| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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15 寒がり暑がり
] 厳寒の風が吹きすさぶ中。ゲゲゲの森の奥深く、鬼太郎の家に猫娘が訪れていた。 普段は、砂かけばばあの経営する妖怪アパートで一人暮らしを続ける猫娘だが…。 「もう〜信じられないのよー。全室床暖房完備のはずが、配電工事のせいで効かないのっ」 鬼太郎宅も決して温かいわけではない、隙間風吹くあばら屋だが。 猫娘は火鉢に両手両足をかけて、鉢を抱きしめるようにしてまるくなっていた。 まさに猫のごとく。ゴロゴロと丸くなって、火鉢に戯れている。 いくら、鬼太郎でも。火鉢にやきもちなど妬いたりはしない。 それがたとえ、火鉢妖怪のなれの果てだとしても…まあ、許容範囲だ。 「それで、僕の家に?」 「うん」 「ふうん…」 卓袱台に置いた茶をすすり、少年らしからぬ枯れた風情で、猫娘を眺める。 「あ…。ひょっとして…迷惑だった?」 「いや、まさかまさか。それは全然、全くもって構わないんだけ…ど」 ちりっと火鉢の中の炭が音を立てる。 「炭の予備を切らしてるんだ」 「えっ!?」 火鉢の中を覗き込む。燻った煙りを薄く立ち上らせ、炭を縁取る赤い火は徐々に白く灰化してゆく。 「ど…どうするつもりだったのよーっ」 「どう…って。冬が寒いのは当たり前のことだし…。それに」 あまり考えてなかった、というようにぽりぽりと頬を掻く。 「しばらくすれば炭屋の行商が訪れるかなあ…と思って、た」 「こんな寒い時に行商なんて…っ」 「いや。寒いからこそ、稼ぎ時なんじゃあ…ない、かな?」 玄関口の簾をぺらりと開いて外の様子を伺うが、静まり返ったゲゲゲの森。 妖怪連中でさえ冬篭もりに入っているようだ。 「寒いぃ…っ。あ〜け〜ない〜で〜…っ」 「あぁ…ごめん」 「ねえ。もうすぐ消えちゃうよ…?」 「うん? それじゃあ…」 火鉢にやかんをかける。 「父さんのお風呂用にお湯沸かしておかないと…ね」 しばらくして、やかんはしゅんしゅんと音を立てて沸いたが、すぐにその湯気も力を失った。 「あー…」 もうすっかり炭火は消えてしまったようだ。 それでも猫娘は、名残惜しげに火鉢を抱きしめたままだった。 「……仕方ないよ…ね」 読んでいた本をパタンと閉じて、鬼太郎は早々に木の葉の寝床についた。 「ねえ猫娘」 頭までかぶったふとんを開き、手招く。 「おいで?」 「え…。でも」 「二人でふとんかぶっていた方が、まだ温かいと思うよ」 「うん…」 猫娘はしばし躊躇したが、不意に室内に流れ込んだ隙間風に身を縮めて、そそくさと寝床へ向かう。 「え? そのままの格好でふとんに入るの?」 「そのまま…って?」 「外出着のままで寝床に入るなんて…。お行儀が悪いんじゃあないかなあ」 「でも…」 ここは自宅ではないのだから。寝巻きのひとつもない。 意地悪な笑みを浮かべる鬼太郎の前で、猫娘はまた寒さにぶるりと震えた。 「脱いだら?」 「えっ」 「その赤いジャンバースカートと、ブラウスだけでも。ね?」 鬼太郎はにっこりと微笑んで言った。 「でも…」 鬼太郎に目を向けて、ハッと気付く。 「鬼太郎だって、ちゃんちゃんこ着たまんまじゃないのよー」 ちゃんちゃんこどころか、上下の学童服まで着込んだままだ。 それは、いつもいつもそうだった。 「あはは」 とうとうばれてしまった。鬼太郎は猫娘の手を引く。 「どうしてそんな意地悪するのよーっ」 「ごめんごめん」 ちょっとだけ、猫娘を困らせてみたかったのだ。 だって。困った時の猫娘は、すごく可愛いんだ。 いや。困った時の猫娘、も、すごく可愛いんだ。 頭まですっぽりふとんをかぶると、二人分の輪郭をかたどる。 密閉されたふとんの中で顔を合わせると、二人は思わず笑い出した。 まるで二人して、かくれんぼをしているような気分だった。 昔はよく、こうしていつまでもいつまでもおしゃべりしていたものだった。 「温かいね?」 「うん。そうだね」 こんなに近くで猫娘と顔を突き合わせるのは久しぶりだから、鬼太郎は妙にどきどきとしていた。 「……でも。まだ…鳥肌立ってるよ?」 いつもなら、ちょっと手が触れただけでくすぐったがるけれど。 こうしてふとんの中にいると、猫娘は丸くなって体を温めることに集中しているせいか、背中に手をまわしたぐらいなら平気なようだ。 「まだ、寒い?」 「うん…ちょっと、ね」 全身を覆うはずの猫の毛がないせいか、猫体質の猫娘は、ひどく寒がりだ。 まるでかつては逆毛を立てていた猫毛の残像のように、全身の肌が鳥肌立っている。 「じゃあ…」 これは猫娘のためだから、と。自分に言い訳をしながら、その身を引き寄せる。 子供体温の猫娘はとても温かい。そして、どこもかしこも柔らかい。 体を寄せる…ふりをして、猫娘の髪に顔を埋めたり。背中を温めるふりをして抱き寄せたり。 互いの肌が触れると一番温かいからと、その首筋に顔を埋めたりしてみた。 すると… 「……?」 鬼太郎は、妙な息苦しさを覚えた。 息苦しいから鼓動が高鳴るのか。あるいはその逆なのか。 温かさにまどろんで、「鬼太郎?」と上目遣いに声をかける猫娘にたまらず、鬼太郎はふとんを跳ね除けた。 「ニャッ! 寒いじゃないのよー…っ」 鼓動はまだ、治まらない。 肩で荒く息をしながら、鬼太郎はその額に汗まで流していた。 「? 鬼太郎…って」 「え?」 真っ赤に紅潮した鬼太郎を見上げて、猫娘がコロコロと笑う。 「暑がりなんだねー」 Fin. |