出奔して二年目の冬、宝瓶の月のとある晩に僕は熱を出して寝込んでしまった。隊を預かる自分が床に伏すなどあってはならない事だが、
折り悪く当時イヴァリース全土を吹き抜けたザランダ風邪に罹ってしまったのだ。
しばらくの間、ザーギドスの宿に長逗留して療養する事になり、僕は皆に申し訳ない気持ちと焦りでいっぱいになっていた。
皆は気をつかってか“たまにはのんびりしなければいけない”とか、“こういう時くらいは素直に周りに甘えてみるもんだ”とか
言ってくれるけど、正直気休めにしかならない。こうしている間にも戦況は悪化し、アルマは……
皆、いつもより優しく振舞ってくれる。それがかえって少し心苦しい。とにかく早く身体を治さなければ。
しかし、逸る心と裏腹に身体は重く、頭は熱を帯びてボウっとしていた。ザランダ風邪は咳こそ出ないものの、
ひたすら熱に苦しめられる病だと聞いていた。
代わる代わる隊の皆が見舞い、看病に訪れる。風邪を移してはマズイと僕は遠慮するのだが、誰そんな事には構わない。
嬉しい様な、むしろ後ろめたささえ感じてしまう様な、そんな数日が過ぎた頃、なかなか熱がひかない僕に誰かがどこかから医者を呼んで来てくれた。
医者は診察の際、顔を雲らせて幾つかの解熱剤を処方してくれたが、正直なところ、ザランダ風邪には決定的な薬が無いと言って場を辞した。
仲間たちの顔にあからさまな落胆が看て取れる。あるいは僕も同じ表情だったかも知れない。
その日、暗くなってからアリシアとラヴィアンが食事を持って氷嚢を取替えに来てくれた。しかし、食事には殆ど手を付けられなかった。
食べられる分だけでいいですよ、とどちらかが言ってくれたのを覚えている。この頃は熱がピークに達しており、記憶が曖昧だ。
だからそれから翌朝までの記憶が実際にあった事なのか、自分の願望や妄想であったのかは定かでは無い。ただ記憶だけがおぼろげに残っている。
夜半を過ぎた頃だったと思う。ずっと寝込んでいて昼夜の感覚が余り無かった僕にも、辺りの静けさと暗さでそれくらいの見当がつくくらいの時刻。
誰かが部屋に入って来た。僕の様子を見に来てくれたのかも知れない。額にひんやりとした掌を当てられ、続いて額を寄せられる。
「ラムザ……寝てるな」
それは女性の呟く声だったし、確かにあの人の声だった。
でもそれから起こった事を考えると、あの人がまさかそんな、と今でもそう思わずにはいられない。
急に下半身が涼しくなった。汗で濡れて肌に張り付いた寝巻きを脱がされたのだ。僕はされるがままになっていた。
尿瓶に尿でもとってくれるというのか。しかし、トイレくらいはまだ自力で行けている。そこまでしてもらわなくても。
ぼんやりとそう思った時、顕にされて力なくクテッと股に下がる僕のモノに生暖かく柔らかい感触が這った。
熱のせいで目を開けて声をかける力が出ない。朦朧としながら温かな舌の動きに喘ぐ。快感のせいで頭はますます熱を帯びてきた。
声が漏れる。気持ちいい。
舌の動きはねちこさを増し、口全体に僕のモノが吸い込まれていく。気持ちいい、気持ちよくて、もう出てしまいそうだと何度も思った。
結局、玉を撫で揉まれながら亀頭を吸われるという複合技の前に、僕は果ててしまった。快感の奔流が亀頭から放たれていく。
放ってからも暫くの間、じゅうじゅうと亀頭を吸われて、残滓も全て搾り取られたところで亀頭にひんやりとした風が当たった。
口が離れていったのだ。急に寂しさをおぼえる僕に構わず、その人は寝巻きを元通りにして部屋を出て行った。
何だか精液と一緒に体の力をも放出してしまった様な感じがして、今の出来事が夢か現かよく分からないままに意識が遠のいていった。
翌朝、熱は下がっていた。最も熱いところから熱を抜かれたおかげ? まさか。
あれ以来、アグリアスさんの顔をまともに見る事が出来ない。確信が無いので怖くてあの夜の事も聞けない。向こうは今までと変わらない風に
接してくれるのだが、時々どこかこう、からかう様な眼差しを浮かべている様な時があるのは僕の気のせいだろうか。
熱冷ましにヌイてやるという名目で大人のイタズラをしてやった、みたいな征服感や勝利感を滲ませた笑みがその端正な口元に浮かんでいる様に
思えてならないのは僕の錯覚だろうか。
僕とアグリアスさんはそういう関係を持った事は無かったし、あれからそういう関係になった事も無い。だから尚の事僕は悩んでいる。
あれが本当にあった事なのかどうか。
本当だったとしたら、何故あんな事を? と聞きたいが、僕は未だに聞けないでいる。