| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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09 しゃっくり
] 「鬼太郎〜」 ゲゲゲの森の奥深く。鬼太郎の家を訪れた猫娘が、甘い声で呼びかける。 「…ひっく…? あぁ猫…ひゃっく…」 「? どうしたのー」 卓袱台の上、欠けた茶碗にはなみなみの水が注がれ、箸を十字に重ねてあった。 「うん…。しゃっくりが止まらな…ひっく」 「あー。そうなんだあ」 頷く時、また肩を揺らしてしゃくり上げた。 「何かへんなもの食べたんじゃないー?」 「違う…ひっく…、よ」 トントンと背を叩いてみたが、やはり直りそうもない。 「うーむ。春先だったのなら、しゃっくり草を煎じて飲めば一発で直るんじゃがのう」 鬼太郎の髪の中。目玉のおやじが両腕を組んだままで顔を出す。 「しゃっくり草?」 「うむ。ゲゲゲの森の東。泉のほとりに生殖する草なのじゃが…」 「あたし探してくるよ」 「いや、この季節には採れないのじゃ。うーむ。こんなことなら春のうちに蓄えておけば良かったのう…」 「大丈夫ですよ…ひっく…しゃっくりぐらい…ひっく…で」 とはいえ、息を詰めるたびに苦しそうだ。 猫娘は心配そうに鬼太郎の様子を伺い、ふと後ろを向いた。 「? 猫…ひっく…娘?」 「……ふー…フギャアァァアッ!」 鋭い爪と牙を向き、黄色く変化した化け猫目で振り返る。 が。 「……ひっく…?」 「…だめ…かあー…」 「どう、ひっく…したの? ひっく…」 「ん。驚いたら止まるっていうじゃない? だから」 猫娘なりの脅しだったのだろう。鬼太郎は思わず表情を歪めて笑い出した。 「あーん、何よう」 「だって…ひっく…そんな、いつもみてる顔で、驚くわけない…ひっく…、じゃない」 カラカラと笑う間も、一定の間をおいてしゃっくり上げる。 「それもそうよね」 「ふむ。驚かす、といえば…。猫娘、そこの棚から黒い箱を取り出してくれんかのう」 「箱? これ…かなあ」 「何ですか? 父さん」 棚にしまわれた箱を取り出し、卓袱台の脇で開く。 「妖怪映写機じゃ。ほれ、そこのボタンを押してみよ」 フィルムがカラカラと回り出し、壁一面に妖怪の映像が広がる。 「!」 驚いて背筋をしゃんと伸ばしたのは猫娘の方だった。 鬼太郎にしてみれば… 「あぁ。懐かしいなあ…おぼろ車、元気にしているかな」 「うーむ小豆洗いとも数十年は会ってないのう」 「あ、夜叉。父さん覚えてます? また悪さしてなければいいけれど…」 「今度、会いに行ってみようかのう」 すっかり思い出アルバムを見るような、和やかな空気が辺りを包むだけだった。 「それ…で? あの…」 「おぉそうじゃった。どうじゃ? この妖怪映像で、少しはびっくり……するわけない、のう」 「ですね」 笑い合いながら、またひとつ、しゃっくり上げる。 「もう〜。二人っとものんきなんだから…」 と、その時。 唸るような音声に反応して、猫娘は全身を凍らせた。 「? 猫娘、どうし…ひっく…」 壁一面に妖怪・犬使いの映像が浮かび上がる。そして、その周りには数十匹の犬が一斉に吠え始めた。 「イヤァーッ!」 それは理屈ではない、本能だった。 それがただの映像であり、実際にそこには存在しなくても───その声、その音域、その存在が猫娘の精神に触れる。 猫がねずみを、食うでもなく戯れにいたぶるように、犬は理由もなく猫を追う。殺意もない、悪意もない。感情の入り込む余地もない、ただの本能。 それは永遠に変わらないループだ。逃れられない連鎖に反応して、猫娘の中の猫の性がこの身を竦ませる。 「猫娘っ?」 呼びかける声にハッと我に帰り、鬼太郎目がけて抱きついた。 「!」 あぐらをかいた鬼太郎に飛びついた猫娘は、ひどく軽く、思いのほか小さかった。 頬にかかる髪からは猫娘の甘い香り。薄く柔らかい胸が鬼太郎の首筋に当たる。 思わず両腕を背中にまわす。ぎゅっと抱き寄せると、鬼太郎は自分の心拍数が上がるのを感じていた。 それが何故なのかは分からないけれど…。 いつまでもこうしていたいような、気がする。そして、自分の中の穏やかに流れる血がざわめくのを感じ取った。 「…めて……」 「え…?」 「止めてーっ」 猫娘の肩ががちがちと震えていることに気付き、慌てて映写機を止める。 同時に、さっき胸の中をざわつかせていた奇妙な昂りはスッと引いた。 そんなことよりも、恐怖に震える猫娘の方が心配だった。 「大丈夫かい? 猫娘…」 きつく瞳を閉じたまま、返事もしない。 「…父さん」 「あやー…すまんかったのう。犬使いの犬たちの映像も入っていたことを忘れてたわい」 「ねえ猫娘。ごめんよ? もう大丈夫だから…」 一度呼び覚まされた恐怖心はそう簡単に失せはしない。 いくら鬼太郎が優しく背中を撫でていてくれても、なだめられることはなかった。 「ふっ…ふ……ふにゃあ…」 泣き出しそうな瞳で顔を上げる。 そして、ふと思い出したように鬼太郎の顔を凝視する。 「ん? 何??」 「鬼太郎…しゃっくり止まった?」 「あ」 すっかり忘れていた。 この心を不意に訪れた気持ちが騒がしくて、それどころじゃなかった。 副交感神経までも鈍るほど、鬼太郎は───驚いた、のだ。 「止まったみたいだ」 「よかったねー」 「あぁうん。ありがとう」 Fin. |