『Un amant d'un ami proche』


月のない夜、星だけが地上を見下ろし秘密を盗み見する。
暗闇の部屋…女の吐息のような声が響く。
「……ふ……う……」
ギシリとベッドが鳴る…時々聞こえる荒い男の呼吸。
喘ぐ女の唇を男の唇が塞ぎ舌を絡め取る。
「………う…パ…」
女の言葉はふたたび男に絡め取られ空間に消えた。
二つの乳房は先ほどから男の大きな力強い手で痛いほど揉まれ続けている。
そこへ男の唇が近づき、乳首の先にぬめった物がふれる感触に女は背筋をふるわせた。
舌は丁寧に乳首の周りをなぞり男の口内へ吸い込まれた乳房は
星明かりの窓の元、男の唾液に汚され光る…

男の手は女の草むらに伸びていきその間を割って中へ侵入しようとする。
女は少し抵抗するそぶりを見せたが、男の強い手はお構いなしに内部へと伸びる。
「あ……あっ」
太い指が女の中をかき回し淫猥な濡れた音を響かせる。
男が指を動かすたびにそこから泉がわき出るが如く透明な蜜がしたたり落ちた。
彼はそこへ顔を近づけ、自分が導き出した女の蜜をその舌で舐め取る。
女の秘所は加えられるざらりとした感覚に刺激されなお一層泉をわき出さす…
「はっ……あ……あっ…あっ…」
女はピチャピチャと猥雑な音が自分の中心で響くたびに恥ずかしさもこみ上げてくる。
しかししだいにその理性は鈍りただ本能だけがしだいに体中を占めてきた。
その熱を帯びた頭の中で、自分の中心に今自分が一番欲しい物が侵入してくるのがわかった。

「あっ……ん!」
何度も自分の中に侵入を許した太く長い異物…男のたくましい体に見合ったそれは
女の細い体を文字通り串刺しのように貫き突き上げていく…
男は自分の物で串刺した女の体を、ひざまずいた腰の高さまで引き上げ
容赦なく突き上げの動きを繰り返していく。
「あう……!……あっ…あっ…あっ」
女の声の間隔がだんだんと短くなり糸を引くような細い悲鳴混じりの音がきこえ出す。
男とつながった女の股の間から、透明な愛液があふれ女の腹の方へと流れていく…
「あっあっあっあっあっ」
男の突き上げる腰の動きが早く激しくなり、女のあえぎもそれに合わせて間断無く発せられる。
女の膣内の収縮が男の性器をちぎれるほど締め上げてきた。
男の方も自分の限界が近づいてきたことがわかった。
「シモ………!」
男は忍耐のたがを外しその太い物から女の中へ白濁した精を吐いた。
その熱い流れは何度か間をおいて放射され、精を受け取る女は体を弓なりにして快楽を味わう。
「ああ……パブロ…」
やがて男の奔流は静まり、部屋には荒い息の音だけが残った。
男は女の体を抱き取りそのまだ喘いでいる唇にからむ口づけをした。
「ジュテーム……シモーヌ……ジュテーム…」


「だめだって、シモーヌ。僕も一緒に行くよ。外はまだ危ないんだ」

「大丈夫よ。子供じゃないんだから。それよりあなたこそ仕事はどうしたの?」

「うーん…出版社の編集長に言わせれば僕の文章はルポの方がいいらしく方針かえるとか」

「それはそうね。冒頭ばかり書いていたり、書き上がったと思えばふざけた官能小説だし…」

「相変わらず手厳しいんだね、シモーヌ。夕べはあんなに…」

ボカッ

「それとこれとは話が別よ。それよりロビィストの方の仕事はどうなの?本業でしょ」

「いててて…それはそうだけど、ラガだか王族派だか混じり合ってわからない状態で活動してもねえ…」

「…王族派の残党も多いわよ…わたしのように裏切り者はことに…」

「シモーヌ…だから僕も一緒について行くと言っているんだよ。…もう裏切り者になっているんなら」

「大丈夫よ。組織はもう機能していない。命令する者もデュシャンが殺した…」

「ブラックのおかげだな…」

「そう…そのあなたの親友を私は殺した…なのになぜ私を殺さないの?」

「シモーヌ!世の中には矛盾した事など恋人同士前には不要なんだよ〜〜〜〜だから〜〜〜♪」

ボカッ

「ふざけないで!もう行くわ、パブロ…ああ、頭が痛くなってきた」

「おお、シモ〜〜ヌ ウヴァテュ〜 ジュテ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ム ケスコンヴァフェールドゥマ〜〜ン

 ……て一緒に住んでいるから変か」


本来なら彼の得意とする行動を行うことしか彼を欺けないだろう…
私はある決心をして久々に彼と会う。
「久方ぶりだな、ウィユヴェール。君の緑の瞳は忘れがたかったよ」
「あなたも相変わらず胡散臭そうでコードネーム通りね、ポワソンリー」
お互い乾いた味も色もない会話を交わす…
「組織が瓦解したなら、もう私たちが会う必要はないはずよ」
「…組織はまた立て直すよ……君も必要だろ?」
私は返事をしない。
この男に下手な演技は通用しないからだ。
「犬と一緒にいるそうだな。サンティールから聞いた」
それはわかっていたことだ。
だからこそこの男とつなぎを取るため泳がせておいたのだ。
「相変わらず匂いをかぎ取るのが上手な男ね…」
「いささかしゃべりすぎるきらいはあるが優秀な男だな」

私は行動に移すため、最も聞きたい質問をぶつけた。
「父も…母も……いつ…殺したの?」
ポワソンリーの瞳が光る。
「アルベルトもマーシアもテロでやられたと聞いたが?」
私は感情を抑えるためにさらに質問を続けた。
「そう?……わたしは革命前に…わたしが組織に入って間なしに死んだと聞いたわ」
「……それは…気の毒だった…」
深呼吸をすると、勝負に出ようと最後の言葉を言った。
「……とにかく、もう私は組織の一員ではないし活動する必要も無くなったわけね」
私は緊張した…ポワソンリーにそろそろ殺気が走り始めている…
「ウィユヴェール…組織の立て直しには犬は邪魔なんだよ」
彼の右手があがる。
私は間髪入れず自分の懐から出した物を彼の心臓の上に突き立てた。
ポワソンリーはゆっくり倒れていく…

「油断…したな…まさか…君…ナイフを……」
「アデュウ…ポワソンリー……」
「犬に…情を…うつしたか……」

その鋭くよく光る瞳はもう鈍くなんの光もない…
そこに倒れているのは、もはや自分にとってはなんの意味もない死体。
私は泣いた…組織の誰に殺されたのかもわからぬ両親と
そして、自分自身が殺さねばならなかった片足の詩人…
わたしの恋人だったブラックのために…


パブロは外から帰ってきたシモーヌの様子が少し変なのを感じ取っていた。
その衣服の袖口に血の跡が着いていたことも…
その夜のシモーヌは激しく彼を求めてきた。本来なら自分の方がより多く彼女に求めるのだが。
「シモーヌ……?…どうしたんだ…何が…」
「お願い…お願いだから……パブロ…!」
男の激しい愛撫を受けながら彼女の緑の瞳から涙があふれていた。
口づけも彼女の方から舌を入れ激しく巻き取ろうとする…
パブロはその激しさに答えてやるために彼女の頭を自分の顔へ引き寄せこちらからも
何度も何度も舌を絡める。
「パブロ……パブロ……」
うわごとのように自分の名前を呼び続けることなど今まで無かった。
ふとパブロは彼女がここまで取り乱すのは、自分の知っている男のことしか無かったのに思い至る。
(ブラック…か…?)
親友だった男…シモーヌを愛して彼女に殺された“片足のカリスマ”…

パブロの胸にいきなり激しい熱い感情が渦巻く。
彼は死んでもなお彼女をとらえて放さない自分の親友に狂うほどの嫉妬心が湧いてきた。
パブロはその怒りをシモーヌの白い体へとぶつける。
格闘家だったその腕の力を考えていつもは少し力を緩めて愛撫を続けていたのだが
その余裕さえなくシモーヌに理不尽なほどの激しい愛撫をくわえる。
「うっ……パブロ…パブロ…ああっ…ああっ!!」
「シモーヌ…シモーヌ…」
彼女の体を後ろから抱き取りその乳房をちぎれそうなほどの力で激しく揉み
パブロはその白い首筋に跡が残るほど吸い付く。
シモーヌも彼の豹変ぶりに気づいてはいたが、ただ何もかも忘れて彼に愛して欲しかった。
パブロはそのたくましい腕で後ろから彼女の両足を持ち上げると
自分の起立した男根の上にシモーヌの体を落とした。
「あうっ!!」
いつもはじっくりとその秘所に愛撫を加え濡れてから自分の物の挿入を果たす
パブロのやり方にしては、あまりに乱暴すぎる。
しかもそのまま彼は激しく突き上げ始めた。
まだ十分濡れていなかったシモーヌは痛さにまた涙が湧いてきた。

「……ひどい……どうして…」
こんな男ではなかったはずだ。たとえふざけたところがあっても女に…自分に
人も無げな振る舞いはしない男である。
「……ひどいのは…どっちなんだ……」
怒りを秘めた暗い言い方はシモーヌが始めて聞くパブロの声色だった。
そのパブロの怒りの原因もわからず彼女は体の中心に激しい突きを加えられ続ける。
始めは痛みがあった自分の中も、パブロの攻撃に濡れてゆき熱い快楽が湧いてくる。
「あっあっ……パブロ……パブロ!」
パブロも怒りと欲望でますます彼女に激しい挿入を繰り返し彼女の中で成長していく…
その抽送がままならなくなったときシモーヌの中が収縮した。
パブロはこらえていた自分の精を彼女の中に遠慮無く吐き出した。
その激しい流れを中に受けながらシモーヌは気を失った…


気づいたときはまだ夜中だった。
ふととなりに目をやるとパブロがこっちを見ているのに気づく。
「……すまなかった…」
パブロの目はまだ暗い。なぜあんなに怒っていたのか見当がつかなかった。
「私……なにか…あなたに…」
パブロはこの男らしくなく言いよどんでいた。
「……君は……まだ…ブラックを忘れられないのか?」
意外な言葉に驚くとともにパブロの怒りの原因がわかった。
「自分が殺した人間を忘れようにも……」
そのつもりはなかったのだが、シモーヌの瞳から涙が落ちた。
昼間ポワソンリーを殺してから封じ込めていた感情が色々あふれてきたようだ。
泣く彼女をパブロは抱きしめる…今度は優しく…
「すまない…シモーヌ…ジュテーム…愛している…」
「パブロ……!」
シモーヌは言いたかったがその言葉だけは封じた。
封じなければ…ブラックに申し訳なかったからだ。


「どうしたね、パブロ君?今日は元気がないようだね!」

「あなたは元気そうですね…編集長…(小声)鬱陶しいぐらいに…」

「出版社の編集長は元気でなければ部下のやる気が出ないからね。はははははは!」

「…はあ…そんなもんですか」

「君にも新しい部署の部長を務めてもらうんだからその辺は心得てもらわないとね。

 …おおかた一緒にいるあの美人の彼女と喧嘩でもしたんだろう?うん?この、この♪」
「…はい?新しい部署〜〜〜?なんかドキュメンタリーかルポルタージュでも書くのかと思っていたんですが」

「もちろん君のお得意のアポなし突撃取材で記事を書いてもらうんだ。とーーーーっても公平にね」

「ええと…編集長、なんかお話の全体がよく見えてこないんですが」

「ラガ派も王族派もなく公平な立場で現在のこの国の腐敗と汚職を暴くんだ!!その記事を
 パブロ君、きみに毎日書いてもらう!!」

「ま ま ま 毎日〜〜〜〜〜!?僕を殺す気ですか!!」

「死んでくれ!!」

「いやです!!」

「いや、毎日というのはいずれは…てことなんだけどね。軌道に乗るのは何年も後だろうな
 始めは事件があるごとに記事を書いていけばいい。その記事を載せた紙を売るんだ…公平な情報としてね
 それで客が付くようになったら定期購読で契約を取る…我が社は安定した収入を!」


「ちょっと待ってくださいって。いうは簡単ですが、それって大変なことですよ?
 定期的に公平な情報なんてこの国じゃめちゃくちゃ無茶な話なんですけど」

「もちろんわかっているさ。何年もかかる企画だ。君にも何人か部下をつける……そうそう
 君の彼女も雇ったらどうだい?出版社にも女っ気が欲しい。あんな美人なら…」

「シモーヌは見せ物じゃないです。お断りします。…はあ…」

「やっぱり喧嘩だな。そんなときはプレゼント責めでいけ!女房もそうやって…」

「ええと、それじゃあ取りあえず明日にでも取材にいってきますよ。それじゃ」

「プレゼントだぞ!花とかお菓子とか〜!」

バタン

「……あの編集長、企画「だけ」はいいんだけど…よく倒れるんだよな…はあ…」


サンティールからの接触がない…
シモーヌはポワソンリーの死亡の確認がとれたなら必ず彼からの接触があると思いこんでいた。
そもそもあのふたりに統括者と部下という意識はあったのだろうか?
おしゃべりだが、腹の中では何を考えているのかわからない「元」自分の監視人…
組織のトップがデュシャンに殺されてから、王族派情報部がどのようになったのか
シモーヌ自身にも掴みきれていない。
パブロに付いていた監視人ジュメル…彼だけはラガ派のテロに巻き込まれて死んだのを確認している。
それだけはパブロにとって(シモーヌ自身にとっても)幸いだった。
(遅いわ…)
パブロが帰ってこない。
夕べのことがあるので、多分パブあたりで飲んでいるのかも知れない…
それならばいいが、もしも…
シモーヌは最悪の想像をして、その場にいても立ってもいられなくなる。
コートを着込むとシモーヌは夜の街へと飛び出していった。


*     *     *     *     *     *


「シモーヌ…ごめんよ、遅くなっちゃって……あれ?」
部屋には誰もいない。窓だけが開いて夜風が吹き込んでいる。
「やれやれ…用心深い割には戸締まりはよく忘れているんだよな」
窓を閉めようとして、ふと、夜風の流れが変わった気がした。
カーテンの影から男の姿が現れる。
「お前は…!」
見知った顔だ。記憶をなくしてたとき何度かシモーヌとパブで話していた男だ。
「やあ、パブロ君。久しぶり…相変わらず図体通り元気そうだね。ウィユとよろしくやっている?」
「確か……サンティール…とか」
彼――サンティールは笑った。しかし目だけは笑わず油断無くそらさない。
「ウィユヴェールは全部君に話しているようだね。困るなあ〜組織を裏切っちゃ」
軽口の中に韜晦しているが、彼の言い方は何か背筋を寒くさせる力がある。
「お前……まだ組織だとか世迷い言を言っているのか……?」
パブロの体中が緊張する。
「ふふん……そちらのラガだってあちらこちらで権力闘争中だよね?似たようなもんじゃない」
「僕はもう……ラガでもなんでもない…ただのしがない物書きだ」
サンティールからふざけた調子が剥がれる。
「だけど君は人気者だ。格闘家チャンピオンだった過去……王族派の内部を暴露したあの記事…
 …そうそう、一番お見事だったのはこちらのスパイだったブラックを寝返らせた事だよね。
 しかもブラックの恋人だったウィユまで虜にしたりして。ベッドでどんな手管を使ったのか
 今度教えて欲しいもんだ。……彼女は仲間の誰にも落ちなかった氷の女だったのにさあ」
「下卑た事を!」
「確かにね……彼女も組織に父親と母親殺害されているのを知ってから王族派のために働くのを
 やめたんだし…そう言う点では君たちは似たもの同士かもね」
パブロの始めて聞く話である。
「殺された…だと…?」
「君も知っていただろう?ブラックもウィユも家族を人質に取られていた…ブラックにとっての
 一番の足枷だったのはウィユ自身だったけど」
「その……彼女の両親の話は…最近のことなのか?」
「わかったのはそのようだけど、両親が殺されていたのはウィユが組織に入って間無しだったそうだよ…」
あの夜、彼女があれほど取り乱していたのは…
「おしゃべりしすぎたな……君には他人が許してしまう何かがあるらしい」
サンティールは珍しく苦笑いをしたが、それは次の一瞬で消えてしまった。
彼の瞳に冷たい光が宿る。その手には拳銃が握られていた。
パブロの全身の筋肉が緊張する…
「もっと話したかったんだけどね…そろそろ僕も帰りたくなってきたんで」


シモーヌはアパートに戻る足を急がせていた。
行きつけのパブにも出版社にも彼――パブロの姿はなかった。
編集長は「多分…どこかの店によって帰るんじゃないの?」と言うことである。
それならば彼女には見当が付かない。
しかし編集長の「就職考えてね〜♪」とはどういう事だろうか?
行き違いになって今頃は部屋に戻っているかも知れない…
自分のらしくない軽率さに歯がみしながら、シモーヌはアパートに戻ることにした。
アパートの部屋の明かりが見えてきた。
パブロが戻っているようだ。

その時銃声が聞こえた。

シモーヌの全身の血が凍り付く。
脳裏に血まみれのパブロの映像がよぎっていく…


サンティールが放ったスリング弾はアパートの天井に命中して硝煙がたちこめている。
彼の手首は一瞬早くパブロの手にはじかれ、弾はあさっての方向を突き破った。
間髪入れずにパブロは彼に回し蹴りをおみまいして、サンティールの体は部屋の窓の下に吹っ飛んだ。
「いってててて……さすが…元チャンピオン…伊達じゃないね…っう!」
「出て行け!さもないと…」
パブロの目はサンティールを見据え威圧する。
「いいのかい?…まあ出て行くけどね。…おっと、キレイなお姉さんが戻ってきたようだ」
パブロは一瞬気がゆるむ。
その隙を突いてサンティールは窓の枠に手をかけ身をその夜風の中に躍らせる。
パブロは慌てて窓に駆け寄った。
「シモーヌ!!」
窓の下に彼女のはちみつ色の髪が見えた。
シモーヌは前から来る男に身構える。
「サンティール……!」
「やあ、ウィユヴェール。相変わらずきれいだね。ちょっとお邪魔していたよ。アビヤント」
彼は軽口叩きながら闇の中に消えていく…シモーヌは懐の中のナイフを収めた。
窓の下から彼女は部屋の窓を見上げる。
中にいるパブロの心配そうな瞳と視線があった。
シモーヌは全身の力が抜けていくのを感じていた…


シモーヌがコートを脱ぎ席に着くまでパブロは彼女の所作を見守っていた。
ふたりともテーブルの席に着くと同時に口を開いた。
「こんな遅くまでどこへ行っていたんだ!」
「連絡のひとつもくれないでどこへ行っていたの!」
同じような怒りの言葉が出る。
またしばらく沈黙が続いた…
先にパブロが口を開いた。
「彼から……ご両親の話を聞いたよ……お気の毒だった……」
シモーヌの全身が緊張していくのが見て取れた。
「……組織が…崩れてから…真っ先に調べたの……私の親たちもブラックの家族も…組織にはいるとともに全て……」
彼女の緑色の瞳から涙が落ちる。
「だから……あなたの親友を…ブラックを殺す必要も意味もなかった……なんのために…」
なんのために自分を愛してくれた男を殺さねばならなかったのか。
シモーヌの全身が崩れ落ちる。その彼女をパブロは抱き留める。
「愛した君をこの世に生かすためだよ…」
そのままパブロはシモーヌとベッドへ倒れ込んだ。


強い愛撫ではあるが前の日ほどの理不尽さはない。
シモーヌはパブロと息苦しいほどの口づけを繰り返しながら自分の乳房に施される
彼の手の動きをそう感じていた。
「うっ…ん……パブ…ロ…」
音を立てて舌を巻き上げる音…離れてはふさがれる自分の唇…パブロの唾液が送り込まれ
それをシモーヌは何度も飲み下す…
パブロは彼女の白い乳房を揉みながら掴みその舌でぬめぬめと湿った動きを乳首に送る。
「パブロ…もう…片方…も…」
「わかっているよ…」
その舌を胸の谷間から這わしながら離さずもう片方の乳房へと舌の動きは移る。
「う…ん……あ…あ…」
パブロの舌の動きが活発になるたびに彼女の体は弓なりに反る。
彼の唇はシモーヌの乳房を離れ再び彼女と絡み合うぬめった口づけを交わし合う。
その彼の手が今度は彼女の茂みの中へと入っていく…
パブロの手は格闘家らしく大きくその指は太い。
その指で二三度かき回されるだけで、シモーヌの秘所は刺激され愛液をしたたらせる。
「あっ…あっ…あっ…」
秘所をなぶられ、舌を絡まされ、息苦しいほどのパブロの愛撫にシモーヌの腰の動きは
自然とゆるやかに旋回するように動き出す。

パブロはいきり立った自分の物を濡れた彼女の中へと挿入しようとするが
「まだ……だめ……わたしが…」
シモーヌは彼を押しとどめて、パブロの下半身のその逞しい物へと顔を寄せる。
「シモーヌ…いいのか?」
シモーヌはうなずくと、彼のその起立した逞しい物を口内へと運ぶ。
舌を這わせ何度もその長い男根に口づけする。
根元の二つの睾丸にも彼女はその長い舌で巻き取るように舐める。
「だめだ……それ…以上…」
しかしシモーヌはその唇を離さずふたたび竿の方をその口内に収め舌を動かす。
「…出そうだ…いいか…?」
シモーヌはうなずく。
彼女の舌がそのまま何度か動くとパブロの息が荒くなりそのまま彼は弾けた…
「くっ…!」
パブロの奔流はシモーヌの口内を襲い、彼女はその流れを飲み下した。
その男根を口から外すと彼女はベッドへと倒れ込む。
まだいきりたち白い精液をしたたらせている自分の物を今度は彼女の濡れた秘所へと突き立てる。
そのままパブロは腰を突き上げ始めた。
「あん……パブロ…ああっ…ああっ…!」
先ほど彼女の口内で放った物がたまり始めている…抽送を繰り返し
彼女の内部で再び彼の物が成長していくのをシモーヌは感じている。
パブロの太く長いもので何度も刺激されシモーヌの内壁は彼の物を締め上げてきた。
「ああっ!シモーヌ…!」
彼の物は限界まで到達し、今度はシモーヌの飢えた内側に精を放射しまき散らす…
「パブ……ロ……!」
ふたりとも同時に果て、闇と静寂が部屋をおとずれた。


外の暗闇がだんだん青くなってそのなかに夜明けの金色が混じり始めた頃
パブロの自分をなでる手でシモーヌはゆっくりと目を開ける。
「まだだよ。もう少し寝た方がいい…」
シモーヌは彼の広い懐に潜り込んだ。
自分をなでる彼の手が心地いい…ふと気づいて彼女はパブロに聞いてみる。
「昨日はどこへ行っていたの…?」
パブロは苦笑いしながらテーブルの上を指さした。
そこには少ししおれた花の小さなブーケと緑のリボンをかけた箱…
「もう、花の方はダメかもな……箱の中身は大丈夫。開けてごらん」
シモーヌが箱を開けると中には甘い香りを放つショコラの詰め合わせ。
「これ…?」
「ガラにもないことするもんじゃないよ。ショコラなんてこのご時世じゃ作っているところなくて」
「私のために…?」
パブロはうなずき笑う…
シモーヌはひとつ取り、口の中へショコラを運ぶ。甘さが広がり滲むようだ。
「甘い……美味しい…」
社会の混乱の中、物資の確保さえままならぬ今の時代にはショコラは贅沢品である。
この大きな男が自分のために買い物をする姿を想像してシモーヌは自然に笑みがこぼれる。
「やれやれ……探し回った甲斐があったな」
「ありがとう…パブロ…ありが……」
シモーヌの言葉はそこできれた。
彼女はその白い指で口元を覆い全身をふるわせて嗚咽していた。
パブロはその体を引き寄せ自分の胸の中に抱き取った。
彼女が流す涙をパブロはその唇で吸い取ってやる…
「君はよく泣くようになった…いいことだよ…きっと…」
封じ込めていた感情を吐露できるようになってきたのは多分パブロのおかげだろう。
ブラックでもあり得なかった。
部屋の中が明るくなってきた。
青い雲間に橙色の光が混じり始めている。


久々に取材だと言って政府関係者の集まる施設に行くというパブロにシモーヌは不安を訴える。
「王族派の残党はあなたを快く思っていないもの」
「ラガの方もだよ。自分たちに都合のいいように書いてくれないと何度文句言われたことか」
パブロが雑誌に載せる記事はだから民衆の間では評判が高い。
冷静な分析とラガにも王族にも偏らない立場を貫く彼の記事目当てで雑誌を買う者も多い。
「ロビィストとして行くんじゃないんだから…まあ、煙たがられるぐらいはあるけど」
「もうすぐ2回目の選挙なんでしょ?なんだかざわついたり殺気だったりしているわ」
「まあ……今度も…あんまり期待は…どっちの陣営も自分たちのこと棚に上げて
 相手の汚職やら腐敗やら追及するとか言っているけどねえ…あんなこといっているだけじゃ
 だめだな。…そうそう、どちら側でもない勢力も出来てきているよ。まあどこまで食い込めるかだな」
勢力闘争を一気に打開するのには強いカリスマ性をもつ人物でも出てこないとダメだろう。
「ブラックなら……こんなとき…」
ポツリとつぶやいたシモーヌの言葉にパブロはちょっと不意を突かれる。
「……そうだな……彼の言葉は静かだけど説得力があって強かった…」
そのパブロにシモーヌは微笑みながら言う。
「ねえ……もしかして…妬いている?」
またもや不意を突かれて今度は思いっきりうろたえるパブロ。
「な…な…や…妬いてなんか……ひどいな、シモーヌ。いくらなんでもそこまで」
末尾の言葉を誤魔化しパブロはふと思いついたことを口にする。
「……彼は……もしや…君のことを…」
「なに?ブラックのこと?」
シモーヌはパブロの思考とは見当違いの人物のことを言う。
自分のことは本当に気づいていないんだなとパブロは思ったがその言葉は飲み込んだ。
「いや、いいよ。それじゃあ出かけるか…あそこは空気悪くて気が重いよ」
「気をつけてよ…パブロ…」
シモーヌはパブロに心配げに念押しした。


「だから!王族派のバカ共が特権意識を捨てないから腐敗と汚染が進むんだ!なあ、パブロ君!」
「バカとはなんだ、バカとはー!きさまらラガもせこい裏工作ばかりするしか能がないくせに!そうだろパブロ!」
「……はいはい。聞いていますからーもうちょっとボリューム下げてもらって結構ですよー耳痛いし…」
パブロはがなり立てるラガ派と王族派の幹部達の話に辟易しながらあたりを回っている。
時々ゲホゲホと咳き込むのは部屋中に葉巻の煙が漂っているからだ。
以前パブロが葉巻をやろうとすると、シモーヌが断固反対して却下させられた。
彼女によると「あんな煙だけのもの体にいいわけがない」かららしい…
(いい嫁さんになるよな…)
自然と口元が緩んでいくのをパブロ自身は気づいていない。
そのパブロを冷たい瞳で見つめ続けている男がいるのも、彼は知るよしもなかった。

パブロが出て行ってからシモーヌは胸騒ぎを覚えて仕方がなかった。
サンティールが自分でなく、なぜパブロを襲ったのかよくわからなかった。
彼を殺してなんの意味があるのだろう?口封じ?
今さら意味がない…すでに暴露記事は巷に広まった話である。
それに対する復讐とか考えるような男でもないのだが…
それでは彼はそこまで王族派に忠誠を誓っているのかと言えばそうではない。
彼には人質になるような家族はいないはずだし、彼によれば
「いつでも王族派なんかやめることができるし金になるならラガでもかまわない」
と言い放っていたことがある。
瓦解した情報部からの命令など無いはずだし…
考えても仕方ないのでシモーヌは取りあえず出かけることにする。
その懐にポワソンリーを殺したナイフを隠し持って…

パブロは手にした取材用のメモを見ながらため息をつく。
(この分じゃ王族派は議席の大部分失いそうだな…かといって今のラガでは…)
地道にやっている中道派に好感は持てるのだが、いかんせん知名度が悲しいぐらいに低い。
もう一度ため息をついてふと遠くの柱の影にいる男と目があった。
(サンティール…!)
彼は懐から拳銃を取り出しゆっくりとパブロに狙いをつけた。
パブロの全身が凍る…


パブロのいる政府施設に着いたシモーヌは人混みの中にパブロを見つける。
しかし彼の様子がおかしい。
その視線はある一点を見つめて動かない。
パブロの視線をたぐった先にある人物を認めてシモーヌの心臓が鋼を打つ。
「サン……!」
そこからはスローモーションで全てが行われていく気がした…
拳銃をパブロにむけスリング弾を発射するサンティール。
その弾がパブロの胸部の真ん中に命中する…
シモーヌはナイフを投げそのナイフはサンティールの頸部に命中する…
サンティールは血を吹き出しその場に倒れる。
パブロの大きな体もゆっくりと倒れていくのが見えた…

「パブローーーーーっ!!!」

「担架をもってこい!モンシェール・パブロが撃たれた!!」
「誰か、医療の心得のあるのはいないのか!?」
その場は人混みと騒ぎでパニックになった。
シモーヌはパブロに駆け寄り叫び続ける。
「パブロ!パブロ!!しっかりして、目を開けて!!」
全身血まみれのパブロはゆっくり目を開けた……しかしその瞳に生気はない…
「……や…あ…シモー……ヌ……来たのか…い…」
「しっかりしてよ……死なないで…死なないでよ…パブロ…」
彼女のその緑の瞳から涙がこぼれ落ちていく。
「……死なないよ……だから…結婚してくれ…シモーヌ…愛しているよ…ジュ…テー…」
その血だらけの手をシモーヌの方へと持って行く。
シモーヌはその手を握りしめ涙ながらに訴え続ける。
「愛しているわ!……愛している…パブロ!結婚する。だから死なないで…死なないでパブロ!!」
「やっと…言って…くれ…た……」
握りしめていたパブロの手から力が抜けた。
彼の呼吸がだんだん浅くなっていく…
「いやあぁぁぁ!パブロ…パブローーーーーー!!」


「ほっほう、これが記事だな。いやー原稿に穴を開けなくてすんだよ。さすが不死身の突撃隊長!」
「なんですか、そりゃ」
太った編集長は全身に喜びを表せてその体を揺する。
「うん?いつもの汚い字じゃないな……なんて優雅な美しい字なんだ」
「ありがとうございます。わたしが口述筆記しましたので…」
そう話すのは、はちみつ色の髪と緑の瞳を持つ美しい女。
「いや〜字は人を表すとは言うのは本当だね。いつものミミズののたくったような字とは月とスッポン…
 どうだね、我が社で一緒に働かないかね?」
「…編集長…もう帰ったらどうです?」
ベッドの上で上半身だけを起きあげている男は、不機嫌に自分の上司の帰還を促す。
「そうそう、時間が迫っているんだった。それではパブロ隊長。無事に生還おめでとう!はっはっはっは!」
その体を豪快に揺すりながら編集長は病室から帰っていった。
パブロは額を抑えながらこれみよがしな大きなため息をついた。
「…何が…突撃隊長だよ…」
「それでもあなたのこととっても心配してくれていたのよ」
「心配してくれなきゃ、取材して撃たれた甲斐もない」
シモーヌはつくづくよく助かったと思う。
パブロの鍛え上げた筋肉がスリング弾の侵入を食い止める形になった。
出血はひどかったが、結局たいした手術もせず弾を摘出することが出来た。
「サンティールは?」
「……死んだわ……」
サンティールは頸動脈からの大量出血で死んでいた。それはシモーヌが遺体との対面で確認している。
「君は…知っていたかい?……彼が君のことを…」
「……わからないわ…」
何年も一緒に活動していた元仲間ではある。
任務の遂行と疑心暗鬼の中、彼がシモーヌ自身に特別な感情を抱いていたと言われても
もはやそれを確認することもできない。
ただ彼の死に顔はあまりにも安らかであった。
それは王族派という枷から解放されたことによるのか
愛した女の手によって引導を渡してもらったことによるのかどうか…
今は神のみぞ知ることになってしまった。


「それで、結婚式はいつにしようか?」
パブロは上機嫌でシモーヌに問う。
「ずるいわ……あんな状況でプロボーズだなんて…」
シモーヌにしても色々なシチュエーションを思い描いていたところでの突然の申し込みである。
しかもあれほど禁忌にしていたパブロへの愛の言葉もあっけないほど解放してしまった。
「どうかしらね。あなたって考えていたより焼きもち妬きだし…“親友の恋人”の過去は消せないのだし
 ……そうそう編集長が私の就職誘ってくれているのに、あなた一人が反対しているのですって?」
「うっ…」
痛いところを突かれて言葉に詰まったパブロは反撃の糸口を懸命にたどる。
「なんで自分の恋人をあんなむさ苦しい男共しかいない処へ放り込まなきゃいけないんだよ。反対、絶対反対!」
シモーヌはホッとため息をつく。
「やっぱり嫉妬深いのねえ…もうちょっと考えた方がいいかしら?」
パブロは最早大きな駄々っ子である。
「どーせ、嫉妬深いですよ。死んだ親友にも焼きもち妬く心の小さい男ですよーだ」
シモーヌは体をしなやかに寄せてパブロの胸の中に潜り込んだ。
「……それでも…仕方ないわね…好きになってしまったんだから。あなたのいいようにして、パブロ」
突然のシモーヌのすりよりに、パブロは心の準備もなくうろたえる。
「えっ…いいの?それじゃあ明日!…はさすがに無理か…」
「とりあえず、体を治さなきゃね。…パブロ…」
シモーヌの目が閉じる……それは口づけを求める彼女のしるしだ。 彼女の体を抱き寄せその唇を何度も重ねて貪り合う…
「ちょっ…ちょっとパブロ…!…まだあなたケガ…ていうか…ここ病院よ?」
「もう大丈夫だよ……それより…欲しいんだ…がまんできない…」
今度はシモーヌがうろたえる。
「やっと捕まえたんだ…ジュテーム…シモーヌ…僕のシモーヌ」
「もう……ジュテーム…パブロ…わたしのひと…」


「あのー…どうしましょうか……?ムッシュ・パブロのお薬の時間なんですけど…」

「う〜〜〜む…仕方ない。今行くのは野暮だよ。…こっちの方が最良の薬だし」

「はあ…」

「邪魔者は立ち去ろう…あっ君、ちゃんと札をかけておいてくれ」

「はいはい。あれですね」


病室にかかった札は…



            【取り込み中につき面会謝絶】







なお、パブロが部長となる出版社の一部門として始まった社会の事件や腐敗を暴く雑誌の記事欄は
その後独立し、定期に刊行する形態を経てこの国初の新聞紙『La Statue de Liberte』を発行することになる。

この新聞の発行には部長の美しい妻の多大なる貢献があったことも言い添えなければいけない。




前回の後書きでマリア・ノボセリックの話になると言っていたのに
ふたたびシモーヌとパブロの話になって誠に申し訳ない。
あれから方々から新しい資料だの新しい発見だのが相次いだため、また彼らの話を書きたくなったもので。
一番驚いたのは我が国の新聞の発行創始者に、パブロの名前と元ラガの活動家だったと言う記述を見つけた事であろう。
これが本物ならあの本の記述との一致を見たことになる。
そんなわけで、前回かなり…というかほとんど受動的な立場だったパブロに今度はかなりの活躍をさせてみたつもりである。
なお今回の話には風紀に厳しいご婦人方から刃物でも送られてきそうな記述をかなりの量いれてみたが
……どうか送らないでいただきたい。
新発見の話題でこの本も私もなにかと世間に議論されているのだが、私としてはパブロもシモーヌも
結構幸せになったのではないかと思う。
この本が大甘のハッピーエンドになったのはそういうわけである。
訳者の親心というか作者の妄想ともいうべきか。

当分本来の専門の基数論の本を書くことになりそうだが
またこの本、『ウィユヴェール』に関しての物語を書く機会(実はまた依頼がきているのだが)あり
読んでみたいと思われる奇特な読者の方々がおられるのであれば
ふたたび性懲りもなく書くことがあるのかも知れないので
そのときはご容赦願いたいと思います。
前回同様、不慣れな文章でしたが、ご意見、ご感想をいただければ
<筆者も幸いに思います。

990年天秤の月17日 ふたたび教会の見える自宅にて
     カイィ“カボチャ叩き”モンテスト