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□ Genre menu bar □ はじめに   ゲゲゲの鬼太郎   DRAGON BALL   3.3.7.ビョーシ   犬夜叉   GAME   ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■

59 駒草
58 トモダチ
57 百八つ
56 反射鏡
55 かくれんぼ
54 通り雨
53 影ふみ
52 あさがお
51 うみの日
50 水たまり
49 なぬかのよ
48 末吉
47 袖の香
46 さんすう
45 春眠
44 はつこい
43 沈丁花 
42 しりとり
41 でんしん
40 日光浴
39 初雪の日
38 雨宿り
37 うたたね
36 祝いの心
35 大事なもの
34 今だけの真実
33 おばけの音
32 猫の秘密
31 ひざ枕
30 犬のおまわりさん
29 待ちびと
28 やみのなか
27 ねこみみ
26 夢のつづき
25 けんかしかけた日
24 虚無の扉
23 なかよし
22 真剣勝負
21 河豚
20 切れた鼻緒
19 青年の夢
18 器
17 ダンデライオン
16 酔夢
15 寒がり暑がり
14 倦怠感
13 つまべに
12 おやすみ。
11 けんかした日
10 雪降る森
09 しゃっくり
08 とくべつ
07 怪奇お寝坊さん
06 未来のお嫁さま
05 魔女の心臓
04 しゃぼん玉の記憶
03 お彼岸餅
02 化け粧
01 白猫の夢


[ 14 倦怠感 ]

『鬼太郎』
僕の名を呼ぶ、声───。
『鬼太郎さん』
助けを呼ぶ、声。
『鬼太郎!』
呼びかける、声。
『鬼太郎ぉーッ』
そして。怨みに満ちた断末魔の叫び───。
このまま耳を閉ざし、心をも閉ざしていたい。
ここは気持ちがいい。ただのんびりと眠りについていたい。
あぁ、そうだ。僕は正義の味方なんかじゃない。
人間は助けを求め、妖怪には村八分にされるけれど…
どっちだって、いいんだ。どっちでも、ないんだ。
僕は…ただ。こうして静かに眠っていたいだけなんだ。
けれど。人間も妖怪も、みんな勝手だ。
そして。八百万の神々は放任主義だ。
その狭間で、互いの領域を侵すことなく、それぞれがそれぞれの願いを叶える方法があるんだと思うんだ。
互いが譲歩する道を探るのが、僕の役目だと父さんは言う。
あぁ、そうか。僕の望みではないんだ。
僕はただこうしていたいだけなんだ。
こうして、邪魔されることなくいつまでもいつまでも、のんびり静かに過ごしていたい。
そうでもしないと…
この腹の中に封印した、数多の妖怪たちが目覚めてしまう。

「おい、鬼太郎!」
「………」
木の葉の万年床に寝そべったままの息子に、目玉おやじは一喝する。
「お前、何を怠けておるんじゃっ」
のそりと振り返り、卓袱台の上で仁王立ちする父を一瞥したが、すぐにまた眠りにつく。
「鬼太郎!」
また、息子を呼ぶ声。
もう何も聞きたくはない、とばかりに鬼太郎は背を縮めた。

一体いつからだろうか。こんな倦怠感は初めてだ。
体調が悪いというわけでもなく。心が沈むような事件があったわけでもない。
ただ、疲れたのだ。心がひどく疲れていた。
いくら鬼太郎が精一杯の努力をしても…、ここ数十年し続けていても。世界は何一つ変わらない。
ただ、全てが崩れ去る危機を寸前で留めているに過ぎない。
この悪循環は止まらない。それは。
人の欲望に、果てはないからだ。そして。
その発端は───小さな願いは、決して忌みなるものではないからだ。
善も悪も同じだけの力で、同じものの中に存在する。だから。
鬼太郎は、時おり妙な脱力感を覚えた。
それにしても、ここまで全てにおいてやる気をなくしたのは初めてだ。
この倦怠感が何なのか……。
鬼太郎は深く深く考え込んでいた。

「鬼太郎ーっ」
また…自分の名を呼ぶ、声。
けれどその、甘く清らかな音色には、重いため息がもれるような疲れは感じさせなかった。
むしろ、その声色が胸に温かく響く。
この正体は何なのか。鬼太郎は覚醒し、目を開く。
「わっ…わわわっ」
バサバサと頭にかぶった紙の束に驚いて、跳ね起きる。
「こーんなに妖怪ポストに溜まってたわよー」
「猫…娘」
そうだ。そうだった。
ここ数日。猫娘は猫族の集まりで森を離れていた。
「もーっ。鬼太郎ってば怠け者なんだから」
「……久しぶり」
「? たった八日ぶりじゃないのー」
たった…か。鬼太郎は苦笑した。
確かに永い時を生きる妖怪にしてみれば、ほんの瞬きの刹那に等しい日数だ。
けれどその八日が、どれほど長く、暗く、冷たい時間であったのか。鬼太郎は説明のしようがない。
「全く。鬼太郎はあたしがいなきゃあだめなんだから…っ」
ちょっと言いすぎかな? と思いながら、鬼太郎の顔色を伺う。
すると…
「そうだね」
肩を竦めて、鬼太郎が笑う。
まるで、長雨の合い間。久しぶりに日光浴をしたような、晴れやかな笑顔だった。
ずっと、会いたかったんだよ?
そう言いかけた時、猫娘は「あーっ!」と大声を上げた。
「ねずみのような顔をした不潔な男? これ絶対にねずみ男だよー! もう、とっちめてやるんだからっ」
「そう…だね」
次々と、寄せられた手紙の封を切りながら、猫娘はねずみ男への悪態をついていた。
それよりも、もう一度。あの声が聞きたい。
「ねえ…猫娘?」
「にゃ?」
深き闇に沈みこみかけた心まで、引き戻す、あの声。
「もう一度…呼んでくれないか…な?」
自分の足場を思い出す、その存在。
あぁ、そうだ。僕は正義の味方なんかじゃない。
「呼ぶ…って?」
不思議そうに目をぱちくりとした猫娘と、穏やかに暮らしていたい。
そのために、世界はいつまでも平和でなければならないんだ。
「???」
いつまでも微笑んでいる鬼太郎の顔を見つめ、思わず首を傾げる。
そして、尋ねるように呼びかけた。
「鬼太郎?」
その一言で。こんなにも元気になれる。
僕の元気の素。
「ありがとう。猫娘」


Fin.

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