| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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22 真剣勝負
] 何ごともない日。 鬼太郎の家を訪れた猫娘は、決死の形相で戦っていた。 「えいっ…えいっ……えいっ!」 互いの指を絡ませ、親指を左右に動かしての指相撲。 対する鬼太郎は、口もとに笑みさえ浮かべて猫娘の攻撃をひょいひょいと交わす。 「あっ!」 油断した瞬間、鬼太郎の親指が猫娘の指を捕らえた。 「いーち…にーぃ…さーん……」 「ああっ! 離してっ、離してよ〜っ」 「…じゅう」 カウントを終えると、ようやく猫娘は力を抜いて鬼太郎に目を上げた。 「これで、僕の八勝二敗」 猫娘の二勝は、もちろん鬼太郎が手を抜いたものだ。 けれど猫娘には分からないように、少しだけ力を抜いただけだから、猫娘はどうにか五分に戻したくて止められずにいる。 「う〜っ。もう一回!」 「いいよ?」 また、指を絡める。 牽制し合いながら戦いが始まると、猫娘のひじが丸太机から浮いてしまう。 反則だけれど…それもノーカウントだ。猫娘は、わざとズルをしているわけではない。つい、必死になってしまっているだけだから……鬼太郎ルールではノーカウントだ。 「ヤタっ! いち、にい、さん、しっ…ああっ」 カウントの早さも、構わない。それもハンディキャップみたいなものだ。 けれど鬼太郎は猫娘の指の抑制をすり抜けて、くいっくいっと第一関節を曲げてみせた。 「……っ!」 からかわれたように思ったのだろう。猫娘はカアッと顔を赤くして、眉根を寄せた。 「ねえ…猫娘」 「何よっ」 懸命に鬼太郎の親指を追うばかりで、顔も上げない。 第十一回戦の指相撲を続けたままで、鬼太郎が話し出した。 「もうそろそろ…やめない?」 猫娘の様子を見ているのは楽しいけれど。 その手をずっと絡ませているのも嬉しいけれど。 さすがにもう、飽きてきた。 「何よっ。勝ち逃げするつもり??」 すっかり勝負魂に火がついてしまったらしい。猫娘は真剣な表情でにらみつけた。 その瞬間。 「いーち…にーい…」 「あっ! ずるい! ずるいよ、鬼太郎〜っ」 右腕のひじに左手を当てて、ぐいっと引っ張ったけれど…。やはり鬼太郎の指からは逃れられなかった。 「じゅう」 「あーっ! これで九敗っ」 「ね? そんな反則したって勝てないんだよ」 ちょっと意地悪を言ってみた。すると猫娘はようやく、自分が無意識に両手を使ってしまっていたことに気付く。 「…ごめーん…」 「いいよ。でも、もう…やめよ?」 「…うー……」 悔しそうに唇を食む猫娘をみていたら、何だかかえって悪いことをしてしまった気分になってきた。 猫娘にしてみれば、不思議でならないのだ。 鬼太郎が強い妖力を持っていて、強い妖怪であることは分かっているけれど…、でもこれは話が別だ。 ほんの少し前。ほんの…数十年前までは、赤ん坊みたいな鬼太郎とこうした遊びで常勝していたのは自分なのに。 いつの間に、追い越されてしまったのだろうか。 「……じゃあさ」 「?」 「罰ゲームを決めようか」 「罰ゲーム…? どんなの」 「うーん…たとえば。僕が勝ったら、猫娘に…」 鬼太郎のよこしまな思惑など知らず、猫娘はじっと話を聞いていた。 「猫娘のほっぺに、ちゅうしていい?」 「……え?」 思いもよらない話だったのだろう。猫娘は目を白黒させて硬直した。 「あ…。だから、嫌だったら、負けなければいいんだよ。ね? その方が真剣に集中できるだろう?」 「う…うん。そう…だけど。じゃあ、あたしが勝ったら?」 「それは。勝ってから、考えたら?」 さすがにその言葉にはムッとした。猫娘は真剣な面持ちで「行くわよ」と指を絡めてきた。 「えい…えいっ……えいっ!」 額に汗まで滲ませて、猫娘が必死で食ってかかってくる。 そんなにちゅうされるのが嫌なのだろうか…。 鬼太郎は少しばかり寂しい気持ちになってきた。 「…ねえ、鬼太郎」 「うん?」 「爪攻撃、あり?」 そう言うや否や、その口もとは裂けて、眼は黄色く化け始めていた。 おのずと爪も、化け猫化した時の鋭いものに変わっていく。 「わわっ、そ…それはさすがになしだよー…」 「……やっぱり」 しゅるしゅると爪が戻り、元の小さな爪に戻った。 ほ…っと鬼太郎は安堵の吐息をもらす。ひっかき攻撃も確かに怖いけれど、それより何より、無我夢中になった猫娘が、自分自身の指を傷つけてしまうことの方が心配だ。 気を取り直して、十勝目に挑む。 「あっ」 「いーち、にーい、さーん…」 心なしか、カウントも早く数えてしまう。 最後の十を数えると、猫娘はがっくりと脱力した。 「……十敗かぁ」 そんなことよりも、罰ゲームだ。 がっかりしている猫娘を見るのはしのびないけれど。指相撲を続けたいと言ったのは猫娘の方だ。 「じゃあ、顔出して…?」 「う…ん」 猫娘の頬に手を伸ばし、逆側の頬に唇を寄せる。 「………」 よほど悔しかったのだろう。勝負に負けたことの悔しさが勝って、猫娘はあまり照れてはいないようだった。 「じゃあ、もう一回っ」 「え?」 いいの? と、鬼太郎が尋ねる前に、猫娘は手を伸ばした。 もう半刻は過ぎただろうか。戦いはまだ、続いていた。 戦績は鬼太郎十五勝に対して猫娘は二勝のまま。 つい手加減を忘れた鬼太郎は、ふと手を緩めることを考えた。 そういえば…。猫娘が勝ったら何をして貰いたいのだろう。気にかかる。 「んっ?」 そんなことをぼんやりと考えていたら、手加減するまでもなく猫娘の指に押さえ込まれてしまった。 「あー…っ」 「いちにいさんしっ、ごーろくしちはちきゅうじゅうっ! 勝った!!」 早口でカウントし、猫娘は勝利を得た。 思わず飛び上がって喜んでいたから…。鬼太郎は負けた悔しさより、むしろ嬉しさが勝った。 「それ…で?」 「え? 何が」 「罰ゲームだよ…。僕に何して欲しい?」 「何、って…。えーっと…」 やはり。勝負に夢中で考えてなかったようだ。 「うーん…と、ねえ…」 そんなに考え込まれると、複雑だ。 鬼太郎に対して望むことは何も、ない、ということなのだろうか。 「……じゃあ…あのね?」 「何だい?」 「いい子いい子して?」 「……へ?」 差し出された頭を『いい子いい子』と、数度撫でる。 随分と、幼い願いだな…と思ったその瞬間。猫娘は勝ち誇ったように「ニャッニャッニャッ」と、高らかに笑った。 すっかり猫女王気分なのだろう。ご満悦だ。 「じゃあ。もう一戦?」 「当たり前よっ」 また、互いの指を絡めて───真剣勝負が始まった。 どちらが勝つにしろ。 猫娘のほっぺに口づけたり、頭を撫でたり……。 一体、息子は何をやっているのかと不甲斐なく思ったが。 とりあえずは黙って寝たふりをする目玉おやじだった。 Fin. |