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□ Genre menu bar □ はじめに   ゲゲゲの鬼太郎   DRAGON BALL   3.3.7.ビョーシ   犬夜叉   GAME   ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■

59 駒草
58 トモダチ
57 百八つ
56 反射鏡
55 かくれんぼ
54 通り雨
53 影ふみ
52 あさがお
51 うみの日
50 水たまり
49 なぬかのよ
48 末吉
47 袖の香
46 さんすう
45 春眠
44 はつこい
43 沈丁花 
42 しりとり
41 でんしん
40 日光浴
39 初雪の日
38 雨宿り
37 うたたね
36 祝いの心
35 大事なもの
34 今だけの真実
33 おばけの音
32 猫の秘密
31 ひざ枕
30 犬のおまわりさん
29 待ちびと
28 やみのなか
27 ねこみみ
26 夢のつづき
25 けんかしかけた日
24 虚無の扉
23 なかよし
22 真剣勝負
21 河豚
20 切れた鼻緒
19 青年の夢
18 器
17 ダンデライオン
16 酔夢
15 寒がり暑がり
14 倦怠感
13 つまべに
12 おやすみ。
11 けんかした日
10 雪降る森
09 しゃっくり
08 とくべつ
07 怪奇お寝坊さん
06 未来のお嫁さま
05 魔女の心臓
04 しゃぼん玉の記憶
03 お彼岸餅
02 化け粧
01 白猫の夢


[ 24 虚無の扉 ]

「こんにちはー! 鬼太…」
ゲゲゲハウスを訪れた猫娘は、はっと声を呑み込む。
穏やかな昼下がり。鬼太郎と目玉のおやじはすやすやと昼寝中だった。
「…おじゃましまーす…」
小声で挨拶し、簾をくぐって中に入る。
二人は木の葉のふとんの上で、気持ち好さそうに眠っていた。
もともとが夜型の妖怪だが、鬼太郎は何かと人間社会に振り回されて昼から行動することも多い。
こうしてのんびりとしていられるのは、特に事件もない証拠だ。
そんな時ぐらいはゆっくりと眠っていて欲しい。そう、猫娘は思って、お土産に持ってきた薬草を卓袱台に置く。
きっと。鬼太郎はこうしていたいだけなんだろう。
ただ、静かに。平和な時を呑気に過ごしていたい。
たとえ時代が過ぎても、それは変わらない。多くを望まない鬼太郎の、唯一の望みだ。
だからいつまでもこうして、お昼寝させておいてあげたいと、猫娘は思うのだ。
「……?」
不意に、鬼太郎が寝苦しそうに寝返りを打つ。
すると、不精に伸びた前髪が顔に絡みつき、ますます寝苦しそうに表情をゆがめた。
「…ふふ…っ」
思わず肩を竦めて笑い出し、その寝床に近づく。
この髪は、一体いつから切っていないのだろうか。前髪をすきながら猫娘は思った。
西洋妖怪(※)ではあるまいし。よもや髪を切ったからと云って、その力が衰えるわけではないだろうに。
鬼太郎は、本当に無精者だ。
けれどひょっとして…髪の毛針を駆使するために、ある程度の適量というものがあるのかもしれない。
まさか。
髪の毛針を打ちすぎたせいで…目玉のおやじには毛がないのか。
そして鬼太郎も、打ちすぎたら…。
「!」
猫娘はぶんぶんと頭を振って、そんなことはない!と、ふと浮かんだスキンヘッドの鬼太郎の姿を追い払った。
あるいは、獣毛に近いのかもしれない。一定の長さまで伸びたら成長が止まり、ある時期に生え変わる。
辺りを見回して、抜け毛が落ちていないか確認してみたが…。
男二人所帯にしては片付いている床には、それらしき痕跡もなかった。
不思議そうに、もう一度。その前髪に手を伸ばす。
しっとりとした亜麻色の髪が指に絡みついた。
そして───。
「……?」
ふとした拍子に親指が吸い込まれる。
鬼太郎の左目───普段ならば前髪に隠された空洞。
それは猫娘の意志にかかわらず。まるでゴウゴウと音を立てる漆黒の洞窟の前に立たされたような、奇妙な吸引力を感じた。
おのずと深く呑み込まれる。けれどそこに果てはなかった。
第一関節まで潜り込んだ指は何に当たるでもなく。あるはずの体温も感じられず。そのまま一寸ずつ呑み込まれていく。

「!」

その時。
猫娘の手首ががしっと掴まれた。
驚きに声も出ない。視線を流すと、鬼太郎の右目が開いていた。
「………」
いつもの三白眼。何を告げるでもなく、ただ猫娘の手首を掴み、そして手を引かせる。
「鬼…太郎…?」
なんだかとても、悪いことをした気分になって、猫娘は気まずい気分で俯いた。

鬼太郎の左目の空洞は、主に目玉おやじが在中している。
純粋な鬼族の目玉おやじが居心地のいい場所、だ。
鬼の棲みかは主に地の果て───地獄だ。
鬼太郎の左目には、それに似たなにかが存在しているのだろうか?
そしてそれは。猫娘が触れてはならない場所だったのだろうか……。

すると…
「……いつ来たの?」
鬼太郎の声に弾かれて、顔を上げる。それはもう、いつもの鬼太郎だった。
目の前にいるのが猫娘だと認識し、ただそれだけで、嬉しそうに微笑んでいる。
だから猫娘はほっと安堵の吐息をもらして、同じように笑いかけた。
「つい今さっきよ。あのね、オヤジ様に教えて欲しい薬草があったから、摘んできたのー」
跳ねるような仕草で寝床を離れ、卓袱台の上の薬草を手に取る。
「でも、まだオヤジ様はお昼寝中だね?」
「ああ…うん。でも…」
小さく肩を揺さぶり「父さん、父さん」と声をかけると、目玉のおやじはうつらうつらと目を覚ました。
「うーん…何じゃ、風呂か?」
「…違いますよ。猫娘が…薬草のことを父さんに訊きたいそうです」
「んーどれどれ」
差し出された薬草を眺め、しばし首を傾げてから知恵袋をひねり出す。
「うん! これは薬湯にはもってこいじゃぞ」
けれどまだその目は寝とぼけていたから…。それは、目玉のおやじの夢の続き、願望なのではないかと鬼太郎は思った。
「それで、何て名前の草なの?」
「うーん、と…じゃなあ…」
真剣に尋ねる猫娘と、またうつらうつらと舟を漕ぐ目玉おやじを眺めながら、鬼太郎もまた、さっき堕ちていた───夢の続きを思っていた。

何もない場所。場所ですらない、無の空間。
足場はなく、温度もなく、音もない。
そこがどこであるか考えているうちに、自分の存在すらも「ない」ものになっていた。
目を覆われたような闇の中…。けれど、目も、ない。
それでいて、鬼太郎はそんなに居心地悪くはなかった。
この闇は、自分の中に存在する。奥深く。常に存在しているものだと気付く。
永遠に終わらない世界。始まりも、ない世界。
時という概念さえもないその浮遊の空間で、鬼太郎はただ身を任せるほかなかった。
いや。その、身も、ないのだ。
けれどその時、温かい風が吹き、空気が生まれる。
一筋の光が差し込み、眩しさに目を顰めたところで自分の身が生まれた。
体の存在を意識すると、そこに足場が生じる。
差し込んだ光に向かって顔を向けると、そこには……。

「鬼太郎ぉ〜…」
猫娘の上げた情けない声にハッと我に返る。
そう、音が発したことで、この耳の存在を知った。
「オヤジ様、また寝ちゃったー…」
「え?」
困った顔で口端を下げ、目玉おやじを両手に包んで寝床に戻す。
「はは…。昨夜は朝方まで子泣き爺たちと呑んでいたから、まだ眠いんだよ」
「そうなんだー…。起こしちゃって悪いことしたみたいだね」
いや。
鬼太郎は首を横に振る。
「そんなこと、ないよ?」
猫娘に引き戻された、自分に置き換えて鬼太郎が答える。
あのまま、あの世界に浮遊していたら…自分はどうなってしまっていたのだろうか。
どうにかなるような、「自分」という存在すら、ない。あの世界で…
「助かったよ…」
「? 何が?」
鬼太郎の言う意味が分かるはずもなく、猫娘は不可思議そうに首を傾げている。
「……いや、その…何でもない」
何でもない。
何も、ない。
何ごとも……なかった。


Fin.

※神でも神話の登場人物でも歴史上の人物でも童話や伝承民話の登場人物でも、西洋のあやかしの存在は全て西洋妖怪らしいです。

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