| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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14 倦怠感
] 『鬼太郎』 僕の名を呼ぶ、声───。 『鬼太郎さん』 助けを呼ぶ、声。 『鬼太郎!』 呼びかける、声。 『鬼太郎ぉーッ』 そして。怨みに満ちた断末魔の叫び───。 このまま耳を閉ざし、心をも閉ざしていたい。 ここは気持ちがいい。ただのんびりと眠りについていたい。 あぁ、そうだ。僕は正義の味方なんかじゃない。 人間は助けを求め、妖怪には村八分にされるけれど… どっちだって、いいんだ。どっちでも、ないんだ。 僕は…ただ。こうして静かに眠っていたいだけなんだ。 けれど。人間も妖怪も、みんな勝手だ。 そして。八百万の神々は放任主義だ。 その狭間で、互いの領域を侵すことなく、それぞれがそれぞれの願いを叶える方法があるんだと思うんだ。 互いが譲歩する道を探るのが、僕の役目だと父さんは言う。 あぁ、そうか。僕の望みではないんだ。 僕はただこうしていたいだけなんだ。 こうして、邪魔されることなくいつまでもいつまでも、のんびり静かに過ごしていたい。 そうでもしないと… この腹の中に封印した、数多の妖怪たちが目覚めてしまう。 「おい、鬼太郎!」 「………」 木の葉の万年床に寝そべったままの息子に、目玉おやじは一喝する。 「お前、何を怠けておるんじゃっ」 のそりと振り返り、卓袱台の上で仁王立ちする父を一瞥したが、すぐにまた眠りにつく。 「鬼太郎!」 また、息子を呼ぶ声。 もう何も聞きたくはない、とばかりに鬼太郎は背を縮めた。 一体いつからだろうか。こんな倦怠感は初めてだ。 体調が悪いというわけでもなく。心が沈むような事件があったわけでもない。 ただ、疲れたのだ。心がひどく疲れていた。 いくら鬼太郎が精一杯の努力をしても…、ここ数十年し続けていても。世界は何一つ変わらない。 ただ、全てが崩れ去る危機を寸前で留めているに過ぎない。 この悪循環は止まらない。それは。 人の欲望に、果てはないからだ。そして。 その発端は───小さな願いは、決して忌みなるものではないからだ。 善も悪も同じだけの力で、同じものの中に存在する。だから。 鬼太郎は、時おり妙な脱力感を覚えた。 それにしても、ここまで全てにおいてやる気をなくしたのは初めてだ。 この倦怠感が何なのか……。 鬼太郎は深く深く考え込んでいた。 「鬼太郎ーっ」 また…自分の名を呼ぶ、声。 けれどその、甘く清らかな音色には、重いため息がもれるような疲れは感じさせなかった。 むしろ、その声色が胸に温かく響く。 この正体は何なのか。鬼太郎は覚醒し、目を開く。 「わっ…わわわっ」 バサバサと頭にかぶった紙の束に驚いて、跳ね起きる。 「こーんなに妖怪ポストに溜まってたわよー」 「猫…娘」 そうだ。そうだった。 ここ数日。猫娘は猫族の集まりで森を離れていた。 「もーっ。鬼太郎ってば怠け者なんだから」 「……久しぶり」 「? たった八日ぶりじゃないのー」 たった…か。鬼太郎は苦笑した。 確かに永い時を生きる妖怪にしてみれば、ほんの瞬きの刹那に等しい日数だ。 けれどその八日が、どれほど長く、暗く、冷たい時間であったのか。鬼太郎は説明のしようがない。 「全く。鬼太郎はあたしがいなきゃあだめなんだから…っ」 ちょっと言いすぎかな? と思いながら、鬼太郎の顔色を伺う。 すると… 「そうだね」 肩を竦めて、鬼太郎が笑う。 まるで、長雨の合い間。久しぶりに日光浴をしたような、晴れやかな笑顔だった。 ずっと、会いたかったんだよ? そう言いかけた時、猫娘は「あーっ!」と大声を上げた。 「ねずみのような顔をした不潔な男? これ絶対にねずみ男だよー! もう、とっちめてやるんだからっ」 「そう…だね」 次々と、寄せられた手紙の封を切りながら、猫娘はねずみ男への悪態をついていた。 それよりも、もう一度。あの声が聞きたい。 「ねえ…猫娘?」 「にゃ?」 深き闇に沈みこみかけた心まで、引き戻す、あの声。 「もう一度…呼んでくれないか…な?」 自分の足場を思い出す、その存在。 あぁ、そうだ。僕は正義の味方なんかじゃない。 「呼ぶ…って?」 不思議そうに目をぱちくりとした猫娘と、穏やかに暮らしていたい。 そのために、世界はいつまでも平和でなければならないんだ。 「???」 いつまでも微笑んでいる鬼太郎の顔を見つめ、思わず首を傾げる。 そして、尋ねるように呼びかけた。 「鬼太郎?」 その一言で。こんなにも元気になれる。 僕の元気の素。 「ありがとう。猫娘」 Fin. |