| □ Genre menu bar □ はじめに ゲゲゲの鬼太郎 DRAGON BALL 3.3.7.ビョーシ 犬夜叉 GAME | ■ ゲゲゲの鬼太郎 ■ |
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31 ひざ枕
] 「ふぅ〜…。手強い相手でしたね、父さん」 刃向かう妖怪との戦いを終え、鬼太郎は大きくため息をついた。 裏で糸を操っていたねずみ男は早々に退散してしまった。 この妖怪を封印し、あとは帰路を辿るだけだった。 「うむ。でかしたぞ、鬼太郎!」 得意満面な目玉のおやじを見上げ、汗ばんだ額を拭い取る。 「ん…? どう…したの? 猫娘」 くんくんと鼻を鳴らした猫娘は顔を顰めてその小さな鼻を覆った。 「鬼太郎…ちょっと、くさい」 「えっ?」 指摘されると恥ずかしくなる。鬼太郎は慌てて学童服の肩や袖を嗅いでみたが、いつも通りの自分の体臭に鼻が慣れ、特に悪臭は嗅ぎ分けられなかった。 「ねぇ…いつからお風呂入ってないの?」 「失礼だなあ。この間、水浴びしたばかりだよ」 「この間って、いつ?」 宙を見上げて、記憶を辿る。あれはまだ残暑の残る晩夏…。 「秋先…かな?」 「鬼太郎っ! 今はもう冬じゃないのよ〜っ」 これだから男の子は……もうっ信じられない! と怒鳴り散らしながら、鬼太郎は猫娘の家へと直行した。 「ねぇ…猫娘ぇ〜…。もう、いいよ…」 全裸姿に下半身にはタオルを巻き、妖怪アパートの一角にある猫娘の部屋の小さなシャワールームに座し、鬼太郎はブルリと肩を竦めた。 もう三度も髪を洗い、お湯をかぶったというのに、猫娘はまたシャンプーをプッシュして鬼太郎の髪をわしゃわしゃと洗い始めた。 「やっと泡立ったわっ。もう〜こんなに汚い髪見たのは初めてよっ」 「え?」 みるみるうちに髪の毛が泡にまみれていく。 へえ〜…こういうものだったのかと、鬼太郎は興味深そうに見上げていた。 「オヤジ様はあんなにお風呂好きなのに。鬼太郎はどうしてそんなにズボラなの?」 「結構マメに水浴びしてるつもりなんだけど…な」 少なくともひと月…いや、ふた月に一度くらいは。 ただ、今は冬だからつい温泉まで足を伸ばすのが億劫になって、しばらく洗っていなかったけれど。 「……っ!」 冷静に事情を説明する鬼太郎に対して猫娘は「シンジランナイ!」と目をシロクロさせて、更に強く指を立てて頭をかきむしる。 「いてて…てて、猫娘〜、もういいよ…」 「そんなんじゃいつか虫が湧いちゃうわよっ」 「大丈夫だよ…。虫ともちゃんと仲良くするからさあ…」 全然 大丈夫じゃない。全く分かっていない。 猫娘は怒りにも似た気持ちでがっしがっしと鬼太郎の髪を洗い続けた。 そういうところは本当にねずみ男に似ている。ウマが合うはずだ。 「…いいから黙ってて。次、リンスするから」 「リンスって…??」 もう説明するのも面倒だとばかりに、湯桶に溜めた湯を頭からかけてリンスをプッシュする。 (あ…この匂いは……) 猫娘が訪れた時、ふと鼻を掠める残り香と同じだ。 爽やかだけど甘い香り。猫娘のいい匂いがする。 「………」 抵抗しなければ猫娘の指の力も和らぐ。頭をマッサージされているような心地好さに鬼太郎は目を伏せた。 ───思い出す。 狼狽して鬼太郎に縋りついた時の猫娘。 自分をかばって抱きかぶさってきた猫娘。 妖怪事件を知らせに走ってきた猫娘。 そして、何でもないときにでも隣を歩く猫娘。 この香りをいつも感じていた。甘く、爽やかな香りは猫娘のいる証。 鼻を掠めるだけで、鬼太郎の胸はいろいろな想いがよぎる。 とても一言では言い表せられない、複雑な想いがよぎるけれど、それはそのまま全て猫娘に対する想いのせいだと気付く。 「わっ…わわわっ!」 口元を歪ませていると、ゆすぎのお湯が頭からぶっかけられた。 「……参ったな」 入浴を終え、猫娘のひざを枕に横たわった鬼太郎は、思わずぽつりと呟いた。 「あ。鬼太郎、動いちゃダメっ」 「う…うん、ごめん」 時おり鋭い痛みに肩を縮めながら、耳そうじは続く。 「参ったって、何が?」 「え?うーん…」 半渇きの髪からは猫娘愛用のシャンプー&リンスの香りが漂っていた。 髪から体から。猫娘の香りが染み込んでいくようで、どうにも落ち着かない。 いつもいつも。この身に猫娘が染み込んでいるようで、鬼太郎はどうも居心地が悪い。 いや、悪いのではなく。いいから、いけないのだ。 「いてっ」 「あ、ごめーん。ちょっと大きいゴミがあるから、ちょっと我慢して?」 猫娘は至極真剣に耳そうじを続けていく。こういうことはやり始めると止め処ない。 いたずらに頬の先、目の前のひざ小僧をくすぐると、猫娘はシャーッと牙を向けて「大人しくしてなさい!」と叱りつける。 (参ったな…) 触れることも許されず。それでもそのひざの上に頭を預けてじっとしているしかない。 どこか修行にも似た苦痛を感じた。 「うわぁ〜…。鬼太郎、一体いつから耳そうじしてないのよ?」 「いつって…前、猫娘がしてくれた時からだから…」 「それっていつの話?」 猫娘は記憶を探ったが思い出せない。どうやらここ数年の話ではないようだ。 「自分でおそうじできるでしょー?」 「うん…でも、ちゃんと聞こえるから大丈夫だと思って…さぁ」 「そういう問題じゃないでしょっ」 叱りつけながらも、猫娘も楽しそうではある。 世話好きな猫娘は、あれよこれよと何かしてあげるのは、元々好きなのだ。 「ふーっするよ?」 「え?」 猫娘の顔が耳元に近づき、ふーっと息を吹きつける。 「わっ…わわわっ。猫…娘、それくすぐったいなあ」 思わず笑い出してしまうと、跳ね上がった脇腹をペシッと叩く。 「笑わないのっ! はい。今度は逆」 「…え? うん…」 ゴロリと反転して顔を猫娘のお腹の下に向けると、猫娘は顔をパァッと赤くして鬼太郎の肩を押し退けた。 「違うわよぅっ! こっち側に横になって、向こう側向いてよっ!」 「え? あ…うん??」 一度起き上がって逆側から横になる。 どっちにしろ逆耳を上に向けることに変わりはないのに…。 何かイケナイことをしたのだろうか…? 鬼太郎には猫娘が恥ずかしがった理由が分からず、数度 頭を揺すってひざ枕具合を確かめた。 「いてっ…ってて」 「うわぁ〜。こっちもすごいよ?」 口でそういう割には、猫娘は楽しそうに耳そうじを続ける。 時おり痛みは走るものの、湯上りの温もりも手伝って鬼太郎のまぶたは溶け始めていた。 体を変えたことでまた顔にかかってきた前髪には猫娘の香り。 甘く優しく…そして何故か胸が痛むようなその香りに包まれて、鬼太郎はうとうとと眠りにつき始めていた。 Fin. |