| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ GAME ■ |
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FE シャナン&ラクチェ I
] イード砂漠を抜け、アルスター城を目前にひかえた解放軍は、ひとときの休息についていた。 グランベル帝国軍から見れば反乱軍である彼らも、圧政に苦しむ民の力添えにより、噂が噂を呼んで軍事力も広がりつつある。 イード城ではイザーク王子・シャナンも合流し、セリス軍は意気揚々としていた。 ただ一人の例外を除いて…。 「…ラクチェ、元気がなさそうだけど…」 火の番をしていたセリスがスカサハにこっそりと尋ねる。 「えぇ…。兄妹である俺にもよく分からないのですが…」 「……ティルナノグを出た時は一番はりきっていたのに」 焚き火をつつくと、かすかに火の粉が舞ってセリスの顔を赤く染めた。 「ラクチェの元気さには僕も救われてたところがあるんだよ」 「あれだけが取り得ですから」 スカサハの言葉に、セリスも思わず笑い出す。 「…世が世なら、あいつもドレスを身にまとって公女として躾けられていたはずです。元気なのはいいけれど、あんなにもガサツで男嫌いじゃあ……。全く困ったものです」 「うん…」 ラクチェは母であるイザーク王女・アイラに似て剣に生きる者として育った。 スカサハも同様に剣士ではあるが、双子とはいえ性格的には父の優しさを強く受け継いだらしい。 「…戦場に出るのは早過ぎただろうか?」 今までの訓練とは違い、剣が斬り倒すのは生身の人間だ。丸太や枝ではない。 ほこりと血しぶきを浴びた向こう側の景色は、ラクチェの心にどう響いたのだろうか。 決心していたはずのセリスでさえ、倒した敵兵の死体を思い出すと胸が痛む。 「だから早過ぎると言ってたんだぞ」 振り返ると、イザーク王子・シャナンが腕を組んで見下してした。 「ゴメン。起こしちゃったかな?」 「そんなことよりも、声をかけなければ気付かぬようでは見張りとは云えん」 すっかり口うるさいじいやのような厳しさで、シャナンが言うと、二人は頭を下げた。 「…すみません」 「気をつけます」 ひとつ吐息をもらして、焚き火端に腰掛ける。 「まぁいい。ラクチェの様子は私も気にかけていたところだ」 「シャナンもそう思う?」 「あぁ。まあ私に対しては…久々に会ったせいで勝手が違うのかとも思っていたのだが」 「それが、イザークを出るまではいつも通りだったのです。おそらく…イード城の辺りで…」 「もしかして…、城の落書きを読んだのかな」 「落書き?」 それはセリス自身の胸にも深く響いていた。 弾圧され、差別を受け、存在さえも許されなかったロプト神を信仰する人々の嘆き。 祈る気持ちに善悪はないはずだったのに、過酷な試練が彼らを悪魔にかえた。 だがそれは、イード城に入ったセリスとレヴィン、またシャナンしか見ていないはずだ。 「…うぅん、何でもないんだ」 祈りが絶望を経て呪いに変わる時を想像し、セリスは怖れに頭をふる。 それは特別なことではない。 ひょっとしたら…自分の中にも生まれたかもしれない、感情なのだ。 「とにかく。戦いは始まってしまった。戦場では感傷など捨てることだ」 セリスの表情でことを察したのか、シャナンが厳しく言う。 「うん……分かった」 「ラクチェは優しい娘だ。できることならば…戦場に出るべきではない」 「そうですね」 「…国を守るため、戦いに身を投じた姉上(アイラ)とは違うのだ」 国のため───シャナンを守るため。生存さえも不明なアイラ。 シャナンにしてみれば、その恩返しとしてもラクチェとスカサハを守りたいと思っていた。 「はい。俺も、ラクチェを守ってあげなきゃって思います」 「スカサハの方が守られてるじゃない」 「セ…セリス様っ」 「アハハ」 「お、俺だって本気になれば流星剣で敵を切り倒して行きますよっ」 「ゴメンゴメン、分かってる。スカサハもラクチェも大事な戦力だ」 「…おそれいりマス」 セリスの笑顔につられて、シャナンもフッと笑む。 その中に、シグルドのような人を惹きつけて和ませる力を見ていた。 メルゲン城、ダーナ城を落とし、アルスター城へ向かう間もラクチェはどこか大人しく、元気がなかった。 「おい、ラクチェ。何ぼんやりしている 「スカサハ…」 兄の呼びかけに、ハッと顔を上げる。 「怖いのか?」 「ちっ違うよっ。ただ……」 たとえ敵とはいえ、フリージ家の長男・イシュトー王子とその臣下ライザという恋人同士の仲を引き裂き、死に至らしめたこの剣が許せなかった。 (…あぁもしも……パティが傷を負ったなら。シャナンもイシュトーのように、怒り狂うのだろうか…) こんな気持ちは初めてだった。 今まで保護者であったシャナンに、今は別の眼差しを向けている。 一人、イード城へ聖剣バルムンクを捜しに旅立ったシャナン。それまでは、ただその身を心配していただけだった。 イードから合流した時、傍らには無邪気な笑顔のパティがいた。そのせいで、混乱してしまった。 だってシャナンはいつまでもシャナンのままで、自分だけの剣の師だったはずなんだから。 (シャナンも…一人の男なんだ。いずれは国に戻り、国王として妃を迎える) そんなこと今まで考えもせず、安心しすぎていた。 この、つかず離れずの距離が変わることなどないと。この、微妙な距離を意識したことすらなかった。 (……私はただの王族の一人。シャナンにとっては、ただの……) 「…スカサハ。もし私が斬られたら…怒ってくれるか?」 「バカっ、縁起でもないっ」 もう怒っている。 「そんなの、シャナン様だって…哀しむゾ」 「え…?」 さすが双子なだけあって、ラクチェの気持ちなどお見通しのようだ。 「お前…何で」 「お兄ちゃんは何でも知ってるもんだよ。お前の目を見てれば分かるさ」 返事に困って黙り込んだラクチェに、スカサハは真剣な顔を向ける。 「王子に心配させたくないなら、気を抜くな」 「……ん」 それ以上の言葉はかけてはやれないスカサハだった。 レンスターのリーフ王子一行とも合流し、だいぶ賑やかになった解放軍の晩餐をよそに、ラクチェは一人、アルスター城の屋上で周囲を見渡していた。 パティの素直さに吐息がもれる。 食事時も休戦中もシャナンやセリスにべったりなのだ。 (……あんなふうに私もなれたらなぁ……) また吐息がもれる。想像もつかないほど、無理な話だ。 シャナンの姿を想うたび胸のどこかが焦げてきて、煙りのようなため息がもれるのだ。 「ヤダヤダ、女々しい」 城壁を背にして座り込む。 と、下からレヴィンが上がって来た。 「自主的に見張りか? 感心なことだ」 「あ……すみません。別にそんなんじゃないんだ」 「では、里心でもついたかな?」 自然とイザーク方面に向いていることに気付き、ハッとする。 子供扱いするような笑い声に、ラクチェはムッとした。 「……そんなんじゃない」 何でも見透かすようなレヴィンの瞳から逃げるように目を逸らす。 「強がりを言って。全くアイラ王女のままだな」 「…母上にそんなに似ているの?」 「あぁ。姿だけではなく、性格も戦い方もよく似ている」 懐かしむような視線にさらされ、ラクチェは心中穏やかではない。 「剣術じゃまだまだおよばないよ。シャナンもそう、言っていた」 「そうだな」 さらりと肯定したが、腹は立たなかった。 「……母上は…どんな人だった?」 「オイフェ殿やシャナン王子に聞いている通りの人だろうな」 「強い人だったって…言ってた」 「そうだな。お前とそっくりの美人だったよ」 「…ケッ」 照れて顔を背ける。 「……そして、どこか儚げな人だった。イザークのため、シャナンを守るために、戦い続けるものの…、自分を守ることを忘れているようなところがあった」 「自分を…守ること?」 「ラクチェ。お前はそんなところまで似るなよ? お前を失うことで嘆き哀しむ者の存在を知るべきだ」 「……スカサハにも、そう怒られたばかりだ」 「スカサハは大人だな」 また子供扱いされたが、気にならなかった。 「…でも母上の気持ちも分かるよ。イザークにはシャナンが必要だ。シャナンさえいてくれれば、国も安泰だし、国民もどんなに喜ぶか…」 「………」 「私も嬉しい。そのためなら…正直、死も厭わない」 「では、シャナンを独りにする気か?」 「…え?」 人が変わったような厳しい顔をする。 「神剣バルムンクの継承者として、孤独な国王となることを望むのか」 「それは…」 「国民に望まれ、期待され、逃げられぬ重任をただ一人で抱えろ、と?」 「嫌だ、そんなの」 「ならば『死をも厭わない』などと軽々しく言うものではない」 考えてもなかったことを言われて混乱する。 レヴィンはいつもそうだ。軽快な調子で心を開かせる反面、時に人が変わったように厳しくその心を諭す。 そう。人が、変わったように。 「……シャナンには、スカサハもセリス様もいる。独りなんかじゃないよ。それにいずれは…パティも……」 つい口が滑ってしまい、慌てて黙り込む。 「何だ嫉妬か。これだから、女というものは…」 呆れたように微笑む。それはもう、いつもの軽い調子のレヴィンだった。 「違う、そんなんじゃないって。今のナシっ」 「なるほどなぁ…、それは気付かなかった」 「あぁもうっ! 違うって言ってるじゃないかっ」 「いいんだよ、ラクチェ。戦士とは云え、女を捨てることはない。アイラ王女のように…」 「へ…?」 自分を守ることなど考えずにつき進んだ母・アイラは、名も知らぬ父に守られはしなかったのだろうか? ふと不安なって尋ねる。 「母上は…父上に守られなかったの?」 「…いや。二人は愛し合い、守り合っていた」 「でも…」 今も生存は定かではない。 「守り合うことで、共に戦う道を選んだ。別離などはねのけたのだ」 ラクチェとスカサハと共にイザークへ行け、と言う言葉を無視して共にバーハラへ進軍した二人。 そして……。 「共に…戦う道?」 「あぁ」 それは、レヴィンが選ばなかった方の道でもあった。 「勇気ある選択だ。アイラ王女こそ、真の『勇者の剣』の使い手だった」 急に、背負っていた勇者の剣が重く感じられて、黙り込む。 冷酷にも、何十・何百もの兵士を斬り殺した分、この剣は父と母を守ってきたのだ。 そしてラクチェを守るため、今ここに託された。 「…陽が暮れるとこの辺りは冷える。いい加減、城内に戻るのだぞ」 「……う…ん」 レヴィンが去ってからも、ラクチェはじっと座り込んでいた。 剣は殺すための武器であると同時に、守るための防具でもある。 もし気持ち一つでどちらかが選べると云うのなら、母上のように選びたい。 (シャナンを…守りたい。そして、共に戦いたい) 強い決心を胸に立ち上がると、城内からまた一人、この屋上へと上がって来た。 つい、頬がほころぶ。 「シャナン」 しかし。シャナンの厳しい表情に気付いて一歩退くと、シャナンの方から近づいてきた。 「───お前…っ」 片手を振り上げたが、その手はラクチェの頬を鳴らすことなく下ろされた。 「どう…したんだ?」 「ど……『どうした』じゃないっ!! 行き先も告げずにほっつき歩くなっ」 懐かしいまでにストレートな説教だった。 「アルスター城を制圧したとは云え、フリージ軍の本隊はまだ余力を残している。我々は油断できる状態ではないんだぞっ」 「分かってるよ。だからここで見張りも兼ねて…」 「だからっ、それならそうと一言知らせて行けっ。何処に行ったのかと……っ」 ひと息ついて続ける。 「心配するではないか」 不謹慎にも、可笑しくてつい吹き出してしまった。 「何が可笑しいっ」 「ゴメン、いや本当に。まさかそんなに怒るとは思わなかったんだ」 「………」 「それに。私がいないことなんて、あの大所帯の中じゃ気付かないと思ってた」 まして、パティにまとわりつかれながらも。 「人の心配を試すものではない」 「試したんじゃないよ。気付かないって思ってたんだ、本当に」 バツが悪くて視線を落とす。 「…お前には目を配っている。無鉄砲だから、だ」 まるで自分自身に言い訳するように、シャナンは付け加えた。 「背負い込み過ぎだよ、シャナン。私なら大丈夫だよ」 「大丈夫かどうかは私が判断する。お前にもしものことがあったら……姉上に顔向けできない」 苦しげな声の重さに、シャナンの責任の重さを感じる。 守られ、生き延びることで罪悪感をも背負わされたのかもしれない。 「…背負い込み過ぎだってば。母上なら、きっとそんなこと望んでない」 背中に背負った母の剣───勇者の剣に負けない勇気を振り絞って、もう一度向き合う。 「義務ならもう充分に果たしたよ。そりゃあまだ…、母上やシャナンに比べたら、未熟かもしれないけど。私は充分に教わったし、育てられた。だから、今度は私が恩返しをする番だ」 シャナンの目を直視し続けられず、つい俯く。 「…シャナンも、『守りたい人』だけを守ればいいんだ」 「……?」 恥じるように俯いたままなので、ラクチェの想いを悟る。 (ラクチェ…お前、まさか……) 確かめるために髪を撫でると、ますます肩を竦め、その赤い顔を隠した。 (この私を…男として意識している…?) こうして頭を撫でても『子供扱いしないでっ』と怒り出さないのが、何よりの証拠だ。 (バカな。私はお前の育て親だぞ。まして、お前は姉上の娘……) ポンポンと頭を叩いて、抱き寄せる。 できるだけ、今までのように。淋しがって泣きじゃくる赤子を抱っこするように。 (……いや。あり得ぬこともない) 胸元に引き寄せた時、シャナンもまた、心の底に宿る奇妙な感覚に気付いていた。 「…ならばお前自身の身を守れ」 いたずらにラクチェの髪をクシャッと握る。 「私は、お前が無茶をしないか気が気じゃない。全く、お転婆に育ちおって……」 「仕方ないよ。母上の子だもん…」 「……生意気なことを」 ラクチェには気付けなかった。 革の軽装備が邪魔をして、シャナンの胸の高鳴りが届かなかったのだ。 何故ずっと抱きしめたままなのかも分からない───子供だった。 そうしてアルスターの夜は更けて行き、解放軍は更に南下して行くのであった。 Fin. |