| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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30 犬のおまわりさん
] 「まいごのまいごのこねこちゃん〜あなたのおウチはどこですか♪」 保育施設の手伝いで遠足に出ていた猫娘は、歩ける幼児たちの手を取って丘を進んでいた。 待ち合わせのバスまではまだ少しある。子供たちが飽きないように、いくつもの童謡を合唱しながら進んでいた。 そこには何故か、鬼太郎もいた。 園長と子供たちの輪から数歩うしろ、木陰に身を潜めている。 (どこですか、じゃあ…ないよ) 砂かけおばばに遠足の話を聞き、慌てて後を追ったのだ。 まずは保育施設に向かったが、すでにバスは出発していた──九州から一反もめんを呼びつけて行き先に向かった──一行はすでにバスから降りて丘を一周していると運転手に聞き──そうしてようやくその姿を見つけた時には安堵のため息をもらした。 猫娘がそれはそれで優秀な能力を持つ妖怪だということは分かっている。一人でも危険は回避できるだろう。 けれどこんな状況が一番まずいのだ。もし今、何か悪い妖怪にでも襲いかけられたら、猫娘は子供たちをかばい、自らを犠牲にして敵に挑むだろう。 猫娘ひとりならば逃げることを選ぶような相手でも、園長たちが子供たちを安全な場所へ誘導するまで、猫娘は壁になる。 それはぬりかべのような頑丈なものではないのに。 「…そんなことは許さないぞ…」 思わず口からもれた言葉に、一反もめんは首を傾げる。 遠く九州から呼びつけられたことも腑に落ちないが、鬼太郎の様子がおかしい。 せっかく見つけた猫娘に声をかけるでもなく、ただ後をつけるように身を潜めているのが不思議でならなかった。 「鬼太郎どん? あの…」 「しっ」 黙れとばかりに人差し指を立て、丘の向こうに消えた一行を追って「行くぞ」と歩を進めた。 様子を見るのなら上空からの方がいいのに、と一反もめんは思ったが、言い出せる空気ではない。 「にゃんにゃんにゃにゃん♪泣いてばかりいるこねこちゃん〜♪」 身を隠す木々が途切れ、鬼太郎は地に伏せた。 (…泣かせないよ…) 楽しそうに唄いながら進む一行とはうって変わって、猫娘の高く澄んだ甘いソプラノを聞きながらも、鬼太郎の頭にはぐるぐると唱歌の歌詞が回っていた。 迷子になっては大変だ。猫娘の帰る場所はここにある。 ゲゲゲの森とは限らず、いつもいつも帰る場所は自分のところだ。 「いぬの〜おまわりさん困ってしまって〜わんわんわわん♪」 そして、現実には犬の警察官などいない。いないけれど、このご時世、警官だからといって安心できる存在ではない。 ましてわんわんと吠える犬が猫娘の回りを取り巻いたら…。 想像しただけで鬼太郎は自然と眉を顰めた。 「わんわんわわん〜♪」 笑いながら繰り返される唄に、鬼太郎は思わず立ち上がる。 「……やめるんだっ」 「え? 鬼太郎ー」 鬼太郎の姿を見つけると、幼児たちは皆わらわらと鬼太郎の回りを取り囲んだ。 「すげー本物だっ」 「なあなあ、髪の毛針やってよ〜」 「ねえ、おやじさんは? おやじさんはいないの〜?」 足元に群れる子供たちを避け、猫娘の前に立ちはだかる。 「どうしたの? 鬼太郎もお散歩?」 「ど…どうしたのって…」 怒ったように表情を強張らせた鬼太郎に対して、猫娘はただ不思議そうに見上げるだけだった。 「どうしてここに?」 「それは…。猫娘が、迷子になったらいけないから…」 「……え?」 こんなに大人数で。まして下見もきちんと済ませた予定通りの遠足だというのに。 あまりに鬼太郎が変なことを言うので、猫娘も自然と変な顔をした。 「それに。交番で名前を言ったって、人間は妖怪の住まいまでは知らないんだよ?」 「……何言ってるの? 鬼太郎……」 「町にだって野山にだって、犬がいる。おまわりさんとは限らないんだから、ほいほいついて行ったらいけないよ」 念押しするように言うと、猫娘は俯いて肩をぶるぶると振るわせた。 ───ひょっとして、却って怖がらせてしまっただろうか。 けれど何が危険であるかを説明しないと、そこから回避もできない。 「ごめん…猫娘。あの…」 心配になって肩に手を置くと、その手は瞬時に弾き返された。 「猫…娘」 「……ひとを…」 「え?」 「ひとを…こども扱いして〜っ!」 顔を上げた猫娘はすっかり化け猫と化し、鋭い爪で鬼太郎の顔にひっかき傷をくらわせた。 周囲の子供たちは大喜びで「すげー」「怖ぇー」と見物している。 「どう〜してあたしが迷子になるのよっ! ばかぁ」 「え…。だって…泣いたら大変…」 「あんなの童謡でしょっ。それにあたしは“こねこちゃん”じゃないわよっ!」 「子猫じゃないか」 鬼太郎にとっては。いつまでも可愛い子猫ちゃんだ。 「またそうやってこども扱いして…っ」 「僕は猫娘が心配だっただけだよ」 「そんな心配いらないもん!」 「そんな……」 傍観していた子供たちは二人の顔を交互に見比べて「へぇー」とか「ふうん」とか頷いていた。 「猫娘が嫌だっていったって、関係ないよ。僕は心配なんだ」 「だから、そんな心配しなくっていいったらっ。離してよ!」 思わず掴んだ手をぶんぶんと振るう。けれど繋がれた手は解くことはできない。 猫娘はますます瞳孔を縦に収縮させて怒りに顔を赤くした。 「心配するよ。大切なんだから…」 鬼太郎の言葉に、幼児たちがはやし立てる。 その渦中にあって、猫娘はますます顔を真っ赤に染めた。 「な…何言ってるのよー。鬼太郎、おかしいよ…っ」 「おかしくないよ? だって好きなんだから」 鬼太郎にはすでに周りが見えていない。 幼児たちが口々に「らぶらぶだねー」「うん、らぶらぶー」と冷やかしている言葉も聞こえないのだろう。 「ば…ばか、何言ってんのよ〜っ」 「馬鹿? 馬鹿なことなんて言ってないよ。猫娘は違うの?」 ここがどこであろうと、誰の前であろうと、さして関係がない。 自分はいつも猫娘が好きだ。猫娘は違うのだろうか? 至極真剣な目で鬼太郎はじっと猫娘の返事を待った。 「……鬼太郎の…バカーっ! もう、知らないっ」 行くよ、と子供たちの手を引いて、待ち合わせのバスへと帰り道を進む。 「あ…ああ、猫娘??」 呆然と立ち尽くした鬼太郎の前を幼児たちが通り過ぎる。 「鬼太郎さんて…ちょっとアレだよね」 「うん。猫姉ちゃんのことになると、ちょっと…ね」 ひそひそと呟き合いながら、なだらかな丘をどこまでも進んで行った。 取り残された鬼太郎は立ち尽くしたまま。 旧知の一反もめんでさえ、声をかけそびれるほどにショックを受けて黙り込んでいた。 Fin. |