ルザリアで異端宣告を受けた日の夜、郊外の野営地に張った天幕の一つでラムザは頭を抱えていた。
そんなラムザに仲間達もかける言葉が見つからず、ただ彼をそっとしておいてやる位しか出来なかった。
 自分だけならともかく妹を、アルマを巻き込んでしまった事が悔やまれてならない。
予想もしていなかった事が起こったとはいえ、アルマをもベオルブ家に戻れなくしてしまったのは自分の責任だ。
どうしてこんな事になってしまったのか。腰掛けた簡易ベッドがラムザの苦悩を煽る様に物悲しい音を立てて軋んだ。
 あの後、兄の苦悩と心配を知ってか知らずか、当のアルマは何故か妙に楽しげにさえ見えた。
兄に心配をかけさせまいと明るく振舞っているのか、それとも生まれて初めての野営にはしゃいでいるのか。
 とにかく、こうなってしまった事はもう仕方が無い。幸い、今の自分には妹の面倒を見るくらいの余裕はある。
今は自分が正しいと思った事をするだけだ。正しい事を……
 「兄さん、起きてる?」
 天幕の入り口に影が差した。続いてアルマの無邪気な笑顔が覗く。
 「あ、ああ。アルマこそこんな遅くまで起きてたのか。僕らは朝早い事が多いんだ。明日も早いんだぞ。」
 「うん……でもね、兄さんとお話がしたかったの。ねえ、ちょっと耳を貸して」
 「?」
 これからの先行きやら何やらの不安を口にすると思いきや、明るい表情で耳に口を寄せての内緒話。 
相変わらずこういう所が本当に子供っぽい。幾つになっても、やはり妹は可愛い。
 顔を近づけたアルマの吐息が心地よく耳をくすぐる。頬を緩めて目を閉じ、アルマの言葉を待つ。
……が、アルマは時折りクスクスと忍び笑いを洩らしながら、小声で何事かをムニャムニャと呟くばかりだった。
 「えっ、アルマ? 何だって?」
 「…… ……とどめおけ、ドンムブ!」
 突然、金縛りにでもかかった様にラムザの足が動かなくなった。
 「えッ!? あれっ??」
 戸惑う兄の耳たぶに妹の唇が触れる。ラムザは思わずビクリと身体を震わせてしまった。
 「ふふ、成功ね」
 今まで聞いた事も無い声色のアルマの囁きに、ラムザは耳に蜜を流し込まれた様な錯覚を覚えた。


 「アルマ!? 一体どういうつもりなんだ!」
 「昔の続きをするの」
 「続き? 一体何を言ってるんだ」
 「……“ごっこ”よ」
 「ご、ごっこ?」
 「兄さんは忘れてしまったのね。あの部屋で私をあんなにいっぱい触ったくせに……」
 赤く染まった頬に両手を当てて俯くアルマを見て、不意にラムザの脳裏に切れ切れの映像が浮かび上がった。
 小さな城の如き広大なベオルブ家の屋敷の片隅にあって昼なお暗く、物置きにすら使われていない忘れられた小部屋。
ひんやりとした部屋の空気と冷たい石の床、天窓から差し込む白昼の日差し。その下でくねるしなやかな肢体。
儚げな少女の、口元の微笑。背徳に裏打ちされた高揚。柔らかな白い肌の温かみ、そして……
 「あッ……!」
 「やっと思い出してくれたのね。兄さんたら酷いわ。私はずっと覚えていたのに」


 物心ついた時からラムザは毎年楽しみにしていた事があった。
毎年夏になると数日間だけ修道院に預けられている妹が“戻って”来るのだ。
歳の離れた上の二人の兄達は忙しさもあって、この末妹と接する時間が少なかったが、
ラムザは栗色の髪をした妹をいたく可愛がり、アルマもまた兄の側を離れなかった。
周囲の大人達はそんな二人を微笑ましく見守っていた。なんて仲の良い兄妹なのだろうと。
 しかし、実のところ二人の中には兄と妹という感覚はあまり無かった。せいぜい従兄妹か、親戚くらいの気持ちでいたのだ。
二人は限られた数日を始まりから終わりまで強く惜しみながら過ごし、それ故に時としてむしろ一日一日を急いている風でさえあった。
野に出ては魚釣りや山ブドウ採りをし、街に出ては妹の為に小遣いをはたいて菓子や髪飾りを買い与え、
そして屋敷に戻ってはラムザでさえ未だ立ち入ったことの無い隠し通路や幾つもの小部屋を“探検”した。


 そんな楽しかりし日々が矢の様に過ぎ、妹が再びラムザの知らない遠い場所へ“帰って”行くのを見送る度に
ラムザの胸にはいつもポッカリと大きな穴が開いた。アルマもまた同じであったに違いない。


   それが二人にとって何度目の夏だったか、はっきりしていない。アルマが12歳の時の出来事だったのだけは確かだ。
 明日にはアルマが修道院へ帰るという日の昼下がり、二人は屋敷の最後の“探検”に赴いた。
この年になると殆どの隠し通路や小部屋は“探検”され尽くしており、とうとう未踏の小部屋を一つ残すまでになっていた。
 二人は奇妙な感慨をもって屋敷の隅にある古びた小部屋の扉に手をかけた。
これで数年に亘る“探検”の終わりが来る。もう来年の夏から二人が“探検”をする事は無くなってしまう。
少年時代の終わりという感覚がおぼろげながらも二人の中に生まれ、兄妹の胸はチクリと痛んだ。
 小部屋の中はあっけないほど何も無かった。屋外の暑さとは裏腹な、地下室の様にひんやりとした空気が肌に染み入る。
暗い小部屋の中央には白い光の柱が立っていた。天窓から日差しが差し込んでいるのだ。
しかし、それはむしろ冷たい部屋の空気をより際立たせており、光自体に冷たさすら感じられる様だった。
兄妹は後ろ手に扉を閉めると、二人してゆっくりと天窓の形に四角く切り取られた光の中に入っていった。
見た目の印象とは違い、光はこの部屋の空気に冷やされて力を失いながらもほのかな暖かみをもって二人に降り注いだ。
 アルマは座り込むと、そのまま床に寝転んだ。
 「アルマ、汚れるよ」
 「ううん、この部屋、何も無い分だけ埃も殆ど積もってないわ。誰かが片付けて徹底的にお掃除したのに、忘れられちゃったのかしら」
 ややあってラムザもアルマの隣に寝転んだ。二人して天窓の向こうの眩しい青空を眺めている格好だ。心地よい静けさが二人を包み込む。
 どちらが先に言い出したのか、その辺りの記憶は曖昧で本当に分からない。何がきっかけだったのかも分からない。
 ただ、少しの緊張をはらみながらもそれはごく自然に始まった。本能が二人の好奇心の背をそっと押したのだ。


   アルマは“身体を診て欲しい患者さん”、ラムザは“調べてあげるお医者さん”となり、密室での“診察”が始まった。
 脱ぎ捨てられた服の上に横たわるアルマ。白い肌が白昼の日差しの中に溶け込んで霞む。
平らな胸にちょこんと乗った乳首の大きさが妙に艶かしく、ラムザは思わず目を逸らしてしまった。


 「兄さん照れてるの? かわいい。でもちゃんと見てくれなきゃイヤ」
 アルマは兄の手を取り、下腹部へと導いて触れさせた。この時点で既に医者と患者という建前はどこかへ吹き飛んでいる。
結局のところ、これは“診察”ではなく来たるべく日に備えての“調査”なのだ。
 「ほらココとかも。最近ね、毛が生えてきたの」
 アルマの傍らに屈み込み、喰い入る様にその下腹部の小さな茂みを見つめるラムザ。指が茂みの下のクレバスへと這ってゆく。
くすぐったそうにクスクス笑って身をくねらせるアルマのクレバスを、ラムザは夢中で撫でさすった。
 「中もちゃんと見て」
 そう言うとアルマは自らの手でクレバスを左右に開いてみせた。赤い秘肉が生々しくてらてらと光っている。
 「うわぁ……すごい、こんなに広がるんだ……」
 アルマの方もまた、兄の様子を興味津々で観察していた。
 頬を紅く染めて息を荒げる兄の股間の布地が盛り上がっているのを見たアルマは率直に聞いた。
 「兄さんのも見ていい?」
 「え? う、うん。ちょっと待って」
 いそいそとラムザが腰のベルトに手をかけたその時、
 「ラムザ様、アルマ様! 何をなさっているのですか!」
 使用人の老婦人が開け放たれた扉の前で仁王立ちしていた。アルマはお医者さんごっこをしてただけよ、と事も無げに返したが
老婦人はベオルブ家の子女でありながらなんてはしたない事を! と叱りながら無理矢理アルマに服を着せていった。
二人は老婦人にみっちり説教され、罰として昼食抜きを言い渡されてしまった。
 「この事は私の胸の中に仕舞っておきます。誰にも言う気はありません。
でも、絶対に二度とこんな事をしてはいけませんよ。貴方達は誇り高きベオルブ家の一員なのですから」
 仲が良過ぎるのも考え物だわ、と老婦人はため息をついた。


   それ以来“探検”が終わってしまった事もあって二人が“ごっこ”をする機会はなんとなく失われてしまい、
また歳を重ねていく程にお互い言い出し難くなり、少なくともラムザの方は士官アカデミーの準備で忙しくなった事も手伝って
この事は記憶の片隅に埋もれていったのだが、アルマの中では灰の中の熾の様に消える事無くずっと残っていたのだ。


   「あの時、兄さんのを見られなかったから……こんな機会を待ってたのよ。今ならベオルブだのなんだの、関係無いものね」


 アルマは嬉しそうにラムザの股間の前に座り込むと、ラムザのズボンを脱がしにかかった。白く小さな手が懸命に“それ”を目指して動く。
動かない足を広げられ、ラムザはなすがままだった。思考が千々に乱れて何も言えない。アルマ……と呟くのが精一杯だった。
前をはだけられてラムザのものが完全に晒されると、わぁ……とアルマが驚嘆とも感心ともつかない声をあげた。
 ここへ来てラムザの奥で何かが蠢き、アルマの視線を浴びているものに血流を送り込み始めた。
眼前で“それ”が次第にムクムクと起き上がるのをまじまじと見て、アルマは思わず声を漏らした。
 「すごい……オチンチンってすごい……」
 アルマの言葉にラムザは激しい興奮を覚えた。アルマが、このかわいらしい口で“オチンチン”なんて!
 兄妹として大きく間違った行為をしているのは重々自覚しているのだが、もう止められないし、止めたくない。
まだ一線を越えたわけではない。これはあくまでも“ごっこ”なのだ。しかし……
 「ね、兄さん触っていい?」
 いいも何も、その言葉と同時にアルマの手は屹立したものにそっと触れていた。指先でつつき、撫で、握る。
 「わっ、堅い。すごぉい」
 「あッ、アルマ、そんなに強く握っちゃダメだよ」
 「兄さん、今タマタマがヒクッて動いたわ! 男の人って不思議ね。タマタマ、コロコロしててかわいい〜」
 「女の人もじゅうぶん不思議だと思うけど……ひうッ」
 アルマがおもむろに玉を転がして遊び始めた。華奢な手の平で袋の中の玉が弾む。
 「くすぐったいよ、それはやめてくれよ」
 「じゃあ、こうする」
 そう言うが早いか、アルマは片方の玉を口に含むと舌で撫ぜながら吸い付いた。
よほど玉いじりが気に入ったのか、目を閉じてうっとりとした表情を浮かべながら玉を吸うアルマを見て
ラムザはどうしようもなく気持ちを抑え切れなくなった。
 「アルマッ、これ以上続けるなら、続けるなら……もう“ごっこ”じゃ済まさないぞッ!」
 するとアルマは口から玉をこぼしてクスリと笑い、立ち上がると兄の胸にもたれかかった。
 「オチンチン丸出しで今さら何言ってるの? 私は最初からそのつもりよ」
 兄は思った。
 このままだと……“恋人ごっこ”が始まり……“夫婦ごっこ”へと発展し……いずれも“ごっこ”では無くなるのでは、と。
 相手が妹であれば、別れる事など出来ないのだから。


   この後、兄妹は様々な苦難の途を歩む事になるのだが、この時の二人はそれを知る由も無い。