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□ Genre menu bar □ はじめに   ゲゲゲの鬼太郎   DRAGON BALL   3.3.7.ビョーシ   犬夜叉   GAME   ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■

59 駒草
58 トモダチ
57 百八つ
56 反射鏡
55 かくれんぼ
54 通り雨
53 影ふみ
52 あさがお
51 うみの日
50 水たまり
49 なぬかのよ
48 末吉
47 袖の香
46 さんすう
45 春眠
44 はつこい
43 沈丁花 
42 しりとり
41 でんしん
40 日光浴
39 初雪の日
38 雨宿り
37 うたたね
36 祝いの心
35 大事なもの
34 今だけの真実
33 おばけの音
32 猫の秘密
31 ひざ枕
30 犬のおまわりさん
29 待ちびと
28 やみのなか
27 ねこみみ
26 夢のつづき
25 けんかしかけた日
24 虚無の扉
23 なかよし
22 真剣勝負
21 河豚
20 切れた鼻緒
19 青年の夢
18 器
17 ダンデライオン
16 酔夢
15 寒がり暑がり
14 倦怠感
13 つまべに
12 おやすみ。
11 けんかした日
10 雪降る森
09 しゃっくり
08 とくべつ
07 怪奇お寝坊さん
06 未来のお嫁さま
05 魔女の心臓
04 しゃぼん玉の記憶
03 お彼岸餅
02 化け粧
01 白猫の夢


[ 17 ダンデライオン ]

ゲゲゲの森にも春が訪れていた。

鬱蒼とした草木の生い茂る森を抜け、丘に出ると、そこは一面のたんぽぽ畑が広がる。
花見代わりに出かけたはずが、酒を持ち寄った仲間たちは酒の宴を繰り広げていた。
柔らかい陽射しの下。春風を頬に浴びて飲む酒も格別だとばかりに、いつしか酔いどれ連中は昼寝についてしまった。
「……やれやれ」
鬼太郎はふうとため息をついて、ふと手もとのたんぽぽを摘み取った。
早咲きのたんぽぽだったのだろうか。もうすっかり黄色い花弁は枯れ、その身は綿毛に包まれている。
「綿ぼうし…か」
目を伏せて───思い浮かべてみる。
猫娘には、きっと綿ぼうしの白無垢がよく似合うだろう。
鬼の名を持つ鬼太郎のお嫁さんとしては、角かくしの方が似合うのかもしれないが……。いやいや猫娘に角などないのだし、そもそも角を隠す角かくしではない。
おすべらかしを覆うように、綿ぼうしを被った猫娘は、きっと、おすましして俯いているのだろう。
神の使いとして生まれた猫娘が、僕のものになる日。
三々九度の盃を交わし、ようやく綿ぼうしに隠された猫娘の顔を上げる……。
「…ん?」
すると。思い描く猫娘は、子供のまま。幼い猫娘が、木の葉型の大きな瞳で見上げる姿が浮かんだ。
それは鮮明に思い出せる。
朱の盃を指を揃えて傾けるその手はもみじのように小さく、大きな綿ぼうしに比べてその等身はあまりにも低い。
ひとつ口をつけた清めの酒の苦さに眉を顰め…けれどちゃんと我慢する。
幼いままの、猫娘だった。
「………」
鬼太郎はふるふると頭を振って、もう一度、最初から考え直した。
第一候補は白無垢・綿ぼうしだけれど。猫娘は洋装もとても似合うだろう。普段の格好も白いブラウスに赤いジャンバースカートと、洋装だ。いつぞやの、猫屋で見せた紺のメイド服もよく似合っていた。
真っ白なウェディングドレスもとても似合うだろう。それはそれは、これでもかというほどレースを重ねてボリュウムを持たせたドレスがとってもよく似合う。
オフショルダーのローブデコルテだったら…どうしよう。
「……っ!」
胸元の開いたドレスをまとい、自分を見上げる猫娘を想像して、ついハッとした。
こんなことを考えては、いけない。
頭にかぶったケープは長く長く伸びて、ヴァージンロードの上をゆく。
父代わりにその横に並ぶのは…ぬりかべだろうか。広い会場が必要だ。
そこまで想像して、鬼太郎はまた気付く。
「……?」
時間をかけて辿り着いた祭壇の前。自分を見上げた猫娘はやはり…幼い姿のままだった。

どうしてだろうか。大きくなった猫娘が想像できない。
きっと。清楚で凛とした娘に育っている…はず、なのに。

けれど、思い浮かべた猫娘はみんな…緊張しつつも、鬼太郎と目が合うと嬉しそうにはにかんで笑うから、鬼太郎はまた、鼻の下が伸びた。
「ふぅーっ」
突然、指先を襲った風にハッと我に返る。
摘み取ったたんぽぽに息を吹きかけた、猫娘がいた。
「ああ…っ」
あれよあれよと云う間に、たんぽぽの綿帽子はちりぢりに春風に舞い、無数に広がった綿毛が丘を滑るように飛んで行った。
「うふふ」
いたずらっ子の笑みを浮かべて、猫娘が肩を竦める。
だから、つい「何するんだよ」という非難の言葉も消え失せてしまった。
「なーにぼうっとしているの?」
「…う…ん」
飛び散った綿毛と同様に、さっきまで思い浮かべていた夢でさえ、ちりぢりになってしまったような空虚感が襲うけれど……。
「?」
鬼太郎の答えを待って、首を傾げる猫娘がここに───すぐ隣りに、いるから。すぐに心は春の温かさに満たされる。
「……なんでもないん…だ」
見果てぬ先の夢よりも、今この時。目の前にある時間の方が大切だ。
たとえ永き命でも。一分一秒も無駄にできないほど、大切なんだ。
猫娘がいる。ただそれだけで、見渡す景色はいつも春だ。


Fin.

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