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□ Genre menu bar □ はじめに   ゲゲゲの鬼太郎   DRAGON BALL   3.3.7.ビョーシ   犬夜叉   GAME   ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■

59 駒草
58 トモダチ
57 百八つ
56 反射鏡
55 かくれんぼ
54 通り雨
53 影ふみ
52 あさがお
51 うみの日
50 水たまり
49 なぬかのよ
48 末吉
47 袖の香
46 さんすう
45 春眠
44 はつこい
43 沈丁花 
42 しりとり
41 でんしん
40 日光浴
39 初雪の日
38 雨宿り
37 うたたね
36 祝いの心
35 大事なもの
34 今だけの真実
33 おばけの音
32 猫の秘密
31 ひざ枕
30 犬のおまわりさん
29 待ちびと
28 やみのなか
27 ねこみみ
26 夢のつづき
25 けんかしかけた日
24 虚無の扉
23 なかよし
22 真剣勝負
21 河豚
20 切れた鼻緒
19 青年の夢
18 器
17 ダンデライオン
16 酔夢
15 寒がり暑がり
14 倦怠感
13 つまべに
12 おやすみ。
11 けんかした日
10 雪降る森
09 しゃっくり
08 とくべつ
07 怪奇お寝坊さん
06 未来のお嫁さま
05 魔女の心臓
04 しゃぼん玉の記憶
03 お彼岸餅
02 化け粧
01 白猫の夢


[ 09 しゃっくり ]

「鬼太郎〜」
ゲゲゲの森の奥深く。鬼太郎の家を訪れた猫娘が、甘い声で呼びかける。
「…ひっく…? あぁ猫…ひゃっく…」
「? どうしたのー」
卓袱台の上、欠けた茶碗にはなみなみの水が注がれ、箸を十字に重ねてあった。
「うん…。しゃっくりが止まらな…ひっく」
「あー。そうなんだあ」
頷く時、また肩を揺らしてしゃくり上げた。
「何かへんなもの食べたんじゃないー?」
「違う…ひっく…、よ」
トントンと背を叩いてみたが、やはり直りそうもない。
「うーむ。春先だったのなら、しゃっくり草を煎じて飲めば一発で直るんじゃがのう」
鬼太郎の髪の中。目玉のおやじが両腕を組んだままで顔を出す。
「しゃっくり草?」
「うむ。ゲゲゲの森の東。泉のほとりに生殖する草なのじゃが…」
「あたし探してくるよ」
「いや、この季節には採れないのじゃ。うーむ。こんなことなら春のうちに蓄えておけば良かったのう…」
「大丈夫ですよ…ひっく…しゃっくりぐらい…ひっく…で」
とはいえ、息を詰めるたびに苦しそうだ。
猫娘は心配そうに鬼太郎の様子を伺い、ふと後ろを向いた。
「? 猫…ひっく…娘?」

「……ふー…フギャアァァアッ!」

鋭い爪と牙を向き、黄色く変化した化け猫目で振り返る。
が。
「……ひっく…?」
「…だめ…かあー…」
「どう、ひっく…したの? ひっく…」
「ん。驚いたら止まるっていうじゃない? だから」
猫娘なりの脅しだったのだろう。鬼太郎は思わず表情を歪めて笑い出した。
「あーん、何よう」
「だって…ひっく…そんな、いつもみてる顔で、驚くわけない…ひっく…、じゃない」
カラカラと笑う間も、一定の間をおいてしゃっくり上げる。
「それもそうよね」
「ふむ。驚かす、といえば…。猫娘、そこの棚から黒い箱を取り出してくれんかのう」
「箱? これ…かなあ」
「何ですか? 父さん」
棚にしまわれた箱を取り出し、卓袱台の脇で開く。
「妖怪映写機じゃ。ほれ、そこのボタンを押してみよ」
フィルムがカラカラと回り出し、壁一面に妖怪の映像が広がる。
「!」
驚いて背筋をしゃんと伸ばしたのは猫娘の方だった。
鬼太郎にしてみれば…
「あぁ。懐かしいなあ…おぼろ車、元気にしているかな」
「うーむ小豆洗いとも数十年は会ってないのう」
「あ、夜叉。父さん覚えてます? また悪さしてなければいいけれど…」
「今度、会いに行ってみようかのう」
すっかり思い出アルバムを見るような、和やかな空気が辺りを包むだけだった。
「それ…で? あの…」
「おぉそうじゃった。どうじゃ? この妖怪映像で、少しはびっくり……するわけない、のう」
「ですね」
笑い合いながら、またひとつ、しゃっくり上げる。
「もう〜。二人っとものんきなんだから…」

と、その時。

唸るような音声に反応して、猫娘は全身を凍らせた。
「? 猫娘、どうし…ひっく…」
壁一面に妖怪・犬使いの映像が浮かび上がる。そして、その周りには数十匹の犬が一斉に吠え始めた。
「イヤァーッ!」
それは理屈ではない、本能だった。
それがただの映像であり、実際にそこには存在しなくても───その声、その音域、その存在が猫娘の精神に触れる。
猫がねずみを、食うでもなく戯れにいたぶるように、犬は理由もなく猫を追う。殺意もない、悪意もない。感情の入り込む余地もない、ただの本能。
それは永遠に変わらないループだ。逃れられない連鎖に反応して、猫娘の中の猫の性がこの身を竦ませる。
「猫娘っ?」
呼びかける声にハッと我に帰り、鬼太郎目がけて抱きついた。

「!」

あぐらをかいた鬼太郎に飛びついた猫娘は、ひどく軽く、思いのほか小さかった。
頬にかかる髪からは猫娘の甘い香り。薄く柔らかい胸が鬼太郎の首筋に当たる。
思わず両腕を背中にまわす。ぎゅっと抱き寄せると、鬼太郎は自分の心拍数が上がるのを感じていた。
それが何故なのかは分からないけれど…。
いつまでもこうしていたいような、気がする。そして、自分の中の穏やかに流れる血がざわめくのを感じ取った。
「…めて……」
「え…?」
「止めてーっ」
猫娘の肩ががちがちと震えていることに気付き、慌てて映写機を止める。
同時に、さっき胸の中をざわつかせていた奇妙な昂りはスッと引いた。
そんなことよりも、恐怖に震える猫娘の方が心配だった。
「大丈夫かい? 猫娘…」
きつく瞳を閉じたまま、返事もしない。
「…父さん」
「あやー…すまんかったのう。犬使いの犬たちの映像も入っていたことを忘れてたわい」
「ねえ猫娘。ごめんよ? もう大丈夫だから…」
一度呼び覚まされた恐怖心はそう簡単に失せはしない。
いくら鬼太郎が優しく背中を撫でていてくれても、なだめられることはなかった。
「ふっ…ふ……ふにゃあ…」
泣き出しそうな瞳で顔を上げる。
そして、ふと思い出したように鬼太郎の顔を凝視する。
「ん? 何??」
「鬼太郎…しゃっくり止まった?」
「あ」
すっかり忘れていた。
この心を不意に訪れた気持ちが騒がしくて、それどころじゃなかった。
副交感神経までも鈍るほど、鬼太郎は───驚いた、のだ。
「止まったみたいだ」
「よかったねー」
「あぁうん。ありがとう」


Fin.

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