| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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25 けんかしかけた日
] 「保育所の手伝い?」 妖怪アパートを訪れた鬼太郎は、猫娘の部屋の前。 数度ノックしたものの応答はなく、途方に暮れていたところを管理人の砂かけばばあの部屋に呼ばれていた。 なんでも、猫娘はここ数日、町の保育所の手伝いに出ているという。 何かと世話好きの猫娘だ。基本的には人間好きというわけではないのだが、そういったお手伝いなら喜んで奉仕することだろう。 子供たちに囲まれる猫娘を思い浮かべて、鬼太郎は釈然としない気持ちで「ふーん…」と呟いた。 「この森には童子が少ないからのう。弟や妹ができたようで、猫娘も楽しいんじゃろう」 「そういえば…そうですね」 もともとが、好き勝手に生息する妖怪たちに、集落というものがあるわけではないが。このゲゲゲの森には多くの妖怪が棲んでいる。 大抵の妖怪は数百歳を越えるものばかりで、猫娘や鬼太郎のように、姿だけでも童子のものは少ない。 おばばの振る舞った煎じ茶(なぜか大概の年寄りが好む、奇妙な薬草が含まれたあやしげな自作健康茶)の湯気を眺めながら、ふと思う。 猫娘が自分になにくれとなく世話をしてくれているのも、そういった気持ちなのだろうか。 鬼太郎だから、ではなく。ただ、同じ歳ぐらいの幼なじみであれば、誰でもよかったのだろうか。 「………」 百年近く生きた中でも、未だかつて嗅いだことのない匂いをたてる煎じ茶をすすりながら(匂いのままにすごい味だった…)その熱さとは裏腹に、鬼太郎は胸の奥がすうっと冷え入るのを感じていた。 それは奇妙な感覚だった。 人の心を操ることなど、できない。たとえ妖力を使い、操ることはできたとしても、その中にある本物の自我までも塗り変えることなどできない。しては、いけない。 今まで数多の悪しき妖術使いと戦ってきた鬼太郎は誰よりもそれを知っている。 けれど、猫娘のことを思うと…話は別だ。 その笑顔も、呼びかける声も、繋いだ手の温もりも。全て自分のものだと思いたい。 まるで、猫娘の自然な優しさまでも縛りつけたがっているような自分に気付き、鬼太郎はハッとした。 そんなこと、できるはずもないのに。 猫娘の優しさが好きだ。そして、それが自分だけではなく、誰しもに向けられたものだとも知っている。 ただ自分に対してだけは、特別な想いであって欲しいと思うのは…やはり、よくない兆候なのだろうか。 「うむ? 戻ってきたようじゃな」 玄関口の物音に気付いて、おばばが顔をあげる。 「え…?」 ぼんやりとしていて、気付かなかった。鬼太郎も顔をあげると、勢いよく部屋のドアが開いた。 「ただいまーっ。おばば! 頼まれてたやきいも買ってきたよー」 「おぉ、おかえり。ささ、早速 食べようかのう」 “びたみんしい”と“しょくもつせんい”は美容と健康に良いのだそうだ。 猫舌の猫娘は苦手だけれど、沢山ふぅふぅして冷ませば、食べられないこともない。 「あ、鬼太郎。こんばんは」 「…こんばんは。お手伝いお疲れさまー…」 やきいもが冷めないよう、息咳切って駆けてきたのだろう。猫娘の息は弾んでいた。 いつもの元気のいい笑顔を見つめながらも、何故か気が晴れない。 その笑顔を、思う存分に振る舞っていただろうことに、心の奥がしんと冷えるのだ。 「鬼太郎が来るなんて珍しいねー。どうしたの?」 「……うん」 君に逢いにきたんだよ? けれど猫娘はいなくて…。途方もない寂しさが胸を襲った。 おばば特製の煎じ茶でも、癒えない寒さで、この身までも冷えているように思えた。 「?…なぁに?」 ふいに笑い出した鬼太郎を訝しがって、猫娘が尋ねる。 こんな。まるで子供みたいなことで寂しがっている自分自身が、可笑しかった。 「ふふっ…いや、何でもないんだ。それより、保育所の子供たちはどう?」 「うん。すっごい可愛いよ。生意気なやつもいるんだけどねー」 一人一人の名前を指折り数えながら、それぞれの特徴を語る猫娘の表情は、本当に楽しそうだった。 正直…どうでも、いい。 けれど、数え上げた名前の半数以上が、男の子の名前だったことが気にかかる。 最近の子供たちは生意気だと聞くから、猫娘に妙ないたずらなどしなければよいのだけれど… それに。彼らにとって、優しく面倒をみてくれる(時には化け猫と化して叱りつけてみせる)猫娘は、憧れのお姉さんといった存在となるのだろう。 たとえ時が過ぎ、成長しても。それは想い出の中でいつまでも残ってゆく…。 いっそのこと。 その記憶ごと消してしまいたいような気持ちが沸いた。 「ああ、それでね?」 急に話を区切って、猫娘は鬼太郎の手を取る。 「え…?」 砂かけばばあの前だというのに。鬼太郎は一体どんな顔をしてよいのか分からず、平静を装って照れを押し隠した。 「うふふ。やっぱり」 「何…が?」 「あのね。ちっちゃい子はみんな、こう、掌がしっとりしているのよ」 意地悪そうな三日月型の目つきで、猫娘はなおも笑う。 「鬼太郎の手もそうだよねえ」 「え…? そう…かな」 自分では意識したことがなかったけれど…。 確かに、猫娘と手を繋ぐ時。その手はいつもさらりとした感触だった。 つまり、それに比べて自分の手は湿り気を帯びているということなのだろうか。 「鬼太郎の手、ちっちゃい子みたい〜」 つまりは、猫娘は自分を子供扱いしているのだと気付く。 「な…っ。そういう猫娘だって…」 右手をあげて、猫娘の頬を指先でつつく。 「知ってる? 猫娘のほっぺは、赤ちゃんみたいだよ?」 「あ…赤ちゃん〜っ? そんなことないもん!」 ムキになって否定する猫娘の頬を、しつこくつつく。 「ほら、ほら、ほら。すごーくふくふくしてる。猫娘って赤ちゃんみたいだよねえ」 猫娘の口調を真似て言うと、更に顔を赤くして怒り出した。 「赤ちゃんじゃないもんっ」 「僕だって、ちっちゃい子じゃないよ?」 つい言い合いのような雰囲気になり、じっと視線をかち合わせる。 「おばば!」 「うん?」 蚊帳の外に置かれていた砂かけばばあに向かって、二人同時に顔を向ける。 「どっちが子供っぽいと思うっ?」 「猫娘に決まっているよねえ?」 「………」 体温に満ちてしっとりとした手。 しわひとつなくさらさらとした頬。 どちらも羨ましいばかりだというのに…と、砂かけばばあは酷く機嫌を損ねていた。 「どっちも子供じゃ…」 そしてまた、煎じ茶をすする。 たとえ数種の薬草を混ぜ込んだ特製の煎じ茶でも、その若さを取り戻すことはできない。 およそ八百を越えた歳の重みがのしかかった言葉に、鬼太郎も猫娘も俯いた。 Fin. |