『ダークナイト・アグリアス』
「神に背きし剣の極意、その目で見るがいい……闇の剣!」
ガフガリオンはアグリアスに向けてブラッドソードを振り下ろした。アグリアスの頭上に禍々しい目が薄ぼんやりと現れ、
アグリアスから体力を奪っていく。
「ぐぅッ……」
アグリアスはたまらず剣を杖代わりにひざまずいた。アリシアとラヴィアンがすかさず援護に回る。ラムザは向かってきた
敵兵を斬り捨てて叫んだ。
「アグリアスさんッ!」
「ラムザ……。大丈夫だ、まだ戦える」
アグリアスは全身の脱力感を押して、努めて平静を装った。そんなところを見せては、また全員に迷惑がかかる。アグリアス
はすくっと立って、剣を構えた。剣の重みが腕にかかり、腕の筋肉が悲鳴を上げる。息が荒い。連続で三日くらい強行軍をやった
ほどに疲労している。
「ケッ、辺境の護衛隊長殿もこの程度か!」
ガフガリオンがしゃがれ声でアグリアスを挑発する。アグリアスは眉にしわを寄せ、渾身の力で剣を振り上げようとするも、腕は
言うことを聞かない。構えているだけで精一杯だった。
アグリアスの代わりにラムザがガフガリオンに向かって行った。アグリアスが再び狙われないように、ラムザは幾度も切り結び
つつ、アグリアスから離れていく。門の前面ではラッド達が伏兵と戦っている。
「強くなったンじゃないか、ラムザ」
ガフガリオンが鼻で笑った。
「黙れッ!」
ラムザはガフガリオンの剣を払って右肩に渾身の突きを食らわせ、胴を蹴飛ばして剣を素早く引き抜いた。ドス黒い血が噴き出す。
ガフガリオンは反射的に素早く体勢を整えたが、掌中に剣はなかった。
「ラムザ、どけッ!」
アグリアスはようやく回復した腕で剣を振り上げ、振り下ろした。
「天の願いを胸に刻んで、心頭滅却! 聖光爆裂破!」
アグリアスはハイポーションを二本飲まされて、ようやく体力を回復した。ポーションのまずさに吐き気を催したが、それも一時の
ことだった。
ガフガリオンは聖光爆裂破を食らって、まもなくクリスタルと化していた。伏兵もラッド達の奮闘で全員撃破され、城門には負傷者の
うめき声が響くのみである。
ラムザは城壁にもたれて座っているアグリアスの隣に腰を下ろした。
「アグリアスさん、大丈夫ですか」
「ああ、ありがとう。もう大丈夫だ」
アグリアスの体にはところどころに包帯が巻いてある。闇の剣の影響で機敏な動作ができず、普段ではかわせるような攻撃も数度受けた
ためだった。
「暗黒剣とは、あれほどの威力のあるものなのだな……私の聖剣技もそこそこ威力はあると思っていたが」
「そこそこどころか、威力絶大でしょう。ガフガリオンだって聖光爆裂破の一撃で……」
「ラムザ。ガフガリオンのクリスタル、私に継承させてもらえないだろうか」
ラムザは目を丸くした。あれだけ嫌って道中常に険悪な雰囲気だったというのに、ガフガリオンの生命の結晶たるクリスタルを継承させろ
というのである。
「ラムザ。私は一剣士として、暗黒剣がどのようなものなのか知りたいのだ。それに、もっと強くなって役に立ちたいのだ。貴公の……いや
その、パーティのためにな。だから、頼む」
ラムザはアグリアスの目を見た。透き通るような眼から、鋭い視線がラムザを見ている。
「わかりました。そこまで言うのでしたら、クリスタルを使って下さい」
「神に背きし剣の極意、その目で見るがいい……闇の剣!」
アグリアスは自分に向けて弓を引き絞っていた弓使いに向けて、右手に持ったブラッドソードを振り下ろした。弓使いの顔が得体の知れぬ
恐怖に歪み、同時に顔から生気が失われていく。
弓使いがカラカラに乾いたミイラのようになって絶命する頃には、アグリアスは立ち向かってきたナイトの胸をプレートメイルごと一突きに
貫いていた。
「相変わらずすげぇな、あの人は」
ラムザの隣で銃を撃っていたムスタディオが、気味悪そうにアグリアスを見た。
今のアグリアスは愉快そうにひたすら敵を殺している。ガフガリオンのクリスタルを継承してから今まで、アグリアスは徐々に性格を歪め
て来た。誇り高きホーリーナイトから、快楽のために人を殺す殺人者に成り下がったのだった。
最初はほんの些細なことだった。いつも朝早くに起きていたのが段々と寝坊をするようになり、いつも身だしなみは小奇麗にしていたのが
段々とずぼらになり、毎日のようにしていた自己鍛錬を怠るようになり……。
半年を過ぎた頃から、アグリアスはしきりにアタックチームに入りたがった。そして徐々に敵を残忍な方法で殺すようになっていった。
暗黒剣と聖剣技のおかげで、アグリアスに敵うものはなかった。
三ヶ月くらい前から、アグリアスは夜に忍んでラムザのテントに来るようになった。ラムザはアグリアスに好意を抱いていたのは確かだし、
劣情を抱いたこともあった。
しかし、ラムザは断った。隊内風紀上、そんなことをするわけにはいかなかったし、何より、道徳感の塊のようなアグリアスが男を求めて部屋
を訪ねるのが不審に思えたからだった。
だがその夜から、アグリアスはほとんど毎晩のようにラムザのテントにやって来て、抱いてくれと懇願するのだ。ラムザは半ば押し切られるよう
な形で、アグリアスと関係することになった。それ以来、アグリアスは味をしめたのか、毎晩ラムザの寝所を訪れた。
アグリアスと関係してからというもの、ラムザは少しずつ体に変調を来たしていた。体力が落ち、剣さばきにも鈍りが見えた。病気によくかかる
ようになり、今では年中風邪を引いているような状態だった。
そして、最近ではアグリアスを見ると、盛りのついたネコのように欲情するようになっていた。アグリアスとの交歓で受ける強烈な快感が、ラムザの
精神をも冒していったのであった。
正面から敵の竜騎士が槍を構えてラムザめがけて突っ込んできた。ラムザは第一撃を弾いて何とかかわし、敵の槍を掴んで振り回した。槍に引きず
られて竜騎士が転倒したところで、剣をのどに突きつけた。
竜騎士がラムザの剣の切っ先を見つめている間に、ムスタディオが竜騎士を縛り上げる。
「どうした、もう私に挑む者はおらぬのかッ!」
アグリアスの怒鳴り声が森に響き渡った。駆けつけてみると、くの一と侍がアグリアスを挟み撃ちにしていた。
「そちらから来ないのなら、こちらから行くぞ」
アグリアスは言うなり後ろを振り返り、くの一の腹を串刺しにして、とどめに剣をひねった。内臓をかき混ぜられたショックなのか、ブラッドソードの
力なのかは分からないが、くの一の苦痛に歪む顔がみるみるうちに青ざめ、やがて土気色になった。
アグリアスは麻薬中毒者のように恍惚とした表情で、大きく息をついた。
「まだ処女だったのか……良かったぞ」
アグリアスはくの一の腹から剣を引き抜いた。血を吸った剣先から、鮮血が雫となって滴り落ちる。
「う、うあああぁぁッ!」
くの一がやられるグロテスクな光景を呆然と見ていた侍は、奇声を上げてアグリアスに躍り掛かったが、アグリアスは素早く侍の頭を兜ごと唐竹割り
にかち割り、二の太刀で首を飛ばした。
首無しの胴体から噴き出す真っ赤な血が、辺りの草木とアグリアスを赤く染める。刀を構えた首無しの死体はゆっくりと前のめりに倒れた。
「アグリアスさん……」
アグリアスは緩慢な動作で、ラムザの方を見た。剣を握った右手がぴくっと動いた。流れるような金髪も、綺麗な顔も、簡素な鎧も、おびただしい返り血
を浴びて赤く鈍い光を放っている。
昔のように射抜くような鋭い目つきではとうになくなり、今は濁って光のない目をしていた。
「ラムザか……。危うく殺してしまうところだった」
焦点の合っていない虚ろな目で「危うく殺してしまうところだった」と言われ、二人は背中に寒いものを感じた。アグリアスの目はもうラムザを見ているか、
虚空を見ているかの区別もつかない。
「もう敵はおらぬのか?」
「ええ、あらかた掃討したみたいです」
「そうか……」
アグリアスはガッカリしたような顔をした。
捕虜と死体を一ヵ所に集め、被害と戦果を確認する。味方はアリシアが骨折の重傷、ラッドとラヴィアンが軽傷。敵は十五人中十人を殺害、五人は重軽傷。
十人中九人をアグリアスが殺していた。
戦利品は不足気味だった矢だとか、スペアの剣や短剣だけで、めぼしいものはなかった。
ラムザ達は死体を隠蔽するために、穴を掘った。
「ラムザ、捕虜の連中はどうするんだ? 解放するわけにもいかないし、かといって次の街まで連れて行くわけにも……」
ムスタディオは穴をせっせと掘っている。戦闘で一番運動しないから、疲れがないらしい。
「どうしようか……。後の事を考えてなかったよ」
ムスタディオは手を止めてため息をついた。
「お前な、俺達は異端者として追われてるんだぞ? 寝不足なのはわかるけど、もっと緊張感を持ってくれ」
ラムザは「寝不足」という言葉にひっかかるものを感じた。顔に出ていたのだろうか。だとすると、あまり良い事ではない。チームを統率するには大将が平然と
どっかりと構えていることが大切なのだ。
「僕、眠そうな顔してた?」
ムスタディオは苦笑して、首を横に振った。
「いや、毎晩のようにお前のテントからアグリアスの声が聞こえてくるからな」
バレていたらしい。ムスタディオはまたせっせと手を動かし始めた。
「あれは僕が誘ったんじゃないんだ。アグリアスさんが毎晩来るんだよ」
「わかってるよ。声がするたびに、みんなラムザはかわいそうなヤツだって話すんだ。イカれた女に襲われてるってな」
「僕のテントに入りそうだったら、アグリアスさんを止めてくれないかな。実を言うと参ってるんだ。ここ三ヶ月、まともにぐっすり寝たことがないんだからね」
ムスタディオの言う通り、ラムザは毎晩アグリアスさんに抱かれていた。ムスタディオに倣って、ラムザも手を動かす。夜のことは思い出したくなかった。
結局、ラムザは捕虜の処遇に悩まなくて済んだ。アグリアスが適当な理由にかこつけて捕虜を全員殺してしまったのである。ラムザはその行動に文句をつけようと
したが、向かい合ったとたんに欲望が全身に巡って、アグリアスを正視できなくなってしまった。
この話はそのままうやむやになった。ラムザは死んだ捕虜もムスタディオに頼んで穴に埋めてもらった。死体は見たくなかった。
辺りはすっかり暗くなったが、空が曇っているせいで月明かりも星の光もなかった。ラムザは頑張って二人寝られる程度の大きさの
テントで毛布を被っていた。そろそろ来る頃だ。
「ラムザ、入るぞ」
声がして、ラムザの心臓はドクンと大きく脈打った。また長い夜が始まる。ラムザが返事をする前に、アグリアスはテントに躊躇なく入ってきた。
「それじゃあ、いつも通り……」
アグリアスは毛布の中に入り込んで、ラムザの首に手を回した。蟲惑的なゾーッとする笑みを浮かべる。
「今日も貴様のために体を張ったダークナイト様に御奉仕してくれぬか?」
ラムザの体は理性とは関係なくアグリアスの唇を貪っていた。むせ返るような濃密な血の匂いに頭がボーっとなる。いやらしい水音が
テントの中に響いた。しばらくそうしてからラムザが唇を離すと、アグリアスとの間で唾液が糸を引いた。
ラムザはアグリアスの秘所に指を這わせた。「んッ」と鼻にかかる声を上げる。息が少し荒くなった。
「ラムザ……舐めてくれ」
アグリアスは濡れた瞳でラムザを見つめた。貴族を相手にする高級娼婦もかくやという、男を狂わせる瞳だった。瞳に吸い込まれそうな
感じがして、ラムザは慌てて目を逸らしてうなずいた。
アグリアスを寝かせ、脚を大きく開かせる。乱れたローブの裾から出た白い脚をなでながら、ラムザは太ももの奥のものにたどり着いた。
ローブの裾を崩し、見えるようにしてラムザはアグリアスに舌を這わせた。
「んむッ」
アグリアスは体を震わせて反射的に腰を引くが、ラムザは逃がさないとばかりにアグリアスの腰を抱えてさらに愛撫を加える。アグリアスは
その度に押し殺した鳴き声をあげて体を震わせた。
「どうですか」
ラムザが見上げると、アグリアスは自らの手で豊かな胸を揉みしだき、整った顔を上気させて喘いでいる。ラムザもアグリアスも完全にスイッチ
が入っていた。
「……い、いいぞ。もっと、してくれ……」
ラムザは言われたとおりに再びアグリアスをなめ回し、早くも姿を見せた核をしゃぶった。秘所からはラムザの舌をねだるように滔々と温かい
ものが溢れている。
「ひッ、あぁッあ……んぅ……あ、ああッ、くぅ……ラム、ザ、もっとだ、もッとぉッ!」
アグリアスは普段は出さないような甘い嬌声で懇願した。ラムザはなおもねっとりと愛撫した。さらに舌をそのクレバスに差し入れ、アグリアス
の胎内をわずかながらかき乱す。
アグリアスの肉体は股間から脳を撃つような快楽の信号に支配され、無意識のうちに自らの乳房を揉み、その先端をつねった。ラムザを逃すまいと
いう意識のみが快楽の支配を逃れて、右手にラムザの頭を押さえさせた。
突然頭を押され、ラムザの鼻がアグリアスの核に押し付けられる。と同時に、ラムザの舌がそれまでよりも深くに入り込んだ。
「ふぅッ、あッ、あんッ……ハァ……ぅあッ! あ、――ッ!」
アグリアスは聞こえないほど甲高い悲鳴をあげた。遂に理性が本能に敗れ、アグリアスの脳を閾値を越えた快感が突き抜ける。頭が真っ白になり、
気絶寸前まで追い詰められた。アグリアスの肉体は長いこと悦びに打ち震え、温かな泉から滝のように愛液を流した。
全身が紅潮して元々色白の肌を、ランプのかすかな光でもわかるほどに桃色に染めて、それがまたラムザの獣欲をかき立てる。さらに恍惚とした表情で
絶頂の余韻を愉しんでいるものだから、ラムザはいよいよ我慢がきかない。
「アグリアスさん、いいですよね。もう我慢できない……」
「ラッ、ラムザ、待て今……んぁ、ああッ!」
ラムザは余韻に浸っていたアグリアスに侵入した。アグリアスは待っていたとばかりにラムザに絡みつき、締め上げた。ラムザはアグリアスの中を何度も
往復し、その度に徐々に深くまで入っていった。
アグリアスはもう何も考えられないのか、恥も外聞もなく嬌声を張り上げる。
「ま、待て。んッ、わ、私が上になるッ」
アグリアスは無心に腰を振っているラムザを押し返して、体勢を逆転させた。しりを突き出すようにして腰を上下させ、ラムザのものをしごきあげる。
ラムザはアグリアスの尻や乳房をこね回してアグリアスを味わい、アグリアスの上下運動に合わせて腰を突き上げる。テントに二人の出す淫靡な水音と濃密な
桃色の霧が満ちた。
「ア、アグリアスさんッ……もう……」
ラムザは切なそうな顔でアグリアスを見上げる。アグリアスは濁った眼でラムザを見た。
「いいぞ……んんッ、ハ、ァアッ……たくさん出してくれ。ラムザの精を、私の中にッ」
「うぁ……」
ラムザはまもなく決壊して、アグリアスの中で果てた。アグリアスの中はラムザから精を搾り取るように不気味に蠢いてさらなる射精を促す。
精を吸われるような感覚も、ラムザには異常なまでの射精の快感を増幅させる一助になるばかりだった。いつまでも射精が止まらず、ラムザはいつも少しばかりの
恐怖を味わうが、それすらも快感に変換されていく。
射精の間、アグリアスも絶頂に達したような表情で、子宮に叩きつけられるラムザの精を感じていた。
「ラムザ……もっとくれ。まだ足りないんだ。もっと出して……」
アグリアスはようやく射精が終わろうとしていたところで、またラムザを刺激する。ラムザはすぐにまた膨張し、硬さを取り戻した。アグリアスはラムザに悪魔の
ように笑いかけた。
「ラムザ、今日もその玉の中身を全部吐き出させてやるぞ……」
「アグリアスさん……」
「ラムザ……愛している。私はお前だけのもの、お前は私だけのものだ。誰にも邪魔はさせない……」
ラムザは精が尽きるまで犯されることに恐怖と期待を覚えながら、またアグリアスの体を貪り始めた。
この時は、まさかメンバー全員がアグリアスを止めようとして血祭りに挙げられているなど、夢にも思っていなかった。
<おしまい>