| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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] とある大妖怪との対戦後、数日が過ぎていた───。 すっかり妖力を吸い取られた鬼太郎は妖怪山の洞窟の奥深く、水晶に囲まれたその場所に独り、鎮座していた。 失われた妖力を取り戻すのには、時間がかかる。 妖怪たちから吸い取れば、短時間で戻るのだが…鬼太郎はそれを望まなかった。 そんなことをしたら、今まで戦ってきた妖怪たちと、同じだ。 鬼太郎は自分の自然治癒能力を信じていた。 「………」 鍾乳洞を伝って、水滴が落ちる。 静かな洞窟内にひたひたと足音が近づいてきていた。 (……来るな) 意識はない。 何かを考えるだけの力さえ、今の鬼太郎からは失われていた。 指一本動かす気力───妖力すらない。 今の自分は、抜け殻だ。近づく妖力は、自分の望む望まぬに関わらず吸い取ってしまう。 だから… (来るな…っ) 無数の水晶に、赤いスカートのすそが映る。 そして、洞窟を越えてきて弾んだ吐息の音で、鬼太郎は一瞬 覚醒した。 (…ねこ……むすめ…) 猫娘、だった。 砂かけばばあや目玉のおやじが止めなかったのだろうか。 今、この身に近づけば。たとえ猫娘であろうと…その妖力を吸い取られてしまう。 (……来るな……) けれど声は出ない。動けない。 (来ないで…くれっ) 動けぬはずの体、その額に汗が滲む。 鬼太郎は渾身の力を込めて、妖力を吸引する無意識の意志を留めた。 「鬼太郎…っ」 鬼太郎の姿を見つけ、猫娘が駆け寄る。その早足で、猫娘の気持ちは伝わった。 会いたくて、会いたくて。 決して独りにはしたくなくて、ついやって来てしまったのだろう。 けれど今の鬼太郎は、抜け殻だ。 「鬼太郎?」 目を伏せ、ただじっと黙り込む鬼太郎の前にしゃがみこむ。 きっと、あの、いつもの笑顔を浮かべているのだろう。 この寒い洞窟の中、唯一の温もりが伝わる。この身ですら、まるで水晶のように冷たくひえているのだ。 その身に触れたい。 いや、触れてはならない。 鬼太郎の中でふたつの心がせめぎあっていた。 僕の体は、器なんだ。 多大な妖力を呑み込める底なしの器。 なぜなら僕は、この世でなく、あの世でもない。世界のはざま───墓場から生まれた。 あの闇の中に、道はなかった。 吹きすさぶ嵐、天上天下を伝う雷鳴だけが頼りだった。 抱かれるはずの腕はすでになく。母の胎内で、その鼓動が消える瞬間を聞いていた。 しだいに冷え固まる母胎に囲まれ、窮屈な暗黒の世界を潜り抜け、墓土を掻き分けて地上に出た。 頬に当たる雨風は生ぬるく、辺りは暗雲立ち込める闇夜だった。 ひと筋の雷が天から降り落ち、僕はこの世に這い出てきた。 あの闇の世界。全てを呑み込む空白を、僕はこの身に呑み込んだ。 自分の中に、あの世界への扉が存在する。 そこには果てがない。限界がない。ただ途方もない独白の世界だ。 そう…… 「……早く…いつもの鬼太郎に戻って…ね?」 猫娘がいたわるように鬼太郎の髪を撫でる。 その左前髪の奥。ぽっかりと空いた空洞の向こうに、その世界は存在する。 「…鬼太郎…」 反応のない鬼太郎。猫娘はふうと息をついて、その身を乗り出した。 鬼太郎の前髪を掻きあげ、その額に口づける。 「………」 その瞬間。 空白の闇に温かい風が吹き込んだ。 それは、外部───猫娘───から与えられたものなのか、鬼太郎の内に生じたものなのか。 あるいは、その両方なのか。 今の鬼太郎には分からない。もちろん、猫娘も知らない。 ただ鬼太郎は、自分の中の吸収能力を必死に抑え、ただ猫娘は、自分のしたことに頬を紅潮させて立ち上がる。 「頑張って…ね」 猫娘が立ち去ると、また洞窟内に冷たい静寂が戻った。 けれど、鬼太郎のその身には、今までの再生とは違う温かいものが流れ込んでいた。 それは形もなく、音もなく。 鬼太郎の内にある空白の闇を照らす、温かい力になる。 「………」 意識を失ったままの鬼太郎の頬に、かすかな笑みが宿っていた。 Fin. |