| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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13 つまべに
] 「うふふ…ふふふっ」 小さな手を空に向け、光に透かすようにして猫娘は森の中を歩いていた。 進む足取りも軽快で、スキップするように跳ねてみては、時おり一回転してみせた。 そのたびに、赤いすそがひらひらと揺れる。 この道を行けばもうすぐ。あと少しで鬼太郎の家に辿り着く。 早くこの手を見せてあげたいなあ…と思っては、笑みがもれた。 ───その時。 森を行く風の中に、ねずみ男の匂いを感じ取る。 「……にゃあ…?」 瞳孔が縦に伸び、集中して気配を辿る。 みるみるうちに表情は化け猫化し、背中が猫背に縮まると同時に鋭い爪が顔を出した。 ガサガサッ 草を掻き分けて去りゆく音。 ねずみ男もまた、猫娘の気配を察して逃げていったようだった。 別に、何か悪いことをしたというわけではないけれど。いや、何かまた悪さをしていたのだとしても、まだ猫娘は聞いてないけれど。 それでも猫の性でつい反応してしまった。 「……ふん」 去っていった気配に流し目を向け、ふと我に返る。 「あーっ」 目を戻した猫娘は、思わず声をあげる。 町できれいに塗ってもらったマニキュアは、ぼろぼろにヒビ割れていた。 「…あーあ…」 勿論、痛みはない。けれど化け猫化と正常化の収縮に耐え切れなかったネイルは、ピンッと弾いただけでポロポロと残骸を地に巻いた。 「……せっかく…鬼太郎に見せたかったのに…な」 肩を落とした猫娘は、ため息ひとつもらして、道を戻って行った。 「おーい、鬼太郎! 大変だ大変だぁい!」 ねずみ男が騒がしくわめきたてながら、はしごを上がってくる。 「騒々しいやつじゃのう…」 茶碗風呂で一曲うなっていた目玉のおやじも、無粋な…とばかりに眉(?)を顰めた。 「どうしたんだい? ねずみ男」 「大変だぜ鬼太郎。鬼の霍乱だ!」 「鬼…?」 さして興味もなさそうに、とりあえずは耳を傾ける。 「なーに呑気に茶碗風呂の湯加減なんてみてやがるんだっ」 「これが…結構 難しいんだよ。なかなか適温を保てなくて」 「うむ。わしは風呂にはちーっとばかりうるさいからのう」 「いえ、構いませんよ。父さん」 相変わらずののんきな様子に、ねずみ男は思わず鼻息を荒くした。 「いいから、聞けっての!」 「…聞いてるじゃないかー…」 「あのなっ! 今、そこで猫娘と出くわしたんだがよっ。あいつ、俺様を追って来ねえんだっ」 「………」 鬼太郎の表情が凍る。 いつも、いつも。追われているのか…と思うと、たとえ意味合いが違うとはいえ、少なからず腹立たしい気持ちがわいてくる。 それを押さえようと必死に耐えているのだが。当のねずみ男はそんな鬼太郎の気持ちなど気付かずに、続けた。 「どうも様子がおかしいじゃねえか、なあ? そんで、こっそり後を尾けたんだがよっ。そしたらお前、川辺でしくしく泣いてやがるじゃねえか!」 「───何だって?」 「いやあ〜。あのお転婆おんなが女々しく泣いてやがるなんざぁ、こりゃあ今夜は雪でも降るか?ってなモンだぜ」 「川辺ってどこだよ」 ようやくねずみ男に目を向ける。 「川辺ったら、池から流れる川下の〜…って、おい。何だよ鬼太郎ちゃん、怖い顔しちゃってさあ」 「川下…か」 「そいでよお! 吹雪でもきたら自由人、つまり屋外暮らしのおいらは凍えちまうじゃんか? だから今夜は泊めてくれよ〜、なっなっ?」 「父さん。ちょっと出かけて来ます」 下駄に履き替え、はしごを降りてゆく。 「おーい鬼太郎! お前、人の話を聞いてんのかよっ」 「……好きにしたら、いい」 マニキュアの残骸を洗い落とした猫娘は、しばし呆然と川の流れを眺めていた。 やはり。これはこどもの自分がつけるようなものではなかったんだと思った。 町でお試しキャンペーンのお姉さんに呼びかけられ、無料で塗ってもらったものだけれど。それでも、しばらくの間はおとなの気分を味わえた。 「………」 勧められたお姉さんの顔を思い出す。とてもきれいな人だった。 だから、自分も同じように少しだけ背伸びしてみたかったのだ。 けれど。それはほんの少しの間。偽りのものだった。 まるで現実を叩きつけられたような気分で、思えば思うほど、哀しくなってくる。 ───いつまでも、子供のまま。 見果てぬ未来は明るくも暗くもない。 ただただ、変わらぬ姿で時だけが流れていくだけ、だ。 「猫娘」 呼びかけられて、ハッと顔を上げる。 けれど泣いた後のへんな顔を見られたくなくて、慌てて顔を拭った。 「な、なぁに? 鬼太郎」 振り返らなくても、その声だけで分かる。 また、鬼太郎も。泣き顔を隠したことに気付いていた。 「うん。ちょっと…散歩。散歩していたら、猫娘の姿が見えたから」 「そう」 隣りに腰掛けて、並んで川を眺める。 穏やかな川流は時々木の破片や枝を運んで、下流へと流れていった。 沈黙の中。鬼太郎は心を沈めて猫娘の記憶を辿る。 町でのこと、森を歩いてきたこと、ねずみ男に遭遇しかけたこと…、そしてこの川に辿り着くまでの間。 猫娘が何を思っていたかまでは分からないけれど、何が起きたのかは探れた。 「……ねえ猫娘。ちょっと歩かないか?」 「え…? うん、いいけど」 普段ならば、無意識にその手を重ねるけれど。猫娘はその小さな手を差し伸べずに鬼太郎のあとを追う。 この手はいつまでも小さな手だ。そう思ったら、妙に意識してしまい、なんとなく出しそびれたのだ。 「どこ行くの?」 「うん?」 草むらを分けて道に出ると、そこには花畑が広がっていた。 「散歩だよ、お散歩」 「ふうん?」 色とりどりの花畑を見渡し、不意に鬼太郎の視線が止まる。 「あっちだ」 「え? うん…」 赤、青、黄色…。様々な草花を越えて、鬼太郎はようやく目的の花に辿り着いた。 「これだ…」 「え?」 「あ…ううん。なんでもないんだよ」 それは実のなる前の鳳仙花だった。いい香りのする花びらを摘み取り、鬼太郎は微笑みかけた。 「猫娘。こういうの、知ってる?」 小さな手を取り、その爪先に赤い花びらをすりつけた。 「あ…っ」 みるみるうちに花びらの色素が、爪先を薄紅色に染める。 小指から一本一本、丁寧に擦り合わせ、 「はい。次はそっちの手」 もう片方の指先にも同じように染め上げた。 まるでさくら貝のような淡い薄紅の爪先を眺めながら、徐々に猫娘も笑顔を取り戻していく。 「爪紅…っていうんだよ」 「へえ……」 両手を空にかかげ、光に透かす。 「きれい…」 「そうだね」 正直にいうと。鬼太郎にとってみれば、それがどうきれいなのかよく…分からなかったけれど。 でも、嬉しそうに笑う猫娘の顔が晴れやかだから、つい頷いてしまった。 「でも。鬼太郎…その指」 「うん?」 ついでに赤く染まってしまった鬼太郎の指先を見て、猫娘はくすくすと笑い出した。 「あー…」 「これ、なかなか落ちないのよー。知ってた?」 両手を広げて苦笑いする。 けれど…。 正直にいうと。鬼太郎は猫娘とおそろいだから、それでもいいなと思っていた。 Fin. |