『八号はしもべ』


異端者ラムザ・ベオルブ率いる戦士達の数はいつしか二十人近くに増え、街に立ち寄った時など
複数の宿に分かれて泊まる事が多くなってきた。
 隊の中でも今や古株となったアグリアス・オークスは二人の部下――――アリシアとラヴィアンの三人で投宿する事が多かったが、
最近新たに同じ宿に泊まるメンバーが増えた。機工都市ゴーグで発掘された鉄巨人、労働八号だ。

 「ムスタディオ、八号の整備は終わったか?」
 アグリアスらとは別の古びた木賃宿の軒下で、八号の左腕に工具をあてがっていたムスタディオが振り返る。
 「え? ああ、アグリアスさんか。ちょうど今終わったとこ」
 「そうか。なら、また借りていく。問題無いな?」
 「そりゃあいいけど…… 一体何を話しているんだ?」
 「まあ色々と、な……八号はなかなか博識だ。はるか昔のイヴァリースの歴史や生活など、聞いていて感心する」
 「ふうん……まあ楽しいんならそれでいいけど、最近みんなが心配してるぜ。
  アグリアスさんがみんなと酒を飲まなくなって八号ばかりかまっている、って」
 「分かっている。でも今は……部屋で静かに八号の話を聞いている方が落ち着くんだ」
 「ま、とにかくたまには飲みの席にも顔を出してくれよ。たまにでいいから」
 「ああ…… さ、八号。私の部屋へ行こう」
 「ハイ。アグリアスサマ」

 ムスタディオはアグリアスについて少し離れた宿の二階へと続く外付けの階段をミシミシと軋ませながら上っていく
八号を見て肩を落とした。ああ、俺なんかアグリアスの中じゃ八号よりもランク低いのかな。
 ひとつ大きくため息をついてムスタディオは床に座り込んで整備ノートにペンを走らせ始めた。
が、数行書いたところでノートを放り出して自分に割り当てられた部屋に向かった。
書けない、とてもじゃないが書けやしない。こんな時はさっさと寝てしまうに限る。寝よう。


 八号の巨体が部屋の中に入りきったところでアグリアスはそっとドアを閉めた。
部屋の真ん中で所在なげに突っ立っている八号にベッドの脇へ行く様に言いながらドアに鍵をかけたのを確認すると、
アグリアスは脳裏を走り抜ける悦楽の予感に身震いし、いつもの凛とした女騎士の顔を艶のある微笑みの形に溶かした。
 今日はどんな風にしようか。そう、試してみたい事もあったんだ…… アグリアスは胸の昂りを抑えられない。
欲しくてたまらなかった玩具を手に入れた子供の様に。

 深い紺色に染められた近衛騎士の制服をサラリと脱ぎ捨て、ところどころにレースをあしらわれた桜色の下着姿を晒して
ベッドに腰掛けたアグリアスは子供の腕ほどもある八号の太い指をつかみ、自分の方に引き寄せて言った。
 「……いつもみたいに」
 「ハイ。アグリアスサマ」
 すると八号の指がブーンという音を立てて振動し始めた。
アグリアスはブレてぼやけるほどに細かく早く震えるその指を、ゆっくりと下着越しの大事な部分へ導く。
 「んっ……!」じんじんする。じんじんして、気持ちいい。震動はそのまま快楽の粒となって染み入ってくる。
甘やかな電流が脳を巡り、目を閉じたアグリアスは穏やかで安らかな笑みを浮かべた。
微塵の不安も感じさせない、喜びに溢れたあどけない子供の様な笑顔。そこにはただ悦びだけがあった。
 「触れるか触れないか……分かる? そう、そう、いい……」
 アグリアスが手を添えた八号の指が秘唇の周りを撫ぜ、時折りその中心にもかすかに触れる様にして動いた。
その度にアグリアスはビクリと肢体を震わせる。濡れた唇から小さく儚げな吐息が漏れる。
 しばらくすると、八号の指は今まで遠慮がちに触れていただけの中心に居座る様になった。
グイと押し付ける動きをしたかと思うと、下着越しの花弁をなぞるかの様に細い楕円を描いたり。それは執拗に続けられた。
徐々に指が上の方、アグリアスの最も感じる部分にじわじわと近づいてきた時、恍惚のアグリアスがその動きを制した。
 「待って。今日はそこはまだいい」
 「ハイ。アグリアスサマ。デハ、イカガイタシマショウ?」
 「もう片方の手を出して。今日は違うところを触るの」
 八号は言われるままアグリアスに、その欲望に従う。もっとも機械に人の欲望など分かる筈も無く、良かれとただ主に尽くすのみ。
熱く痺れ始めている思考でアグリアスは順序を決める。最初はここだけを。まずはここの快感だけを味わい、知りたい。
それが良かったら次はあそこと同時に。そんな事をしたら一体どんな快楽に襲われてしまうのだろう。声が出てしまったらどうしよう。
生死の狭間を駆け抜ける日々のせめてもの慰みというには余りにもこれは過ぎている。でももう止められない。止める気も無い。
もしこの秘密が人に知られようものなら、と考えはするもののその先を想像するのが恐ろしくて
アグリアスの思考はいつもそこで止まってしまう。頭を強く振り、今ここにある現実の快感に身を委ねる。


アグリアスはおもむろに腰を浮かせると穿いていた下着を脱ぎ捨てた。床に落ちた下着のあて布の部分には小さくシミが出来ていた。
壁に頭をもたせかける様にしてベッドに寝転び、両足をMの字に開いたアグリアスは無防備な秘所と菊座を八号に見せつける。
わずかに口を開き始めてヌラリと光る紅色の秘唇からじわりと垂れた薄白い蜜は今まさに菊座に達しようとしていた。
 「この小さい方の穴に触って。そっと、そっとよ」


 事の始まりは八号の故障だった。ある日突然、八号の手足が細かく震動を始めたのだ。
動作には何ら支障は無い様だったが、もし重大なこれがトラブルで爆発でもされたら事だと早速ムスタディオが分解し、点検した。
そこで判明したのは振動バランサーのスイッチの故障だった。
 アグリアスにはさして興味も無かった事もあってその意味は詳しくは分かりかねたが、要は元々震動が発生する様に出来ている
八号の内部にはその震動を相殺して打ち消す機構が備わっており、その部分が不調をきたしたという事だった。
修理には時間がかかるとかで、結局八号はそれからしばらくの間、常にブーンという震動音を発しながら過ごしていた。

 そんなある日の事。道中とある森で野営した翌日の早朝、用足しする為に皆の天幕から離れた茂みまで出て来たアグリアスは
大きく形良く張った白い尻をあらわにして茂みの影にしゃがみこんだ。
(この豊満で美しいラインを描く尻は隊の若い男共にとって格好の視姦の対象になっているのだが、アグリアス自身はその事を知る由も無い)
 白い朝もやの中で天気を気にしてふと上を見上げた時、背の高い茂みの上の方に子供のこぶしほどの大きさの赤い果実の様なものが
生っているのが目に入った。ざくろだ。茂みに見えたのは数本の葉の多いざくろの木だった。よく見るとかなりたくさん生っている。

 小用を済ませながらこれは良いものを見つけたと、その場で幾らかをもいで持ち帰ろうと思ったまではいいが、実のなっている枝は
アグリアスの身長よりもだいぶ高い位置にあり、枝はおろか幹も細い木ばかりだったのでとても登って採れそうな物ではなかった。
人に手伝ってもらおうかとも考えはしたが早朝の事とて皆まだ眠っているし、自分が用足ししたばかりの場所に人を呼ぶのは憚られる。
槍でもあれば届いただろうが、あいにく今の隊の備品に確か槍は無かった。射落とそうにもアグリアスは弓は不得手だし、剣では届かない。
木を切り倒そうかとも思ったが、以前にも野営に使った森だったのでいずれまた来ないとも限らない。その時の楽しみを自ら失くすのもつまらない。
 何か良い方法は……そうだ、労働八号。あれを足場にすれば高いところの実でも採る事が出来る。
それに機械相手なら用足しをしたばかりの場所に連れて来ても平気だ。第一機械は眠らない。八号が来てからというもの、
不寝番を任せられる様になって隊の皆の負担は格段に減ったのだ。今も森の入り口で藪に隠れて見張りをしているだろうが、
もうしばらくすれば皆起き出して来る時間ではあるし、少しばかり駆り出してもどうという事は無いだろう。


 「八号、見張りご苦労様。手伝って欲しい事がある。見張りはもういいから」
 森の入り口近くの藪に向かってアグリアスが声をかけると、少し間をおいて返事が返って来た。
 「ハイ。アグリアスサマ。ナンナリト」
 藪をかき分けて八号がガサガサと音を立てて姿を現す。朝露が鋼鉄の身体をしっとりと濡らしており、八号の鋼鉄の身体のあちこちに
木の葉や蔦が張り付いていた。労いの意味を込めてアグリアスはそれらを払ってやった。

 ほどなくしてアグリアスは八号を伴ってざくろの木の下まで戻って来た。完全な日の出が近い。さっきより明るくなって来ていて視界がいい。
 「このざくろを採りたいんだが、届かない。はしご代わりになってお前の上に私を乗せてくれないか」
 「カシコマリマシタ。ドウゾ」
 八号は片膝をつくとアグリアスが足をかけやすい様に両手を差し出した。いつも思うのだが、なんて従順なのだろう。
主と認識した者達の命に逆らう事など、教えられていないのだろう。聖アジョラが生きていた時代の機械仕掛けの人間……
 ぼんやりとそんな事を考えながらアグリアスが八号の大きな両手に足をかけたその時、つるりと足が滑り、前のめりに倒れそうになった。
 「!」
 「アグリアスサマ!」
 八号が咄嗟に大きく体勢の崩れたアグリアスを下から両手で、出来るだけそっと包み込む様にして支えた。八号の両手に女の重みがかかる。
 「あッ!? やっ!!」
 普段のアグリアスを知る者達からすれば信じられない様な可愛らしい悲鳴を上げて、アグリアスは八号の胸に寄りかかった。
そしてそのまましがみついて動かない。八号がそっとアグリアスを抱き起こそうとすると大きく跳ねる様にビクリと肩を震わせた。
 「……アグリアスサマ、ダイジョウブデスカ?」
 「う、動かないでッ!」
 アグリアスは混乱していた。未知の快感が下半身を痺れさせている。動きたくても身体が言う事を聞いてくれない。
お堅いアグリアスとて性の経験が全く無いではない。士官候補生の頃と、近衛騎士団に配属された時には付き合っていた男がいた。
二人ともそれぞれ卒業、配置換えでそのまま別れてしまって以来、男はご無沙汰だがそれでも男の感触を忘れた訳では無い。
しかし、今アグリアスの柔らかな肉の門に伝わるこの快感は一体何なのか全く見当がつかない。怖くて確かめられない。
 それでもなんとか少しずつ冷静になって、そっと視線を動かして自分の身体を見渡してみると八号の大きな鋼鉄の掌が
自分の尻を包み込んでいるのが目に入った。そして指のひとつが股の間に入り込んでいるのが分かった。
太い指はブーンとくもぐった音を出して震動し、アグリアスの股間を守るかのに覆っていた。この指の震動が……?
 好奇心だけだったとは思わない。それよりももっと積極的な、それでいて罪悪感を伴った何かにそっと背を押されて
アグリアスは少しだけ自分から腰を動かしてこの不思議な快感を確かめようとした。


確認はすぐに終わり、それは堪能にとって代わられた。


モヤモヤとした不安と解放感の入り交じった何とも言えない緊張を味わいながら震動を吸い尽くす様にして軽い絶頂を得たところで
遠くから自分と八号を呼ぶ仲間達の声がして我にかえり、アグリアスは慌てて立ち上がって八号に言った。
 「八号、今の出来事は皆には内緒だぞ。絶対に!」
 「ハイ。アグリアスサマ。ケサ ココデオキタコトハ ダレニモイイマセン」


 それ以来、アグリアスは何かにつけて八号と二人きりになれる時間を作っては秘密の遊戯を繰り返す様になった。
アグリアスはムスタディオが八号の指の震動を直してしまう事を恐れたが、八号が随意的にバランサーを解除する事が出来るのを知って
心底安堵した。勿論、生身の男のぬくもりと芯のある固さには敵わないが、八号の震動はこの世で八号のみが与えてくれる快楽だ。
今はただそれを享受したい。気の済むまで味わいたい。それに従順で知性ある機械の八号は何でも自分の言う通りにしてくれる。
だからアグリアスは自分をさらけ出せる。男相手なら口に出せない様な事を言える。自分でも驚くほど率直で淫らな頼み事が出来る。

 悪い事はしていない。悪い事は――――


 八号の震える指を尻の穴に触れられただけで、媚薬交じりのひんやりした水が染み入る様な快楽が背筋を駆け上る。
細やかな震動がむず痒さにも似た狂おしい気持ちよさをもたらし、アグリアスの形良い眉を歪め、白い肌を桜色に染める。
以前、偶然に尻の穴に触れられた時の事を思い出しながらアグリアスは満たされてゆく。やっぱりここだって気持ちいい……
 「こっちも触って、早く!」
 八号の返事を待たずに空いていたもう片方の手の指を掴んで半分ほど花開いた柔らかな肉の園にもっていき、入り口を撫でさせた。
少し種類の違う快感がそれぞれ同時にアグリアスの脳を蕩かす。こんな気持ちいい事、イヴァリース中でも私しか知らないだろう。
八号には限界が無い。私の好きなだけ、この気持ちいい事を続けてくれる。恥かしい所も、汚い所も関係無く。
 声が出そうになるのをこらえてアグリアスは自分の指を噛んだ。血が滲むのも構わず、はしたない自分への罰であるかの様に噛んだ。
それでも、押し殺した泣き声にも似た甘い声が切なそうな吐息と共に漏れてくる。それがアグリアス自身をいっそう昂らせる。
 いつしか尻穴がぬるぬるしてきていた。秘奥を潤し溢れた蜜が尻穴と八号の指にまで行き渡っているのだ。
 「八号」
 「ハイ。アグリアスサマ」
 「……お尻の穴にも指をほんの少しだけ入れて。ほんの少しだけよ。いいって言う所まで入れたら、そのまま動かさないで」
 「ハイ。カシコマリマシタ」
 「もう片方の指は……ゆっくり奥まで入れて。それで動かして。 ……いつもみたいに」


 連日の強行軍でみんな疲労が溜まっていたのか、珍しい事にその晩は夕食をとり終えた者から早々と
各々に割り当てられた宿に引っ込んでいた。
今回選んだ宿もそうだが、大抵の宿は一階が酒場になっているので夕食後はそこでささやかな酒宴を催すのが通例だ。
大きな酒場であれば一行が全員集まって賑やかに酒を酌み交わす事もある。
 しかし、この日の夕食後だいぶ経ってからも一階のこじんまりとしたバーカウンターで肘をついているのは
アグリアスの忠実なる部下にして戦友であるアリシアとラヴィアンの二人だけだった。
もちろん彼女達とて疲れてはいたのだが、この二人にはどうにも気になって眠れない理由があったのだ。

 「ねえラヴィアン、最近のアグリアス様っておかしいと思わない? 以前は八号なんて大して気にもとめてなかったのに」
 退屈そうに頬杖をついたアリシアが、空になったグラスを手の中で転がしながら周囲には聞こえない位の小さな声で呟く。
 「そうね……。それは私もちょっと感じてた事なんだけど」
 アリシアの隣で安物のワインを舐めていたラヴィアンもまた、小声でそう返すとグラスを置いた。
 「私、思うのよ。あの方って何か辛い悩み事があったりしても人にそういう弱みを見せる様な人じゃないでしょう。
  八号の話を聞くのが面白いからっておっしゃってたけど、本当はそれだけじゃなくって
  もしかしたら八号の前で辛かった事や何かをこぼして、涙なさっているんじゃないかなって。機械は黙って何でも聞いてくれるもの」
 「……もしそうだとしたら、私、悲しいわ。他の人達ならともかく、せめて私達には言って欲しいよね」
 「悩み事があっての事かどうかは分からないけど、気になるでしょう? ね、ラヴィアン。今からちょっと様子を見に行ってみない?」
 「様子を見に、って…… それはそれで失礼じゃない。もう夜も遅いし、お休みになっているかも知れないわ」
 割とお調子者でその場のノリで行動してしまう所のあるアリシアと違って、ラヴィアンは少し固くて融通の利かない面がある。
 「もう! だから、部屋の前に行ってちょっと聞き耳を立てるだけよ。もしすすり泣きの一つでも聞こえてきたなら、
  その時は私達でアグリアス様を慰めてさしあげなくっちゃ。機械は一緒に泣いてくれないわ」


   宿の二階、廊下を挟んで左右に並ぶドアの一つ。
燭台を手にその前まで忍び足で歩いて来たアリシアとラヴィアンは、あらかじめ用意してきた紙筒の端をドアにそっとあてがうと
もう一方の端に耳をつけた。
 二人は意識を紙筒に集中し、いびきや歯軋りといった周囲からのあらゆる雑音を含んだ中からドアを隔てた向こうの空間の音だけを拾い上げる。
 ややあって二人は声を押し殺しているかの様な微かなアグリアスのすすり泣きと、ブーンという八号の唸る様な作動音を確かに聞き取った。
八号に辛い胸の内を打ち明けて泣きながらも周囲に漏らすまいと枕に顔を埋めて嗚咽するアグリアス。
その姿を想像して二人は胸を締め付けられ、切ない痛みを覚えた。


(やっぱり私の思った通りだわ。ラヴィアン、こんな時こそ私達がアグリアス様を慰めてあげないと)
 (でも鍵がかかってるし……また明日でもいいんじゃない)
 (バカね! あの方はこうして泣いている事を隠しているんだから現場を押さえて直に言わないと。
  お叱りを受けるのは覚悟の上よ。それでもいいの。機械にしか悩みや泣き事を言えないなんてあんまりじゃない!
  それに鍵なんてシーフをマスターした私の前ではそんな物、無いも同然よ)
 言うが早いかアリシアはポーチの中から幾つかのピンを取り出して何やら鍵穴を触り始めた。
 (アリシア……最初からそのつもりで……)
 真剣な眼差しで鍵穴と格闘すること五分、鍵穴の奥から金属同士が擦れ合う小さな音と手応え。アリシアは開錠に成功した。


    (いい? そうっと、そっとよ、ラヴィアン。アグリアス様を出来るだけビックリさせない様に)
 極力音を立てない様、慎重にゆっくりと少しだけ開けられたドアからそっと顔を出したアリシアとラヴィアンの目が
次第に暗闇に慣れてきた時、二人は固まってしまった。
アリシアが後ろ手に持っていた燭台がその手から滑り落ち、ガランと派手な音を立てて堅い木の床に転がる。
傍らのラヴィアンが慌ててそれを拾い上げてかざすと
薄闇の中、全裸で何か大きなものにしがみつき手足を絡めてのけぞるアグリアスの痴態が照らし出された。
 突然の闖入者にアグリアスは唖然とした。確かに鍵は掛けた筈なのに、何故!? 一体――――
 「見……見るなッ! 見ないでッ」
 しかし二人の部下は金縛りにかかっているかの様に動けないでいる。そして、見ている。
薄暗い小部屋の中でなお白さの際立つムッチリとした太ももとその付け根、女の深奥で淫靡な水音を立てて出入りするものを。
二人の視線がそこからぎこちなくアグリアスがまたがっている大きな影の方に移動し、それが八号である事を、
そしてアグリアスに出入りしているのが八号の太く無骨な指である事を理解するまでさほど時間はかからなかった。
 「い、いや…… アグリアス様……」
 アリシアが抑えた口元から掠れた声で呟く。一方のラヴィアンはいつの間にか両手で燭台を握り締めていた。
ラヴィアンは声ひとつ立てはしなかったものの、その動揺はガクガクと揺れる蝋燭の灯に如実に表われている。
二人の部下からの拒絶、軽蔑、そしてあからさまに猥雑な好奇心のこもった視線を浴びてアグリアスは唇を噛む程に羞恥したが、
その間にも忠実な鋼鉄の僕は休む事無く黒光りする太い指先をアグリアスの蜜に溢れた秘肉に挿し入れては内側の襞を擦り上げ、
そして絡みつく秘唇から逃げ出そうとするかの様に抜き出し、震えながらそれをひたすらに繰り返す。
現実感の無い暗い夢を見ている様な空間にじっとりとかぶさる沈黙の中、ヌチャヌチャという淫らそのものな水音が止まらない。
 今この生暖かく熱気を帯びた小さな部屋を支配するその音に圧倒され、アリシアもラヴィアンも声ひとつ立てられないでいる。

 終わった。私は、もう……

 これから自分はどうなってしまうのだろう。この二人の口に戸を立てる事など出来はしない。
この事を皆に知れらたら蔑まれ、好奇の目で見られ、事によっては隊の男達の性欲の捌け口にされてしまうかも知れない。
それらの不安と恐怖と後悔に続いて、プツリと糸が切れた様な解放感。もう皆の前で気丈な女騎士として振舞う必要は無い。
快楽の為に偽の命を吹き込まれた鉄の人形にしがみついた女もまた、偽りなくアグリアス・オークスの真実なのだから。

 ……もうどうでもいい。もう何も考えたくない。いっそ全てさらけ出して最後まで――――
 「……八号ッ、もっと……もっと早くしてッ!」