「そうだ、雷蔵、いいもの見せてやるぞー」
「今度は何?」
水着の写真集を見せられた前科があるので警戒した声で聞き返すと、三郎はニヤッと笑みを浮かべて、それを取り出した。
「アルバム?」
四角くて、少し大きめのアルバム集だ。
表紙が黄ばんでいるので年季も入っているみたいだ。
「あぁ、借りてきたんだ。ほら、可愛いだろ!?」
バッと中身を開いて見せられたそれに雷蔵は眉根を寄せた。
そこに映っていたのは、小さな女の子だった。
丁度、入園式なのか黄色い帽子と少し大きめの群青色の服を身にまとって校門の前で恥ずかしそうに立っている。その容貌に物凄く見覚えがあった。
「……三郎、聞きたくないけど、誰に借りてきたんだ?」
「のお母さん! いやー、すっごくいい人でさぁ。娘をよろしくお願いしますって言われちゃった☆」
やっぱりか! ドコから突っ込めばいいのか。アルバムを貸して欲しいと頼んだ三郎の根性にか。それとも、快く娘の成長アルバムを貸してくれた彼女の母親にか。
全部に突っ込んでやりたい。
「で、こっちが、幼稚園での出し物で小人役した時の奴。うん、手がもみじみたいだ。可愛いなぁ」
アルバムを捲って行く三郎は嬉々として、その表情も物凄くだらしなく緩んでいる。
友達として粛正してやるべきじゃないだろうか。確かに写真の中の彼女は過去の彼女の姿で現在の姿ではない。だとしても、それを見つめる三郎の目は、なんというか危なく見える。本当にやばい人だ。
「でも、やっぱり、一番いいのはこれだよな!」
「っ」
そう告げて見開きのページをこちらに見せてきた。その中にいたのは幼い彼女の姿。たぶん、小学生くらいだと思う。けど、すごく嬉しそうに笑っている。満面の笑みという奴だ。
自然と僕の頬が赤くなっていくのが分かった。不覚にもそんな彼女の姿が可愛いと思ってしまったのだ。逸らさなきゃと思ったのに気持ちは正直で目が離せなかった。
「……おんやぁ、らいぞうくーん、顔が赤いですよ〜?」
「あ、赤くないよ! それよりも早く返して来いよ! さんにバレて怒られても知らないからな!」
赤くなった頬を誤魔化すように、僕は視線をなんとか逸らして畳み掛けるように三郎に言葉を投げた。
すると、つまらなそうに舌打ちしてアルバムを閉じた。いそいそと鞄に仕舞い直すのを見て、ホッと安堵のため息を漏らした。
「あ、そうだ」
そして、また何かを思い出したのか、ごそごそと鞄を漁りだした。
出てきたのは、三郎の手帳だった。その中に挟んでいた何かを取り出す。
「これ、貰っちゃった☆ いいだろー?」
「なっ!」
その中に映っていたのは、先ほどから話題に上がっているさんだった。
けど、アルバムの中のように小さくない。ごく最近撮られたものだというのが分かった。
「ちょ、それ、どうしたんだよ!?」
「のお母さんがくれたー」
何やってるんですか、さんのお母さん!!
三郎になんかあげたら危ない事になる。だって、写真の中の彼女は目を瞑っているのだ。つまり、寝顔。カメラマンの腕がいいのかアングルが凄くいい感じになっている。
「……返して来い」
「えー? 貰いもんだから、いいだろう?」
「いいから!」
「あー、なるほど」
何か自己納得したのか大きく首を縦に振る三郎は、手帳から別の写真を取り出した。
「実は、もう一枚あるんだよなー、別アングルの奴」
「!?」
「ほしい?」
「そ、そんなの」
ニヤニヤと笑っている三郎に、僕は、視線を彷徨わせた。
裏を向けたまま、中身を見せないので、気になる。いや、けど、それじゃあ僕も三郎と同類になってしまう。でも、見たい気もする。
「どうする?」
ど、どうしよう……!
理性と本能の狭間に揺れながら、僕が今までにないほど盛大に悩みだしたのは、言うまでもない。
究極の選択