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□ Genre menu bar □ はじめに   ゲゲゲの鬼太郎   DRAGON BALL   3.3.7.ビョーシ   犬夜叉   GAME   ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■

59 駒草
58 トモダチ
57 百八つ
56 反射鏡
55 かくれんぼ
54 通り雨
53 影ふみ
52 あさがお
51 うみの日
50 水たまり
49 なぬかのよ
48 末吉
47 袖の香
46 さんすう
45 春眠
44 はつこい
43 沈丁花 
42 しりとり
41 でんしん
40 日光浴
39 初雪の日
38 雨宿り
37 うたたね
36 祝いの心
35 大事なもの
34 今だけの真実
33 おばけの音
32 猫の秘密
31 ひざ枕
30 犬のおまわりさん
29 待ちびと
28 やみのなか
27 ねこみみ
26 夢のつづき
25 けんかしかけた日
24 虚無の扉
23 なかよし
22 真剣勝負
21 河豚
20 切れた鼻緒
19 青年の夢
18 器
17 ダンデライオン
16 酔夢
15 寒がり暑がり
14 倦怠感
13 つまべに
12 おやすみ。
11 けんかした日
10 雪降る森
09 しゃっくり
08 とくべつ
07 怪奇お寝坊さん
06 未来のお嫁さま
05 魔女の心臓
04 しゃぼん玉の記憶
03 お彼岸餅
02 化け粧
01 白猫の夢


[ 28 やみのなか ]

西洋妖怪の首領・ベアードの罠に落ちた鬼太郎は、溶岩の流れる地の底から更に奥底、暗闇の果てに突き落とされていた。
「ここは……」
数十メートルの高さから落ちたとはいえ、鬼太郎にはどうということはない。
目を覆うような暗闇の中、むくりと起き上がる。
耳を澄ませば……
仲間たちの呼びかける声が聞こえてくる。
その中に、ベアードに捕らわれた猫娘の声も混じっていたから、安堵の笑みを浮かべていた。
───僕は、大丈夫。だからみんな…ここを離れて下さい───
その声は父に伝わり、そして仲間たちにも届くだろう。
猫娘が無事ならば、それでいい。
そして、自分にはまだひとつ。やり残したことがある。

『お別れは済んだか…鬼太郎』

暗黒の闇の中。ベアードのひとつ目が怪しく光る。
お別れ…か。鬼太郎はカランと下駄音を鳴らして、ベアードに向き合った。
『ここは暗黒の地の底…。ここでは誰も俺には敵わない』
妖怪にはそれぞれ、得意な地形というものが存在する。その能力の属性に見合った場所であればある程、その妖力までも増すのだ。
丸い図体を浮遊させながら、ベアードはゆっくりと鬼太郎のもとに降りてきた。
『覚悟はできたか?』
響き渡る声さえも吸収されるような闇の中。鬼太郎は、ふと笑みをもらした。
「……お前こそ、覚悟はできているのか?」
『何…?』
鬼太郎の三白眼が闇の中に浮かび上がる。それはいつも通りの眼だった。
「この場所に僕を落としたということが、どういうことか…分かっているのかな」
ここには自分を抑制していた父の姿もない。光を照らす猫娘もいない。正気を取り戻させる仲間たちの存在も、なかった。
「ここで何が起こっても。誰にも…分からない」
闇の中。あるはずもない何かが地を這い、それは増殖していくようにも思えた。
触れてはならないものを感じたような錯覚に、ベアードは己の怯えを覆すために高笑いを浮かべる。
『強がりはよせ、鬼太郎! 貴様の命もここまでだ』
けれど錯覚などではない。
空中を浮遊するベアードの元にも、ザワザワとした何かが迫ってきていた。
それらには目がない。耳もない。口もない。ひょっとしたら手も足もないのかもしれない。
暗闇の中ではその姿を確かめようもなかった。

「……この場所は…僕にとっても居心地がいいんだ……」

ベアードの高笑いが止まる。
その身に迫った恐怖心を否定することはもうできなかった。
普段ならば。
ここで父の助言があり、鬼太郎も我に返って、降参するかどうかを尋ねるけれど……。
ベアードのしたことは、許されない。
大切な者を奪い、捕らえて、鬼太郎をここにおびき寄せた。
それは同時に、鬼太郎の中に恐怖というものを植えつけたのだ。
───たとえここで。ベアードを倒したとしても、一度植えつけられた恐怖心は拭えない。
猫娘が姿を消したことに対する喪失感が、鬼太郎の心を冷やしていた。
またいずれ、同じことが繰り返されるかもしれない。その恐怖心が頭を離れない。
そう思ったら、今までのように見逃してやる気持ちには到底なれなかった。
『俺を…封印する気かっ』
「封印……?」
鬼太郎の髪が揺れる。
闇の中、まるで浮遊するように光った眼に前髪が流れて、揺れたことに気付いた。
「そうとも言うかもね…」
無数の存在が波のようにうねりながら、辺りを埋め尽くしてゆく。
「……何も心配はいらないよ。お前だけじゃあ…ない」
『な…に……?』
「沢山の仲間たちが待っているよ? 僕の中で…」
鬼太郎の妖力が満ち溢れ、まるでいかづちのような光が一瞬、周囲を照らし出した。
「何もかも…忘れて、眠れ…っ」

『!!』

ベアードが最期にみたものは。
暗闇の中に溢れ出た無数の、姿形もない、亡霊と怨霊の群れ。
鬼太郎の内に宿る、悪鬼の束だった。
「………」
ベアードの断末魔の叫びは暗黒の闇に───鬼太郎の中に吸い込まれて、辺りにはまた、静けさが戻っていった。
目を伏せる───。
それは難なく鬼太郎の内に呑み込まれ、決して抵抗のあるものではなかった。
そして再び目を開けば、いつもの飄々とした表情。
「さて…と」
目を凝らしても見えぬほど、高い岩壁を見上げる。
「…どうやって帰るかなあ…」
とりあえず岩壁に足をかけると、カランと下駄が鳴る。
けれど鬼太郎の頭の中には「おかえり」と微笑む猫娘の笑顔が浮かんでいたから。
同時に「ごめんね…」と申し訳なさそうに俯く姿も浮かんでいたから。
どんな笑顔で、どんな言葉で安心させたらいいかだけを考えていたら、たとえどんな高い壁でも、登るのは大して苦ではなかった。


Fin.

※ベアード(バックベアード)…漆黒のマリモが放電しているかのような形状で、中心部の巨大なひとつ目の眼球で痺れ攻撃や雷撃などを食らわせるアメリカ妖怪。西洋妖怪の大ボス。
…と、原作内では紹介されるが、イギリス地方に伝承されるバグベア(Bugbear…人の後ろを付きまとい睨みを効かすだけの魔物)が由来と思われる。

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