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□ Genre menu bar □ はじめに   ゲゲゲの鬼太郎   DRAGON BALL   3.3.7.ビョーシ   犬夜叉   GAME   ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■

59 駒草
58 トモダチ
57 百八つ
56 反射鏡
55 かくれんぼ
54 通り雨
53 影ふみ
52 あさがお
51 うみの日
50 水たまり
49 なぬかのよ
48 末吉
47 袖の香
46 さんすう
45 春眠
44 はつこい
43 沈丁花 
42 しりとり
41 でんしん
40 日光浴
39 初雪の日
38 雨宿り
37 うたたね
36 祝いの心
35 大事なもの
34 今だけの真実
33 おばけの音
32 猫の秘密
31 ひざ枕
30 犬のおまわりさん
29 待ちびと
28 やみのなか
27 ねこみみ
26 夢のつづき
25 けんかしかけた日
24 虚無の扉
23 なかよし
22 真剣勝負
21 河豚
20 切れた鼻緒
19 青年の夢
18 器
17 ダンデライオン
16 酔夢
15 寒がり暑がり
14 倦怠感
13 つまべに
12 おやすみ。
11 けんかした日
10 雪降る森
09 しゃっくり
08 とくべつ
07 怪奇お寝坊さん
06 未来のお嫁さま
05 魔女の心臓
04 しゃぼん玉の記憶
03 お彼岸餅
02 化け粧
01 白猫の夢


[ 18 器 ]

とある大妖怪との対戦後、数日が過ぎていた───。

すっかり妖力を吸い取られた鬼太郎は妖怪山の洞窟の奥深く、水晶に囲まれたその場所に独り、鎮座していた。
失われた妖力を取り戻すのには、時間がかかる。
妖怪たちから吸い取れば、短時間で戻るのだが…鬼太郎はそれを望まなかった。
そんなことをしたら、今まで戦ってきた妖怪たちと、同じだ。
鬼太郎は自分の自然治癒能力を信じていた。
「………」
鍾乳洞を伝って、水滴が落ちる。
静かな洞窟内にひたひたと足音が近づいてきていた。
(……来るな)
意識はない。
何かを考えるだけの力さえ、今の鬼太郎からは失われていた。
指一本動かす気力───妖力すらない。
今の自分は、抜け殻だ。近づく妖力は、自分の望む望まぬに関わらず吸い取ってしまう。
だから…
(来るな…っ)
無数の水晶に、赤いスカートのすそが映る。
そして、洞窟を越えてきて弾んだ吐息の音で、鬼太郎は一瞬 覚醒した。
(…ねこ……むすめ…)
猫娘、だった。
砂かけばばあや目玉のおやじが止めなかったのだろうか。
今、この身に近づけば。たとえ猫娘であろうと…その妖力を吸い取られてしまう。
(……来るな……)
けれど声は出ない。動けない。
(来ないで…くれっ)
動けぬはずの体、その額に汗が滲む。
鬼太郎は渾身の力を込めて、妖力を吸引する無意識の意志を留めた。
「鬼太郎…っ」
鬼太郎の姿を見つけ、猫娘が駆け寄る。その早足で、猫娘の気持ちは伝わった。
会いたくて、会いたくて。
決して独りにはしたくなくて、ついやって来てしまったのだろう。
けれど今の鬼太郎は、抜け殻だ。
「鬼太郎?」
目を伏せ、ただじっと黙り込む鬼太郎の前にしゃがみこむ。
きっと、あの、いつもの笑顔を浮かべているのだろう。
この寒い洞窟の中、唯一の温もりが伝わる。この身ですら、まるで水晶のように冷たくひえているのだ。
その身に触れたい。
いや、触れてはならない。
鬼太郎の中でふたつの心がせめぎあっていた。

僕の体は、器なんだ。
多大な妖力を呑み込める底なしの器。
なぜなら僕は、この世でなく、あの世でもない。世界のはざま───墓場から生まれた。
あの闇の中に、道はなかった。
吹きすさぶ嵐、天上天下を伝う雷鳴だけが頼りだった。
抱かれるはずの腕はすでになく。母の胎内で、その鼓動が消える瞬間を聞いていた。
しだいに冷え固まる母胎に囲まれ、窮屈な暗黒の世界を潜り抜け、墓土を掻き分けて地上に出た。
頬に当たる雨風は生ぬるく、辺りは暗雲立ち込める闇夜だった。
ひと筋の雷が天から降り落ち、僕はこの世に這い出てきた。
あの闇の世界。全てを呑み込む空白を、僕はこの身に呑み込んだ。

自分の中に、あの世界への扉が存在する。
そこには果てがない。限界がない。ただ途方もない独白の世界だ。
そう……
「……早く…いつもの鬼太郎に戻って…ね?」
猫娘がいたわるように鬼太郎の髪を撫でる。
その左前髪の奥。ぽっかりと空いた空洞の向こうに、その世界は存在する。
「…鬼太郎…」
反応のない鬼太郎。猫娘はふうと息をついて、その身を乗り出した。
鬼太郎の前髪を掻きあげ、その額に口づける。
「………」
その瞬間。
空白の闇に温かい風が吹き込んだ。
それは、外部───猫娘───から与えられたものなのか、鬼太郎の内に生じたものなのか。
あるいは、その両方なのか。
今の鬼太郎には分からない。もちろん、猫娘も知らない。
ただ鬼太郎は、自分の中の吸収能力を必死に抑え、ただ猫娘は、自分のしたことに頬を紅潮させて立ち上がる。
「頑張って…ね」
猫娘が立ち去ると、また洞窟内に冷たい静寂が戻った。
けれど、鬼太郎のその身には、今までの再生とは違う温かいものが流れ込んでいた。
それは形もなく、音もなく。
鬼太郎の内にある空白の闇を照らす、温かい力になる。
「………」
意識を失ったままの鬼太郎の頬に、かすかな笑みが宿っていた。


Fin.

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