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米吉 〜LoveHydeStory〜
昼下がり ウメフク
リンカーン... ウメソメ
リンカーン... マリソメ
ドブネズミは鮮やかな夢を見るか? ウメソメ


[ 昼下がり ウメフク ]

「あ…の、団長」
「何?」
「……どうかしたんですか?」
「別に」
「………」
「どうもしないよ。フク」

それは日常の中、ほんのひととき。
とある昼下がりのこと。

〜フクside〜

朝方までソドムの仕事(主に掃除要員)をしていたせいか、もうお昼過ぎだというのに疲労に体が重く、気だるい。
隣からは、ハイドが手慣らしにかき鳴らすギター音が、心地好く響いてきていた。
あぁ。今日は休講日だったんだっけ。
適度に冷房のかかった涼しい室内を、ガラス越し、夏の陽射しが差し込んでくる。
毎日が驚きの連続であるこの新宿で、こんな穏やかな時間に包まれたのは初めてのことじゃないだろうか。
パラリ
何か紙を捲る音がして、のそのそとフクは振り返る。
あまりにも静かで、気付かなかった。ソファの下、床に座り込んで雑誌を眺めている、ウメがいた。
いつもならセットしている髪を雑に結い上げて、片ひざにひじを当て、爪を噛むような仕草で下唇をいじっている。
あぁあれは団長のクセなのかな。
無防備なウメの姿に目を細めて、もう一度昼寝に落ちそうだった。
───が。
薄く閉じた視界に、顔を上げたウメの姿が映って、急激に目が覚めた。頭が、冴えた。
フクが起きたのを知ってか知らずか、あるいは起きているのを確かめようとしたのか、じっとこっちを見ている。
その視線に、フクは妙な息苦しさを感じた。
何を伝えるでもなく、ただ静かに凝視している。
トップホストにのぼりつめた、オーラみたいなものなのだろうか。その視線は妙な熱を持っていて、自然とこちらの鼓動が跳ね上がる。
自分は、店の客じゃないのに。ここは、ソドムではないのに。
そんな、撫ぜるような目つきをすることが、もうクセになってしまっているのだろうか。
まるで嘘寝をしているような気持ちになって、胸が詰まる。
フクは勇気を出して、目を覚ますことにした。
 「あ…の、団長?」
起き上がるまで、ウメはフクが起きていたことに気付いてなかったようだ。
それでいて、何でもないことのように問い返す。だから、フクは瞬間、今までじっと見られていたことを忘れた。
 「何?」
パラリと、また一ページ雑誌を捲る。
 「……どうかしたんですか?」
 「別に」
よかった。いつもの団長だ。
いつも通り、ただ穏やかで静かで、心根は力強く優しい……フクの理想の団長だ。
ウメの視線に心落ち着かない気分になってのは、きっと、気のせいだ。
いつまでもいつまでも。たとえホストになったって何になったって、団長は変わらない。フクの理想の人だ。
 「………」
フクはそれが嬉しくて、思わず微笑んだ。
と、ウメはやはりじっと見つめたままで、告げる。
 「どうもしないよ。フク」

それは日常の中、ほんのひととき。
とある昼下がりのこと。



〜ウメside〜
参ったね。
今夜は常連客の一人、華道の師範が来る。話題作りのために少しでも花の名前を覚えようと、ハイドから雑誌を借りたけれど……、全く頭に入らない。
部屋の中に二人っきり。さっきまで抱きしめていた柔らかさが、まだ離れない。
あーんなことしても、こーんなことしても。フク、全然起きないんだものね。
それだけ信頼されていることが分かってるから、つい、そーんなことまではしなかったけど……。
今もまだ、シーツから肩を出してすやすや眠っている。
ガラス越し、強さを増した夏の光にも気付かないで、眠っている。
今日は休講日だと言っていたから、もう少し寝かせておいてあげよう。
隣では空きっ腹をごまかしがてらギターをかき鳴らすハイドや、同居人たちがいるけれど、知ったことじゃない。
いや。彼らがそこにいる、ということが理性の箍でもあるのだろう。
ありがたいよ。恨めしいけどね。
可愛いフクが警戒しないで、こうして無防備な寝顔をさらしてくれているわけだし。
あー……やっぱり、恨めしいけど、ね。
それに。
ほんの数メートルしか離れていないのに、こんな近くのフクの寝顔が、自分にはもう見えないんだ。
 「あ…の、団長」
起きていたんだ。
あぁ本当に視力落ちたんだな。白い塊がボンヤリと起き上がって、ようやく気付く。
でも、フクはそんなこと知らない。知らなくても、いい。
だから変わらぬ声色で聞き返した。
 「何?」
素知らぬフリをして、また、ページを捲る。この距離でなら、目を凝らせば花の種類は見えた。
文字は、読めない。
 「……どうかしたんですか?」
 「別に」
鋭いね、フク。
フクは本当に、酷く鈍いけれど。呆れるくらいに、こっちの気持ちも気付かないくらい、鈍いんだけど。
でも、人の心の中に在る、助けを求める声には敏感なんだね。
……他にも敏感なところが、あるのかな?
 「………」
フクが安心したように笑う。
白い光に阻まれて、その笑顔は見えないけれど……。
今までフクが見せてくれた笑顔を思い起こして、想像はつく。
 「どうもしないよ。フク」
これ以上、視力が落ちて。フクがフクであることすらも見えなくなったとしても。
きっと、どこかで。フクがそうして笑っていることを願っているよ。
だから、何も知らないでいて。
変わることなく真っ直ぐに、元気に笑っていてくれるフクの存在が、一番の応援だ。

それは日常の中、ほんのひととき。
とある昼下がりのこと。


Fin.

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