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FE シャナン&ラクチェ II
FE シャナン&ラクチェ I


[ FE シャナン&ラクチェ II ]

長い戦いのたびを経て、セリス率いる解放軍はグランベル帝国領に入った。
皇帝・アルヴィスを倒し、シグルドの故郷であったシアルフィー城を制圧した夜のことだった。

それぞれの想いを秘めて最後の戦いに臨む一歩前。シャナンもまた物思いに耽っていた。
いくら暗黒魔道士・マンフロイの謀とはいえ、また、それに踊らされた野心家のレプトール・ランゴバルト両公爵のはたらきとはいえ、やはり自国イザークに攻め入ったのはかつてのシアルフィー公爵・バイロン卿(シグルドの父)であった。
しかしその息子・シグルド公子は幼い自分を、敵国の王子である自分を生かし、敵国の王女である姉・アイラを仲間と呼んだ。そして約束どおり、イザークへと帰してくれた。
それ故に複雑だった。
父・マナナン王や兄上であるマリクル王子を倒したシアルフィー一族は、同時に自分を守り、姉上との約束を守った者でもあるのだ。
思い出せばきりがない、シグルド公子との思い出。
そして…シグルドの大切な妻・ディアドラを、自分の配慮の甘さで失わせてしまった罪悪感───。
グランベル皇帝に忠誠を誓い、それでいて“子供だから”と敵国の王子の安全を守り、大事な伴侶を失ってもなお、シャナンを責めはしなかったシグルド公子。
彼は、彼だけの正義を持っていたのだ。
シグルドの生き方はシャナンの心に深く刻み込まれ、その息子であるセリスを育て上げた。
当然、罪悪感もあった。しかしあらゆる恩義が先行した。
そして今やセリスは自分を、もしかするとシグルドまでも越えようとしている。
───シャナンしか分からぬ、複雑な悦びも、そこにあった。

「シャナン…王子」

木陰に座り込んでいたシャナンが顔を上げる。
「ラクチェ?」
“王子”などと改まって呼ぶので、宵闇も手伝って誰だか分からなかった。
「眠ってしまわれたのかと……。風邪をひきます」
「何だ、一体。その言葉使いは」
「……王子は、戻りさえすればイザーク王となられる方…。臣下として当然の態度です」
しかし、慣れぬ言葉使いに舌が回らず、ゆっくりと言葉をつづる。
シャナンはつい、笑みがもれた。
「臣下?」
「…はい。私は、ずっとシャナン王子について行きます。女だてらに、と…差別などなさらないで下さいますね」
「お前は、イザーク王女・アイラ姉上の血を引く娘だぞ? 臣下ではなく、王族の姫だ。そして…」
私が王ならばお前は王妃だ。
……などとうまく言葉が出ずに、口元の笑みでごまかす。
「母上の娘だからこそ剣に生きるのです。兵士でも構いません。シャナンさまに着いて行きます」
「…ふふふっ」
「真面目に聞いて下さいっ」
「聞いている。ぎこちない敬語だ」
「シャナン様っ!」
木に寄りかかったままでラクチェを引き寄せる。
不意をつかれたラクチェは、そのままシャナンの腕に落ちた。
「シャッ…離離離して下さいっ!」
「その下手くそな敬語をやめたら、な」
「でもシャナン様…っ」
「シャナン、でいい。今更 何を気取っている」
「だ…だってシャナンは勇者様なんだものっ。神剣オードの血を継ぐ聖戦士じゃないかっ」
やっと調子が戻ったので、腕の力を弱めて解放する。
「お前もそうだ。流星剣の光が何よりの証…」
「でも私はっ、バルムンクは使えない。シャナンのようにはなれないよ。それに…っ」
感情が溢れて、たまらず滲んだ涙を隠すように拭う。
「どうしたんだ? 何を感情的になっている…」
安心させるためにゆっくりと語り、頭を撫でてやる。しかしそれを拒んでその手を振り切った。
「私、知らなかったんだ…っ。母上が亡命したってことも、バイロンって人のことも、ディアドラって人のことも……っ。シャナンがどれだけ辛かったかも知らないで…私……っ、わがままばかり言って…甘えてた…っ」
「………」
ラクチェは感情で、シャナンの苦悩を悟ったのだった。
自分のために流すその涙に、シャナンは同様した。
「シャナンのこと…全然 分かってなかったくせに……同族だなんていえないよ…っ」
「ラクチェ…」
もう一度、その身を引き寄せると。今度は抵抗しなかった。
「…だったら臣下でも何でもいい…っ。シャナンの力になりたい……」
守りたい、などとはもう軽々しく言えない。
知っていたよりも、もっと、シャナンは苦境を潜り抜け、そうは見せぬ振る舞いで自分たちを守っていたと知ってしまったから。
せめて、少しでも彼の力になりたかった。
たとえそのせいで、親しさを失うラインを引くことになっても。
「……もう充分、力になっている」
「嘘だよっ! そんな子供だましはもう聞かないっ。母上への義理とか、義務とか、そんなものにもう甘えない…っ」
「………」
それは残念だな、と。シャナンは苦笑した。
「だから…だから……っ」
「無理をして…」
“それはこっちのセリフだっ”という言葉も、泣き声に潰されて出てこない。
「私は自分の思うがままに生きている。そして、お前にもそうして欲しい」
反論の言葉も、嗚咽にまみれて潰される。
「剣士として生きたいのなら、それも良いだろう。スカサハはお前が城内で安穏に暮らす姫になって欲しいようだが…、嫌ならば説得に協力してやろう。しかし…、臣下などとは許せん」
涙で湿った前髪をすく。
「お前はもう、私にとっては大切な同族だ。同時に、共に戦った仲間ではないか。今更 他人行儀な真似はできない」
「シャ…ナン」
「無理をしているから、そんなふうに涙が出るのだ。もしも私のためを思うのなら、泣き止め」
素直にも、涙を止めようとグッと歯を食い縛る。
けれど、まだしゃっくりあげるような息は止まらない。
「そして思うままに生き…いつものように微笑っていろ」
罪や諸悪が人の心の中から生じるものだというのなら、平和もまた人の心ひとつだとも云える。
愛しい者の笑顔を見ていたい。ただそれだけのことなのに。
「できることならば……私のそばで」
頬を引き寄せて唇を重ねる。
一瞬 何が起きたのか分からず、驚いて目を見開いたラクチェも、シャナンのまぶたを見つめているうちに徐々に目を伏せた。
優しくて温かい口づけだった。
激しさもない長い口づけは、シャナンの想いの深さを却って強く訴えている。
長い時間をかけて育まれた深い愛情。様々な変化と迷いを越えて辿り着いた、揺らぐことのない決心を。
今、この時。ようやくこの手に抱きとめた。


Fin.

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