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□ Genre menu bar □ はじめに   ゲゲゲの鬼太郎   DRAGON BALL   3.3.7.ビョーシ   犬夜叉   GAME   ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■

59 駒草
58 トモダチ
57 百八つ
56 反射鏡
55 かくれんぼ
54 通り雨
53 影ふみ
52 あさがお
51 うみの日
50 水たまり
49 なぬかのよ
48 末吉
47 袖の香
46 さんすう
45 春眠
44 はつこい
43 沈丁花 
42 しりとり
41 でんしん
40 日光浴
39 初雪の日
38 雨宿り
37 うたたね
36 祝いの心
35 大事なもの
34 今だけの真実
33 おばけの音
32 猫の秘密
31 ひざ枕
30 犬のおまわりさん
29 待ちびと
28 やみのなか
27 ねこみみ
26 夢のつづき
25 けんかしかけた日
24 虚無の扉
23 なかよし
22 真剣勝負
21 河豚
20 切れた鼻緒
19 青年の夢
18 器
17 ダンデライオン
16 酔夢
15 寒がり暑がり
14 倦怠感
13 つまべに
12 おやすみ。
11 けんかした日
10 雪降る森
09 しゃっくり
08 とくべつ
07 怪奇お寝坊さん
06 未来のお嫁さま
05 魔女の心臓
04 しゃぼん玉の記憶
03 お彼岸餅
02 化け粧
01 白猫の夢


[ 16 酔夢 ]

いつの間にか鬼太郎のあばら屋で酒宴が催されていた。
最初は目玉のおやじと子泣きじじいが将棋を向かい差していただけだった。
最後の一手を待った待たないですったもんだし、仲直りに盃を傾けたのだ。
そうこうしているうちに砂かけばばあが訪れ、一反もめんとぬりかべがどうやって入ったのか訪れ、ひょうすべ、ひとつ目小僧、あかなめ、がんぎ小僧…果てはねずみ男まで宴の中心で踊り始めるしまつ。
狭い室内は畳の上、空中問わず妖怪たちの宴会場と化していた。
「………」
こういうことは珍しくもない。
人を驚かすのが好きという困った部分はあるが、大半の妖怪は至ってばか騒ぎ好きの気のいいやつらだ。
誰が声をかけるでもなく、こうして酒宴の空気を悟ると、どこからともなく集まり出す。
夕刻から始まった酒宴もすでに宵の口。けれど宴はまだまだ続く。
「鬼太郎ぉ?」
途中、おみやげ片手に訪れた猫娘も、すっかりマタタビ酒に酔って顔を朱に染めている。
お茶を片手にため息をついていた鬼太郎に、しなだれかかった。
「どうしたの? つまらない顔しちゃってー…」
「……うん」
ほんの少し前まで。唄い踊る仲間たちを、一歩離れて微笑んで見ていたのに。
「おい鬼太郎! お前、自慢のオカリナでも一興どうじゃっ」
「勘弁して下さいよ…父さん。そんな、人に聞かせられるような腕ではないですから…」
「まーったく野暮なやつじゃのう」
そう言って、また座が笑い出す。
「鬼太郎ちゃんよう。お前、酒も飲んでねえじゃねぇの。ほれ、一杯どうだ?」
「いらないよ」
ねずみ男の差し向けた徳利を差し戻すと、「まあ冷たい! つまらない男だねえ」と泣いたふりまでしてみせた。
「………」
どうしてだろう。この酒宴の輪の中にいて、とても息詰まる。
室内に充満した酒気に抗うこともできず、鬼太郎はつい呟いた。
「……もう、いいかげんにして下さい…よ」
鬼太郎の呟きは、盛り上がった宴の騒音にまみれて、すぐ掻き消えた。
重い吐息をもらし、鬼太郎は立ち上がる。
「うん? どこに行くんじゃ、鬼太郎ー」
「……ちょっと。散歩です」


朱の明星がひときわ強く照り、鬱蒼とした森の中までも照らす。夜明けはもう近い。
鬼太郎は澄んだ空気を思いっきり吸い込んで、両手を伸ばした。
「…あぶないあぶない…」
この身の中に、数多の妖怪が封印されている。
あるいは、鬼太郎が吸収され、また戻った時。逆に鬼太郎の内に吸収した部分も潜んでいる。
妖怪は得てして酒好きだ。
ただでさえこの理性が飛んでしまえば乗っ取られかねないのに、酒の力で増強しては大変だ。
だから鬼太郎は酒の一献も傾けず、ただじっと押し黙って意識を強く保っていた。
それは孤独な闘いだ。
誰に頼ることもできず、誰に味方されることもない。
自分の最大の敵は、自分の中にある。
「鬼太郎〜…」
耳に届いた呼び声に、ハッと顔をあげる。
「ね…猫娘?」
振り返ると、ふらついた足取りで猫娘が追ってきていた。
「ど…どうしたの? もう帰るのかな」
「うぅん。そぉじゃなくって…、鬼太郎、怒ってたみたいだから」
「え?」
すっかり酒気を帯びて、うるんだ瞳で心配そうに見上げる。
鬼太郎は微笑みかけた。
「怒ってなんかいないよ」
「うん…そう?」
どこからか引きちぎってきたらしい長い草をしならせて、何がおかしいのか猫娘は笑い出す。
本当に…。酔っ払いというものは、分からない。
「私もお散歩するの」
「寒くはないのかい?」
夜露の中。いつもなら、寒がりの猫娘が平気なはずはない。
「うん? うーん…寒くないよ?」
マタタビ酒で温まったせいだろうか。猫娘は寒さを感じていなかった。
「あ。でもやっぱりちょっと寒いかも?」
「ほら…。だから早く部屋に…」
「手が寒いよ?」
そう言って、鬼太郎の手を取って歩き出した。
「ああ…猫娘。ど、どこに行くんだよ?」
「どこって? どこでもいいよ」
唄うような口調でそう言っては、笑う。
「鬼太郎が行くところに、行くー」
ふらついた足取りで、猫娘はどんどん進んでいく。
繋いだ手を引っ張るように、どんどん、どんどん進んで行った。
「ねえ、鬼太郎? 鬼太郎は…お酒が嫌いなの?」
「え?」
不意に投げかけられた問いに、鬼太郎は言いよどむ。
それは…決して嫌いというわけではないけれど。好きだといえない。
自分を失うようなことはあってはならないから、嗜む程度に口にする程度だ。
「猫娘はマタタビ酒が好きだね」
「うん! だいすきー」
「…飲みすぎだよ」
「だって気持ちいいんだよ? 体が軽くなったみたいー」
確かに。その足取りは軽く、ともすればこのまま天に飛び上がりそうな勢いだった。
「駄目だよ。そんなに飲んじゃあ」
猫娘は朝に弱い。ただでさえそうなのに、二日酔いした朝はすぐに偏頭痛を起こすのだ。
明日のことを思うと、鬼太郎は心配になってきた。
「酔っ払ったあたしは嫌い?」
「え…」
急な問いが、また飛ぶ。
これだから…酔っ払いというものは。
そんなはずないだろう、という答えも待たずに猫娘は笑った。
「大丈夫だよー、鬼太郎。今はね、心もとっても軽いのー」
「心?」
「だから…鬼太郎に、嫌いって言われても大丈夫だよー…」
「え?」
足を止めて、猫娘が振り返る。
「酔ってなくても…あたしが、嫌い?」
「な…」
「いいんだよ? 本当のこと言っても」
不意に離された手。
猫娘はひょいと岩の上に飛び移った。
「猫娘。危ないよ」
「危ないのは、鬼太郎だよ?」
「僕の…何が危ないって言うんだ」
岩の上に腰掛けて、猫娘は肩を竦める。
「たくさん、隠し事してる」
その言葉に、鬼太郎はどきりとした。
隠していることなら沢山ある。たとえば猫娘に対する目一杯の気持ち。そして腹の底に眠らせた妖怪たちの存在。
猫娘が指摘したのは、後者の方だった。
「抑えていられるものばかりじゃないよ? いくら鬼太郎だって…」
けれどそれはどちらにもあてはまる言葉だったから、鬼太郎は混乱した。
「…鬼太郎にも…好きなひとができたら…いいね」
「はあ…?」
「全部話せる相手ができたら…いいね」
違う。猫娘は見透かしてなど、いない。
ただ、鬼太郎が何かを隠していることだけは気付いているのだ。
知らされないのは猫娘が信用に欠けるからと、誤解している。
「違うんだ」
「? 何が??」
「…だから…その」
相手は酔っ払い。今、何を話したところで明日には忘れてしまうだろう。
だからと言って、吐き出してしまえるものでもない。
「……鬼太郎は、抱え込みすぎだよ?」
「………」
「だから、一緒に…支えてくれるひとに出会えたら…いいね」
この森に。今までの生に。その存在との出逢いがなかったというのなら…
「…鬼太郎は…よそに行った方がいいのかもね…」
猫娘はもう笑っていなかった。
酔いが醒めているのかどうかは、ここからでは分からない。
鬼太郎はため息ひとつついて、岩の上、猫娘の隣りに腰掛けた。
「ひどいな」
「………」
「僕をこの森から追い出すのかい?」
笑い話のように言うが、やはり猫娘は笑わない。
ただただ大きな瞳で鬼太郎を見つめるだけだ。
「違うよ…鬼太郎」
感情の見えない表情で、猫娘が告げる。
「みんなそうやって、この森を出て行くんだよ?」
そしてここは想い出の中に埋もれる。
猫娘だけを残し、巣立って行ってしまう。
鬼太郎だけが例外だなんて、ありえない。
「そうやって、よそでしあわせになるんだよ?」
「何…言ってるの?」

「…今…だけだよ…」

犬の遠吠えが響く。猫娘はびくりと肩を竦め、ハッと我に返った。
「もうすぐ夜明けだね。あたし…ここで寝る」
「え? 風邪ひくよ」
「大丈夫よ。猫だもん」
途端にとろんとまぶたが降り、岩に寄りかかって眠り始めた。
「だ、駄目だよー…。ほら、猫娘っ」
「鬼太郎…帰りなよ。オヤジ様が待ってるし…もう宴も終わって…るよ」
ひとつ大あくびをして、もうすっかり目をつむってしまった。
「……仕方ないなあ……」
ちゃんちゃんこを脱ぎ、猫娘を背におぶる。
「猫娘? しっかり掴まってて…」
「ん…」
猫娘ごと、またちゃんちゃんこを羽織ると、猫娘を背に帰路についた。
朝霧は濃く、霧の中を乱反射するようにほの白い朝の光が届き始めている。
「……鬼太郎…」
「うん…?」
「…だいすき…」
たとえそれが───今だけ、でも。
「………」
猫娘の切なげな声に、鬼太郎は答えない。
だって。
そんな言葉は素面の時に聞かなければもったいない。
目覚めた時、忘れてしまうような言葉ならば、いらない。


Fin.

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