| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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11 けんかした日
] 「何よー! 鬼太郎の意地っぱりっ」 猫娘の叫び声に、目玉おやじがハッと目を覚ます。 すっかりいい湯加減で居眠りをしていたが、急な目覚めに思わず茶碗を転がせてしまった。 「ああ〜」 「あー…。父さん。驚かせてすみませんでした…」 大丈夫ですか? と気遣い、湯の広がる卓袱台を台ふきんで拭う。 「一体どうしたと言うのじゃ」 ほんの少し前まで、目の前で笑い話をする二人を微笑ましく見守っていたのに… 「………」 台ふきんを絞りながら、鬼太郎は答えない。何をおいても父親を大事にする鬼太郎にしては、珍しく反抗的な態度だった。 「おい鬼太郎」 「……猫娘が…わからずやなだけです、よ」 低く呟いて、はあ…と深い吐息をもらす。 「何があったんじゃ。話してみい」 「……はい。父さん」 数刻前。 鬼太郎の家を訪れた猫娘は、お土産のおむすびをお互いに齧りながら、談笑していた。 「父さん。もう一口いかがですか?」 振り返ると、目玉おやじは茶碗に腕をかけて、心地良さそうに居眠りしていた。 「父さん? ああ…眠ってしまったのかな」 鬼太郎のいつもの気遣いに、猫娘は思わず肩をすくめて笑い出した。 「何だい?」 「うふふ…。やっぱり鬼太郎はオヤジ様が一番なのね」 「え…?」 一番。 それは確かに間違ってはいない。大切な、尊敬する父親だ。 けれど、猫娘のからかうような口調は、それとは違う意味合いの響きをもっていた。 「うん、まあそうだけど…」 「一番だいすきな人だもん、ね?」 チェシャー猫のような三日月目で笑う猫娘に対し、数度瞬きをして否定する。 「それは違うよ」 猫娘の笑いが止まる。 「一番大好きな人は、別にいる」 「え…?」 一口齧ったおむすびを手にしたまま、うーんと考え込む。 けれど答えは簡単だった。すぐに「ああ」と悟る。 「お母さんかあ…。うふふ、やっぱり鬼太郎は親孝行だよね」 「いや、違うよ。母さんも…それはそれは大切な人だけれど…」 だった、けれど。 「大好きな人は、違う」 きっと。猫娘には分からないだろう。 砂かけも、目玉のおやじも一反木綿も…そして鬼太郎も。みんな大好きな猫娘には、こんな気持ちは分からないのだろう。 「じゃあ…だぁれ?」 「誰だと思う?」 不意に投げかけられたなぞなぞに、猫娘は本気で考え込んでいた。思わず口もとがへの字になる。 考えなければ分からないんだ…。 そう気付いて、鬼太郎は答えを待つこともなく言った。 「猫娘に決まってるじゃない」 「…え……あたし?」 「猫娘のことが一番大好きだよ」 当たり前のようにそう言う鬼太郎に照れなどない。 むしろ。その、照れのなさを猫娘は疑った。 まるで幼児をあやすような言葉に聞こえて、信用できない。 ただでさえ、恥ずかしくて。照れて真っ赤になった顔で目も上げられなかった。 「君には分からないよね。思いつきもしなかった?」 まだ俯いたままの猫娘に語りかける。 「でもね。僕は一番、猫娘が大好きだし、とっても大切なんだよ…」 「…違うよ」 「?」 キッと目を上げて、猫娘が言う。 「あたしの方が、もっといっぱい鬼太郎が好きだもんっ。一番なのはこっちだもん」 「え…?」 どうやら、何に対しての『一番』であるかが食い違ってきているようだ。 これは何かの勝負だったのだろうか… 「そうかな」 普段なら、温厚にことを済まそうと譲れるところは譲る鬼太郎だが、ここは引けない。 「僕の方がずっとずうーっと、猫娘のことが好きだよ? たとえば…」 ちらりと卓袱台の上、猫娘の大好物のおかかおむすびに目をやる。 「これと僕とどっちが好き?」 「鬼太郎に決まってるじゃないー。鬼太郎こそ、いつもオヤジ様のことばっかりで、「だいすき」より「大切」の方が一番上なんじゃないの?」 「父さんに対する気持ちと、これとは違うよ。猫娘には…分からないと思うけれど」 「どうしてよ…っ」 「だって…」 言いかけて、やめる。 人を好きになる気持ちに罪はないけれど。この想いはあまりにも深くて、時おり鬼太郎自身もゾッとする時がある。 好きの裏側にある、この重い気持ちを猫娘が知る必要があるのかどうか。迷った。 「あたしの方がいっぱいいっぱいいっぱい好きだもんっ」 「……どうだかね」 思わず呟くと、猫娘はおむすびを置いて立ち上がった。 「絶対、あたしの方が好きだもんっ」 「僕の想いの深さを知っているの?」 「え?」 「知るわけないよ…ね。猫娘には、こんなにも大好きな気持ちは、分からないんだ」 見上げる鬼太郎に、猫娘は叫んだ。 「何よー! 鬼太郎の意地っぱりっ」 「───と、言うわけなんですよ」 湯冷ましに話を聞いていた目玉のおやじは、思わず絶句していた。 構わず、鬼太郎は続ける。 「それは…僕も意固地になってしまいましたけれど。でも、猫娘があんまりに意地を張るから…」 「………」 「父さんはどう思いますか? 絶対、僕の方が猫娘のことを好きですよねえ?」 知らん。 そう言ってしまえれば楽なのだが、目の前の鬼太郎はごくごく真剣だ。 どれほどくだらない───こっ恥ずかしい痴話喧嘩をしているのかも分かっていない。 普段は聡明な自慢の息子だが、本当に猫娘の話になると人が変わる。 その豹変こそが、鬼太郎が抱える、深い愛情ゆえの裏側だ。 「……とにかく。早いところ仲直りをせんか」 「ええっ? でも…」 「あのな、鬼太郎。こういう時は男の方が先に頭を下げるもんなんじゃ。それで万事うまくいく」 「そう…です……か?」 いくら父の言葉でも、感情が納得しない。鬼太郎は腕を組んだまま、重い腰を上げようとはしない。 「絶対……僕の方が好きなのに…」 こんなのぼせ頭に効く薬草は、さすがのオヤジも聞いたことがない。 思わずため息がもれた。 Fin. |