| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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19 青年の夢
] それはほんの小さなきっかけだった。 自分には、身軽な体と化け猫化した時のひっかき能力しかない。 だからもっと強くなりたいと思ったのだ。 ただ守られているばかりではいられない。鬼太郎の力になりたかった。 「ふーむ…。そうは言っても…のう」 猫長老を頼ってその屋敷に辿り着いた。 「お願いします猫長老さま! 何か、猫族妖怪の必殺技をご伝授下さいっ」 「必殺…技。のう…?」 長く伸ばした髭を撫で、猫長老は目を伏せる。 「お願いっ!」 「うーむ…」 しばらくして、猫長老はその一室の壁に並ぶ本棚の中から、一冊の本を取り出した。 「必殺技…というわけではないのじゃが」 パラパラとその書を確かめ、とある頁にしおりをはさむ。 「……おぬしに必要な能力、かもしれんのう。この先をしっかり勉強しなさい」 「ありがとう! 猫長老さまっ」 嬉々として礼を言う猫娘が愛らしく、さすがの猫長老も思わず目元を緩めた。 「でも…猫長老さま。これはどんな技なのですか?」 さらりと目を通しただけではよく分からない。これは読解に時間がかかりそうだ。 でも、鬼太郎のためだからと。猫娘は自分を奮い立たせる。 「うむ。それは…のう。技ではなく、癒しの術だ」 「癒…し?」 それなら確かに必要だ。鬼太郎はとっても頑丈だけれど、やはり戦いの後には傷を負う。 「体についた傷ではないぞ?」 まるで見透かしたように猫長老が言う。 「それは───忘却の術じゃ」 「ぼう…きゃく?」 かつて。猫長老自身が猫娘にかけた術。そして今も当の本人は知らず、かかっている術でもある。 「どんな災いも苦痛も。丸ごと消してしまえる術じゃ。心を傷める不要な記憶を…消し去ることができる」 「ふ…ふうん?」 それが必殺技なのかしらと、首を傾げる猫娘に対して、猫長老は続けた。 「そう…まるで……夢でもみたかのように…のう」 その日。おうちに戻った猫娘は、その書を読み耽ったまま眠りにつき……おかしな夢を見た。 見渡す世界は低く、空は高い。 いつもならば腰掛けることもできるガードレールも見上げるほど高く、コンクリートの地面が近かった。 あたしは、猫だった。 慣れた舌さばきで白い毛並みを整えると、お気に入りのおリボンをつけたままで町を行く。 すると…… 夕暮れの町並。長く伸びた影の先に、その人が立っていた。 秋風に身を縮ませ、背広の下にはマフラーを掛けて地味なコートを羽織っていた。 その背中を、知っているような…知らないような。 近づくと、青年はふと足を止める。 (あぁ。この人は…) 不思議と、名前だけが思い出せない。けれど、大事な人だということは分かっていた。 ずっとずっと、会いたくて。ずっとずっと、会えなくて。 恨みがましく「にゃあー」と鳴いてみせた。 ああ。言葉も話せない。 けれど青年はしゃがみこんで…、彼もまた、何か不思議がりながらその大きな手を伸ばした。 いたずらにペロリと舌を伸ばすと、ようやく青年の顔に笑みが宿る。 そのまま立ち上がると、急に視界が高くなった。 けれど。無神経な青年は、お気に入りのおリボンに手をかけたから、思わず「ナーっ」と非難の声を上げた。 「ああ…ごめんよ」 そう言って、温かいその手の中であたしのあごを撫でる。 とっても気持ちがいいから、思わずごろごろと心地好い鳴き声を喉にこもらせた。 「でもね…」 あんまり気持ち好くて、一瞬 気付かなかったけれど… 「どこかで引っ掛けたら、危険だから…ね?」 不意をつかれてリボンを解かれ、思わず爪を立てた。 「イテっ」 ざまぁみなさい。鼻息も荒く、地に降りる。 でも……。 彼は彼なりに、あたしのことを心配していることは伝わっていた。 追いかけるでもなく、捕まえるでもなく。彼はただ困ったように途方に暮れて、また、しゃがみこむ。 「………」 しょうがないわね…。 あたしはしっぽを立てて、また彼の元に近づいた。 ああ。随分とやりすぎちゃったみたい。引っかき傷からはまだツーッと血が滴っていた。 舌を伸ばして、その傷口を舐め取る。 大丈夫かな? 大丈夫だよね。 もう痛くないから、元気出して…ね? 「……ありがとう。もう大丈夫だよ? ねこ…」 そして、彼の表情が凍りつく。 まるで、自分が無意識にもらした言葉に反応したかのようだった。 どうしてだろう。その名を呼んで欲しいのに。 何を認めたくないの? 何に立ち止まっているの? 「ん…ナァー」 あたしは先を促すように、そう鳴き声を上げた。 そしたら、ちゃあんと呼んでくれたの。 「ねこ…むすめ……?」 目を覚ますと、そこはいつもの妖怪アパートの一室。猫娘の部屋だった。 まだ頭の片隅に残る声にまどろんで、ひとつあくびをする。 「猫娘…ったら…。風邪ひくよ?」 「……にゃ?」 肩を揺するその手、呼びかける声に、急激に現実へ引き戻された。 「き…ききき鬼太郎っ!?」 慌てて飛び起きて、はだけた上掛けを引き寄せる。 一体いつから、どうやってここに来たんだろう。それに、寝顔を見られてしまったのだろうか。 猫娘は妙に気恥ずかしい気持ちで頬を赤くしていたが、鬼太郎はいつも通り。ぼんやりとした表情で不思議そうに首を傾げた。 「あぁ。おはよう、猫娘」 「ど、どうして…」 「うん? ちゃんとノックしたんだけど…。鍵、開いてたよ」 嘘だった。 ドア越しに聞こえてきた猫娘の寝苦しそうな声を心配し、髪の毛針を変形させて鍵をこじ開けたのだ。 「そ…そう、だった?」 「……うん。無用心だね」 あぐらをかいたまま肩をすくめ、へへへと笑う。 「…ごめーん…」 「うん。今度からは気をつけた方がいいね。それより…」 まだ不思議そうに夢の尾尻を追うような視線の先───開いたままの書物を見つめる猫娘に気付き、その手を取る。 あんなにうなされていた夢に、まだ戻りたいというのだろうか? 「今夜はこれから僕の家であの世鍋をするんだけど…。手伝ってくれないかな?」 「え…? うん」 まどろんだ夢のかけらよりも、より強く。目の前にあるこの世界に引き戻したい。 「今日は昼からずっと釣りをしてね。いっぱい魚が釣れたんだよ」 「お魚?」 猫娘の瞳がきらりと光る。 「うん。猫娘の大好きな岩魚も鮎も釣れたんだよ」 「すごーい! この時期によく釣れたねーっ」 「うん、あとね…」 他にもいっぱい用意した猫娘の好物を、指を折りながら数え上げる。 それと…あと、一番大好きな自分もいるから、と言いかけたけれど。 猫娘が、照れて嫌がったら本末転倒だから。それはさすがに言わずにおいた。 Fin. 鬼太郎side 『白猫の夢』 |