獅子戦争勃発より遡ること三年前――五十年戦争末期。

 王都ルザリアの外れにある屋敷の中、ランプがひとつ置かれるばかりの薄暗い地下室に
十人の若い男達が閉じ込められていた。
 男達は下流貴族や没落した商家の子息であり、いずれもある日突然拉致されてきた者ばかりであった。
拉致されて数日が経っていたが、男達は自分の身に起こっている事を今ひとつ理解出来ていなかった。
当初は盗賊や脱走兵の類が身代金目的で自分達を誘拐したのかと思ったが、犯人達からの彼らへの
扱いは丁寧で、どうもそういったならず者の集団に監禁されているとは考えにくかったのだ。
 それに自分達の様な、大した身代金を取れるでもない微妙な家の人間をさらったのも妙だ。
移動に護衛をつける事の多い大貴族の誘拐は難しく、誘拐が発覚すれば大きな騒ぎになるからだろうか。
いずれにしても分からない事ばかりだ。

 覆面で顔を隠した黒ずくめの怪しい者たち(拉致されてきた者の一人が、あれは忍者というものだと言った)が
男達の監視と世話を行なっており、食事はそれなりに質と量を兼ね備えたものが与えられたし、
排泄も監視つきではあったが、言えば地下室の外にある厠でする事が出来た。牢の様に、部屋の隅に
垂れ流せというわけでも無かったのだ。
 それにしても政治的テロリストの拉致か、身代金目的の誘拐か。そうでなければ、一体何だというのだろう。

 忍者達は皆寡黙で、我々を一体どうするつもりなのか、お前達は何者なのかといった、男達からの質問には
一切答えなかった。男達は諦め、とにかく事態が変わるまで待つしか無いという考えに至った。


 翌朝の朝食後、地下室に入ってきた忍者が突然大声を発した。
 「いいか、よく聞け。全員外へ出ろ」

今まで数日間一言も発しなかった忍者から急に名を呼ばれた男達は大変驚き、また大いなる不安に駆られた。
とうとう来るべきものが来た。処刑か、解放か。それとも別の場所への移送なのか……

 神妙な顔つきで忍者達に挟まれて屋敷の廊下を歩いていった先には、大浴場があった。
 「全員、今すぐ沐浴しろ。時間はかかってもいい。丁寧に体を洗え」
男達は狐につままれた様な心もちだったが、とにかく忍者達の言う通りにするしか無かった。
石鹸や洗髪料の類はどれも超がつく高級品ばかりで、男達は驚くと同時に混乱するばかりだった。
 一体、我々をどうしようと言うのか? 死ぬ前に体を清めろとでも?

 沐浴が終わると、大きなカゴいっぱいに積まれた衣類の山から好きな服を取れと忍者が言った。
今までの服はいつの間にかどこかへ消えていて影も無い。男達はよく分からないままに
各々好みの服を選んで着始めたのだが、どの服も高級なブランドものばかりだった。

 全員が服を着終わるとまた別の部屋へ移動させられ、監視の忍者達は再び沈黙の中に沈んだ。
男達はいよいよ何が何だか分からない。当然、この部屋の壁一面がマジックミラーになっていて
隣室から丸見えになっているという事も、彼らには知る由も無かった。


 「……どうだ? お前の目に適うものはいるか?」
 「いやですわお兄様。私はお兄様の種が良かったのに。」
 隣室では二人の男女が寄り添って立ち、居並ぶ男たちの品定めを行なっていた。
男は三十半ば、女は二十三、四ほどに見えた。二人とも服装が豪奢でいずれも王族の様であった。
 「言うなルーヴェリア。私とてそうしたいが、もしも不具の子が産まれてはまずい」
 「……出来るならお兄様に似た者が…… ほら、あの白いローブを着た者など少しは似ていませんこと?」
 「どれでも何人でもお前の好きに選ぶがいい。だが妬けるな」
 「妬いて下さいませ。いえ、こうなればお兄様が悶え苦しむ程に妬かせてみせますわ」
 ほっそりとした指先で兄の腕をつつ、となぞりながら、ルーヴェリアはクスクスと静かに笑った。
 「……お前という奴はッ」
 ラーグはルーヴェリアの肩に腕を回してぐいと引き寄せようとしたが、王妃はそれを察して巧みに兄の腕をすり抜けた。
 「妬くのはまだ早いですわよ、お兄様。後で存分に見せ付けてさしあげますから」
 ルーヴェリアは妖艶な笑みを兄に投げて身を翻し、部屋を出て行った。
 それを見送りながらラーグは壁にもたれると、深く嘆息した。オムドリア、あの役立たずめ……

 ルーヴェリアはこの計画を聞いた時に開口一番こう言ったものだ。“ああお兄様、久々に抱いて下さいますの?”
それもいいかも知れないと半ば本気で考えもしたが、どうにか理性を保ち、妹をなだめすかして説得した……つもりだ。
最初はどこにでもいる平民を使う予定だったが、せめて読み書きが出来る程度の教養を持つ者でなければ嫌だと
拗ねるルーヴェリアの要望を聞き入れて妥協し、どうにか十人ほど集める事が出来た。家人が治安院や教会に
駆け込んだりもしたが、どこも戦争の影響でそれどころでは無いのが現状だ。大きな騒ぎにはなるまい。
 元老院のいい様にはさせぬ…… オムドリアが死ぬ前に事を成さねば……



 男達の中から、白いローブを纏った若者だけが頭目らしき年配の忍者に手招きされた。呼ばれるままにローブの若者は
忍者の下へ歩み寄る。その忍者は、ローブの若者を一瞥くれてから近くにいた別の忍者に小声で言った。
 「他の者は全員地下室へ連れて行け」
配下の忍者達はテキパキと動き、他の男達を連れ出した。部屋には若者と年配の忍者だけが残された。
 「今から、お前にはさる御婦人の相手をしてもらう。御婦人の言には絶対服従。粗相があればその首を飛ばす。
だが、無事に事を終えたらお前は家に帰れる」
 そう言うと忍者は若者に目隠しの布を巻いた。両手を前に出す様に言われて差し出すと、両手首にも布を巻かれて
縛められた。若者は混乱の中でされるがままだった。
 御婦人の相手? 手を縛られたのはともかく、何故目隠しを? 事を終えたら…… 家に帰れる? 

   不意に足払いを喰らった。ばふ、と音がして柔らかい布地の感触が頭と背中から伝わってきた。ベッドか?
この部屋にバッドなんてあったのか。いつの間に用意したのだろう。
 バタン、と部屋の扉が閉まる音がした。忍者が出て行ったのか。ぼんやりとそう思っていると、不意に
ローブをはだけられ、ズボンをずり下ろされた。
 「えっ、えっ?」
 戸惑う若者に構わず、誰かが胸の、乳首の辺りを触ってきた。
 「随分とウブな反応をするのね。ここを女に触られた事は無かったのかしら?」
 これが“御婦人”か? 思っていたよりもずっと若い声だ。二十代前半といったところか。
 そう思うと、若者は途端に勃起してきた。そういえば、ここ数日の監禁生活で溜まっている。
 「あら、随分と元気なのね。夫とは大違いだわ」
 “御婦人”はどこか嬉しそうな声で言うと若者の肉棒を細く冷ややかな指でギュっと掴んだ。
同時に亀頭が暖かく濡れた粘膜の感触で包まれた。そして柔らかさの中にも芯のある何かに撫ぜられる。
 口、口でされている……。こんなのは生まれて初めてだ。なんて背徳的なのだろう。
グレバドス教では生殖に結びつかない性行為は悪であると説く。こんな性行為が教会に知られたらヘタをすると
異端扱いだ。敬虔なグレバドス教の信者である若者はその“悪魔的な性行為”を平然と行なう“御婦人”に
早くも圧倒されつつあった。
 ごく普通のセックスしか知らない若者にとって“御婦人”は淫魔もかくや、と感じられる程だったのだ。

 若者の肉棒を舐めねぶり口づけてひとしきり味わうと、“御婦人”は若者に命令し始めた。
 「舐めなさい。私が満足するまで。 ……ああッ、そう、うンッ! いい、いいわ。
……そう、ここもよ。お尻の穴も。舌を入れて丁寧になめなさい」
 顔の上に跨られた若者は無我夢中で言われた通り“御婦人”に奉仕した。愛液がとめどなく垂れてきて、
ぷうん、と牝の臭いが口いっぱいに広がってくる。それに激しい興奮を覚え、若者は今までに無く熱い勃起を感じていた。
また口でしてもらいたい、そしてそのしゃぶっている姿を見たい、と願っている自分が抑え切れず、気がつくと口走っていた。
 「お願いです、もう一度口でして下さい、目隠しを取って下さい。お願いです」
 “御婦人”は若者の頭を掴んで陰毛を顔にこすりつける様にしながら、爛れた蜜肉を若者の口にぐいぐいと押し付けた。
 「私が満足するまで、と言った筈よ。嫌なら他の者に変えるから」
 「そ、それだけは……」
 若者は次ぐ言葉も無く、再び奉仕を始めた。射精したくてたまらない。縛められた両手で自分のモノを撫でさすっていると
突然ピシャリとその手を叩かれた。
 「勝手に出す事は許さないわ。出すなら……」
 “御婦人”の濡れた秘肉が糸を引いて若者の顔から離れてゆく。やや間があって若者は先端に温かな粘液を感じ取った。
 「この中に出しなさい……いいこと?」
 天を向いて勃つ若者の肉棒が、たっぷりと滑りを帯びた柔らかい粘膜にゆっくりと侵食されてゆく。
亀頭を越え、竿の中ほどを過ぎ、そして互いの陰毛を絡まる深さまで……若者の腹の下に“御婦人”の重みがかかった。
 「ああッ……」
 こんなに興奮するセックスがあったなんて。目隠し、拘束、女性上位でいい様にされる事がこんなにもゾクゾクするなんて。
教会は何故こんな素晴らしい快楽を禁ずるのか。奔放な性の力が神の教えを容易く打ち破るのを知っているからか。
“御婦人”が若者の上で腰を揺らし始めた。ねっとりとした肉の感触と熱さでとろけそうになる。
若者の形に馴染んだのか、“御婦人”は急に腰の動きを早めた。若者はひとたまりもない。腰の奥から吸い出される様に
若者は“御婦人”の中に射精した。
 「いいのよ、たくさん出しなさい……」
 
 そのまま抜かずに“御婦人”に蜜壷でしぼられていると、若者の肉棒は再び固さを取り戻してきた。

若者は思い切って腹筋に力を込めて上半身を起こすと、“御婦人”の乳房を口で探り当てて吸い付いた。
 「あッあッ!」
 乳首を乳房ごと吸い立てると、“御婦人”はこれまでとは少し違う声でよがった。
 「いい、そう、もっと吸って、吸いながら出しなさい」
 二度目もあまり長くは持たず、若者はそのまま射精した。さすがに二度連続では辛い。肉棒は力を失いつつあった。
 しかし“御婦人”は事を終える気配など微塵も見せなかった。
 「まだこれからよ。全部出し切りなさい。それまで休む事は許さないわ」
 “御婦人”が腰を浮かせて離れると、愛液と精液にまみれて萎んだものが若者の下腹部でくてりと力なく転び、
鈴口から薄い残滓を滲ませた。
 「うあッ」
 その残滓を吸い取るものがあった。若者は急激な快感に思わず股を閉じてのけぞった。
 「ほら、また口でしてあげるから」
 唾液をまぶしながら“御婦人”が強く吸い上げて勃起を促す。肉棒の芯にぼうっとした痛みを感じつつ、
若者は更なる硬直を意識した。頃合を見て“御婦人”が口を離し、また下の口をあてがって――



 ルーヴェリアは粘ついた音を発しながら尻を前後に動かしつつ、背後の壁を振り返った。
 (お兄様見てる? 私こんなに淫らに男をくわえ込んでお尻を振ってるの。気持ち良くてお尻が止まらないの。
 この姿、見せるのはお兄様だけよ……)
 「あッ!?」
 (お兄様を想うとイってしまいそう……!)


 ラーグはマジックミラー越しのルーヴェリアの瞳を食い入る様に見つめながら拳を握り締めるとわなわなと震わせ、
傍らの忍者に向かって吐き捨てる様に言った。
 「……あの男を殺せ。今すぐにだ。地下室に行かせた者達も同様だ」
 「今すぐに、ですか? しかし、まだ種を宿されたかどうか……」
 「二度は言わんぞ。それともお前も死体になるか」
 「ぎょ、御意」




                                                         (fin)