いつ死ぬとも知れない戦いの日々が男と女の本能を刺激し、毎夜のまぐわいに駆り立てる。
好意よりも肌の温もり。かき抱いた頭の、柔らかな乱れ髪の向こうにある頭蓋の固さが生の確かさ。
死に追われて子を遺す意思か、膣の奥へと子種を送り込む事にいささかの逡巡も無く。
押し入る肉を喜びの内に受け入れる肉、猫の様な嬌声と荒々しくも艶かしい吐息。
そこかしこに張られた天幕はさわさわと蠢き、声を漏らし、淫らな行為をしているのが自分たちだけでない事を知らしめる。
夜が明けて顔を合わせる段になっても恥じらいは無く、ただ束の間の安心があるだけ。
昼の不安を夜に埋め合わせる。日を追う毎に増す喘ぎ声。
誰が誰とまぐわってどんな声を出してよがるのか、もうみんなお互いに知っている。
アグリアスはあんな声を出して男にしがみつくのか、相手の男はあんなにも歯の浮く様なセリフであの高飛車な女騎士を酔わせるのか。
みんな知っている。誰もが分かっている。
お前の二人の部下はそんなお前に負けじと男の上で腰を振り立てて悦楽の園に浮かんでいる。
誰もが寝不足だった。誰もが虚ろだった。誰もが快楽にすがらなければならなかった。
外に出す事など許されなかった。本能はそれが罪悪であるかの様に許さなかった。
互いの身体を食み、蜜にまみれ、匂い立つ愛液を精液と混ぜ合わせる。
伝説の悪魔も大義無き戦争も、肉の喜びの前ではどうでもいい。
今ここにある肉の喜びをむさぼるのに忙しくて、そんな事を気にしていられない。

今日も、明日も明後日も。戦いとまぐわいの日は続くだろう。

子供が出来たと知らされた。
あれほど毎日の様にしつこくねちっこく絡み合ったのだから、少しも驚かなかった。
ただぼんやりとどこか遠く、水の中の世界の出来事を聞いた様な感じしかせず、
「そうか」としか言えなかった。自分の声すらも遠かった。
産めとも産むなとも言わなかった。向こうもそれ以上何も言わなかった。
翌日にはラッドが刺されて死んだ。戦闘があった訳ではなく、刺したのはアリシアだった。
泣きじゃくるアリシアを女共が宥めすかして質したところによると、子を堕ろせと言われたらしい。
俺もそう言っていたら背後から刺し殺されていたのだろうか。
ただ、今の俺はそれもそんなに悪くないと思える様になっていた。
少なくとも敵に殺されるよりかは遥かにマシな死に方だ。それだけは間違いない。
アリシアの処分は除名だった。このイヴァリースは腹ボテの女が一人放り出されて生きていけるほど安全じゃない。
けれどアリシアは黙ってそれに従ったし、俺たちも黙って見送った。
女達の控えめなすすり泣きの中に突然嘔吐の呻きが混じった。女達がざわめく。

アグリアスがうずくまって黄色い胃液を口から滴らせていた。
鉛色の空と相まって重苦しい沈黙が辺りにのしかかる。再びアグリアスが呻き、ビシャッという音を地面にブチ撒けた。
アグリアスはうずくまったままゆっくりと顔を上げ、取り囲む女達の向こうに突っ立ている男達の方を見た。
その視線は男達の顔の上を通り過ぎ……一点でピタリと止まった。
女達が、そして少し遅れて男達がその視線の先を追う。
女達はその顔をまっすぐに見つめた。男達は正視出来ずに目を逸らし、伏せた。
ラムザは少し呆けた様にわずかに口を開け、虚ろな目でアグリアスの頭の少し上の辺りを見ていた。
昨日の俺もあんな顔をしていたのだろうか。分からない。
これからどうなるのだろう。俺達は一体どうなるのだろう。

微動だにしないラムザを促すかの様に、アグリアスの顔の下からボタボタと地面を叩く音がした。