| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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06 未来のお嫁さま
] 「はぁあ…」 珍しく、平時にゲゲゲハウスを訪れた猫娘が、小さくため息をつく。 極楽極楽とばかりに湯舟(in茶碗)を楽しんでいた目玉のおやじと、その小さくも存在の大きな背を流していた鬼太郎が顔を上げた。 「どうしたんじゃ。そんなつまらない顔をして」 「うん。今日の猫娘はおかしいね。元気ないし…」 不思議そうに顔を見合わせる二人をみて、またひとつため息をもらした。 「…いいなぁ」 「?」 鬼太郎なりに考えて、「あぁ」と答えを出す。 「お風呂に入りたいの? この茶碗じゃあ…ちょっと、狭すぎるかな」 「おぉ。そういえば地獄温泉もそろそろ解禁じゃ。ちぃっとばかし赤鬼青鬼で混みあっているが、あの温泉はいいぞう」 「みんなで行ってみましょうか」 トントンと話を進めていく親子の姿に、猫娘は肩を落とす。 「…行ってきたら? 親子水いらずで…」 「?」 また、おかしなことを言う。鬼太郎は首を傾げた。 「私、お留守番しているわ。安心して」 「え? ちょっと待ってよ。僕は…」 猫娘が温泉に行きたいのかと思って。 そして、温泉に一緒に入りたいと思って。 いろいろと、鼻の下が伸びるようなことまで考えてしまったから、鬼太郎は口ごもった。 「いいね、鬼太郎は。オヤジ様がそばにいて…」 「え…あぁ、うん」 「家族っていいよね。羨ましいな」 その言葉とは裏腹に、哀しく微笑んだ。 ───猫娘には、親の記憶がない。それは遠い遠い昔、まだただの猫であった頃に生き別れてしまったのだろう。 化け猫になってからというもの、かつての記憶は霧がかったように曖昧だけれど。断片的に思い出せる。 あの温もり。あの安心感。 母猫の胸で眠る時、猫娘は心の底から安らかで満ち足りた気持ちでいられた。 今も、砂かけばばあが母親代わりのようなものだけれど。やはり、実の親とは違う。 違う…と、思ってはならないと思うけれど。それでも、やっぱりこうして二人の親子関係を目の当たりにしていると、心の中にぽっかりと空いた穴が気にかかる。 「???」 猫娘の表情で何を考えているのかは分かったけれど、鬼太郎は首を傾げるばかりだった。 だって。 「僕たちだって家族じゃないか」 「…え?」 「約束だけじゃ、足りない?」 今度は猫娘の方が首を傾げてしまう。 約束……。一体何のことなのだろう。 「猫娘は…本当に忘れっぽいよね」 「そぅお…? ねえ、何の約束?」 「ああ…」 そういえば。言葉で交わした約束ではなかったことに気付く。 今更言うほどのことでもないと、つい先延ばしにしていた。 「ごめん。僕の勘違いだったの…かな」 茶碗風呂の湯加減を整えて、濡れた手を拭う。 「鬼太郎が、勘違い?」 「うん。あのさ、猫娘は僕のお嫁さんになるんだよねえ?」 「………」 「だから、家族だと思ってたんだけど…。違うの?」 当然のように、言う。事実、鬼太郎にとっては当然のことだった。 絶対の自信をもっているから、まさか否定されるとも思っていない。 俯いて、黙りこんでしまった猫娘をしげしげと眺める。 「これ、鬼太郎。そんなぞんざいな『ぷろぽうず』があるか」 「え? ごめんなさい、父さん。やはり何か手続きや手順があるものなのでしょうか…」 「うむ。それは人それぞれ…いや、妖怪それぞれ千差万別じゃがのう。例えばわしがお前の母さんに婚約を願い出たときなどは…」 頬(?)を赤らめながら、母との思い出を思い浮かべている。 けれどそれはあんまりに真っ赤だから、いい湯加減で、のぼせ始めているのかもしれない。 ごくごく真剣に話を進めている二人の前で、猫娘はふるふると肩を震わせて黙り込むばかりだ。 ふと気付いて、鬼太郎が声をかける。 「あれ? ど、どうした…の?」 「き…鬼太郎の……」 「僕、の?」 すうっと息を吸って、缶切り声をあげた。 「イカレポンチのコンコンチキー! オタンチン!」 「え…えぇ? どうして…」 その顔は真っ赤に上気していた。言葉とは裏腹に、自分を大好きだと言っているようにしか聞こえない。 「もう、知らないっ!」 「え…。あぁ待ってよ猫娘。温泉へは…」 呼び止めるのも叶わず、猫娘はさっさと部屋を出て行ってしまった。 「行かない…の?」 肩をがっくりと落として、鬼太郎がため息をつく。ため息までもうつってしまった。 「…お前は存外に無神経なんじゃ」 「そう、ですか…」 「そんなにがっかりすることはない。脈があるから反応するのじゃ」 憔悴した鬼太郎を気遣って助言する。が…… 「はい。それはそうですよ。だって、猫娘は僕のこと好きなんですし…」 「………」 息子は大層な自信家に育っていた。 それを頼もしく思うべきか、たしなめるべきか。目玉のおやじは腕を組んで考え込んでいた。 妖怪池のほとり。鬼太郎の家から駆け出してきた猫娘は、池の水面に小石を投げていた。 うまく水面を走らない。こんな時は何をやってもうまくいかない。 「……お嫁さん…か」 鬼太郎のいう『約束』ならば伝わっている。けれどそれは… ───大きくなったら、お嫁さんになってね─── だからまた、ため息がもれる。 「大きくなんて…ならない、よ?」 たとえ鬼太郎が青年期を迎えても。猫娘は今のまま。子供の、まま。 大人になるということは、それはそのまま別れの時を意味するのだと、鬼太郎はまだ知らないのだろうか。 「大人になんて…ならない。なれないん…だよ?」 この森を覆う木々でさえ、ほとりに咲いた草花でさえ、成長し、また朽ちていくというのに、猫娘はいつまでも子供のまま。 いつまでも。いつまでも… 永遠に続く命を、子供のままで過ごすのが、化け猫になった時の約束ごとだ。 「いつまでも…」 だから、『約束』は終わらない。 果たされることも、破棄されることもなく。いつまでも、いつまでも…未来のお嫁さんを夢見るばかりだ。 いつまでも。いつまでも… Fin. |