| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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21 河豚
] ここ数日。猫娘が塞ぎこんでいる。 何を頼んでも「いやだいやだ」の一点張りで、お使いものも頼まれてくれない。 約束した木の実狩りも「行きたくない」と理由も告げずに破るしまつ。 いつもの素直な猫娘はどこへ行ったのやら…と、砂かけばばあにさめざめと相談されて、鬼太郎は初めてそれを知った。 そういえば、ここ数日は会っていない。 いつも何かと事件があれば訪れる猫娘だから、最近は世の中も平和になったのかと安心していた。 心配性な猫娘が、心安らかに過ごしているのなら。寂しいけれど…それも構わないと思っていた。 「猫娘ーっ」 まず最初に訪れた、猫娘の部屋は留守だった。 お気に入りの川辺にもその姿はなく、途方に暮れて林道を進む。 「ん?」 カァカァと鳴く化けガラスの群れに気付き、両手を振って呼びかける。 「おーいおーい」 化けガラスはくるりと輪になって旋回し、鬼太郎の頭上に下りてきた。 「ねえ。猫娘を見なかったかい?」 すると… 猫娘の名を出した途端、またカァカァと鳴いて大空へと戻って行ってしまった。 「あ…。おーい…??」 「なんじゃ?」 「さあ。どう…したんでしょうか…」 いつもなら、何よりも早い情報を知らせてくれるのに。 気のせいか、猫娘の名を出しただけで飛び去って行ってしまったように思える。 「?……まあ、もう少し捜してみましょう」 道すがら、すれ違った妖怪たちから猫娘の足取りを尋ねるが… 妖怪たちは、とかく呑気ものが多い。 猫娘は知っている。会ったこともある。けれど…それがいつの記憶だったのか…。 今日のことか、あるいは昨日のことか。ひょっとすると数十年も昔のことか。 首を傾げるばかりではっきりしたことは分からず、とうとう辺りは夕陽に包まれてしまった。 「おう鬼太郎」 「子泣き爺。あの…」 「猫娘を捜しておるんじゃろう? さっきそこで一反もめんから聞いたわい。その様子では…」 「はい。まだ…見つからないんだ」 心配げに力なく笑う。いくら鬼族の息子とはいえ、こんな鬼ごっこはこりごりだ。 「ふむ…。しかしもう夕暮れじゃぞ? 家に帰っているんじゃないかのう」 「それならいいんですけど…」 もしも。何か悪い人間や妖怪に連れ去られていたとしたら…。 ふと頭をよぎるだけで、鬼太郎の表情は硬く強張った。 「どれどれ。わしは妖怪アパートで待っていてやろう。おいオヤジ」 「うん?」 盃を傾ける仕草をして、子泣きが笑う。 「砂かけのところでコレでもやりながら待っていようじゃないか」 「うむ…しかし」 酒は好きだが、息子も心配だ。目玉おやじが迷っていると、鬼太郎はスッと手を伸ばして、おやじを子泣き爺に託した。 「僕なら大丈夫ですよ。少し…帰りが遅くなるかもしれませんけど」 「そうか? それじゃあ、もし猫娘が戻っていたら知らせをよこすぞ」 「はい。お願いします」 道を戻る子泣き爺の影が長く伸びる。もうそんな時間なのだ。 「……一体…どこに行っちゃったんだろう……」 行方が分からないのも心配だが、砂かけばばあの話も気にかかる。 あの素直で心優しい猫娘が、おばばに反抗した態度を取るなんて…。 おばばを疑うわけではないけれど、やっぱり想像がつかなかった。 「かんのむし…かなぁ」 そんなことを言ったら、きっと子供扱いするなと怒るだろう。だとしたら… 「反抗…期?」 まさかね。鬼太郎は思わず笑みをおとす。 もう永い時を生きてきた猫娘だ。今更そんな時期に差し掛かるとは思えない。 それに…猫娘は不老だ。いくら歳を重ねても大人になることはない。 「……ん?」 二本の影がふらふらと揺れる。ふと目を上げると… 「猫娘ー?」 道端の木の上、枝に腰掛けた猫娘の赤い靴が揺れていた。 「あ…危ないよ。降りておいで?」 「……ヤダ」 「え?」 これは相当おかんむりのようだ。その頬はふぐのようにぱんぱんに膨れ上がり、両腕を組んでツンっと顔を背ける。 けれど、鬼太郎には…怒られるいわれがない。途方に暮れた鬼太郎はその場に座り込んだ。 「あのさぁ…」 「何よ」 「……ぱんつ見えてるよ?」 「えっ!?」 慌ててスカートの裾を押さえる隙を見て、ちゃんちゃんこを投げてその身を包む。 「きゃあっ!」 支えをなくした猫娘は落下し、鬼太郎の腕に抱きとめられた。 「…っと。ごめん…びっくりしたかい?」 「だ…、騙したわねえ〜っ。離してよっ!」 「みんな心配してるよ…。帰るって約束したら離してあげる」 鬼太郎の余裕の表情が悔しくて、ちゃんちゃんこ巻きにされたまま抱きかかえられた猫娘は睨みつけてきた。 おや。こんな顔を向けられたのは初めてだ。 鬼太郎はやはりのんきな様子で、もの珍しそうに見つめていた。 「帰らない…なんて、言ってない…っ」 「うん…そうだね。じゃあ一緒に帰ろう?」 「ヤダ!」 ジタバタと身をよじる猫娘を抱えたまま、鬼太郎は首を傾げる。 「どうしてそんなに悪い子になっちゃったんだい?」 「悪い…子?」 猫娘のふくれた顔が、みるみるうちに怒りに上気する。 「あたしが悪い妖怪だから、こうして退治したのっ!?」 「ええっ? ち、違うよ…」 誤解を解くためにちゃんちゃんこを緩めると、すぐに地に足をつけて鬼太郎の腕から離れた。 「待って」 逃がすことなく、その腕を引く。 「そっちは帰り道じゃないよ?」 「分かってるわよっ! 離してっ」 「だって、帰るんだろう…?」 「帰るなんて、一言も言ってないもんっ」 これはこれは…相当におむずだ。 ぶんぶんっと振られた腕、その手首をしっかりと掴みながら鬼太郎は首を傾げるばかりだった。 「何か…あったの?」 「……っ」 やはり、素直な猫娘だ。図星を刺されたことがその表情に出ている。 ちょっとだけ安心した。 「ねえ…話してみないか?」 「………」 「それとも。僕には、話せない…?」 手を離し、じっとその目を見つめる。 猫娘の中にある、自分に対する感情に賭けた。 「僕じゃあ…頼りにならない?」 「そんなこと…っ。……ないもん……」 ああやはり。怒っていても機嫌が悪くても、やっぱり可愛い猫娘だ。 「じゃあ聞かせて? 何があったんだい」 「……うん」 手を取り、帰り道を戻りながら、鬼太郎は猫娘の話に耳を傾けた。 「……鬼太郎は…化けガラスが好き?」 「えっ?」 突飛な話だったが、とりあえず頷く。 「うん。好き…だよ」 嫌いでは、ない。彼らはとてもかしこく、また広い行動範囲を駆使して情報を運んでくれる。 とても大切な仲間だ。 「あたし…より、も?」 「ええっ?」 これまた突飛な比較だった。けれど猫娘は至極真剣な表情で、尋ねる言葉も語尾が消え入りそうなくらい、自信なさそうだった。 「いや、それは…その」 比べるまでもないこと。いや、比べる対象じゃない。 「鬼太郎。本当のこと言って!」 「本当の…ことって…。一体どうしてそんなことを」 そんな、当たり前のことを聞くのだろう。 「化けガラスと何かあったのかい?」 そういえば、化けガラスの様子も今思えばおかしかった。 そして猫娘がぐっと口をつぐんだから、やはり化けガラスとの関連を確信する。 「……化けガラスたちは、みんな…鬼太郎が好きなんだって…」 「あぁ…そう」 それはありがたい話だが。猫娘はみるみるうちに顔を俯かせた。 「嬉しいんだ? 良かったね…」 「え? あぁうん…」 ますます首を傾げるばかりだ。化けガラスも自分を仲間として慕ってくれていることで、どうして猫娘の機嫌を損ねるのだろうか。 「化けガラスは…空を飛べるから、鬼太郎の役に立つもんね。鬼太郎、化けガラスと一緒に暮らしたらいいのに」 「はあ?」 「だって。好きなんでしょう?」 「いや、それはそうなんだけど…」 どうも話がおかしい。 猫娘が怒っているようでいて、どこか悔しそうにしている姿を見て、鬼太郎ははたと思いついた。 「ひょっとして…やきもち妬いてるの?」 「!」 猫娘の顔がパアッと赤くなる。 あまりにも素直な顔色が可愛くて、鬼太郎はカラカラと笑い出した。 「な、何よっ!」 「だって…そんなことでやきもち妬くなんて」 「やきもちなんかじゃないもん! だって、あたしは一人だけだけど、化けガラスはみんなで鬼太郎が好きなのよっ。敵わないじゃないのっ!」 繋いでいた手を振り解く。 「それに、鬼太郎も化けガラスが好きだっていうのなら、あたし…っ。あたし、やきもちなんか妬かないもん! だって、関係ないんだもんっ」 まるで自分自身を言い含めるように言う。 それをやきもちっていうんだよ…と言いかけたが、真っ赤になって怒る猫娘を見ていたら笑ってばかりもいられないと思った。 「関係ない…なんて。冷たいなあ……猫娘は」 「だって! あたしは、おじゃまむしじゃないもんっ!」 見当違いな言葉がまたツボに入って、鬼太郎はまた笑い出した。 「鬼太郎〜っ」 「ごめんごめん。だって猫娘があんまりへんなこと言うから」 解かれた手をまた、繋ぎ直す。振り解きはしない。 けれど顔を背けたままで、その頬はぷっくりとふくれていた。 「知らなかったよ。猫娘って…意外とやきもち妬きなんだねー…」 「違うもん!」 「はは…。それで、ずっと機嫌が悪かったの? おばばがとっても心配してたよ」 「おばばが…」 砂かけばばあのことを思い出して、猫娘はしゅんとして反省した。 いくら不機嫌だったとはいえ、ついおばばに当たってしまった。 「……猫娘は悪い子だねー…?」 「…そうだよ。だから、鬼太郎も嫌いなの?」 「誰も嫌いだなんて言ってないよ」 思ったこともない。自分だけではなく、猫娘に関わる全ての者が、だ。と、鬼太郎は信じて疑わない。 「僕も…ちょっと悪い子になりそうだったんだ」 「え? 鬼太郎…が?」 疑わしそうに猫娘が目を向ける。 「うん。さっき……」 猫娘をこの腕に抱きとめた時。このまま離したくないと思った。 たとえ猫娘が嫌がっても……このまま離さず抱きしめていたいと思ってしまった。 「だから。今度もし悪い子になる時は、一緒になろうね?」 「う…ん?」 何だかはぐらかされた気がしないでもないが…。猫娘はコクリと頷いた。 「でも…ねえ? 鬼太郎はどうして悪い子になりそうだったの?」 「え? それは…ね」 猫娘がとっても好きだから。好きだという気持ちが強すぎて…目の前の猫娘の意志すらも無視してしまいそうになる。 「僕が、猫娘を大好きだからだよ」 「え……?」 ただそれだけで。真っ赤になって黙り込んでしまうような猫娘には、それがどんな気持ちであるか、分からないだろう。 だから鬼太郎は「ふふふっ」と笑うだけで、その先は告げずにおいた。 Fin. |