『畏国王後日憚』


獅子戦争終結数ヶ月後…ゼルテニア城教会跡

「そうやって、みんな利用して!…ラムザのように、いつか私も見殺しにするのね…!」


「うっ…」
「陛下?…陛下!ディリータ様!気がつかれましたか!」
ディリータは長い混沌の夢から覚めたような気がした。記憶が戻らない…
「ここは……どこだ……ここは……」
その彼の頭にひとりの女の顔が激烈に思い出された。
「オヴェリア…そうだ!オヴェリアはどこだ!!」
その目覚めきっていないからだと混乱した頭で畏国王ディリータは裸足でベッドから抜けた。
「お待ち下さい!傷が開きます!大丈夫です!王妃さまもご無事です!」
彼はその言葉を聞きため息をついてそのままその場に倒れた。

畏国王とその王妃が暴漢に襲われたが無事に助かったというニュースはまだまだ
イヴァリースの民衆に政情の不安さを思い知らせることになった。
下手人がなかなかあがらないのもさらに追い打ちをかける。

「お互い助かったな…」
ディリータはベッドの上に起き上がったまま無表情に遠くを見続けるオヴェリアに話しかける。
「食べないそうだな。力も出ないぞ。もう一度俺を刺したいだろう?」
その時オヴェリアの瞳に始めて光が戻った。
「…よくも…!」
彼女の激しい感情を無視して、ディリータは淡々と続ける。
「今度は俺は刃向かわないよ。あの時は反射的にお前を刺した…そういっても信じはしないだろうが」
彼は自分の王妃の前に短剣を置いた。
「これでいつでも好きなときに刺せ。毒を盛ってもかまわないさ」
その言葉は皮肉にも聞こえず、ただ枯れた疲れたような調子を持っていた。
「とりあえずちゃんと食事はしろ」
ディリータはそう言ってオヴェリアの寝室を出た。
オヴェリアは短剣を握りしめただ涙を流し続けた。

ディリータは精力的に仕事をこなしていく。
特に国王が力を入れたのは法律の改訂である。それは貧しい民衆からの搾取の削減と
権利の獲得に重点を置かれたもので旧来の特権階級には大いに不満が生じた。
何度か彼に刺客が向けられたが、彼を慕う側近達の(彼と同じ貧しい平民階級が多い)
機転と努力で全て事なきを得ている。
だが肝心の王と王妃の仲はうまくいっていないことに周りも気づき始めている。


ある時王妃は気晴らしに行った旅行先で思いがけない人物にであう。
「お久しぶりですオヴェリア王妃」
「あなた……魔道士の…たしかバルマウフラとか……生きていたの!?」
「はい?戦乱で命を落としたと思われてましたか?」
魔道士バルマウフラ・ラナンドゥは一時期ディリータの下で動いていた。
オヴェリアは彼女がディリータに殺されたのだと思いこんでいたのである。
「陛下はお元気ですか?私は陛下に命を救われた身ですのでいつも気にかけております」
「…なん…ですって…」
オヴェリアはそこで彼女の正体――グレバドス教会からの監視と裏切ったディリータに対する刺客
であったことを知らされた。
「僭越なことでしたが、お命をいただこうとしました。失敗しましたがね…
 わたくしなどはその場で殺されてもよかったのですが陛下は“これでもう誰からも利用されないだろう?”
 と助けていただいたのです……陛下はご自分が利用されてきた過去をお持ちですから…
 このことはオーランも驚いていましたよ」
「オーラン…も生きているの…」
「はい。オヴェリアさま?」
オヴェリアは最後まで聞かずその場を走り去った。


ディリータは寝室の執務部屋で何か書き物をしていた。
ふと目を上げると目の前にオヴェリアが立っていた。
「やっときたか。忙しかったんだぞ?いつお前に刺されても良いようにやっておくべき仕事は山ほどあるし」
オヴェリアは執務机の前にあの短剣を置いた。
「うん?サビでもしたのか?」
「今日…バルマウフラ・ラナンドゥに会ったの…」
「ほう…懐かしい名前を聞く。彼女元気だったか?あいつも苦労人だったからな」
「私は彼女とオーランがあなたに殺されたと思っていたの……」
「……」
「ラムザも……だから…あなたに殺されたんだと……」
「それで刺したのか…」
「……ごめ……な…」
言葉にならず彼女はその場に泣き崩れた。
ディリータは彼女を立ち上がらせそのままきつく抱きしめた。
「別にあやまらなくていい。俺はお前にだけは殺されてもいいんだからな。…まあそんなこと言って
 反射的に反撃してしまうんだからこれはお前に見捨てられて当然だよな」
「もう…いいの…」
「本当にもういいことだな……さて……ぎりぎりまで我慢していたんだから王妃さまから
 ご褒美いただこうか…刺されてもいいからもうちょっとでお前の寝室に忍び込みそうになったんだぞ?」
そう言って自分の王妃を抱き上げディリータは口づけた。


寝室のベッドの上でディリータとオヴェリアは何度も唇をむさぼり合った。
お互いの舌をまさぐりあい、息も詰まるほどに…
ディリータの唇は白い鳥のようなオヴェリアの首を這い鎖骨から二つのふくらみへと達する。
その白い乳房を舌先でゆっくりとなめる。
「あ…ん…あっんっんっ…」
ディリータは器用に舌を使い彼女の乳房を持ち上げるように何度もなめあげた。
「あう!はっはっ……い…あ…ああ…」
オヴェリアは彼の頭を抱え込み切ないあえぎをいっそう強くする。
ディリータの攻めは彼女のくびれにうつる。
「あん…あ…あ…はあ…」
そして彼女の草むらに達しようとしていた。
「いや…ダメ…あ…だ…あああ!…いい…いい…!!」
茂みに隠れた彼女の秘所の裂け目に沿ってその舌を上下させ彼女を濡らす。
「…俺は…お前が欲しくて気が狂いそうだったんだぞ?…だから…」
ディリータは愛液で濡れたオヴェリアの裂け目におのれのいきりたった物をさしいれた。
「…遠慮は…しない…!」
奥まで入れて思い切りオヴェリアを突き上げた。
「ひっ……!」
彼女の白い両足を抱え込み何度も何度も腰を激しく突き上げる。
「あっあっあっ!!ディリータ…ディリータ!!ああ!ああ!!」
体を激しく弓なりにのけぞらせ、オヴェリアはシーツに爪を立てて身悶える…
その中心のるつぼにディリータはこらえていた熱いものをはき出した。
「……!!」
ふたりとも同時に果て、王の部屋には静寂が戻った。


「申し訳ございません陛下。たのまれ……」
部屋に入った側近のひとりはあきらかに情交の後と思われる上気した肌の王妃とそれを
抱きかかえる王の裸の姿を目に入れてしまった。
目の玉飛び出るほど驚いた側近は声を裏返して叫ぶ。
「も  も  も  申し訳ございませんでしたーー!!」


「……そういえば法律関係の資料を届けてくれって言ってたの忘れてたな……」
「……ばか……」


「なんだよ…仲良いじゃないか…誰だ?うまくいっていないとか言っていたのは」

獅子戦争からもはや2年がたとうとしていた頃の話である。