強く抱き取り、そのままゆっくりと腰を突き上げ始めた。
「あっ……は……」
体の中を一定のリズムで動く男のそれは、奥へ進むたびに膨張していきその摩擦の強さを徐々に大きくしていく。
女は泳がせていた右の腕をゆっくりと上げ…しかし何かにあきらめたようにそのまま左手と共に男の背中に回した。
彼女の喘ぐ声がだんだんと苦しげに引きつるような音を交えてくる。
時々男の唇が女の口内を襲い奥へ逃げようとする柔らかで湿った舌を絡められ唾液が送られる。
「う……あ…」
立ったまま激しく下から突き上げられ足が震え出す女の様子に気づいたのか、男は女の足を強く抱えて
彼女の体を浮かしながら自分のものを押し込み続けた。
女は男の腰のあたりに足を交差させその体に強くしがみつく。
その不安定な体位のまま男のものは女の内部をかき回し続け、女はひたすら男にしがみつき続けた。
女の瞳がふとその男の瞳の視線と交差し合った。
なぜこんなに暗い瞳をしているのか、自分を犯しながらなぜ…
体の中の男の固い異物がどんどん成長していき、女の洞窟の隅々までその存在を主張し始める。
腰を動かせなくなった男は女の下半身を強く抱きよりその男根をねじり込む。
「あっ……あ…」
蠢く男のそれを体の中心で受け止め、それを包んでいる女の周りの襞も強く反応し始めた。
「……くっ…」
今まで声ひとつ立てなかった男はここで始めて低く短い呻き声を上げた。
女の中で洞窟の収縮が始まりそれは固く太い男のものを締め上げ続け、膨張しようとする男根に対抗する。
いきなり腰の上のあたりから痺れるような言い難い感覚が女の内部を襲い
それは女の内壁を通して男の逞しく主張する異物を強烈に締め上げた。
「あっ…ああ!」
快楽の頂点を向かえ激しく体を揺り動かす女をがっしりとその腕で支え続けながら男も自分の限界を破る。
女の中に差し込まれた自分のものから勢いよく精液を流し込んだ。
体の中に生暖かい温度を感じてそのまま女はゆっくりと脱力していく。
男もその崩れ落ちていく女の体の上に自分も力を抜き重なっていった。
その体勢のまましばらく静かにしていると教会の鐘の音が王都に響き渡る。
「……これが…目的だったの?」
女の口調は特に責めている風でもなく、男の素性を探るようなところがあった。
「君こそ……持っているナイフを私の背中に立てれば良かったのに」
見抜かれていたのかと女は険しい顔になり、それを笑って見ながら男は女から体を離した。
彼は衣服の乱れを直しながら立ち上がり、開いた窓の側へと寄りそこから下を何気なしに覗いた。
自分のことは今はまるで眼中にないような男の態度に少しだけ女は腹立たしかったが
彼女も後始末をして自分の衣服をあらためる。
「私は行く。君はどうするんだね?……そうそう、これを」
と言いながら男は女の方へ向かって何かを投げてよこした。
「鍵?……私が持っていていいの?」
女は先ほどの男の提案の内容から首をかしげる。
「合鍵だよ。まあ…どうするかは好きにして、捨てるなり使うなり」
女の方を見て笑いながらその背の高い男は扉から出て行った。
女はしばらくぼんやりと考えていて思い立ったように窓へと近寄っていった。
丁度出て行く男の頭が上から見える…フードを被った彼は辺りを見回しながら特に警戒する様子もなく石畳の道を
北の方へと向かって歩いていった。
その方角は王都の中心部へと向かう道である。
(だからなんだっていうの…私には関係ないわ)
夕刻が迫り朱色に染まっていくその部屋から、女は自分も出て行かねばならないと身支度を調え始めた。
女は自分の命令者があまり好きではなかった。
とはいえ上役の好き嫌いでこの仕事をしているのではなく、彼女なりの目的があるからなのだが。
「取りあえず中継所となる部屋は手頃なところに見つけましたので…」
彼女の命令者は女の顔を見ることもなく素っ気なく言った。
「とにかく我らの元に直接来られるのはまずいからそれでよい」
相変わらずどこか非人間的な乾いた言い方をする男だと女は思った。
夕刻に会ったあの男よりこの命令者は幾分か若いのだろうがどうにも親しめない男である。
今までそんなことも気にしたことはなかったのに、これはあの男の正体が気になるせいなのか?
そこへ幾人か仲間達がやってくるのが見えた。
仲間とは言っても彼らとはほとんどしゃべらないし、彼女自身も馴れ合いたくはなかった。
中年期のものもいればごくごく若い男も女もいる。
それを潮に命令者に黙って頭を下げると彼女は足早にその場を立ち去った。
五十年戦争末期である現在は、王家とそれを取り巻く貴族達の思惑が澱のように入り乱れて
ルザリア全体に重苦しい空気を留まらせている。
鴎国軍の勇敢な王子ラナードは畏国へと進軍を続けてランベリー城を落としている。
しかし長引く戦争は畏国、鴎国両方に国内の疲弊と荒廃を招きどちらも相手方への戦力を
自国の国力に向けて使う必要に迫られていた。
ここルザリアにおいても解雇された元兵士達がろくに給料も受け取れないうえ、故郷にも帰れずそこかしこに溢れかえっている。
そして事あらば金を奪い女を強姦しようともくろんでいる、ならず者達一歩手前の状態に陥りつつある。
しかし女はそんな烏合の衆達を気にするでもなく石畳を歩きあの部屋へと向かっていた。
扉の鍵を開けようとしてかかっていないことに気づいた。
中へはいるとやはりあの男が部屋の窓から外の風景を見るともなしに眺めている。
「…仕事は済んだの?」
どうせ何もしゃべらないだろうと思って期待もせず聞いてみた。
「…こちらはなかなか難航しているよ…君は?」
からかわれているのかと思ったが、男の顔に少し疲労が見えたので本当のことを言ったようだ。
「…あなたは……そうね…黒か白、どちらかの思惑を背負ってこの…!」
素早く男が近づいて女の体を強く抱きしめた。
「図星?……服を着たままはいやよ」
腕の中から女が男の顔を見上げて強く睨み付けた。
男は女の気丈さを笑い首筋まで覆っているその襟の高い衣服を脱がし始めた。
女も男の仕立ての良い高級そうなその縫い取りのある上衣のボタンに手をかけた。
裸になった男の体は予想以上に見事なものだった。
顔から考えられる年齢からはその無駄なく鍛えられた筋肉のついた体躯はうかがえない。
その体に後ろから抱きしめられ彼女のその両の乳房を激しく揉みし抱き始めた。
「…お願い…もっと…ゆるめて…」
斜め後ろを向いて懇願する女のその唇を塞ぎながら男は愛撫の手をゆるめた。
男の唇は首筋に移動し舌を出して女の細く白い首筋をゆっくり舐める。
その腕は女の体を抱きかかえてベッドの上に移動しその細い体に自分の体を覆いかぶらせた。
舐めていた首筋からゆっくり移動する男の舌は女の乳房へと下がりその膨らみを巡っていく。
しかし彼の舌は乳輪まできてもその先の乳首にまでは行こうとはしない。
(焦らしているのね…)
女に馴れたずるい男でもあるのかと、その自分の体の上を蠢く舌の動きを追いながら唇を結んだ。
しかし男の愛撫は絶妙できつく閉じた唇から声が洩れようとしている。
その様子に男は笑いながら唇に口づけた。
「強情な子だ…ここでは何もかも忘れたらどうだ?」
そう言いながら男は触れなかった乳首の先に自分の舌を這わせ始めた。
「あっ……ああ!」
男の口内に吸い込まれその大きな手で揉まれ女の乳房は男のなすがままに翻弄される。
男の頭の髪の毛の中に手を入れて我知らず掻きむしる。
その状態のまま男の手は女の柔肌を揉みながら下へ下へと移動して彼女の一番熱い部分に触れた。
「はっ…」
体が跳ね上がるような痺れが男の触れた彼女の敏感な突起から全身に行き渡り
思わずベッドの白いシーツを掴んで声を立ててしまった。
突起を捏ねていた男の指はその下の女の深淵に向かいそこに指を飲み込ませた。
「あ…あ…い……」
「いやか?」
眉根をよせて目を閉じている女の耳元に唇を触れさせながら低く聞く男の吐息に
女は強く反応しその飲み込ませている指を夥しく濡らしてしまう。
「良い子だな…」
男は彼女の秘所の回りもその内部も丁寧に愛撫し、顔をよせて自分が導き出したその蜜を
猥雑な音を立てて啜りだした。
「あっ…あっ…あっ…」
今度はその熱い舌で女の急所を余すことなく攻める。
固く力を入れたその舌の先で女の突起に揺さぶりをかけたり、その奥の蠢く洞窟の入り口に
差し込んで緩急をつけて動かす。
女の体がベッドから浮き上がるように反っていきその喘ぎ声も押しつぶされたような苦しげなものに変わっていく。
「くっ…あ…あ…うっ…」
体の中心から熱い快楽が全身の血を沸き立たせていき、女はシーツを引き破らんばかりに悶えた。
その女をうつぶせに仰臥させその腰を高く上げさせると、男は後ろから女の濡れた秘壷へ起立した物を挿入し始めた。
濡れた鈍い音を立てながら女の襞をかき分けてその奥深くへと沈めてゆく。
「うん……あっ……くっ…ああ…」
シーツを掴みながらよがる女の手に自分の手を置き、強く握って腰を動かそうとすると
女がその体位のまま横を向いて苦しげに男に問いかけた。
「……なぜ……私を…抱くの…?」
男は少し間をおいて完爾と笑い体をかがめてその唇に口づけながら言った。
「…なぜ…私に抱かれるんだい?」
そう言うとゆっくり腰を突き上げ始めた。
「あ……あ!」
男の引き締まった下半身が女の柔らかな尻へと何度も何度も打ち付けられる。
逞しく固く太い男のものは女の内壁を何度も往復し摩擦して襞を熱く燃え立たせ入り口に愛液を滲み出させる。
ただ突き上げるだけでなく時々ゆっくりと内部をかき回し自分のもので自在に女を翻弄する様は
かなりの手練れなのか…
男に動かれるたびに蜜を溢れさせその中心から股の間を伝わって落ちる。
女は自分を貫いている男のものへと思わず手を伸ばしその竿の後ろの陰嚢に触れた。
しばらく男は打ち付けるのをやめ掴んでいた両手を放し女のすることを黙って見ていた。
女は睾丸の膨らみを揉みその先の半ば自分の中に入っている愛液にまみれた男のものを握る。
なぜかそうしていると女の瞳に涙が滲んだ。
「気が済んだか?」
男はつながったまま今度は女の体を後ろから抱き上げて再び突き上げ始めた。
胸の下と腰のあたりを両腕で強く抱かれながらだんだん激しさを増していく男の動きに
身をゆだねながらその唇から快楽の言葉が漏れ出してくる。
「あっ……あっ…もっと……して……ああ!」
「どうして欲しい?」
抱きかかえられた女の耳元に囁く声がなぜか優しかったのを女は後々まで忘れなかった。
羞恥を覚えながらもその声に体が融けて女はかすれた声で懇願した。
「もっと……深く…」
男はその願いを聞くと女を膝の上に抱えその両脚を高く上に上げそのまま上に突き上げ始めた。
「ああ!…ああ!」
瞳を自身の体の中心にやると自分の中に往復する滑りをおびて淫猥に光る太いものが見える。
それが行き来するたびに女の中心から泉は溢れベッドのシーツを濡らし続けてゆく。
自分の願い通りに深く差し込まれた男の先端は固く凝り、女の奥を突いてそこから全身に言い難い痺れを行き渡らせる。
白い首をそらすたびに男に唇を吸われ絡み合った二人の唇から透明な糸が引く。
内壁を埋め女の襞への刺激が最大限になりつつある男根はもはや行き来するには難しい状態になってきた。
それで男は女の体を強く抱きしめてその中に留まり自分の爆発を待つ。
「あっ…ああ…はあ……」
自分の体を埋める肉の物量と意志の力ではどうしようもない内壁のぜん動に女は苦しげに喘ぐ。
その内壁が急速に縮みながら男のものを締め上げて蠢き男から忍耐の力を奪ってゆく…
女の体の中へ全ての痺れが集約したような感覚が快楽を乗せて走った。
「あは……ああ!」
女の様子を見てようやく男も溜まりに溜まった精液を女の中へ断続的に放出した。
絶頂に達した女は前のめりに倒れ男もその体の上に一緒に重なりベッドへと沈んだ。
夕刻の鐘が王都に流れていった。
しばらく名前も知らぬ同士の男と女の奇妙な交情は続いた。
女は任務中の後ろめたさもあるのだがどうしてもあの部屋へと足が向いてしまう。
乾いて仕方ない自分の仕事のせいなのか、そこにいる自分の父親よりも上だと思える男に抱かれると
身も世もなく体を嬲られてあられもなく声を上げてしまう。
しかしここ2〜3日男のやり方に変化が生じた。
全身を愛撫され秘肉を弄ばれて達するのではあるが、彼は自分の服を脱ごうともせず
女の中へ自分のものを挿入しようともしない。
そう言うやり方で自分を焦らしているのだと思うと腹立たしかったが要求するのはプライドが許さず
女はじっとこらえていたのだが…
その日も指だけで女をいかせようと男は服を脱ぐこともなく、裸の女を背後から抱きかかえ乳房と秘所をまさぐっていた。
中に指を飲み込ませ始めたところで不意に女を嬲っていた男の手の甲に何かが落ちた。
女は下をうつむき喘ぎもせず沈黙していた…その女の瞳から何粒も光るものが落ちた。
「いやか…」
男は手を引っ込めて深く溜息をついた。
「飽きたのならそう言って…私をからかっているのならもう…やめて…」
言葉に出してみるとこれほど惨めなものはないと思いながらも女は言わずにはいられなかった。
名も知らない自分の倍以上の年の男にこんな言葉をはく自分が信じられなく情けなかった。
男はゆっくりと立ち上がると女の前に立つ。
そうしてその高級そうな衣服を素早く脱いでいき年経ても見事な肉体を女の前に晒した。
「……私の物を……触ってごらん…強く…」
女は思考の働かない頭でぼんやりとしながら言うとおりその男の物を握ってみた。
以前は触れるだけでも起立し固く凝っていたそれが今はどう強く握ろうとも全く反応がない…
女は男の顔に視線を移した。
その顔は始めて会ったときと同じく暗く翳りをおびて疲れていた。
「君のやり方が悪いんではない。年のせいもあるかも知れないが…多分…回ってきたんだろうな」
男の告白に女は驚いた。
「…あなた…毒をもられているの…?」
男は黙って笑う…力なく彼のような男にはふさわしくない笑い方だった。
「なんとかなさいよ。回ってきたなんていっている場合じゃ…」
彼は顔を背け開いた窓の方向を見る…その方角は王都の中心街へと続いているはずだ。
「……誰にもられているか…知っているのね?バカじゃないの。そのまま甘んじているなんて」
女は腹が立って仕方がなかった。
行きずりのこの男になぜ自分がこれほど感情を高ぶらさねばならないのか腹立たしかった。
男が不意に笑った。
それはこの間の声と同じく女の中身を融かすような微笑みであった。
「私には息子が4人いる…君にその内の誰かの嫁に来て欲しかったな」
(4人…?)
ほぼ推測していた男の正体に対してその情報は完全に合致しなかった。
「私が?…あなたが抱いた使い古しを息子に払い下げるって言うの?…ばかみたい…ばか…」
うつむきながら呟く声を小さくしてゆく女を男はその体の中に抱きしめた。
腕の中で顔を仰向ける女の唇を塞ぎその中の舌を巻き取りながら絡め合った。
女は唇を男に預けながら細い指を男の物へと伸ばしてそれを柔らかく撫で上げる。
「無理だよ…」
「…試させて…」
そう言いながら男のその部分まで顔を持って行き、彼の物を持ち上げると自分の口の中へと侵入させた。
ゆっくりとその暖かい舌を男の物に沿って丁寧に動かす。
たとえ勃たなくても口に含むと男の独特の匂いが口に広がり鼻を刺激する。
それすら懐かしいような気持ちになり舌と蠢きと共に、その器用そうな細い指で彼の袋を緩やかに揉む。
男は自分へ懸命に奉仕する女の頭髪を撫でながら、彼女の舌の熱さに神経を集中させた。
女の舌は竿の部分から離れ中心の睾丸の部分へと移動してゆく。
先ほどとは逆に柔らかい陰嚢を口に含み、尖らせた舌でほどよく刺激を送る間にも竿の方を掴む手は
強弱をつけて握ったり撫でたりと技巧の限りを男に尽くす。
男はそんな女の様子にこの娘を抱いて悦ばせてやりたいという渇望が湧きどうしようもなくなる。
すると男の中心に力がみなぎってきて女の握る物が徐々に固くなってきた。
得たりと女がその竿の部分を再び口内へ挿入させ、更に愛技の限りを尽くすと急速に成長が始まった。
先触れが来たことが解る苦みが口内に広がってくる。
「もういい。…おいで」
女を抱き上げてベッドの上に転がせるとその両脚を開いて体を入り込ませた。
そこはすでに十分濡れて潤い男の物を待っていた。
上気して喘いでいる女の唇を塞ぎながら男はそこへ女が育ててくれた自分の男根を挿入する。
「ああ……いい…!」
待ち望んでいた物がようやく自分の中へと入り我知らず女は涙を流す。
女の体を抱きしめて男は久しぶりにゆっくりと腰を揺らし女の中へと突き上げ始めた。
自分の体にしがみつく女の首筋を舐めながら、男は自嘲気味笑いながらに呟いた。
「まったく…年甲斐もない…」
突き上げる腰の動きを次第に激しいものに変えて、女を抱えながら彼女の飢えた内壁を擦り上げる。
自分の胸板に押しつぶされていた彼女の柔らかな乳房を少し体を離して揉み始め
それから器用に腰の動きを止めずにそれを口に含んで転がし始めた。
「あっ…くっ…く…」
男に抱えられながら体を反らしその口内の動きにゆだねて苦しげに喘ぐ。
打ち付けられる男のものは女の中で張り詰めていき、その内壁を擦り上げながら蠢いていく。
女の中で苦しいぐらいに成長しつくしたそれは内壁の襞を刺激して収縮を促してきた。
それが始まりかけて女は男にきつくしがみついた。
男は女の体を抱き返して肩に顔を埋める女の頭を撫でてやった。
「本当に良い子だな…」
心臓を撫でるような優しい囁き声に溺れまいとわざと笑いながら女は強めに言った。
「…子供扱いしないで…」
そのまま男は最後の突き上げを開始すると成長しきった男根は女の内壁を強く刺激して
女の夥しい愛液がわき出るのを導く。
「はっ…はっ…ああ…ああ…ああ!」
女の喘ぎ声が次第に悲鳴のように高くなっていき男自身もそれに影響されて息を荒げていく。
女の体の奥底から電撃のような痺れが走り急激に内壁を縮まらせ男のものを締め付ける。
男は動けなくなりそのまま女の頂点を忍耐強く待つ。
「いい!…あああああ…ああ!」
体中が燃え上がるように熱くなり男を締め付けながら女は叫びと共に頂点へと登り詰めた。
男もそらした女の首を軽く噛みながらきつくその柔軟な肉体を抱きしめ女の体の中へ
熱くたぎった自身の精を激しく放った。
女の瞳から涙が盛り上がり溢れた…男はそれを吸いながら女の唇を求め
二人は激しく唇と舌を絡め合った。
服を着けて身支度を調えた男は彼の名声にふさわしい男ぶりだった。
女は裸のままそれを飽かずに見ていた。
「君は行かないのかな?日が暮れればルザリアでさえも危険だ」
「おかまいなく…私は大丈夫よ」
私のことは知っているくせにと思いながら女は快楽の後の気だるさを味わいながらその男を見ていた。
「では行く……とにかく気をつけるんだよ」
年長者独特の不思議な威厳を出してどこか父親のような言い方に彼女は寂しくなった。
「あなたこそ」
女の顔を見つめながら男は口許に笑みを浮かべて扉に手を掛けた。
「…ありがとう…」
そのままゆっくり扉を開けると背の高い体を屈めるようにして振り向きもせず男は出て行った。
女はその扉をいつまでも見続けていた。
しかし突然突き上げるものが体の中から湧き上がって彼女を窓へと走らせる。
シーツを巻き付けながら窓の下を見ると男はもはや遠く、夕刻の王都の石畳に影を長く引いて歩いていた。
しかし不意に男が振り返ってこちらの方を見た…そして手を高く上げてゆっくり振った
いや小さくなったその男の姿が本当に手を振ったのかどうかよくわからない。
だが女は確かに自分に向かって振ったと確信していた。
それを女は信じている。
それから3日後、女はあの部屋へと確認のために足を運ばせている。
そこへ行くと思った通り鍵はかかりっぱなしであった。
自分のもっている合い鍵を使ってその中へ入り開いたままの窓へと歩いていく。
風が入り教会の鐘が鳴り響いている王都の中心の方向へと目を走らせる。
「あら…入居希望者の人かね?悪いけどここはもう閉鎖するんだよ」
この前とは違う太った女性が気の毒そうに彼女に話した。
「閉鎖?この間の人とは違う方ね」
太った女性は頷きながら部屋のかたずけをし始めた。
「そう。ここはベオルブ家のバルバネス様が所有されていたものだったんだけどね…ルザリアにも立派な
お屋敷を構えて居るんだけど色々とあの方も一人になってやらなければいけないこともあったんだろうね
使いの人が来てここはもう手放すことにしたから閉鎖するって言っていたよ」
その予感は女にはしていたことだ。
始めのころは何人か入居の気配があったのだがそれもなくなり自分とあの男だけになっていたことも。
「ここは管理者を短期契約で雇っていたりしてたからくるくる変わっていたよ。もちろん私もさ」
その管理人も始め来たとき以外に会ったことは無かった。
彼と彼女のことを知るものは誰もいない。
もちろんそれは男にも女にも都合の良いことではあったのだが、女はそこに一抹の寂しささえ感じた。
「邪魔してごめんなさい」
女はそう言うとそのまま後ろを振り返りもせず部屋から出て行った。
太った管理人はそれをしばらく見つめながら呟く。
「それにしても…鍵掛けたと思っていたのに?」
五十年戦争の英雄、北天騎士団元団長バルバネス・ベオルブが病の床についたという噂がイヴァリース中を
駆けめぐったのはそれからしばらく後のことであった。
2年後、女は聖地ミュロンドで相変わらず命令者の下す任務を黙々とこなしていた。
自身はあまり信仰心の厚い方ではないので教会の中に留まっているとどこか落ち着かない。
「ご苦労だった…どうやら和平条約も終盤のようだな。…我々としてはもう少し」
「……」
その時突然割れるような鐘の音が教会中…いやミュロンド全ての教会で鳴り響いた。
命令者も、女も茫然と天井の方を見つめている。
遠くから彼らの仲間の一人が駆け寄って来た。
「何事だ、ローファル。これは?」
ローファルと呼ばれた神殿騎士の男は命令者に複雑かつ皮肉な笑いを口許に浮かべて言う。
「英雄がご逝去されました…バルバネス殿が今昇天されたようです」
命令者もそれを聞いてゆっくりとその酷薄そうな顔に笑みを浮かべる。
「ふむ…絶妙のタイミング…とはならなかったが…ラーグ公もダイスダーグも…」
女はそこへ口を挟んだ。
「わたくしはもう行ってよろしいでしょうか、ヴォルマルフ様?」
命令者ヴォルマルフ・ティンジェルは女の姿を眺めしばらく考えた。
「もういい…行け、バルマウフラ」
女――魔道士バルマウフラ・ラナンドゥは神殿騎士の長に黙って頭を下げるとそのまま長い回廊を去っていった。
その後ろ姿を見つめながらローファルは呟く。
「相変わらず愛想のない無口な女ですな」
ヴォルマルフは乾いた笑いを立てながら言う。
「おしゃべりな女はいらない。我らには丁度都合がよい女だよ」
そう言いながら未だ鳴り響き続ける鐘の音を聞きながら再び天井を見つめた。
「……まだ…血が足りない…」
バルマウフラはその歩みを次第に早いものに変えていき鐘の鳴り響く聖地を歩く。
どこへ行くか目的はない。
とにかく一人になりたかった…いやならねばならなかった。
彼女の頬に光るものが幾筋も流れていく。
これは誰にも見せられなかった…自分の仲間達にはことに。
振り払っても後から後から自分の頬を冷たいものが流れてしまう。
あまりに短いあのルザリアの部屋での日々。
バルバネスは自分の命がもういくらも残されていないことをいつ知ったのかわからない
。
残り少ない時間を自分のような暗殺者に向けてくれたことにバルマウフラは強烈に愛惜を感じた。
一人になりたい…誰もこの涙を見ることは許さない…
彼女の歩みは次第に小走りになりどこともなく駆けていった。
今だにラムザを見たと言って興奮しているオーランを黙って笑いながらバルマウフラはベオルブ家の
墓の前で静かにグレバドス教の祈りの印を切った。
それを不思議そうに眺めるオーラン・デュライに気づいてバルマウフラは聞く。
「なに?」
「…いや…申し訳ないが君はそれほど信仰心のある方じゃないと感じていたから…意外だと思ってね」
バルマウフラは小さく笑いながら墓を見つめたまま彼に言う。
「祈るのは…神の為でなくて人間の為よ。墓主の為にね」
オーランはますます意外そうに教会の元暗殺者の横顔を見ながらおもしろそうに言った。
「ほう…ここには色々な人物が眠っているが…誰の為なのかな?」
それに返事せず黙って笑いながらバルマウフラは目を閉じて祈り続けた。
オーランは何か触れてはいけないことを言ったのかと反省してそのまま彼も黙り込んだ。
(あなたの息子達の嫁にはならなかったけど少しは役に立った?)
バルバネスを“親父さん”と呼んでいた彼の“息子”の元でしばらく働いていた彼女は教会の思惑から
どんどん独立していくディリータをどうしても殺すことは出来なかった。
そうしてディリータは畏国の頂点に登り詰めて『英雄王』とまで呼ばれる人物になっている。
もうひとりのラムザは社会を混乱させた『異端者』となったのだが…
どちらの真実も知っているバルマウフラは終焉を迎えたベオルブ家の墓の人物に語りかける。
(守れなくてごめんなさい)
あたりに弔いの鐘が鳴り響き続ける。
瞳を閉じてうつむきながら祈り続けるバルマウフラと雷神シドの義子オーランはそのままいつまでも
教会の鐘の音色に聞き入っていた。
ルザリアにあったあの集合住宅は獅子戦争の戦役の混乱の中暴徒と化した元兵士達が
火を放ち一昼夜燃え続けて全て灰燼となって消え去った。
そこにいた名も知らぬ男と女のことなど誰の記憶にも残らず
歴史の片隅に埋もれていった。
Fin