| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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08 とくべつ
] 「許せないー! 許せないったら、許せない! もう〜だいっきらいよーっ」 両手の爪を鋭く尖らせ、縦に伸びた瞳孔、大きな瞳は真っ黄色に化け、いつもならば微笑むばかりの口もとは左右に深く裂けていた。 「猫娘ー…」 常人であれば恐れおののくような化け猫面にも、鬼太郎は動じることなく微笑みかけていた。 いつも通りの事件だった。 人間の欲望に乗っかって、悪さをしようとしたねずみ男をいさめ、軽く懲らしめた帰り道。 それでも怒りが収まらないとばかりに、猫娘はわめき散らしていた。 「もう分かったから。ね? 機嫌直しなよ」 せっかくの可愛い顔が台無しだ…とでも言うべきなのだろうか。 けれど化け猫化した猫娘も、それはそれで可愛いと思っている鬼太郎にはその言葉は出てこない。 「なあんで鬼太郎がかばうのよーっ。だからアイツ、調子に乗っていつまでたっても悪さばっかりするのよー」 「大丈夫。その時はまた懲らしめるから、さあ」 のんびりとした口調で天を仰ぐ。そろそろ夜が明けようとしていた。 「もうー! 鬼太郎がそうやって甘やかすからいけないんだわっ。もう全部、閻魔様にチクって裁いてもらえばいいのにーっ」 「ははは。きっと極刑だよねえ」 「笑いごとじゃ、ないわ!」 「うーん…。だってそれじゃあ可哀相じゃないか」 「かわいそう?」 どこが、と鼻息を荒くした。 本当にねずみ男に対して、猫娘は人が変わる。それがただの、猫の本能だとは分かっている。分かっているけれど……決して面白いものではない。 心の中にともった奇妙な感情を吹き消すように、鬼太郎はふと笑った。 「……あんな奴でも、親友なんだ」 「!」 呆れ顔で足を止める。 ようやく化け猫顔が解けて、いつも通りの可愛い猫娘に戻った。 「どうしたの?」 「親…友? 鬼太郎、それ本気で言ってるの?」 それはねずみ男が鬼太郎に擦り寄る時の常套句だ。まさか鬼太郎が本気にしているとは思わなかった。 「あぁ。親友だよ」 自嘲気味に笑いながらも、続ける。 「僕が、人間と妖怪の共存を望んでいることは知っているよね?」 「うん…」 「けれど、僕は人間界で暮らしたことはないし、暮らそうとも思えない。やっぱりこの森の方が居心地がいいんだ」 妖怪だから、と鬼太郎は俯く。 「だから、あいつみたいにあっちでもこっちでも暮らしていけるのが、本当の共存なんじゃないかなと思うんだよ」 「…半妖だからよ」 「うん。良くも悪くも、人間的な部分も妖怪的部分も持っている。だからこそ分かることもあるんじゃないのかと思うんだ」 「悪いところばっかりだわ」 「うん…そうかも、しれないけれど。でもね」 朝陽の昇る寸前。妙に乾いた風が森を駆け抜けていく。 「良いところも悪いところも。全てを理解し合ってこそ、共存が成り立つんじゃないかな?」 「………」 「だからねずみ男は、その両方を知る、とても大切な友達だよ」 「ふーん…」 鬼太郎の理想郷。その実現は遠く険しい。その間にねずみ男が存在することを知り、猫娘はどこか入り込めないような空気を悟った。 ただただ鬼太郎がお人好しの博愛主義なのだと思っていたけれど、それだけではなかった。 鬼太郎は、心のどこかでねずみ男を羨んでいる。尊ぶといっても過言ではないのかもしれない。 人間で妖怪で。その狭間にある存在を愛おしく、また興味深く思っている。 「…そう、なんだー…」 やっぱり鬼太郎は優しいなと思った。その広い心には憎悪のよどみがない。 ただひとつの地雷を除いては。 「───でも、ね?」 朝の霧がかったせいか、妙に生ぬるい風が吹き、ゾッとするような寒さを背筋におとす。 「もし、猫娘が本気で殺意を抱くのなら…、そんなにも大嫌いだというのなら」 鬼太郎が、笑う。 「いつでも息の根を止める、よ?」 「……え?」 「それは簡単なことなんだ」 鬼太郎の前髪が風に揺れる。目を見開いたまま、鬼太郎は微笑んでいた。 「それとも、『特別』なねずみ男がいなくなったら、寂しいかい?」 「特別…って」 「君にとっては特別な男だろう?」 鬼太郎はもう、笑っていなかった。けれど猫娘はそんなことには気付かず、また鼻息を荒くした。 「そうよ。特別に───」 「………」 「だいっきらーいっ」 森中に轟くような声で、猫娘が叫んだ。それで、少しはスッとしたらしい。 「……羨ましいな」 「にゃん? なぁに鬼太郎。何か言った?」 「そんなに特別に想われてて、羨ましいよ…」 ははは、と力なく笑みを落とし、鬼太郎はまた歩き出した。 「? 鬼太郎…嫌われたいの?」 「まーさかー…」 そうだよねえ…と、猫娘はうんうん頷く。わざわざ嫌われたがるわけがない。 「でも君は。ねずみ男が近づいただけで分かるんだろう? 少しばかり離れていたって、ねずみ男の存在だけは、分かるんだろう?」 「だってアイツ…」 臭いんだもん。とってもねずみ臭い。 猫の本能がざわついて、反応せずにはいられない。 「本当に…『特別』…なんだよねえ」 敵わないな…と鬼太郎は笑みをおとした。 「?」 首を傾げるばかりの猫娘を背に、鬼太郎は帰路を辿る。 ───見当違いなやきもちだとは、分かっている。 けれど、それでも。ちょっとでも自分以上の存在が猫娘の胸を満たすのが、やるせなかった。 こんな感情には耐性がない。どう収めていいのかも分からないから… いつまでもいつまでも浄化されることなく、腹の底へと溜まっていくばかりだ。 「変な鬼太郎…」 一番大好き、なことよりも。特別に大嫌い、の方が羨ましいものなのだろうか。 猫娘は不思議でならなかったけれど…。 その気持ちは猫娘の胸の中だけにあるものだから、鬼太郎は時々見失ってしまうことなど、分からない。 峠を過ぎた二人のもとに、朝の光が差し込んできていた。 Fin. |