その日、ラムザたちはバリアスの谷で二十体を越えるマインドフレアの大群と遭遇した。
他の亜種も居たかも知れないが、見渡す限りのイカ頭たちの前ではそんな事はどうでもよく、
ラムザたちは必死で手近なイカ頭を次々に切り伏せていった。
  時折り脳みそを変色させられた仲間が味方に襲いかかったりして、一時はラムザも全滅を覚悟したが
「こんな悪趣味なイカ人間にやられて死ぬなんて死んでもイヤだ」という皆の思いが天に通じたのか、
全員がボロボロになりながらも何とか全てのマインドフレアを倒す事が出来た。


  混乱した仲間を小突き、バーサク状態で暴れる仲間にはエスナをかけ、
ようやく落ち着いたところでムスタディオが不安げな顔つきでラムザの元へ走ってきた。
  「ラムザ、ちょっと来てくれ。レーゼさんが変なんだ」


        ムスタディオについていった先には大きな切り株に腰掛けているレーゼがいた。
既にケアルで治療されたらしく、見たところ目立った外傷は無い様だ。変って何が変だっていうんだろう。
僕は首をかしげつつ、レーゼに近寄って声をかけた。


「レーゼさん? 大丈夫ですか?」
  「…だい…じょうぶ…」
  なんだか返事がたどたどしくて頼りない感じがする。混乱? でも無い様だし、確かに変だ。
  「な、変だろ? 戦ってる最中にマインドブラスト喰らってるのはチラっと見たんだけど、
エスナかけても、万能薬飲ませても、気孔術かけても、なんかボーッとしちゃってて治らないんだ」
  なんだか返事がたどたどしくて頼りない感じがする。混乱? でも無い様だし、確かに変だ。
  「な、変だろ? 戦ってる最中にマインドブラスト喰らってるのはチラっと見たんだけど、
エスナかけても、万能薬飲ませても、気孔術かけても、なんかボーッとしちゃってて治らないんだ」
  レーゼの目は虚ろで、恍惚とした表情を浮かべており、わずかに上体を揺らし続けている。
儲け話で昨日から出張中の夫の留守中に妻がおかしくなったのでは、予期せぬ事態とはいえ隊の長として
ベイオウーフに合わせる顔が無い。
  混乱でもなく、バーサクでもない…!? そんなマインドブラストの症例は聞いた事が無い。しかし――
  「あッ そうだ、最近入った白魔道士の彼、よその国にいた頃は医者のタマゴだったって言ってたっけ。
何か知らないかな」
  「それだ! ラムザ、ちょっと待っててくれ。俺が呼んでくるよ」


  「…ふむ。分かりました。とりあえず心配は要りませんよ。とても珍しい現象ですが、これは“催眠”です」


テキパキとレ−ゼを診察した白魔道士の言葉にホッと胸を撫で下ろすと同時に
ラムザとムスタディオの頭上に疑問符が浮かんだ。
  「催眠って? 」
  異口同音に発せられた二人の質問に苦笑しながら医者のタマゴであった若者が答える。
  「ものすごく乱暴な言い方をすると、半分寝てるって事です。眠りと覚醒の境にいる状態なんです」
  白魔道士はなるべく分かり易く言ったつもりだったが、首をかしげて眉根を寄せる二人を見て
実例を見せた方が早いという思いに至った。
  「ちょっと実験してみましょうか。例えば… 」
そう言うと白魔道士はレーゼの方に向き直り、子供に話しかける親の様に穏やかな口調で言葉を紡ぎ始めた。
  「レーゼさん、あなたは私の声を聞くと気持ちよくなる。そう、目を閉じて、私の声に耳を傾けて下さい… 
ほら、気持ちよくなってきましたね。あなたは私の言う通りにしたくなってきます」
  目を閉じたレーゼの表情が段々と柔らかく溶けていき、口元に微笑が浮かび始めた。上体の揺れが止まった。
喋り続ける白魔道士の声が徐々に小さくなっていく。やがて何を言っているのか聞き取れなくなったところで、
白魔道士はおもむろに信じられない様な言葉を口にした。


  「 レ ー ゼ さ ん の 今 日 の 下 着 の 色 は ? 」


  「!!?」
  「ちょっ バカッ!」


  ブレスを吐かれても文句を言えない様な爆弾発言をしておきながら、当の白魔道士は平然としている。
寝ぼけて混乱しているのはむしろこの白魔道士の方ではないのか――


  「…今日は…はいてない…」


  辺りの虫の声も川の流れる音も消え、静寂の支配する時の止まった空間の中でレーゼの呟きだけが
三人の中でこだました。
  「ま、まさかはいてないとは思いませんでしたが…」
  「ちょっと、君!? これって一体!?」
  「はいてないとか、色とか、そういう問題じゃなくってだな! いや、問題なんだけど、オイ!説明してくれよ!」
  混乱と興奮で沸く三人を尻目にレーゼは穏やかに微笑むばかり。


  「ええと、つまりですね、細かい理由はおいといて結論からいうと今、レーゼさんは私の言うがままです」
  事も無げに言い放つ白魔道士に、ラムザとムスタディオが噛み付かんばかりに質問を浴びせる。
  「言うがままって、何でも!? 下着の色っていうか、はいてないっていうか、ノーブラなのかとかも聞ける!?」
  「まっ待てッ それどころか乳首の色とかも!?」


     ゴゴゴゴゴ


  「い、いや、それどころか… それどころか… 」
  「ハッ…ムスタディオッ! 君はまさかッ…!」


  「普段ダンナとどんな風にしてるのかとかも…聞けるっていうのかッ そうなンだろうッ」


  ドドドドドドドド


  「聞いて…」


  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


  「…みましょうか?」


  夕闇迫る森の中で三人の青年は一人の妙齢の人妻を前に無意識のチャージを開始していた。
誰かがゴクリと唾を飲み込む音がした。えもいわれぬ緊張感が三人を貫き、背筋を走り抜ける。


  「ま、まずは… 一番最近ダンナとやったのはいつ?」
  頭をかすかに揺らしながらレーゼは頬を赤らめて口を開いた。三人の目がその艶かしい唇の動きに集中する。
  「…昨日の朝…あの人が出る前に…」
  「やッやっぱりッ! なんか二人のテントが微妙にユサユサしてたのを見たんだッ」
  「ラムザ、お前って早起きだなー。俺にも教えろよ、そういう時は」
  何故かラムザはムスタディオの軽口にも答えず、唇を噛んで拳を震わせている。
  「うらやま…けしからんッ! 実にッ…! 僕が遅くまで明日の準備とか色々やってる時もこの人たちは…ッ」
  「ラムザ…」
  「ラムザさん…」
  ムスタディオと白魔道士はラムザを直視出来ずに目を逸らした。逸らした先にはコックリコックリと
頭を前後するレーゼの顔の下、胸の豊満な盛り上がりがあった。
  (ベイオの旦那、この巨乳をいつも目で楽しみ揉んで楽しみ吸って味わいして…)
  ムスタディオがハッとして顔を上げると、同じくハッと我に返った白魔道士と目が合った。
その刹那、二人は目と目で通じ合った。何も言わずとも漢たちの間には確かに伝わるものがあった。
ムスタディオがラムザの肩をポン、と叩くと白魔道士に向かってうなづいた。
  「レーゼさん… オ ッ パ イ 見 せ て 下 さ い 」
  白魔道士が厳かに命ずると、レーゼはそろそろとブラウスを脱ぎ始めた。胸の谷間が露わになる。
三人はいつの間にかジリジリとレーゼに近寄ってきており、目の前で進行する光景を固唾を呑んで見守った。


そしてそれはブラウスの下から弾ける様にしてあらわれた。
  円。それはまさに白い円であり、柔らかな半球だった。メロンを連想せずにいられない大きさ、丸み。
そして何よりもあるべき頂きが見当たらないという、衝撃的な事実。
それに加え、上半身裸にロングスカートという取り合わせがなんとも淫靡な雰囲気を醸し出していた。
  「もっ、もうガマン出来ないッ!!」
  「俺もッ」
  ラムザは右の、ムスタディオは左の乳房に思わずかぶりついていた。埋もれた乳首を吸い出し、
しゃぶりつくとレーゼの体がビクンと跳ねた。
  「ちょっと二人とも! あんまり刺激すると催眠が解ける可能性が…ってダメだ、聞いてない」
  (ま、いっか。暗示で何とでもなる)
  「レーゼさん、あなたは男が欲しくてたまらなくなってくる、気持ちよくなってくる…」


     レーゼは三人の男に愛撫されると時折り甘い声を上げて震え、その白い肌を少しずつ桜色に染めていった。
スカートをたくし上げられ、両足をMの字に開かれる。密やかな陰毛に囲われた唇は白い蜜を垂れ始めていた。


  それから半年後にラムザたちの戦いは終わり、ラムザたちはそれぞれに散っていった。
さらに数ヵ月後、レーゼが玉の様な子を産んだのだが、その子にアホ毛が生えてきたかどうかは定かではなく、
“裏デュライ白書”にもそういった記述は皆無である。


                                                 おわり