| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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12 おやすみ。
] 「目玉のオヤジ様、お願い!」 まるで生き神さまに拝むような格好で、猫娘が頭を下げる。 できることならば叶えてやりたいものだが…、今回ばかりは目玉のおやじも冷たくはねつけた。 「駄目じゃ。それだけはできん」 「でも…っ」 「猫娘。世の中にはできることとできぬことがある。お前がしようとしているのは…妖怪世界・動物界にかかわらず、許されぬことじゃ」 諦めてくれ…と諭す言葉にも、反抗的に首を振った。 「あたしにできることなら…何でもするっ。だから…お願いっ」 「じゃから…」 その時。用事を済ませた鬼太郎が、玄関のすだれを開いて帰宅した。 「どうしたんですか…。大きな声をあげて」 「鬼太郎!」 「ああ猫娘。こんばんは」 思わず表情を和らげた鬼太郎に駆け寄り、その手を取る。 「ね…猫娘?」 「……お願いっ。鬼太郎からもオヤジ様にとりなしてっ」 「え…? 父さん、一体何の話ですか?」 「うむ…」 困ったように渋い顔をする。 「あの…ね」 上目遣いで見上げた猫娘は、目元に涙さえ浮かべて真剣な顔で語り出す。 猫娘が、ここ数日 人間界に入り浸っていたのは知っていた。 朝となく、夜となく。砂かけばばあの家を訪れる……ふりをして、猫娘の部屋を訪れた鬼太郎は、何度となく留守に出くわしたものだった。 それとなく後をつけて…。いや、人間界の様子を見に行きがてら、猫娘の足取りを追った鬼太郎は、そこが老猫の棲む空き地だということも知っていた。 死に病に罹った老猫を、何くれとなく様子を見に行っては看病し続けてきたのだ。 それでも猫娘が語る話を、まるで初めて聞くようなふりをして、頷いていた。 「そのおばあさん猫…もう少しで死んじゃうかもしれないのっ」 「そう…。それは哀しいね」 冷静に鬼太郎が呟く。 こんな子供の姿だが、もう百年近く生きている。動物や人の生き死になど、今までいくらでも通り過ぎてきた。 それは、猫娘も同じだ。けれど彼女とは違う。猫娘は猫長老の術により、哀しい記憶を消されてしまうから……いつもいつも新たな衝撃を受けてしまう。 「でも。それは寿命だから」 仕方がないよ、と鬼太郎は言う。 「いくら父さんでも、死に病を治す薬草は知らないよ…」 「だからっ」 猫娘の願いは鬼太郎の予測を超えていた。 「閻魔大王さまにお願いして、寿命を延ばしてもらうようお願いしたいのっ!」 「え…」 「オヤジ様なら閻魔さまのことも知っているでしょうっ? だから、会わせて欲しいのっ。お願いしに行きたいのっ」 突飛な話に目を見開いた鬼太郎が目玉のおやじに顔を合わせる。おやじは吐息をもらして首を横に振った。 「……それはできんよ。いくら願い出たとしても、そんな願いは聞き届けられるわけはない」 「やってみなければ分からないじゃないっ」 「猫娘…」 両手拳を握る猫娘の手を取り、優しく告げる。 「それは、無茶だ」 「鬼太郎まで…っ」 「落ち着いて…考えてごらん? そんな無茶をしたら…この世の理が崩れてしまうよ」 「でも…でもっ」 手助けしてくれるはずの鬼太郎にまで反対され、猫娘は思わず泣き出した。 しゃがみこんだ猫娘を抱きしめ、その頭を撫でてやる。 「………」 猫娘の優しい気持ちが、伝わる。けれどそれはできないことだ。 早く猫長老の術で、この哀しい記憶が消去されることを祈っていた。 「…知り合いの…猫だったの?」 「……うん。ずっと…もうずっと前から…」 少し落ち着いたのだろうか。猫娘は声を震わせながら続ける。 「沢山の…昔話を聞いたわ…。ずっと前に飼い主に捨てられて……町の縄張りも追われて…。ずっと、独りで生きてきたの…」 「うん…」 「猫には…猫の墓場があるのよ…? でも、おばあさんはもう…足がきかないから……そこへ行くこともできない…の」 また、猫娘の木の葉型の瞳を縁取るように、涙が浮かぶ。 「だから…あたし、最期まで一緒にいたかったけれど…。でも、だめって…。帰りなさいって…言われたの」 「……そう」 それは猫のプライドなのだろう。決して死に様をさらしたくはない。 けれど猫娘にしてみれば、独りぼっちで死を迎える寂しさの方が気がかりだったのだ。 「それが、その老猫の願いなんだから…仕方がないよ」 冷静に鬼太郎が言う。 「それで、どうして寿命を延ばして欲しかったの?」 「だって。もう少し…もう少し長く生きていたら、もっと楽しいことがあるかもしれないじゃない…っ。本当に…本当に大変だったのよ? おばあさんが生まれた頃は…人間界が争いごとで荒れていて…、沢山産んだ子猫もみんなちりぢりになって…、それで」 「猫娘には、関係ない…よ」 耳を疑うくらい、冷たくそう告げた。目玉のおやじも思わず顔を上げる。 「鬼太…郎?」 「君は、できるだけのことをした。そして、その老猫の望む通りに君は帰ってきた。それでいいじゃない」 「でも…っ」 「それが、老猫の望みだったんだから」 髪を撫でていた鬼太郎の手が止まる。 「もう…疲れたんだよ」 たとえ猫娘が。優しい心で、その寂しい死を哀しんだとしても。延命を願ったとしても。それは猫娘の願いであって、老猫の願いでは、ない。 「……泣かないで、猫娘。みんな…そうなんだよ?」 限りある命をまっとうする。ただ、それだけのこと。 猫娘が哀しむのは、猫娘の勝手。老猫が生を諦めるのも、老猫の勝手。 たとえ暫しの間、深くかかわり合ったとしても、死ぬ時は独りだ。 そして願いは天命までも変えない。そんな世の無常をどう伝えるべきか…あるいは伝えないべきか、鬼太郎は迷った。 「……あのね? 猫娘……」 鬼太郎が口ごもる間に、猫娘は別の覚悟を決めていた。 「…だったら……あたしの命をあげる」 「え?」 「代わりにあたしの魂を閻魔さまのところへ届ければ…」 「何を言っているんだ、そんなこと」 この僕が許さない。 「だって! おばあさんは…ひょっとしたら地獄へ落とされてしまうかもしれないもの…っ。飼い主に捨てられてから…食べるものがなくて、何度も盗みをはたらいたから……。でも、そうでもしなきゃ生きていけなかったから…」 そんな見知らぬ老猫の昔話よりも、猫娘の意志がひっかかって鬼太郎は凍り付いていた。 思わず、抱きしめていた腕にも力がこもる。 「……駄目だよ」 「あたしはいっぱい生きたものっ。楽しいこともいっぱいあった。けれど、おばあさんは…っ」 「絶対、駄目だよ」 「鬼太…」 鬼太郎の指先が、集中した妖気で光る。 その光に目を上げた瞬間。指先が猫娘の額に触れ、声もなく気を失った。 「鬼太郎!?」 驚いた目玉おやじが声を荒げる。 「お前、そんなことで妖力を乱用するものではないぞっ。話せば分かることじゃろうっ」 「……すみません。父さん」 ぐったりとした猫娘を抱きかかえ、木の葉の寝床に横たえる。 力を失った腕をふとんの中に入れて、泣きはらした寝顔をじっと見つめた。 「おやすみ。猫娘…」 きっと目覚めれば、この哀しい記憶も消えているだろう。 そうして彼女の幼い精神は守られ続けている。 いつまでも無邪気な、子供のような心でいるために。 いつもの笑顔に戻るために。 そうでもしなければ、永い生を子供のままでは生きられない。 通りすぎる生も死も見続ける不死の命に、猫娘のきれいな心は耐えられない。 「…ん?」 刻を告げるでもなく、鐘の音が鳴り響く。 それは老猫を弔う鐘の音だと、鬼太郎には分かった。 去りゆく者に関わった全ての者の元へ、この鐘の音が届くのだろう。 眠りにおちた猫娘の代わりに、鬼太郎の耳にも届いたのだ。 「……にゃ…?」 わらぶきの天井が視界に入り、猫娘が不思議そうに声をもらす。 すると、オカリナの手入れをしていた鬼太郎がその手を止めた。 何だろう。とても哀しい夢を見ていた気がする。 思い出そうとしても霧がかったようにあやふやに溶けてしまうけれど…、胸をしめつけるような、重く苦しい気持ちだけがぼんやりと残っていた。 「起きた…の?」 いつものちゃんちゃんこを着た鬼太郎の背中に目を向ける。 どうして鬼太郎の家で眠っていたんだろう。まだまどろんでいるせいか、思い出せない。 とても大事な用事があった。ような…気がしたんだけれど。 「う…ん」 すると、鬼太郎が振り返った。 「おはよう」 いつもの笑顔。猫娘の不安な気持ちを掻き消すような、いつもの、鬼太郎の。穏やかな微笑みだった。 だから猫娘も迷うことなく笑い返す。 「おはよう、鬼太郎」 Fin. |