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□ Genre menu bar □ はじめに   ゲゲゲの鬼太郎   DRAGON BALL   3.3.7.ビョーシ   犬夜叉   GAME   ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■

59 駒草
58 トモダチ
57 百八つ
56 反射鏡
55 かくれんぼ
54 通り雨
53 影ふみ
52 あさがお
51 うみの日
50 水たまり
49 なぬかのよ
48 末吉
47 袖の香
46 さんすう
45 春眠
44 はつこい
43 沈丁花 
42 しりとり
41 でんしん
40 日光浴
39 初雪の日
38 雨宿り
37 うたたね
36 祝いの心
35 大事なもの
34 今だけの真実
33 おばけの音
32 猫の秘密
31 ひざ枕
30 犬のおまわりさん
29 待ちびと
28 やみのなか
27 ねこみみ
26 夢のつづき
25 けんかしかけた日
24 虚無の扉
23 なかよし
22 真剣勝負
21 河豚
20 切れた鼻緒
19 青年の夢
18 器
17 ダンデライオン
16 酔夢
15 寒がり暑がり
14 倦怠感
13 つまべに
12 おやすみ。
11 けんかした日
10 雪降る森
09 しゃっくり
08 とくべつ
07 怪奇お寝坊さん
06 未来のお嫁さま
05 魔女の心臓
04 しゃぼん玉の記憶
03 お彼岸餅
02 化け粧
01 白猫の夢


[ 20 切れた鼻緒 ]

「まぁ〜ったく、珍しいこともあるもんだぜ。お前が街に買い物に出たいなんてなぁ」
ねずみ男の根城、人間界の繁華街を歩きながら、ここには不似合いな下駄を鳴らす鬼太郎に話しかける。
「鬼太郎ちゃんもようやくこの世界の良さ、まぁ云ったら物欲ってぇもんが分かるようになったってことか。へっへっへっ」
「………」
黙り込んだままの鬼太郎は、それでも少し楽しげだった。
頼るところがこのねずみ男しかいない…というのは情けないばかりだが。それでもやはり詳しい者を頼るのが一番なのだろう。
「しっかし野郎二人で並んで歩くなんざぁ、野暮だねえ」
行き交う男女の姿を前に、ねずみ男は「はあ…」と吐息をもらす。
「まぁそう言うなって。それで…『はやりのでぱーと』というのはこの辺りなのか?」
意味が分かっているのかどうか、微妙な口調で鬼太郎が尋ねる。
「おい…」
「うん? ああ…『おしゃれなざっかや』だったっけ」
ねずみ男に聞かされたままの発音で、言う。
それがどんなところであるかなど、どうでもいい。
ただただ鬼太郎は、ひとつの贈り物を探して求めていた。


話は数日前に遡る。

妖怪ポストにハガキで寄せられた、怪奇事件の現場へ向かう道すがら。
今回は一反もめんが同行せず、ただ山道を歩いていた。
「あぁ〜ん…。もう疲れたよー…鬼太郎…」
ほんの数里歩いたばかりなのだけれど。
ついてきた猫娘は、いつまでも続く山道にへたりこんでしまった。
「うーん…。でももう少しだから…ね? 頑張ろう」
「もうあと少しだぞい!」
「……うん」
カラコロと下駄を鳴らし、鬼太郎は道をゆく。
猫娘もひとつ気合いを入れなおして歩き始めた。
「もう〜。歩いて行ける距離なら、一反に頼めばひとっ飛びなのに〜…」
「うん…そう、なんだけど…」
どこまでも続いていく一本道、その左右に広がる景色を眺めながら、鬼太郎は楽しげに告げた。
「歩けるところへなら、歩いて行きたいじゃないか」
自分の足で、歩きたい。その先で見た景色は、そのまま自分のものになる。
鬼太郎は───無から生まれた。
母の願いは叶わず、その命は鬼太郎を生み出す前に途絶えたのだ。
けれど鬼太郎は死ななかった。墓土を掻き分けてこの世界に産まれ出た。
なかったはずの命。あの世に落とされるところを、自分の力で這い出したのだ。
だから、沢山の景色を見ていたい。見れなかったはずの景色を眺めてみたい。
そして、自分が───天命に望まれなかった命が───何を成すべきなのか、知りたい。掴み取りたい。この目で、この腕で。
「ふぅん…?」
けれど、時おり不安になることもある。
自分の命は閻魔帳にも記されてないのではないかと、思う。
この世に生を受けるべくして産まれた命と、自分とは違うのではないかと、思うのだ。
「あ…っ」
妙なことを考えていたせいか、地面から飛び出した石に足を取られてしまった。
「鬼太郎ー…大丈夫?」
「いてて…。うん、僕は大丈夫。父さん、すみません。大丈夫ですか?」
髪の毛にしがみついた目玉のおやじがひょっこり顔を出す。
「うむ。わしは平気じゃ…が。おい鬼太郎っ」
「?」
足元に目をやると、自慢のリモコン下駄の赤い鼻緒が切れていた。
「ああ〜…っ」
「うーむ。縁起が悪いのう…」
数多の妖怪を懲らしめてきた丈夫な下駄なのに、それは不意に訪れた。
───こんなものなのかもしれないな。鬼太郎はふと思う。
天命など、閻魔大王にしか分からない。この世に生まれたきっかけも、不慮の死も。こんなふうに不意に訪れるだけのもの。
誰にも止められない。誰にも越えられない。
現に、目玉おやじの願いも叶わず、鬼太郎の母は病に命を落としたのだ。
「……?」
まさかそんなことを考えているとは思わず、猫娘は小首を傾げて下駄を手に取った。
このくらいのことで。随分がっかりしているんだなと、思った。
「ね…猫娘?」
お気に入りの真っ赤なリボンをしゅるりと解き、歯を立ててぴりりと破いた。
「そーんなガッカリしないのー」
「…え?」
こよりのようによじって節穴に通す。
「こんなの簡単に直るじゃない」
幸いにして切れたのは鼻緒の部分だけだった。器用に直した下駄を揃え、「はい」と鬼太郎に向ける。
「ね?」
へっちゃらな笑顔を、鬼太郎に見せる。
それは生命力に満ちた、力強く温かい笑顔だった。
産まれ落ちた時───鬼太郎が得ることがなかったもの。
けれどそれは、今こうして得ることができる。
生きてさえいれば。そう、歩いてさえ行けば、いつか辿り着ける。
「…ありがとう…猫娘」
そして、返された鬼太郎の笑顔に、猫娘は嬉しそうに微笑んだ。


その後の怪奇事件はつつがなく解決したけれど…。
猫娘の頭の上からはお気に入りのリボンがなくなってしまった。
だから、鬼太郎はそれを求めて街へ出たのだが、あまりにも騒がしく、また混みあった路上でどこをどう行くべきか迷い、先日は引き返してきてしまった。
そもそもリボンやアクセサリーというものが、どこでどうやって売られているのかも、鬼太郎はよく分かっていない。
そしてこうして、ねずみ男の案内で雑貨屋に辿り着いたのだ。
「…よう? お前、こんなところで何が欲しいってんだい?」
「………」
鬼太郎は無言で、色とりどりのアクセサリーをひとつひとつ眺めていた。
どれもこれも。猫娘によく似合うだろう。
ひとつひとつ。その髪に飾られたところを想像しては鼻の下が伸びる。
「…全部…欲しいな」
「!」
欲のない鬼太郎の、珍しく欲望に満ちた言葉に、ねずみ男は我が耳を疑った。
けれどもし、鬼太郎が欲望を持ったのなら…。少しは話の分かる男になる反面、ある意味最凶ではないかと不安になる。
「でも…まあ。頭はひとつだから…」
やはり欲のない鬼太郎の言葉に、ねずみ男は安堵の吐息をもらした。
真剣な顔で吟味して、ようやく桃色のりぼんに決める。
「やーっと決まったのかよ? 全く待たせやがって」
「ごめんごめん。それで、さあ」
キャッシャーの前、丁寧に包装されていくリボンを見ながら鬼太郎が微笑む。
「僕、お金持ってないんだ」
「へえ〜…まあそうだろうなぁ〜……って、おい? そんじゃあどう…」
「だからねずみ男、払っておいてくれよ」
「はぁあ!? ただでここまで案内してやった上に、なーんでそこまで面倒みてやんなきゃなんねえんだよっ」
「頼むよ」
鬼太郎の笑顔が凍る。
それは、そこらの人間には分からないけれど……鬼太郎の中で強大な妖気が集っていくことに、ねずみ男は気付く。
「僕たち。親友じゃないか…」
額が汗に滲む。
化けた猫娘に睨みつけられるよりも、恐ろしい。
その笑顔の裏で。どれほどの妖怪たちを倒してきたのか知っているからこそ、ねずみ男はごくりと固唾を飲下した。
そう、親友(?)だからこそ。その恐ろしさはよくよく知っている。
「…わ…分かったよ! 兄弟。そんかし、今度何かあったら頼むぜ〜」
「ありがとう、ねずみ男」
鬼太郎が、もう一度微笑む。その笑顔に邪気はなかった。
「貸しにしておくよ」
言いながら、包装を済ませたリボンを受け取る。
これを渡したら、猫娘はどんな顔をするのだろう。
そればかりを考えて、家路を辿る鬼太郎の足取りは軽く、また景気のいいカラコロという下駄の音が響いていた。


Fin.

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